八王子実践中、個性炸裂の2/2(水)プレゼンテーション入試
中学入試の世界では稀有ともいえる、従来型の「4科・2科入試」を実施せず、「適性検査型入試」と「プレゼンテーション(自己表現型・プログラミング型・英語型)入試」のみで入試を行っている八王子実践中学校〈東京・八王子市。共学校〉。その同校で、2022年入試では、2/2に実施された第1回「プレゼンテーション入試」を取材させていただきました。〈取材・撮影・文/北一成〉
21名の志願者全員が「プレゼンテーション入試」に挑戦!
今年2022年入試では、2月2日(水)amに行われた第1回「プレゼンテーション入試」には、21名の志願者が集まり、そのすべての受験生が、この日の入試に訪れました。
今年の「プレゼンテーション入試」では、内容的には「自己表現型」、「プログラミング型」、「英語型」の3種類が行われており、受験生は事前に希望する形態を選んで出願します。その意味では、前日2月1日(火)にも行われた「適性検査型入試」と合わせて、実質的には4種類の入試が行われることになります。
取材に伺った今年の2月2日の受験生は、21名のうち「プログラミング型」を選択した受験生が女子2名。そのほか19名は「自己表現型」を選択して、バリエーション豊かなプレゼンテーションが披露されました。
今年もユニークな個性が炸裂! 日本一愉快な中学入試風景!?
「自己表現型」のプレゼン内容は多岐にわたり、チアリーディング、テニス、剣道、ダンス、ピアノ演奏、古典芸能(民族舞踊の太鼓)、けん玉、SDGs、などのほか、有名な女子バレーボール部への入部を希望する女子受験生が8名。そのほか、養鶏場の研究や、音読と歌を披露した受験生もいました。
受験生の集合は8時50分(開門は8時)。それまでに登校した受験生は、校舎内で保護者と別れ、保護者は新たに設けられた保護者控室(食堂)に向かい、受験生は8時50分から諸注意が伝えられる受験生控室に向かいます。
それぞれの控室は、コロナ感染対策で椅子やテーブルの間隔が広く開けられ、受験生は静かに試験の開始を待っています。
受験生それぞれがプレゼンに使う道具は多種多様
4つの試験(プレゼン)会場が設けられ、1人あたり約10分間のプレゼンテーションと、約5分間の質疑応答が予定されています。受験生は自分の順番が来ると、プレゼンに必要な道具を含む自身の荷物を持って、控室から各自の試験教室に向かいます。
それぞれの受験生が用意した道具は、画用紙に描かれたプレゼン・ペーパーを始め、これまでの活動で得られた賞状やメダル、盾など、自身のプレゼンに必要なCDプレーヤー(音源)や楽器、iPadなど、多岐にわたります。
ピアノ演奏をした受験生は、付き添いのお父さんが手伝って、組み立て式のピアノを教室内にあらかじめセッティングするなど、その準備スタイルも様々です。
受験生も先生方も「今日を楽しみに!」迎えたユニークな入試
集まった受験生と保護者の様子を見ていて感じたのは、一人ひとりの受験生が、さすがに緊張はあるにしても、今日の入試の口頭発表(=プレゼンテーション)を楽しみにしているような印象を受けたことです。そして、付き添ってきた保護者にも、同じ雰囲気を感じました。
プレゼンテーションを受ける先生方も、真摯な姿勢と笑顔の両方で受験生を迎え入れます。
「今年の受験生はどんなプレゼンを披露してくれるのだろう?」と楽しみにしつつ、個々の受験生がこれまで頑張ってきたことを評価し、一人ひとりの「良いところ」や「意欲」を見てあげようと、今日の入試に大いに期待している様子がありありと感じられました。
多様な評価軸で一人ひとりを評価してくれる入試だからこそ…
それぞれのプレゼンテーションでは、今年もまたユニークな個性が発揮され、多様な学習歴・活動歴やバックボーンを持つ小学生の潜在的なパワーと、将来への可能性を感じさせる入試の風景が各教室で見られました。
これまでの中学入試で行われてきた教科型のペーパーテスト(筆答試験)とは違った、多様な評価軸で個々の受験生の持つ力や意欲を評価してもらえる新たな入試だけに、そこで合格を得て、入学してくる受験生はみな「自分を評価してくれた」学校に対する期待や好感度が非常に高く、高い自己肯定感を持ったまま、これから始まる中学生生活への期待や抱負を胸に、嬉々として入学してくれると言います。
得意を入り口にすると、潜在能力が伸びる!
