日大豊山女子の2/2pm「プレゼン(課題解決)型入試」は挑戦心を育む
学校の先進性や多様性を反映するように、多彩な形態の入試を行っている日本大学豊山女子中学校。2月2日午後に実施された「プレゼン(課題解決)型」入試の様子をお伝えします。〈取材・撮影・文/市村幸妙〉
困難を乗り越える起業家精神を培う豊山女子の教育
日本大学豊山女子では、予測不可能で不透明な時代を乗り切る力をつけるべく、「世界に貢献できるためのアントレプレナーシップ(起業家精神)を育成」を教育方針として掲げ、
・「ゼロ」から「イチ」を生み出す力
・「正解のない問い」に向き合う力
を育んでいます。
同校では「4科・2科」入試のほか、受験生たちが自身の好きや得意を生かして、そのポテンシャルを最大限活かせるような、さまざまな入試形態を設けています。理数教育に力を入れているため、その力を大いに発揮できる「算数1科」や活発な国際交流教育を反映した「英語1科」など、9種類全11回の入試を実施。
広報部主任の我妻 等先生は、
「学校というのは、いろいろな好きや得意を持っている子たちが集まることで、お互いに刺激し合いながら高め合っていくところだと思うのです。
それぞれの好きや得意の力で学校生活をリードしていってほしいですね。もちろんフォロワーのほうが性に合っているという子もいると思いますが、自分の良さや特性を発揮してもらいたいですね」と話します。
中学受験における入試は、受験生がその学校で受ける“最初の授業”といわれます。豊山女子ではプレゼンテーション力の向上にも力を入れており、企業研修にも使用される「エナジード」という教材を使ったキャリア教育なども行っています。
現在、熱心に推し進めている探究活動といった要素が色濃く表れているのが「プレゼン(課題解決)型」入試です。2024年度のテーマは「子ども食堂」でした。
この入試の特徴は、例年7月ごろに配布される入試要項にプレゼンテーションのテーマがあらかじめ載せられていること。
入試要項に記されたプレゼンの肝は、
「あなたがその『子ども食堂』を設立し運営する立場になったとして、困っている子どもたちに向けて持続的に食事を提供していくためにどのような取り組みをしていきますか」
というもの。
採点時に必要なルーブリックも入試要項に記載されています。
広報部主任の我妻 等先生に「プレゼン(課題解決)型」入試では、どんなところを見ているのかを伺いました。
「この形態をスタートする際、教員で議論しました。事前にテーマを発表すると、保護者や塾の先生が手を加えるのではないかという話になりました。それはもちろん想定内なのです。受験生と一緒に作り上げてくれる大人の手は入ってもいいと思っています。
大人と一緒に素材や原稿を作っていたとしても、受験生がテーマを自分ごととして捉えているか、自分なりの考えや言葉を持っているかどうかは質疑応答でわかります」(我妻先生)
試験官として参加している先生にも伺うと、
「質疑応答では、できるだけ受験生が知らないであろう知識を広げるような質問をあえてしています。わからないことは丁寧に説明するので安心してください。
私たちは何かを生み出そうという意欲やアイディア、感性、そして聞いていることにきちんと答えられるかということを大事にしたいと考えています」
と教えてくれました。
「質問された時に上手に話せなくても、間違えてもつっかえてもいいんです。ただ一生懸命に自分が考えたことや調べたことを伝えようという意欲、気持ちが最も大切です」(我妻先生)
これらは中学入学後の自ら学ぶ姿勢、学校生活を満喫する心などにも通じてくるのでしょう。
受験生の挑戦心と在校生の思いやり
2月2日の午後入試は「プレゼン(課題解決)型」入試のほかに、2科②も同じ時間で行われます。
14時開門、15時30分着席完了です。
開門時間前に筆者が学校へ到着すると、午前の入試を受けた受験生が教室で待機していました。
午後入試では、14時30分頃をピークとして受験生親子が続々とやってきます。
入試当日のスクールバスは、JR京浜東北線など赤羽駅14時35分発と都営大江戸線など練馬駅14時25分発が運行されていました。
受験生と保護者は校舎の入り口で一旦お別れになります。受験生は校舎へ入ると上履きに履き替えますが、この日お手伝いに入っていた高3生が受験生たちの緊張をほぐすように、さまざまな声かけをしていきます。
その先では先輩方が書いたメッセージが添えられたカイロをいただけます。中学入試に時は中学生が、高校入試の時は高校生直筆のものになりますが、生徒たちに聞くともったいなくて結局使えていないんです、と笑います。
「プレゼン(課題解決)型」入試の募集人員は5名です。出願者数は10名で受験生は7名。実は豊山女子の合格をすでに手にしながらも、せっかく準備を進めてきたからと挑戦した受験生もいたのだとか。
15時30分、試験開始となると、まずは控え室で受験した理由やプレゼンテーション方法などを書き入れる発表カードを記入します。
もちろんこのカードの内容は合否には影響しませんが、懸命にえんぴつを動かす受験生たちの姿が印象的でした。
試験は受験番号順に呼ばれ、10分程度のプレゼンテーションと5分ほどの質疑応答という構成です。
入試会場は4部屋用意されていました。スケッチブックにまとめていたり、ノートパソコンを持ち込んだり、USBを持ってきた受験生など、発表形式はそれぞれです。
印象的だったのが、ほとんどの受験生が実際に子ども食堂へ足を運ぶだけでなく、ボランティアを行うなど、自分ごととして体験して感じて、自分なりに考えたことを話していました。
自分の周囲でアンケートを取ったり、食堂の方などへのインタビューをまとめたり、どの子も見聞きして感じた問題点や考察、結論などをしっかりとまとめてきています。
公立の学校に通っている場合には、ひとり親の子がいたり、実は貧困家庭だったりというクラスメイトがおそらくいるでしょう。でも貧困は見えにくいものです。そうしたことを考えさせる豊山女子の姿勢に筆者は感銘を受けてしまいした。
「もちろんいろいろなご家庭はありますが、中学校から私立に通うという家庭で育ってきていますから、少なくとも衣食住には困らない環境で育ってきているでしょう。そういう現実を肌で感じられる機会というのはほとんどないと思うのです。入試がきっかけだったかもしれませんが、自分の同年代でそういう環境に置かれている子がいるということにまず思いを馳せ、考える機会になったのではと思います」(我妻先生)
堂々とした発表ぶりはもちろん、アイディアもそれぞれ素晴らしく、一人の大人として知らなかったことや考えさせられることが多々あるプレゼンでした。
どの受験生も先生からの質疑応答もきちんと話を聞き受け答えしていて、とても感心してしまいました。
なかには最後のあいさつの際に、豊山女子へ入学したら入りたいクラブについて、またこの当日はお誕生日で一生忘れられない日になる、と語った受験生も。
試験終了後、先生方と受験生たちのプレゼンがとても素晴らしいため、この入試だけで終わらせるのはもったいないと話が盛り上がったほどの出来でした。
彼女たちの入学後、この入試のために調べ、体験し、考えた知見が、同級生や在校生たちにシェアされ、みんなで子ども食堂が包括する問題をさらに考えられると理想的だと感じました。
生徒一人ひとりのポテンシャルを引き出す授業や学校生活が待っている日本大学豊山女子。どうぞ動画で受験生たちの様子をご覧になり、入学後の活躍ぶりをご想像ください。