日本一入試方法が多い私立中学校。読書プレゼン入試が加わり10種類に!
日本一入試の種類が多い中学校と公言する宝仙学園共学部理数インター〈東京・中野区。共学校〉が、今春2020年入試から、また新たな入試を導入しました。それが読書プレゼン入試です。ここでは、その様子を中心に、AAA入試、入試理数インターなど、ユニークな入試の様子をレポートします。(取材・文/教育ジャーナリスト・マザークエスト代表 中曽根陽子)
在校生が自主的にサポート役に立候補
2月1日(土)、宝仙学園中学校理数インターでは、今年も午前・午後に渡って、いくつものユニークな入試が行われました。午前に行われたのが、通常の4科入試と公立一貫型入試。そして午後には、新4科(特別総合)入試、リベラルアーツ入試、AAA(世界標準)選抜、グローバル入試、英語AL入試、読書プレゼン入試、そして入試「理数インター」の9つ。今回から新しく導入された読書プレゼン入試を中心に、この学校の多彩な入試の様子を取材しました。
2月1日の午後入試に集まったのは141名。玄関の入り口には富士晴英校長先生自らが立って、受験生一人ひとりに「頑張れよ!」と気さくに声をかけ、校内では、在校生たちがにこやかな笑顔で出迎え、受験生や保護者を案内してくれます。学校によっては、入試当日は学校全体にピリピリした空気が流れているところも多いのですが、保護者たちが受験生を待つホールは暖かく、コーヒーも用意されていて和やかなムードでした。
在校生の一人が、「コーヒーいかがですか」と声をかけてくださり、少し話をしました。入試のサポートは、自分から手を上げて参加しているとのこと。宝仙の学校生活はとても充実していて楽しいと、笑顔で話してくれました。他の子どもたちも、全体の様子を見て自ら動いている様子が伺えます。
理数インターの❝得意❞を活かせる入試の狙いと内容は?
続いて、校長先生から、昨年から始まった新4科入試とその他のプレゼン型入試について、狙いと評価のポイントにいて説明がありました。
新4科入試は、1つのリード文の中に4科の多様な問いを埋め込んだ入試。今年は算数も含め4科の問いが、同じリード文の中に含まれています。公立一貫型入試との違いは、知識があった方が解きやすい問題で、4科入試の勉強をしてきた子どもたちにも面白いと思ってもらえる問題になっているという説明がありました。学校としても新しいチャレンジだけれど、新しいことにも工夫して取り組むマインドのある人に来て欲しいというメッセージだと言います。
次にプレゼン型の入試について。「これらはスカウティング入試です。自分のやりたいことを見つけてきた、自己肯定感の高い子どもに来て欲しいと思っている。面接ではないので、ありのままの自分を堂々とプレゼンしてほしい。主観的評価だから、もしかしたら評価する側がその子のいいところを見逃してしまうこともあるかもしれないけれど、合否はマッチングなので、一生懸命やりきった子どもに罪はない。第一希望に合格することだけが成功ではない。わずか12歳の子がうまくいくかどうかわからないことにチャレンジをして、やりきったことを『よくやった!』と褒めて欲しい」と話します。
受験の待合室で、こうした話が聞けることはあまりないと思うので、受験で神経をすり減らしている保護者の方にとっては、貴重な機会だったのではないでしょうか?
「ペーパーテストだけに偏っていると、いつまでも偏差値の呪縛から逃れられない。違う座標軸を作りたい」という校長先生の説明に、これだけのたくさんの種類の入試を行う理由が垣間見えました。
そんな新しい入試にチャレンジするのはどんな子どもたちなのか、入試の様子を見学させていただきました。
読書好きに悪い子はいない! 在校生も行う読書プレゼンを入試に
まず、新しく始まった読書プレゼン入試。プレゼンの前に日本語リスニングの試験を受けるのは、他のプレゼン入試と同じ。
まとまった内容の話を聴き、話の主旨を正しく理解できたか、また自分の理解したことを課題解決に用いる、応用力をみるテストです。これによって、学校としては、「授業をしっかり集中して聞き、理解することのできる力」があるかどうかを試しているといいます。(リスニングテストのサンプル問題は学校のサイトに載っているので、関心のある方は、聞いてみてください。)
その後、担当教員が待つ部屋へ在校生に案内されてやってきた受験生の手には本が。部屋に入ると、2人の面接官に向けて、その本をどう読んで何を感じたのかを話し始めます。
終了後この入試を始めた理由について聞くと、「読書プレゼンは在校生も行なっていて、読書が好きな生徒はいろいろな意味で、潜在能力を持っていて良い子が多い。そういう子どもたちにぜひ受験して欲しいので、入試にも取り入れようと思った」と国語科主任。この日の受験生は、予想以上に多面的な角度から本を読み解き、考えていて、面接用の付け焼き刃ではない自分の言葉を持っていたそうで、話していて楽しかったと振り返っていました。
それぞれのやり方で、自分の得意をプレゼンする受験生たち
他の部屋では英語で自分のストーリーをプレゼンする英語AL、自分が探究してきたことについてプレゼンをするリベラルアーツ入試などが同時に行われていましたが、手書きの紙芝居、パワポのデータ、黒板に掲示物を張り出すなど、それぞれが工夫して発表をしていました。
次に向かったのが、AAA入試の教室。これはAthlete、Artists、Academic
の頭文字。各分野で全国レベルの実績を持っていて、世界に飛び出そうという受験生対象の入試です。見学したときには、校長先生ともう1名の先生が迎える教室で、コマ技の全国大会の優勝者が、いくつもの高難度の技を繰り出していました。そして、廊下ではその様子を見守りながら、小声で「頑張れ!」とエールを送る先生。実に暖かい入試風景でした。
未来シナリオを描くワークショップで大人顔負けのプレゼン!
次に向かったのが、一昨年から始まった「入試・理数インター」の会場。この日は13名の子どもたちが、3~4名のグループに分かれて、ワークショップに参加していました。この日のテーマは、「50年後の未来を予測する」というもの。1970年の社会の様子を聞いてこの50年で何がどう変わったのかを考え、2020年から先の未来がどうなっていくのかを予想してプレゼンをし、最後に今回のグループワークについて内省するという3段階で実施されていました。
子どもたちは初対面ですが、活発に意見を述べあっていました。
学校名を冠した「理数インター」は、コラボレーション・プレゼンテーション・ラーニングの3つを柱にした授業で、中1から毎週行われています。リーダーの米澤 貴史先生は、この授業について「正解のない問いを立てながら、枠にはまった考えをほどき、そこから化学変化を起こしたい。だから、枠にはまらない子、この子がいると対話が深まるなという子に来て欲しいと思っている」と言います。
入試初日の午後行われ、しかも17時近くまでかかる入試ですが、子どもたちは考えるのが楽しくて仕方ないという雰囲気で、疲れた様子も見せず、知の探究をしていて、私もついついこれが入試だということを忘れて、子どもたちのプレゼンに聞き入ってしまいました。
偏差値に変わる座標軸をつくる!
今回、宝仙理数インターのユニークな入試の様子を見ていて感じたのは、大人から言われてやらされているのではなく、自分の「好き!」や、「やりたい!」ということを一生懸命やってきた子、「この学校に入ったらこれをやりたい!」という意思がある子たちが、その意欲や主体性を評価してもらえる入試だということです。
これは、通常のペーパーテストでは決して測れない能力で、学校側にとっては、やる気や折れない心、頑張り抜く力など非認知能力の高い子どもに出会えるチャンスでしょう。