思考の軌跡を辿る相模女子大学2月1日午後のプログラミング入試
相模女子大学中学部では、これまでの入試方式では測ることのできなかった能力を見るべく「プログラミング入試」を実施しています。2年目の今年は、昨年度の11名から15名と受験者数も増加。この入試を経て入学した生徒たちがクラスの中で存在感を発揮し、多くが成績上位者に入るという活躍ぶりもあわせて、先生方は大きな手応えを感じています。(取材・撮影・文/市村幸妙)
思考の軌跡を辿る相模女子大学2月1日午後のプログラミング入試
相模女子大学中学部では、これまでの入試方式では測ることのできなかった能力を見るべく「プログラミング入試」を実施しています。
2年目の今年は、昨年度の11名から15名と受験者数も増加。この入試を経て入学した生徒たちがクラスの中で存在感を発揮し、多くが成績上位者に入るという活躍ぶりもあわせて、先生方は大きな手応えを感じています。
同校で行われている、この最先端の入試についてリポートします。(取材・撮影・文/市村幸妙)
プログラミングは2020年度から小学校で必修科目に
相模女子大学中学部では2017年より、ロボット教育の研究者であり、ワールドロボットサミットの審判員などを務められた川原田康文先生を迎え、本格的なプログラミングの授業に取り組んでいます。
川原田副校長先生は、プログラミングを学ぶこと、そしてこの入試の目的や意義について「『失敗から学ぶ力』や『あきらめずに取り組む力』、『自由に発想する力』などは、これからの子どもたちに必須の能力です」と話します。
合否は同校が求める生徒像を突き詰めて練られたルーブリックに基づき判定。ライバルでもあり、仲間でもある他の受験生と協働しながら取り組めるかといったコミュニケーション能力や粘り強く考え続ける姿勢、自分自身の意見をきちんと伝えられるかという表現力や創造力なども評価対象としています。
副校長で入試広報部長の中間義之先生によると、プログラム入試を経験した現中1生は、自身の個性に合わせて各々がプレゼン能力に長けていたり、チームをまとめる力があったり、意欲を持って物事に取り組んだり、創造性に富んでいたりという生徒が多いのだそう。
なお、中間先生は理科を担当されていますが、プログラミングの授業を開始した中3以下の生徒たちの顕著な変化をこう話します。
「これまで、例えば物理の回路実験など、『苦手』、『わからない』と傍観するだけの生徒がいたことは否めません。しかし、プログラミングの授業は『失敗してもいい』という考え方を前提としているので、たとえ苦手な実験でも全員がまずはやってみる、考えるという積極性が身についてきています」
相模女子大学中学部では、こうしたチャレンジングな精神を養うだけでなく、「2科4科選択入試」や「適性検査型入試」も実施しているため、多様な個性を持った集団で多彩な考え方に触れながら成長することができることも一つの魅力です。
プログラミング入試の具体的な流れとは
今年度は14時45分集合、15時試験開始で行われたプログラミング入試。大きなテーマは「失敗から成功を探す」ことであり、試験の流れは以下の通りです。
① 授業・プログラミング(100分)
② 発表・ディスカッション(約20分)
③ 基礎算数力テスト(20分)
①の最初に受験生へ中間先生が注意事項を伝えますが、試験の最中に飲み物を飲むこともお手洗いへ行くことも、周りの受験生とお話しすることも自由であることが伝えられます。要するに「これは、じっと座って静かに取り組むというタイプの試験ではありません」と明言されます。
実は昨年度は全員が、今年度は一人を除いてプログラミング未経験者でしたが、事前に開催された「プログラミング入試体験会」へほとんどの受験生が参加しています。そこで操作方法の概要を身につけたり、先生方と顔見知りになったりという子もいました。
LEGO社製の「iPad版MindstormsEV3」のアプリを使ってロボットをプログラミングし、コース内で動かしていきます。川原田先生により基本操作の説明やパワー出力の調整法、アームの動かし方などの確認をみんなで行います。
基本的な課題は、指定場所にあるブロックを落とす、ボールをアームでつかんで移動させ、その隣のマスにロボットを動かしたらゴール。しかし、動き方をきちんと考えなければ、ブロックに乗り上げる、引っかかって身動きが取れなくなってしまうという、難度の高いコースが設定されました。
ひと通りの授業・説明の後、80分のプログラミングの時間が始まります。2人でペアになり、1つのコースを使用します。じっくりと考えてから取り組む子、まずはやってみる子など、それぞれがトライアンドエラーを繰り返します。
80分もの間、様々な思索や試行錯誤を重ねる受験生たち。その集中力に記者は思わず舌を巻きました。
先生からのヒントを挟みつつ、結果的に今回は惜しいところまで行きつつもゴールする受験生は出ませんでしたが、ゴールすることが目的ではありません。が、緻密さと同時に遊びも大切にする感性は求められます。
なお、ボランティアでサポートに入った在校生は「私もやりたいな」と快活に話してくれました。これはいかにプログラミングの授業が生徒たちに浸透し、楽しく充実した学びになっているかという現れとも言えるでしょう。
考えをまとめるプレゼンテーション
②では3グループに分かれてのプレゼンテーションを行います。1グループがプレゼンしている間は他のグループは計算テストを実施。小学校で学ぶ基本的な内容となっているので安心してください。
さて、このプレゼンで重視されるのは、どう考えて作ったのか、どんな工夫を凝らしたのかといった自分なりのポイントを見出し発表できるか、ということです。
大切なのは、自分の行動を分析することであり、これを川原田先生は「思考の構造化」と呼んでいます。
ある受験生はスピードを調整してコントロールしやすさを重視したり、またある子はタイヤの動きを回転数ではなく秒数で制御することで細かな調整を図ったり、それぞれ工夫のあとが見られました。
コツをつかみ、手応えがあったのでしょう。あと数分あればゴールできたかもと悔しがる受験生も多々いました。
もっとこうしたかった!という思いは、次へ向かうパワーを生み出します。同時に自分自身の手でロボットを動かしたという達成感も得られる入試であり、取り組みです。
また、プレゼンを聞いている姿勢にもそれぞれの個性が表れます。「うん、うん」と他の受験生の発表に豊かな表現で耳を傾ける子。他の子のアイディアにハッと目を輝かせる子など様々です。
いずれの受験生も「80分があっという間だった!」、「もっとやりたかった!」、「楽しかった!」と感想を話してくれました。
終了後、先生にどうすればよかったのかというアドバイスを求める向学心あふれる受験生がいたことも印象的でした。
これからの世界を生き抜く力を仲間と切磋琢磨しながら、楽しみながら、感性を磨くことのできる環境が整っている相模女子大学中学部。今年度より小学校でプログラミングが導入されることにより、ますますの躍進が期待できます。女子が学びやすいプログラミングの授業が展開されている同校の教育にぜひご注目ください。