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コラム

希望の私学【大妻中野中学校・高等学校】(2/2)

「希望の私学」。その第一弾は、大妻中野です。21世紀は女性が活躍する時代といわれて久しく、現政権でも女性の社会での活躍の機会を増やす政策を掲げています。しかし、その一方で現実はなかなか進展していません。それは、現代社会は教育によって人材を育む制度になっているのですが、従来の公立学校では、社会で活躍する女性を育てる教育が行われてこなかったからでしょう。

§4 生徒が反応する変化する

このように、中学時代のガラスのハートがダイヤモンドの原石に変化したとき、垂直思考のトレーニングからはリーダーというメンタルモデルが形成され、水平思考の学びからは信頼関係が形成されているのです。

そしてメンタルモデルと信頼関係を生徒が内面において統合するようになると、生徒は授業で展開している世界にフロー状態(身も心も集中して没入する姿勢。クリエイティブな作業に興じている時の姿)になっていけるのです。

そのフロー状態が、高1の光村先生の世界史の授業で顕れていました。光村先生のテンポの良い歴史物語の世界に生徒はみな前のめりで目を輝かして没入しているのです。

それは光村先生が巧みな語り部だからですが、その語りの方法にこそ宮澤校長、高村先生、牛込先生の授業と共通する仕掛けがあったのです。

光村先生は、第一次世界大戦から第二次世界大戦へ移行する、各国の統治者の鬼気迫る心の葛藤ストーリーを語っていきます。前のめりに没入していくのは歴史的スぺクタルの光景がどんどんイメージできるからですが、そのイメージが脳裏に立ち上がるのは、葛藤のにらみ合い、ぶつかり合いなどの静と動の差異があるからです。

落語で笑いが起こりおもしろいのは、予想を覆す差異が目の前に生じるからだと言われますが、光村先生のストーリーテラーぶりには、まさにその差異がダイナミックに展開します。

また、今まで黒板に文字が書かれていたかと思うと、電子黒板に映像が写ったりアーカイブが映し出されたり、これも板書と電子映像の「差異」です。

生徒との信頼関係のうえに、予想を裏切らない世界にどんどん引き込む多角的な差異を展開するプログラム制作の技術、それをさらにサポートするICT技術に優れた教師の存在が、生徒が飛躍的に伸びて、成果を上げる大妻中野の授業の仕掛けだったのです。

§5 内面の価値を高める競争こそ希望

実は、このように、垂直的関係と水平的関係を統合しているのには、もう1つ大きな理由があるのです。それはモチベーションを上げるのには、適切な競争が必要だということなのです。

宮澤校長は、「私たちは、いろいろなランキングを公表します。たとえば、お掃除の一番うまいクラスから順番にランキングをつけて、発表するのです。一位には黄金のモップを、二位には黄金の塵取りを表彰します。各クラスの廊下に飾ってあるのがそれです。

このようなランキングを発表するのは、はじめは学内でも抵抗がありましたが、生徒の意欲がよい形で生まれるには、たくさんの角度から認められる環境をつくることだと議論はまとまりました。実際やってみて、互いの足をひっぱるような雰囲気はまったくありません。互いに尊重し、今度は私たちが一位になろうと切磋琢磨しています」と生徒を信頼して語っているときの眼差しはまぶしいくらいでした。

なるほど、垂直の上昇力と水平の推進力の統合は、45度の放物線を描くわけですから、生徒は遠くにまで飛翔するはずです。上昇力はたしかにファイティングポーズを生み出します。しかし、信頼関係の促進力は、それを励まし合い認め合う心を育むのでしょう。

ファイティングポーズは、いつしか挑戦する姿勢に変化しているのです。教師と生徒がともに次の飛躍に挑戦し続ける姿勢こそ、大妻中野の良質の教育の証しなのです。

■希望の私学 大妻中野の教育力を読み解くキーワード
リーダーシップ、内面の価値、切磋琢磨、信頼関係、垂直思考、水平思考、電子黒板、タブレット、チーム学習、差異、気づき、メンタルモデル、フロー状態、ストーリーテラー、モチベーション、挑戦