希望の私学【首都圏模試緊急座談会】(3/3)
第3回では、首都圏模試から見る、これから増え続けるであろう、偏差値では図れない多種多様な入試についてと、中学受験市場の今後の展望について話します。
§6 中学入試に教育イノベーションが巻き起こっている
清水:失礼を顧みずお聞きしたいのですが、ある意味偏差値メーカーの模擬試験会社の経営陣の1人である山下さんが、偏差値ではもしかしたら測れない入試に対してそんなに寛容でいいのだろうかと心配になるのですが、矛盾を感じないものですか。
山下:感じないし、矛盾はないと思います。2020年の大学入試改革は、思考の次元をさらに高くしました。論理的思考力、批判的思考力、創造的思考力と呼んでいるものですね。しかし一方で知識・理解も必要であることに変わりはありません。
この思考力の領域は、教育学の世界では研究は始まったばかりでしょう。2020年大学入試改革で議論を巻き起こしている「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」では、将来CBT(コンピュータ・ベースド・テスト)を導入すると言われています。
しかし、なかなか難しそうですね。やはり思考の領域は、そう簡単にコンピュータで対応できないのかもしれません。とはいえ、人工知能や脳科学では、教師なしの機械学習という知のアルゴリズムを開発していて、すでに囲碁の世界でも、達人を圧倒しています。
最近大いに話題になっているアクティブ・ラーニングが示唆しているのは、この人工知能の教師なしの生徒の知の働きのことのようです。私たちも、この領域を学んでいかねばなりません。思考コードの領域ごとの問題の正規分布を分析していくことが、そこにつながる第一歩なのです。
実は、偏差値に対する価値意識が大きく変わります。偏差値が不要なのではなく、むしろ使い方が変わると直感しています。すでに薬学の分野で、正規分布という統計手法は役に立っています。薬の投与の時間や量の最適化を予想する時に使われているのですね。
子どもによって、知識を憶えて、理解して、そこから応用のトレーニングをして、次にというステップを踏む子もいれば、いきなりピカッと閃いて、そこから検証していくタイプもいるでしょう。もしかしたら、批判的視点が鋭く、その視点からいろいろなものが見えてきて、その段階でものすごい知識量が記憶されるという順番の子どももいると思います。子ども一人ひとりの学びのパターンの最適化を、追究していくには、新しいテストの評価にチャレンジしていくことがポイントです。
北:ちょっと専門的で難しくなりましたが、要は多様化の時代ということですね。山下が言うように、その多様な才能をできるだけ受け入れる試験を開発することは、模擬試験会社としても、大いに有益なことだと思います。多様性の中の1つの能力しか測れない受験市場は、いきつくところは縮小です。
山下:その通りです。多様化をうまく取り入れることで、中学受験市場の質そのものが豊かになります。豊かになれば、そこに集まるプレイヤーも増えるということです。それぞれの子どもの才能が開花する場に集まるのは市場の原理そのものです。かつてのように、量より質とか、質より量という時代ではないのです。消費者の意識が高くなっている現在、質と量は相関します。
清水:私たちと全く同じ考え方で、勇気をいただきました。やはり、生徒の多様な才能を開く機会を創意工夫する努力を惜しみなく注ぐことが、私たちの教育イノベーションだと思います。
ですから、聖学院は思考力テスト自体多様にしようと思っています。1つは「思考力ものづくり入試」で、学内ではレゴ入試と呼んでいるものです。もう1つはいわゆる「思考力入試」で、写真、音楽、木材など素材はその年によって違います。
素材(what)が違ったとしても、考え方(how)は変わりません。おそらくこのような学びの考え方はIB(国際バカロレア)にも通じるものだと思いますが、やはりそうはいっても男子は素材も大切です。できる限り、好奇心旺盛になる素材は何か、今後も探求していくつもりです。
今春の「思考力ものづくり入試」では、まず自分の関心事をレゴで表現し、次に、ある国の様々な資料を分析しながら、その国の問題点を推理し、その解決策をレゴで表現する問題を投げかけました。レゴで表現するだけではなく、必ず言語化もします。その上で、自分で作った2つの作品を合わせて、自分が解決策にどう関われるのか150字程度で論述する問題を出題しました。そしてこの最終問題に対し、こんな解答を書いた受験生がいました。
「脱出するために船を作る材料や脱出中の食料などいろいろお金が必要です。そのお金を集めるためにぼくは野球をする人たちでたくさん試合をします。その試合でお客さんをいっぱい集め、試合を見るお金をA国に渡せば脱出が実現できると思います。人と人が助け合えば多くの人が生きていけると思います。」
いかがですか。
北:これはもうやめられませんね。
一同:来春の入試がますますワクワクしてきました。入試問題という場が、生徒のみならず私たちもさらに成長する機会になるとは、今までに全くない中学入試の挑戦だと確信できました。今日は、明日への自信と希望をありがとうございました。
コラム2 究極の思考力入試のガイドブック
聖学院は、「2017年度思考力入試ガイド」を発行しています。思考力の基本的考え方、思考の過程をたどる問いの配列の具体事例、生徒の解答など、全貌を知ることができます。
今年の春、東大の推薦入試や京大の特色入試が行われ、各学部から論文試験が出題されましたが、オープンエンドな問いで、自分の考えを最適化する根拠を思考する問題。考え方のエッセンスは聖学院と共通しています。
聖学院のタイプは、究極の思考力入試として、たいへん参考になるのです。