図は、アメリカの学者、ハワード・ガードナー氏が提唱した「MI(多重知能)理論:MI=Multiple Intelligences」(8つの知能)を図解化したものです。首都圏模試センターが発行する教育情報誌『myTYPE(マイタイプ)』2022年7月10号の巻頭特集から転載しています。
大まかにまとめると、「人間はみなこれらの能力を持っていて、そのなかでも自分の得意な力を使って物事に対処することができる」という理論です。
たとえば従来の中学入試の教科型のペーパーテスト(筆答試験)で試されてきた主な力が、この図の右上90度角にあたる「論理・数学的知能」と「言語的知能」の領域の力だとすると、こうした「プレゼンテーション入試」では、他の270度角の多様な力で自分を表現し、それが評価してもらえる入試と考えることができます。
小学生が受験後に「楽しかった!」と言える“希望の”入試
『自分の強みを見つけよう~「8つの知能」で未来を切り開く』(ヤマハミュージックメディア刊)の著者・有賀三夏さんも述べているように、これからの中高6年間の学校生活を迎える小学生だって、「得意を入り口にすると、潜在能力が伸びる!」からこそ、このプレゼンテーション入試に大きな期待が寄せられているのです。
これは、ほかにも中学受験で「プレゼンテーション入試」を導入している私立中にも共通のことですが、自身のプレゼンを無事に終えて保護者の待つ控室に戻り、「どうだった?」と父親や母親に聞かれると、一様に「楽しかった!」と答える受験生が大半だと言います。もちろん緊張もあったはずですが、自分が準備してきたことを、自分の言葉とパフォーマンスで「出し切った」と思える充足感が、その言葉につながっているのではないでしょうか?
試験が終わって出てきた小学生が、一様に「楽しかった!」と言えるような新たな入試形態が具現化したことに、今後の中学入試の“希望”さえ感じられます。
ハイレベルのプログラミング作品を披露する受験生も!
この日のプレゼンテーション入試に「プログラミング型」でチャレンジした受験生は2人でした。
八王子実践中の新設「プログラミング入試」は、同校のプログラミング教育に協力しているサーティファイ情報処理能力認定委員会が主催・認定する「ジュニア・プログラミング検定Scratch部門」の検定を取得している場合は、実技検定が免除され面接のみになります。
それでも、取材に訪れた2月2日(水)に「プログラミング入試」を受験しに来たなかには、自身でつくったゲームを実際に動かして披露し、そのレベルの高さに面接官の先生を感嘆させた受験生もいたと言います。
「新タイプ入試」のパイオニア、八王子実践中に注目を!
今春2022年入試から来春2023年以降の中学入試の動向にも受け継がれていく傾向と予想されるのが、
①公立中高一貫校の増加や募集定員増と、さらには国立大学附属中の動向にも見られる「適性検査型(非教科型)入試」の増加。
②小学校での英語の教科化にともなう「英語(で受験できる)入試」の増加。
③今後の新たな大学入試における各大学の個別入試で導入されるプレゼンテーション力を問う「プレゼンテーション入試」の増加。
④小学校で今年2020年度から全面実施される新『学習指導要領』に謳われた”プログラミング必修化“にともなう「プログラミング入試」の増加。
の4点ではないかと首都圏模試センターでは考えています。
今回の入試取材レポートでご紹介した八王子実践中学校は、この”新たな時代のトレンド“ともいえる新タイプ入試を、すべて実現しているところに注目したいと思います。