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2025年2月1日(土)pm実施の聖学院中「ものづくり思考力入試」レポート

2025年2月1日(土)午後に実施された聖学院中の「ものづくり思考力入試」の様子をお伝えします。

聖学院中学校は、受験生たちの様々な輝きを見つけるための思考力入試を始めて12年が経ちます。今なお進化を続ける同校の「ものづくり思考力入試」の様子をお伝えすると共に、作問者に、この入試に込められた思いを聞きました。そのお話しからは、この入試対策となるだけではなく、お子さんの考える力を伸ばすヒントが見えてくるかもしれません。〈取材・撮影・文/市村幸妙〉

先駆者的存在である、聖学院中の「思考力入試」とは

一般(2科・4科)、英語、アドバンスト、デザイン思考力、グローバル思考力、オンリーワン表現力、帰国生といった多彩な入試を実施している聖学院中学校。

新タイプ型入試の先駆け的存在として知られる同校ですが、これらの入試が始まったきっかけはどういうことだったのでしょう。

「6年生の2月段階での2科・4科という、認知能力の仕上がりだけで判断してしまうのはもったいない資質を持った子たちが来てくれたらという思いから始めています」と教えてくれたのは、広報部長の早川 太脩(たいすけ)先生です。

中学では、基礎力を固めるレギュラークラスとハイレベルな学習を行うアドバンストクラスに分かれますが、各クラスにはそれぞれの入試での合格者、さらに聖学院小学校からの入学者が万遍なく振り分けられるクラス編成を敷いています。そのため生徒たちは、様々なバックグラウンドを持つ多彩な個性と触れ合いながら成長します。なお併設小からは、例年15名程度の入学者がいます。

今回紹介する「ものづくり思考力入試」ではレゴブロックを使用しますが、その理由は手を動かすことで受験生が言葉や文章だけでは表しきれない部分が補えること、自分では思いもよらなかった新たなアイディアの創出につながることを期待しているから。

「今年は特に『Only One for Others(オンリー・ワン・フォー・アザーズ/他者のために生きる個人)』という、本校の教育の柱にある理念が体現されている出題です」と早川先生が話す、2025年2月1日の「ものづくり思考力入試」はどんな様子だったのでしょうか。

「身の周りの課題の手触りを実感する大切さ」先生方のメッセージ

今年のテーマは「やだなぁ」と感じた時の状況を、自分の感情と向き合いながら、その解消に向けてどうしたらいいのか、他者の行動や考え方で参考になったことをレゴや文章で答えるというものです。

この思考力入試は課題解決型をベースとしているので、これまでは受験生たちは様々な解決策を考え共有してきました。しかし今年は内省を行うという、チャレンジングな設問となっています。

2025年度入試の作問者である進路指導部長の井上 渉先生に出題意図を伺いました。

「生徒たちが社会課題にアタックする機会も増えています。それはとても価値があることなのですが、いいアイディアが出ても実現できるかがわからないというものではなく、当事者性を持って取り組んでほしいという思いがあります。

日常を送る際、自分はどんなことで心が動いたのか。それは例えば怒りか、悲しみなのか。どんな感情が湧いたから、そのことを課題と認識したのか。日々を過ごす中では嫌だという感情を流してしまうこともあるでしょう。それでも立ち止まって考えられる強さを持ってほしいというメッセージも含んでいます。また同じ現象が起こっていても人によって見え方は異なることにも気づいてほしいのです」

長年にわたり男子教育に携わってきた先生方は、思春期の男の子たちにとっての自分自身の感情との向き合い方について、どのように捉えているのでしょうか。

「一例ですが、自分の心がものすごく動いた時にでも、言葉を知らないわけではないのに『やばい』としか出てこないケース。その『やばい』を解きほぐして自分が何を感じているのかの解像度を上げ、捉えてほしいという思いがあります」

だからこそ、抽象的なものを具体的にする上で役立つレゴというツールを使って、表現を補助する入試を行っているのでしょう。

なお今回は、感情の種類にはどんなものがあるのかを示す資料類も添えられており、自分自身の思いはどれに近いのかをピックアップできるようにされています。

最後まで諦めない、受験生たちの挑戦

試験は15時開始で、集合時間は14時30分です。午前に一般入試を受け、そのまま校内に残る受験生もいます。事務室前のロビーや食堂は受験生親子の待機場所になっています。

