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コラム

希望の私学【首都圏模試緊急座談会】(1/3)

2016年8月1日、聖学院副校長清水広幸先生、大妻中野教頭諸橋隆男先生、八雲学園高等部部長菅原久平先生、1985年以降からこのような動きになる中学入試の歴史的変動をずっと追跡しているリサーチャー北一成氏(首都圏模試センター取締役・教務情報部長)、模擬試験の革新的な展開を見通している山下一氏(首都圏模試センター取締役・統括マネージャー)の5人が集い座談会は行われました。

(記事)首都圏模試センター リサーチフェロー 本間 勇人 2016.9.9
2020年大学入試改革及びそれに伴う学習指導要領の改訂は、文部科学省の主催する各分科会の中間まとめの報告などによると、着々と進んでいます。

今回の改革プランは、今の小学生が大学に入学あるいは卒業して社会に出る2030年頃の未来がどうなっているのかを見据えて立案されています。そしてその立案の過程で、実は文部科学省も大学も学校も保護者も、2030年は、今の私たちの予想をはるかに上回ることに改めて衝撃を受けているのです。

人工知能(AI)の進化は凄まじいとか平和をどこまで維持できるのかなど危機を感じないわけにいかないニュースが日々メディアを埋め尽くしています。昨年9月、国連ではとどまることをしらないグローバルイシューを解決するために17のグローバルゴールズを採択したほどです。

ある意味予想不能な未来にあって、子どもたちが自ら創造的に問題解決する柔らかい思考力をいかにして身に着けるかが教育イノベーションに期待がかかっています。

そして、この期待が目の前にあらわれるやすぐに、既存の知識と理解の枠組みから一歩も出ない硬い思考力に固執するのか、それとも論理的思考と批判的思考、創造的思考という未知の問題を創造的に解決する柔らかい思考力の育成に挑戦するのかが、私立学校で議論が巻き起こっています。いわば、ローリスクアプローチの教育かハイリスクアプローチの教育か、日本の教育が岐路に立っていることを示唆する議論だと捉えることもできます。

つまり、子どもたちは、明治時代の近代教育の大転換以来の大きな変化に直面していると言っても過言ではありません。この大きな変化をどのようにとらえたらよいのでしょうか。どうしたらよいのか、不安だという保護者も少なくないと言われています。

そこで、首都圏模試センター編集部は、このハイリスクアプローチの教育を選択する決断をし、それをアドミッションポリシーに盛り込み、「思考力入試」として表現した<希望の私学>3校の先生方とその動きに関心をもち模擬試験の新たな展開を模索している2人の取締役と緊急座談会を開くことにしました。

2016年8月1日、首都圏模試センター会議室で、聖学院副校長清水広幸先生、大妻中野教頭諸橋隆男先生、八雲学園高等部部長菅原久平先生、1985年以降からこのような動きになる中学入試の歴史的変動をずっと追跡しているリサーチャー北一成氏(首都圏模試センター取締役・教務情報部長)、模擬試験の革新的な展開を見通している山下一氏(首都圏模試センター取締役・統括マネージャー)の5人が集い座談会は行われました。(首都圏模試センター編集部)

§1 それぞれの才能を受け入れる多様な入試の出現

北(以降敬称略):たしかに今年は大きく変わり驚いています。すでに2年前から英語入試、思考力入試というのが、適性検査型入試以外にでてきて、今までの中学入試の枠組みを超える新しい入試が広がってきました。

ちょうど2020年大学入試改革やアクティブ・ラーニングを中心とする学習指導要領の改訂の話題と重なって、2015年元旦の朝日新聞1面で、中学受験の「英語入試」の特集が組まれ、その年の12月から今年の入試直前までの間に、各学校の「思考力入試」の取組みが多数のメディアで取り上げられ、大きな衝撃を受け続けていました。

2015年には英語入試は33校で、今年2016年入試では56校まで増えました。そのほか、思考力入試や自己アピール入試、適性検査型入試なども含めた2科4科以外の入試は、今春2016年には86校でした。2017年には100校くらいまで増えるかもしれないと予想していましたが、すでに130校を超えるのではないかという勢いで、本当に驚いています。

