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注目の横浜創英中 2024年「コンピテンシー入試」レポート

横浜創英中学校が2023年から中学入試で導入した「コンピテンシー入試」の様子をレポートします。

元麹町中学校校長工藤勇一氏が校長に着任して4年。教育改革が進められている横浜創英中学校では、昨年から中学入試で新タイプ入試を導入しました。それがコンピテンシー入試です。本年度は、2/3にグループワーク入試と、プレゼンテーション入試が行われましたので、その様子をレポートします。〈取材・文/教育ジャーナリスト マザークエスト 代表 中曽根陽子〉

「コンピテンシー入試」って、どんな入試?

首都圏の私立中学校では、従来型の2科4科の学力試験では測れない多様な資質と可能性を測る新タイプ入試と呼ばれる入試を行う学校が増えています。

横浜創英中学高等学校でも、昨年からコンピテンシー入試を導入しました。

英語のコンピテンシーは、「能力」「資格」「適性」などを意味する単語ですが、企業では、高い業績を収めている従業員に共通して見られる「行動特性」という意味で用いられます。

横浜創英では、プレゼンテーションとグループワークという2種類の入試を実施していますが、それぞれ全く違う行動特性を見ています。

それでは、当日の様子と共に、それぞれの入試で測られる観点について紹介しましょう。

自分の好きなこと・得意なことを表現するプレゼンテーション入試

プレゼンテーション入試は受験生1名に対して試験官2名で行われます。受験生は5分の持ち時間の中で、①これまで継続して自主的に取り組んでいたこと・ 好きなことで自分の自信につながっていること。②入学後の横浜創英の学校生活で①をどのように活かしていくかをプレゼンすることが求められます。

プレゼン方法は自由で、自分の作品、資料、パソコン、楽器等自分一人で持ち込めるものは、当日持ち込んで発表に使っても構いません。

取材させていただいた時には、画用紙を使って紙芝居風にプレゼンする人、自分の作品をとった写真ファイルや実物を持ち込んでプレゼンする人、パワーポイント使ってプレゼンする人などそれぞれのスタイルで、自分の好きなこと・これまで取り組んできたことを説明していました。

どの回も、試験官の先生は受験生の話に頷きながら熱心に耳を傾け、さらに横浜創英を受験した理由や、入学したら何をしていきたいのかなどを質問していました。

自分のやってきたことを話せばいいのだから一見簡単そうですが、この学校でこんなことをしていきたいという受験生自身の思いがないと、試験官には伝わりません。また、このお題自体が自分を見つめる作業なので、受験生にとっても、この入試にチャレンジすること自体が、自分の好きなこと、やりたいことは何なのか。なぜ中学受験をするのか、なぜこの学校に入りたいのかが考えるいい機会になるなと思いました。

また、自分の考えていることを人にわかりやすく伝えるというのも、これからさまざまな場面で必要になっていくスキルです。

リアルな社会課題の問いの答えを考えるグループワーク入試

一方、グループワーク入試は全く違います。

与えられた社会課題を示すデータを読み取らせたうえで,課題解決のために何ができるかをグループで考え発表します。

会場は、同校のグリーンホール。朝8時に学校に着くと、すでに会場には4人〜5人1組のワークショップ型にレイアウトされた席に座って待機する受験生たちの姿がありました。

もちろん皆初対面ですが、和やかなムードでおしゃべりをしたり、しりとりを始めたり。時間が経っても指定された席に他の受験生が来ず一人で心細そうにしている子に気づいて、「こっちに来たら」と声をかける姿も。(その受験生は、先生の指示をもらいに行っていました)

そんな受験生たちの様子を見て「今年の受験生はすごいな」とコンピテンシー入試を設計した山本崇雄先生。

時間になると、司会の先生からこれからの流れについて説明があり、試験が始まりました。

最初はチームビルディング。

お題が出されて、そこから連想した言葉を書き、一致したチームが勝ちというゲームを通して、チームワークを醸成します。

そしていよいよ本題です。

今年度の横浜創英のグループワーク入試では、日本財団の「18歳意識調査」「第20回–社会や国に対する意識調査」の中から「自分自身について」の資料を提示し,現在の若者の当事者意識と主体性の希薄さを読み取らせたうえで,「日本の若者がこのような状況に陥った原因を分析し,改善のためにあなたたちができることを発表しなさい」というものでした。

資料を元に40分間チームで話し合いをし、その結果を5分間で発表します。

各テーブルには、ホワイトボードと模造紙・ポストイットがあり、会場に用意された新聞・サインペン・紐・折り紙・ノリなどの道具を使っても構いません。

受験生たちは、早速どのように進めていくかを話し合っている様子。

ホワイトボードに資料を貼って、それを見ながら立ち上がって話をするグループ。まずは、気づいたことをそれぞれポストイットに書いてから持ち寄るチーム。スタイルはそれぞれですが、ワークショップに慣れている様子です

山本先生によると、昨年実施した体験会に参加した受験生も多く見られるということですが、今は小学校でも、こういうスタイルの授業があるのでしょうか。ポストイットに書いた個人の意見をグルーピングしたり、マインドマップ風に、関連づけていったり。大人顔負けの姿に驚きました。

「日本人は諸外国に比べて自分を大人だと思う。自分は責任がある社会の一員だと思う。将来の夢を持っている。自分は社会や国を変えられると思う。

自分の国に解決したい社会課題がある。社会課題について家族や友人と積極的に議論している。」そのいずれにおいても日本の18歳は最下位という結果を見て、その原因を書き出していく子どもたち。

