希望の私学【首都圏模試緊急座談会】(2/3)
第1回目では、中学入試動向や現在の受験生が抱えている問題、受験生の層、首都圏模試センター「思考コード」を織り交ぜた内容をお伝えいたしました。
第2回では、お集まりいただいた3校の先生方(聖学院副校長清水広幸先生、大妻中野教頭諸橋隆男先生、八雲学園高等部部長菅原久平先生)から、中学入試の取り組みや、2科4科入試以外の入試で入ってきた生徒の様子などについてお話いただいています。
§2 これからの学びはwhatだけではなくhowも重視
山下:どんなスポーツを選択するかというwhatの部分も大事だけれど、どのような素材でもそれを通してhowを学ぶということが重要だということだと思います。すると、スポーツや音楽といったアートを通しても、2科・4科の学びを通しても、適性検査型テストを通しても、英語入試を通しても、思考力入試や自己アピール入試を通しても、howの部分は共通して測ることができるということでしょう。
清水:私たちの「思考力ものづくり入試」などは、そのhowの部分を「ルーブリック」という評価の基準を活用して採点するようにしています。おそらく、首都圏模試センターの開発した「思考コード」に相通じるものだと思います。whatの部分は、2科4科の入試で見ることができますが、興味深いことに、今年まだ分析途中ですが、2科4科入試の結果と思考力入試の結果には相関があるということがわかってきたのです。
2012年から思考力入試を実践してきましたが、当初は、2科4科の勉強が十分でない生徒を思考力入試で受け入れて、6年後どうなるのだろうという不安も学内にはありました。しかし、その不安はすぐに払拭されました。思考力入試で入学してきた生徒は、2科4科の模擬試験では、勉強していないのですから偏差値は当然高く出ません。
それでも私立の男子校に入りたいという一心で、今何ができるかというときに、思考力入試があるということを知り、対策講座でもある「思考力セミナー」に参加して、一生懸命に"第二の脳"である手を使い、脳みそで汗をかいた受験生は、先ほどからでている学び方や考え方、つまりhowの部分が十分に追いつくのです。
そして、その学び方を意識して入学してきた生徒は、めきめきと学力を伸ばしていくし、モチベーションも高く、リーダーシップも発揮します。
そのような生徒に出会った先生方は、俄然自信を持ち始めました。3人ぐらいで企画していた思考力入試や思考力セミナーも、今では学内全体で応援していますし、プロジェクトチームもできて盛り上がっています。
そのような話を学校説明会でするうちに、そして、2020年大学入試改革のウネリの話も重なって、2科4科を受験する生徒が「思考力セミナー」に参加し、手ごたえを感じます。アクティブ・ラーニングスタイルのセミナーで、将来の仲間と対話し考え抜くと、自分の発想が広がります。その発想が広がれば、あとはそれを150字で書くだけです。
「自分は今までこんな字数を書いたことがなかったし、書けないと思っていました。しかし、書くべき発想が心に浮かび上がってきたら、いくらでも書けるという自信がつきました」と気づく受験生がたくさん現れました。
それで、ますます教師側もワクワクして、思考力入試に取り組みます。相乗効果とはまさにこういうことかと実感していますが、受験生もそうなると2科4科と思考力入試の両方を受験するようになってきました。
その結果、実は両方の力に相関があるのではないかという、学内でもワクワクするような結果がでてきたのです。
§3 「思考力入試」作問採点で教師のモチベーションはマックス
北:それはすばらしい動きですね。そうなってくると、4年生の壁はぶち破ることができると思います。ピアノやサッカー、英語など習い事を止めなくても、考え方とは何かを学ぶことによって、中学受験はできるし、考え方を発見した生徒は、入学後、知識もおそらく効率よく記憶しアウトプットできるようになるということでしょうから。
諸橋:SGH(スーパーグローバルハイスクール)アソシエイト認定を受けたこともあり、アドミッションポリシーとして、昨年度から国内生対象の英語入試を導入しました。結果は想像を遙かに超えた入学者数となり、受験生と保護者にこれほどまでに受け入れられるとは思いませんでした。まさに時代の追い風に背中を押されたと感じています。
本校の校長宮澤は、いつも生徒にとっていまここで何が必要なのかを思いめぐらしているからでしょうが、高感度なアンテナの持ち主です。自らSGHのプログラムを創るために北米やアジア諸国を巡る信じられないぐらい活動的な校長なのです。
そして帰国後、皆で新たな決断をしました。英語に力を入れることは当然ですが、タブレットを1人1台持つようになれば、ON-LINEで英会話を学べるし、SGHのプログラムで実施することが課せられているプロジェクト型のアクティブ・ラーニングのよきツールになるという結論に至ったのです。校長の閃きがまたひとつ実現した瞬間でした。
そして、そうなるとアドミッションポリシーとして英語だけではなく、思考力・判断力・表現力を養うアクティブ・ラーニングのひな型として「新思考力入試」を実施するのだと意思決定をしました。
今年前半、2016年度の中学入試総括の様々なセミナーで勉強したところ、とにかく、思考力入試を実施した学校では、教員が採点をして受験生の思考力に舌を巻くとか、感動するとか、モチベーションがマックスになったという話ばかり聞きました。
そんなに教員がワクワクする入試なら、生徒にとって役に立つことは間違いないと思い、やるのなら、すぐにもサンプル問題を作ろうということになりました。(サンプル問題は、同校サイトからダウンロードできます。)