そして、この新たな動きの背景には、やはり受験生や保護者がなんとか超えようとしている小学校4年生の壁があると思います。

というのも、2020年の大学入試改革を待つまでもなく、4技能の英語教育改革が前倒しになっています。ご存じのとおり、すでに大学入試において、英語については外部英語資格試験のスコアがある一定の基準を超えていれば、英語の試験の代替として認定する動きが急増しています。

英語の学習塾市場が増えているのは、この動きに敏感に対応しているからとも言われていますが、そこに小学生が通っています。ところが、難関大学に行くために英語を学習し続けたいのに、そこに行くには中学受験もしなければなりません。すると小学校4年生になったら、中学受験塾に通うために、英語の学びを止めるか減らすかしなければならないという壁が浮上してくるのです。これが小学校4年生の壁です。保護者はジレンマに陥ります。

私立学校がグローバルな時代に英語が大切だと言っているのに、中学受験では英語の学びを十分にできないというのですから。そして、中には英語の学びのモチベーションが高い子どもが、4年生の壁にぶつかって意気消沈するわけです。

山下:そういう意味では、公立中高一貫校の適性検査は、そのような保護者のニーズにピタッと一致したのかもしれません。英語に限らず、ピアノやサッカー、理科実験などの習い事で培った才能を伸ばしながら、適性検査の学びも行っていけるからです。適性検査は、思考の深さを測定する首都圏模試センターの「思考コード」の分類によれば、知識・理解の定着を検査するのではなく、知識がなくても、どこまで論理的に思考できるのか、その思考のプロセスを検査するものです。

ですから、私立中学受験のような知識も定着させる学びはショートカットできます。もちろん、最終的には知識がなければ、思考を回転させられないので、記憶しなければならないのですが、それは中学に入ってから学習すればよく、思考を回転させられるかどうかの適性を検査するわけです。

コラム 首都圏模試センター「思考コード」

たとえば、漢字の書き取りで正答率30%問題と文章の100字要約で正答率30%問題とでは、思考過程が違います。前者の場合は、記憶の定着率を表し、後者は「比較」の視点と「理由」の視点と「抽象化」の視点が論理的に組み立てられた受験生の割合を表しています。

したがって、同じ正答率の問題も、解決方法は異なります。記憶の定着率は、ふだんから使っているかどうかその頻度に比例するでしょう。ですから、定着率の低い漢字や知識は一覧表にして壁に貼ったりして、いつでも目に触れるようにしておくなど工夫をしている受験生もいます。

要約の場合は、「比較」「理由」「抽象化」の3つの視点を文章に適用して、そこを書き抜き、それらをまとめるというトレーニングをします。3つの視点は、「しかし」「なぜなら」「つまり」などの接続語に着目すると特定しやすいのですが、必ずしも明快な接続語があるとは限りません。その場合は「内容」をそれぞれの視点で類推する必要があり、この場合は正答率がさらに低くなります。

正答率が30%問題を攻略することが、偏差値55を乗り越えていく学びになりますが、その場合、その正答率の問題の質を振り返り、攻略法を考えるチャートとして「思考コード」がヒントになります。このコードの「B2」領域の問題を克服することが肝心です。

北:つまり、「考え方」が問われるわけですから、英語やその他の習い事を続けている子どもの中には、ピアノとか英語とかバレーボールなどを超えて、演奏方法、英語を通して考える方法、チームバレーの中での戦略や戦術の瞬時な実効方法などを学んでしまう生徒がでてきます。

菅原:2020年大学入試改革や学習指導要領の改訂では、結局知識とそれを活用したり、それを超えて新しい知識を発見できたりする考え方の両面が問われるわけです。それはラグビーと似ていますね。基本的なルールや攻め方守り方のパターンはもちろん必要ですが、15人対15人の攻防という複雑系のゲームですから、あらゆるパターンは瞬時に破られます。新しいパターンが常に生まれていると言っても過言ではなく、その瞬時の判断力は、まさに今回の改革プランで注目されている「思考力・判断力・表現力」そのものです。