興味深かったのは、複数のチームが教育の問題を挙げていたこと。

「考えさせる機会がない」「比べられる」「似通った意見になる」等々。

子どもたちが日々の学校生活の中で感じていることが言葉になって現れているようでした。

さらに、「教育が大切?」という問いを立てるチームも。

そして、解決方法として、学校の授業で社会課題を取り入れ、経験を通して考える機会を作る」「自分が興味を持って授業に取り組めるようにする」

「職業体験」「ほめ言葉」「自信をつける」などのキーワードも出てきました。

今の教育の課題を見抜いていますね。

その様子を各チームに一人の試験官と全体を見る試験官が見守ります。

議論が終わると、チームごとに5分間でプレゼンをし、試験官からの質問に答えて試験は終了です。

多くの受験生はこれが試験だということを意識せず、この課題に真正面から取り組んでいるように見え、会場は熱い空気に包まれました。

私もこれまで、教育関係者が集まり、これからの教育について対話する場所を何度も経験してきましたが、小学6年生がこの資料からさっと教育の課題に気づくというのも驚きでしたし、教育の受け手である子どもたちの生の声を、大人はもっと耳を傾けるべきだと改めて気付かされました。

全体に、「この子達が入学してクラスを作ったら、すごいクラスになる」そう感じさせるレベルの子ども達でした。

2つの入試の観点

全員合格できたらいいのですが、ここは定員があります。

募集20人に対して、応募人数は、プレゼンテーション 61名(男26女35)グループワーク65名(男33女32) 実受験者数が、プレゼン43名(男17女26)グループワーク41名(男22女19)という狭き門です。

そこで試験終了後に、工藤勇一校長先生、本間朋弘副校長先生、山本崇先生に評価の観点等について聞きました。

プレゼンテーション入試の観点は、大きく2つ。

一つは、自分のとんがりを自分の言葉で言語化できるか。もう一つは、それを中学入学後どう活かしていくか。自身が社会に貢献できる可能性にも触れながら,ストーリー化していく力が求められます。

工藤校長は、「プレゼンの練習は必要でしょうが、上手にプレゼンできるかどうかではなく、自分のとんがりや、時間をかけて取り組んできたことが、社会にどう繋がるのかも意識してほしい」と言います。

一方、グループワーク入試の観点は、多様な意見を尊重できるか、ミッション(目的)に戻って、コラボレーションできるか

プレゼンテーションと違って、こちらは、とんがりは必要ありません。

むしろ、与えられた社会課題を解決するために,周囲に働きかける力を大事にしながら,課題に向けた具体な対応策を社会に発信する力が求められているのです。

「子ども同士のちょっとしたやり取りの中で、学びに向かう力は見ることができます。最近は通常の授業でも、こういうスタイルが増えてきたので、試験官を務める先生たちは、この子がクラスにいてくれたらいいなと思う子を選んでいます」と山本先生。

やみくもに発言をするのではなく、また単なる協調性でもなく、対話がミッションに沿っているのか、ずれていたらそこに戻せるか。戻った時に、他の状況を見ながら、対話が進むような発言ができるか。自己主張だけではなく、その発言がミッション(目的)に沿っているか。多様性を生かしたチームビルディングができているか。活発な子、おとなしい子、いろいろな特性のある子どもがいる中で、目的に向かって話し合いを進めることができるかが大切だと言います。

「横浜創英では、学校と社会を同一化するといっています。リアルな学びを通して、社会とつながりながら社会に貢献できる人を育てようとしているので、ワークショップのテーマは社会課題なんです。社会と接点を持って、課題を解決できる対話力を見ています」と本間副校長。

これは、付け焼き刃の対策では歯が立たなそうです。

ではどんな準備をすればいいのでしょうか。

敢えていうなら…ということで

「普段から、親子で社会の課題について会話をする。その時に『逆に全く反対の主張できる?』と質問するといいですね。」と工藤校長。

さらに、「学校でもいろいろな場面でたくさん失敗し、自分の発言についても失敗を通して、自分とは正反対の意見を受け入れられる力を育ててほしい。

また、プレゼンテーション入試は、大学の総合型選抜と同じで、準備をする中で、自分について深く考えることになると思うし、これはこの後の人生でもとても役に立つ」とおっしゃっていました。

この2つの入試は、名前が示す通り、学校が目指すコンピテンシーにつながっています。横浜創英のコンピテンシーは「自律・対話・創造」です。

入試は、学校が掲げるコンピテンシーに通じる

そして、9つのスキルが
目標の実現に向けて、見通しを持って計画的に実行する(PDCA)
自らの思考・行動を適切に理解し調整・工夫する(メタ認知能力)
自らの感情と言動をコントロールする (セルフコントロール)
考え方の違いを他者の立場に立って理解、尊重する(エンパシー)
対話を通して他者との共通の目的を 見つけ出す(パブリックリレーションズ)
共通の目的の実現のために他者と 協働する(コラボレーション)
課題に対して問いや仮説を立て、科学的に解決する(サイエンスリテラシー)
本質を見極めるために、自分や他者の考え を吟味する(クリティカルシンキング)
信頼できる情報を収集・吟味し、 適切に活用する(情報リテラシー)
です。

2つの入試は全く違う方向から、学校のコンピテンシーに沿った力を測っているのです。結果はどうあれ、この入試に向かって準備をしてきたことは、子どもたちの今後に必ず生かされるものになることでしょう。
学校改革の最上位目標として,実学的な学びを重んじる生徒と社会を繋げ,社会に貢献できる人材を育てることを掲げている横浜創英中学高等学校。来年度からはカリキュラム改革に乗り出します。今後は、従来の教科学力だけの「選抜」から脱却し,こうした入試の募集人数をもっと増やしていく予定だそうです。子どもたちの多様な能力を測る動きが私学から広がっていくことが、今回のお題で子どもたちから出た疑問に教育界が応えることにもなるのではないのか。そんなことも感じさせられた取材となりました。