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入学前の不安の先には楽しさと成長があふれている(後編)

海陽中等教育学校

入学前の不安の先には楽しさと成長の機会があふれている(前編)はこちら

食事:名古屋めしフェア

 海陽学園の食堂では、生徒が毎日の食事を楽しむことができるように、様々な工夫を凝らして食事を提供しています。この日の夕食は名古屋めしフェア。名古屋名物の「あんかけスパ」をメインに、ピザ、ドリア、オードブルなど何種類もの皿が並び、色鮮やかなデザートもたくさん用意されました。18時になると続々と食堂に集まってくる生徒たち。バイキング形式でそれぞれ食べたいものを食べたいだけお皿に盛り、気の合う仲間と一緒に食事を楽しみます。もちろん中には1人でゆっくり静かに食事する生徒の姿もちらほらと見られます。仲間で盛り上がるのも自由ですし、1人の時間を過ごすのも自由。集団生活の中でも、生徒たちは仲間と過ごす時間と1人になる時間を上手に使い分けているようです。

土曜日の夜の過ごし方

 翌日に授業がない土曜日の夜は、日課となっている夜間学習は行われず、自由に過ごすことができます。1人でゆっくりくつろぐのも良し、仲間と楽しむのも良し。それぞれが好きなように週末の夜を楽しんでいます。
 この自由時間にも、自由参加ではありますが様々なイベントが行われます。この日訪問したハウスでは、ラウンジで映画鑑賞が行われていました。学園祭で使用したという業務用ポップコーンメーカーでポップコーンを作り、それを食べながら映画を観る生徒たち。当たり前のように楽しく過ごしていますが、普通の学校では決して見ることのできない光景です。

 視聴覚室では、フロアマスターが自分の学生生活の実体験をもとに大学生活を紹介するソサイエティが行われていました。この日のテーマは、「大学でのサークル活動と部活動の違いについて」。かけもちができるか否か、時間的拘束の違い、OBとのつながり、就職に有利になるかどうかなど、サークル活動をしていたフロアマスターと、部活動をしていたフロアマスターが、それぞれの立場からそれぞれのメリットデメリットを説明していました。教員が行う進路指導や大学の紹介とは全く違う視点からの大学生活の紹介。生徒たちもリラックスした表情で説明を聞き、自分ならサークルに入るのか部活動に励むのか、それぞれに想像を巡らせていたようです。とはいえ説明をしているフロアマスターはいずれも難関大学を卒業し、日本を代表するような企業から派遣されている優秀な若手。このような人材がハウスで一緒に生活し、お兄さんのように身近に接することができるのは、まさに多くの企業が設立・運営にかかわっている海陽学園ならではのメリットです。

6年間生活を共にした仲間だから卒業後も強い絆で結ばれ続ける

2019年度より、海陽学園が待ち望んでいた卒業生のフロアマスターが2名誕生しました。そのうちの1人、八木豊太郎フロアマスターは第一期卒業生。青山学院大学社会情報学部を経て三菱電機株式会社に就職、念願かなってフロアマスターとして母校に戻り、卒業生ならではの立場で、親身になって生徒の生活をサポートしています。

「当時から新しもの好きでした。新しい学校ができるというので心配よりも好奇心が勝り、あまり不安を感じることなく入学しました。」と話す八木フロアマスター。入学後も比較的すぐに適応できたといいます。

「イベントが多く用意されていたので他の生徒と触れ合う機会が多く、すぐに友達ができました。ハウス生活についても、フロアマスターがさまざまなアドバイスをしてくださったおかげですぐに慣れました。ただ、1ヶ月ほどして生活に慣れてきたころに、一時的にですがホームシックになりました。普段の生活では何ともないのですが、夜寝るときに一人で枕を濡らすこともありました。」

 海陽でのハウス生活を通して一番成長したのはコミュニケーション力だと八木フロアマスター。集団生活の中だからこそ、自分を良く見つめることができたといいます。
「2年生の頃、自己中心的な性格だと言われ、他の生徒たちから距離を置かれていると感じた時期がありました。この状況を打開するために、自分から距離を置こうとしている中心人物ではなく、その周りでなんとなく中心人物に従っている人たちに自分から声をかけ、少しずつ距離を縮める努力をしました。すると徐々にみんなと打ち解け、卒業時にはどのグループにいても溶け込めるようになりました。
 集団で生活していると、様々なグループの中にいる自分を見つめることができます。あるグループではそれほど目立たなかった生徒が、別のグループでは人気者になりグループの中心人物になるということもあります。ハウスの引越しなど、6年間の生活ではグループが何度も変わります。その繰り返しの中で、自分の個性に気づき、自己理解を深めることができました。」

 11月3日に行われたホームカミングデーでは、大都市から遠く離れた母校に、第1期卒業生の半数以上の70名近くが駆けつけたといいます。やはり6年間生活を共にした仲間は、大学や会社での人間関係に比べると絆が何倍も深くなるもの。「お前に会いに来たよ」と言う同窓生の言葉が、何よりも嬉しかったと八木フロアマスターは目を細めていました。

 最後に、親元を離れて学ぶということに不安を覚える受験生や保護者の方に、卒業生として、またフロアマスターとしてどのようなメッセージを送りたいですかと質問すると、八木フロアマスターは以下のように答えてくれました。
「ボーディングスクールには、子供には厳しい環境というイメージが付きまといがちです。しかし実際は、基本的な生活習慣や勉強習慣など、中高生なら当然求められることをきちんとできていれば大丈夫です。むしろ海陽学園なら、自然にそのような習慣が身につきます。『規律の中の自由』。規律さえ守れば、自分の好きなことに熱中する時間と環境が十分に整っています。」

 今回の取材では、授業のない週末を思い思いに過ごす様々な生徒を見ましたが、元気な生徒も、比較的大人しそうな生徒も、それぞれ自分のペースを保ちながら生活を楽しんでいる様子が見受けられました。入学前のハードルの高さはあるかもしれませんが、その何倍もの成長が期待できるのが海陽学園。難関大学への進学実績が良い学校ですが、この学校の本当の価値はハウス生活を通して得られるきちんとした生活習慣と濃密な人間関係の体験、深い自己洞察にあります。長い人生を考えた時、この経験は間違いなく大きな財産になるはずです。