14時40分ごろ、試験会場である体育館に受験生たちが先生に先導されて入ってきます。

まず井上先生から試験について説明がったあと、机にあらかじめ置かれていたアンケートに回答します。

試験時間は80分という長丁場。受験生たちが試行錯誤を続ける様子が窺えます。

「問1では自分の性格を表すパーツを選ばせましたが、形も色も大きさもたくさんある中から、自分の性格を言い表すものはどれなのか、パーツに思いを乗せたり、いろいろな意味を持たせたりすることが必要です」(井上先生)

筆者が個人的に心が動いたのが、この最初の設問で自分の性格を3つ挙げさせていたことです。当然のことですが、人の性格や心はとても複雑で、相反するものを内包していますし、様々な方向から捉えることが必要です。特に思春期に差しかかっている子どもたちは自分自身でも戸惑ってしまうような瞬間があるかもしれません。レゴを使い、こうした歩み寄りをしているのが聖学院らしいと感銘を受けました。

10分の休憩を挟んだあと、20分間の協働振り返りを行います。1列4〜5人の縦割りのグループになり、1分間で自分の作品について振り返りつつ説明をし、そのあとの1分が他の受験生たちによる質問タイムです。

それぞれ学校での出来事、友だちとの関係性などが語られていきます。「休憩していたら親から『早く勉強しなさい』と言われるのがいやだった」という受験生に、他の子たちから一斉に「わかる〜!」と賛同の声が上がります。その様子が目に浮かぶようで、思わず苦笑してしまいました。

一人のターンが終わると、互いに称えるような拍手が自然と起こってたことに、同校をめざす受験生の人柄の良さが表れています。

80分粘り続け、伝えようと懸命に言葉を紡いだ受験生たちの姿に胸を打たれました。

「その姿勢も最大限評価したいと思っています」(井上先生)

「我々もまだまだ日進月歩ですが」と話す井上先生ですが、「今年チャレンジしたのは、振り返りの時間に改めて、自分が見つけた解決法を客観的に捉え直す作業を生じさせたことです。問1で示した自分の性格と解決の仕方を、具体的にレゴで繋げることでのメタ認知を狙いました」

他者のために生きるためには、まずは自分自身としっかり向き合うことが必要です。そして他者を知ることで多様な価値観を理解し、それを尊重し合える姿勢を育んでいます。すなわち「Only One for Others」の思いが表れています。

なお、学校説明会では、体験イベントとして思考力セミナーを開催しています。実際にレゴを使って思考力入試の模擬をし、コメントを入れた採点結果を返送していますが、それだけ普段の受験勉強とは異なる力が求められます。入試本番は30人が出願し、28人が受験しましたが、その多くは先生方も見覚えのある子たちだったそうです。

受験生に寄り添う、採点の様子とは

17時、試験が終わると体育館にホッと緩んだ空気が流れ、受験生たちは会場を後にします。

井上先生による採点のデモンストレーションまで見せていただきました。受験生たちが問いの意図を汲めているか、先生方が受験生の作品にどこまで寄り添うかなどが話し合われていました。

採点は受験生たちの思考を辿る先生方の想像力も求められます。この入試を通じた受験生と先生方の高い次元でのコミュニケーションを感じました。

井上先生にこの入試への対策について伺いました。

「保護者の方にはまずお子さんに『なぜそう思ったの?』『どこからそう思ったの?』などと一歩踏み込んだ問いをすることで、本人の言葉を引き出していただけたら。その上で親御さんの意見を組み合わせることで、子どもにとってどんな新たな景色が見えるのか。ご家庭のナラティブが求められると思います」

ナラティブとは物語や語りと訳されますが、物事や出来事を自分の視点や経験を通じて語ることを指します。

「試験という局面ではありますが、受験生たちがこんなことをやったなと、自分の中の気づきを振り返ってもらえたらうれしいですね。日常的にフィードバックのループができることを狙う問題にもなっています」

と話す井上先生に、振り返りを繰り返す必要性を尋ねました。

「例えば、自分が乗っているボートを漕いだら、進んだ方向に基づいてさらに漕いでいく方向を決めますよね。自分の行く道をより手触り感を持って、選択しながら進んでほしいのです。当然ながらそのボートは人の数だけいろいろな形や大きさがあります。その違いを認め合う包摂性を持ち、男子校というゆっくりじっくりと熟成させていくような集団の中で、自分たちで常にフィードバックしていくことで修正を加えながら良き方向に向かえる土台を培ってもらいたいのです。

中高という共同体の一員として、6年間のいいスタート切ってほしいという思いがあります。そのために、自分を理解することで自分の役割や今後のありたい姿を知るヒントになるのではと考えています」

作問者の先生は毎年変わるので内容は異なりますが、この入試にご興味のある方は「思考力入試ガイド」(添付PDF資料)をご一読いただき、学校説明会も積極的に参加してみてくださいね。