清水先生がおっしゃるように、教員集団が急に盛り上がりました。作問それ自体がワクワクするというのです。教科横断型というのは、こういうことだったのかとか、こういう問いかけを授業の中に導入しようとか、本校の教員は、やはり生徒といっしょに学んでいるシーンを思い浮かべずにいられなかったようです。
§4 未来を変える才能を見出すことはできる
菅原:その話は本当によくわかります。八雲学園も来春から「未来発見入試」を行います。2月2日(木)午後、国語・算数・英語から1教科選択し、そのあとに自己表現文(400字程度)を記述する試験です。(募集要項の詳細は、同校サイトでご覧ください。)
これまで2科4科選択とか午後入試とか様々な入試改革をやってきました。それぞれ創意工夫をしてきたと思いますが、昨年ある卒業生を送り出して、まだ足りないところがあるなあと感じたのです。
それは、その生徒は生徒会や部活でも大活躍して、早稲田大学に合格することになるのですが、中学入試の時には、ものすごく苦労した生徒です。いわゆる偏差値のスコアは高くなかったのです。ですから、1回目も2回目も合格できず、3回目の最終試験でやっと合格できた生徒なのです。
やはり受験勉強のスタート時期は遅かったのですね。ただ、八雲学園の説明会で、先輩たちの英語のパフォーマンスを見て、すっかり感動して八雲で英語を話せるようになると強い意志をもちました。
それで、入試を受けるたびに、その想いに支えられ、1回目2回目に受けた入試問題を徹底的に分析して学び直して3回目に臨みました。
八雲しか受けなかったので、彼女にとっては背水の陣だったと思いますが、そんなときに諦めずに集中して学ぶことによって、急激に成長したのだと思います。
おそらくその後の彼女の学びの様子を見守って感じたことは、コミュニケーションですてきな対人関係を築いたし、表現力も豊かでした。八雲学園は多様な行事で結構有名だと思うのですが、行事ごとに実行委員が組織されます。彼女はそこでも創造的瞬発力とリーダーシップを発揮するわけですが、これらの能力は、今思えば21世紀型スキルです。
彼女の中学受験勉強の過去は変えられないけれど、入学試験から始まった彼女の未来は、彼女が作り上げていくことができるのです。
しかし、八雲学園の入試は、これまで知識・理解の力を積み上げてきた生徒にとっては、有効だったかもしれませんが、彼女のように中学受験勉強が間に合わなかった生徒にとっては、難しかったと思います。
入学試験では振るわなかったけれど、入学してから卒業するまで、成長し続けた生徒は、実は彼女だけではありません。しかし、そのころに比べ偏差値が高くなってからは、そういう生徒にとって狭き門になったことも確かです。未来を変えるサポートができなくなったとしたら、それは八雲流儀ではないですね。
私たちは、生徒からいつも学びますが、卒業式で送り出してはじめて気づくこともあります。知識・理解の力を積み上げてきた生徒に対しても、思考力や表現力が豊かだけれど、知識・理解の力は積み上げ不足の生徒に対しても、八雲学園で学びたいというのであれば、どちらにも機会を設定することは大事だと思います。
清水先生が、2科4科と思考力や自分の意志を思い切り表現することができる力とは相関があるとおっしゃったことは、体験的に感覚的にですが、同感です。
実際にそういう生徒は、きっちり自分の信念を持って、大学に合格していきます。中学入試も同じですよね。それで、来春思い切って新しい入試を実施することを決...
§5 入試の多様化はさらに拡大する
北:今春から始めた中村のポテンシャル入試も、当初はどうやって評価するのか学内でさんざん議論があったそうです。しかし、いざ本番になって、受験生が自分の探究してきたことで、今後もその探究を中村で続けたいことを試験監督の前でプレゼンしたところ、分析的な評価視点などどこかに吹き飛んで、ただただ感動させられたというのです。もちろん詳細な分析的な評価観点は用意したし使ったのでしょうが、丸ごとこれだと思うポテンシャルが映し出されると、それだけで納得してしまうほどだということです。
東京女子学園もPISA型入試をやって対話文は哲学的にしたそうです。實吉校長が哲学を基盤にした学びを大切にしているので、それに即して哲学対話風にしたそうです。やはり当初は難しいと学内で議論が巻き起こったそうです。しかし、秋の説明会で実際にサンプル問題を実施したところ、受験生が真剣に考える姿と生きる価値を論述したすばらしい作文をみて、入試が生徒の才能の可能性を開くチャンスになっていることに気づいたというのです。
山下:こんな深イイ話が続出する新しい入試の開発の拡大は、どうやら止まりそうにないですね。それに3つのポリシーという話が定着しだすと、知識・理解を積み上げてきた力をみる入試問題だけを出題してきた学校も、多様な才能にチャンスを作らざるを得ないでしょう。
北:そういう意味では、光塩女子学院の「総合型入試」の再評価は、偏差値の高い学校にも考え方を転換するインパクトを与えるかもしれません。従来は第2回入試に選択で含めていたのですが、2016年には2月1日に第1回入試として独立した形で新設したのです。しかも来年は定員約15名を25名に増やしたほどですから、アドミッションポリシーを発信することの手ごたえを感じているのだと思います。
山下:そうですね、今までどちらかというと偏差値が高くない学校で行われていた適性検査型入試や総合型入試、思考力入試、自己アピール入試といったタイプの試験が、偏差値の高低関係なく、アドミッションポリシーの表現として位置付けられる可能性がでてきたということだと思います。
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希望の私学【首都圏模試緊急座談会】(3/3)