希望の私学【工学院大学附属中学校・高等学校】(2/2)
今や2020年大学入試改革は、中学受験生にとって広く認知されています。そして、その入試改革が、2030年に想定される地球規模の環境問題に備えるためのCOP21、あるいは人工知能(AI)ロボットの開発大競争を迎えているグローバル企業の活発な競争に象徴されるように、未来に備えるためのグローバル知識基盤社会の盤石の基盤をつくるためのものであることも毎日のニュースで大きく取り上げられています。
§4 再び「C1英語」
工学院では、久しい間、中3全員が、夏季3週間のオーストラリアホームステイ研修を実施してきました。異文化に接して驚くだけではなく、ホストファミリーや新しい友人と親しくなって、さらに英語で意思の疎通ができるようにしたいという想いで帰国します。
そして、最近では、その想いがふくらみ、帰国後も英語で学ぶ環境を持続可能にしてほしいという希望が生徒からたくさんでてくるようになりました。したがって、中1のカリキュラムイノベーションがスタートする3年前から、そのニーズに応えて高1の3ヶ月留学が始まったのです。毎年12人も再びオーストラリアの現地校に留学します。
ここでは、ホームステイだけではなく、現地校の授業に参加するのですから、英語のスキルが当然B2レベルや議論や討論の時にはすでにC1レベルまで必要になるのです。
留学生は、中3のホームステイの時に達しえなかった英語で十分に意思疎通するという課題をクリアしてきますが、今度は帰国後さらなる目標を掲げ挑戦します。
高2の岩本さんは、3度の留学経験をバネに、国家プロジェクトである「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」に挑戦、さらに半年の留学を体験し、いよいよ航空工学への進路の道を見出し、夢を実現するために邁進しています。
また3年前の留学生の1人高3の菅野くんをはじめとするメンバーは、高2のときに首都大東京の渡邉英徳准教授が行っているプロジェクトに参加。このプロジェクトは渡邉英徳研究室と朝日新聞社が、1964年東京五輪から50年を迎える2015年、共同で報道写真アーカイブ「東京五輪アーカイブ 1964-2020」の制作をスタートしたのです。
64年の東京五輪から、オリンピックにかかわる方々にインタビューし、見えない東京オリンピック・パラリンピックへの歴史的な道をネット上に可視化していこうというWeb編集プロジェクトに参加しているのです。その活躍は2015年12月1日付の朝日新聞でも取り上げられました。
また留学生は、「アジア×グローバル人材育成プログラム」にも挑戦しています。そのメンバーの1人臼井くんは、工学院の高校説明会で、「留学を体験して、英語を大学受験勉強のためだけに使うのはもったいない、ソーシャルアントレプレノイアーとしてグローバルな視野で社会貢献したい、そのためには英語で世界の人と語り合い、問題をいっしょに解決していくために英語で考えることが必要になる」と語っていました。
このように、中1のカリキュラムイノベーションと前後して、工学院全体に従来とは全く違う、生徒1人ひとりの興味と関心を探究活動に広げ深めていく画期的な学校モデルが出来上がりつつあるのです。
§5 工学院「思考コード」
従来の20世紀型教育は、講義形式の授業が中心でしたから、リサーチ、ディスカッション、論文編集、プレゼンなどの授業や海外留学やグローバル研修の体験を通した「創造的思考」そのものをトレーニングする授業は、日常的には行われてきませんでした。 ところが、工学院のように21世紀型教育を構築することによって「創造的思考力」を鍛えるプログラムは可能となったのです。しかし、だからといって「思考力」とは何かはっきりしているわけではありません。ソクラテスの時代から2000年を超えて、今日でも「思考力」とは何か?が問われ続け、100人の哲学者がいたら100通りの考え方があるぐらいです。
ですから、工学院はプラグマティックに、生徒に求められている大学入試問題を中心とする問いの分析から始めました。すると、問いは大きく9つのカテゴリーに分類できる仮説がデザインできました。 これによって、今度は自分たちの授業で発する問いや定期テストで出題する問いの範囲に偏りがあることが改めて認識することができるようになったのです。 問いによって、生徒の思考力は広がりもするし深まりもします。ですから、授業やテストで投げかける問いの基準として「思考コード」を教員全員で共有することにしました。
そして、中間試験、期末試験を行うたびに、各問いの正答率を出して、S‐P表という手法でデータ分析をしながら、問いの質を精査していくカリキュラムイノベーションチームの探究が行われているのです。
※S-P表は、Student-Problem score tableの略です。得点の高い順、正答者数の多い順に生徒と設問を並び替えることができる正誤パターン表で、テスト問題の特徴や生徒の思考の反応の特徴などを検証する手法です。
生徒がどのような体験をしてどこまで思考していくのか、文部科学省では「ルーブリック」作成という提案をしていますが、そもそもそのルーブリックが成立するデータエビデンスをどのように考案していくのか。
そのような点についても、工学院は、多様な学習理論と自分たちの経験そしてデータをすり合わせながら教育の質を豊かにしていっているのです。この先生方の協働作業は、カリキュラムイノベーションチームのみが行っているわけではありません。 カリキュラムイノベーションチームがファシリテーターになって、教員全体研修も行い、PBL型アクティブラーニングや思考コードの検証などについて共有しています。研修のスタイルは、授業の研修にもなるように、タブレットやノートパソコン、ロイロノートスクールのアプリを活用して、各チームの考え方や気づきまでもシェアします。 このように、教員一丸となって、生徒といっしょに未来に備える学校にこそ希望があるのは、言うまでもありません。
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