駒場東邦、中1が昭和女子大学の学生と無意識のバイアスを考える
「あ、これは偏見かも」。ふとした瞬間に、自分の中に潜むバイアス(偏見)にドキッとした経験をもつ方は少なくないのではないでしょうか。自分の中のバイアスに気づくことから始めよう、そんなプロジェクトがスタートしました。駒場東方の中1生が昭和女子大学の学生と、「アンコンシャス(無意識)バイアスを一緒に考えるプロジェクト」です。(取材・撮影 / 市川理香)
「最も接点のない遠い存在」だからこそ
男子中学生と女子大学生による、「アンコンシャス(無意識)バイアスの気づきに挑戦」する試みが、駒場東邦と昭和女子大学でスタート。去る2月24日に、初の顔合わせとなる第一回がオンラインで行われました。
駒場東邦といえば男子進学校。その一般的なイメージからすれば、女子大の学生とのプロジェクトというのは、意外な組み合わせかもしれません。しかし、プロジェクトのテーマは、まさに多様性を受け入れ、協働・共創していくことが求められる「今」を生きる人であれば誰にとっても、人ごとではない問題です。ただ、それを自分ごとにできるきっかけが、あるかないかは大きな違いでしょう。
プロジェクトに参加したのは駒場東邦の中学1年生全員。当日、ロングホームルームの2時間を使い、クラスごとにオンラインで繋がった昭和女子大学グローバルビジネス学部の2・3年生が提示した課題に取り組みました。
テーマは2つで、「ファーストジェントルマン」と「ディズニープリンセスの変遷」でした。これらは女子校では見慣れたテーマかもしれませんが、男子校の、しかも中学1年生にとっては、そのテーマについて考えること自体が初めてという生徒がほとんどのようです。
「ディズニープリンセスの変遷」
「ディズニープリンセスの変遷」では、まずSTEP1として、シンデレラやエルサなど6人のディズニープリンセスから連想する「プリンセスらしいと思う要素」を書き出す個人ワークに取り掛かりました。気品、勇敢、明るい、髪が長い、美人、髪の色など、思い思いに(とはいえ、スラスラ書ける生徒、頭をひねりながら絞り出すように書く生徒など様々)、要素をークシートに書き出し、続くSTEP2では、4・5人のグループでシートを交換してクラスメイトの書き出した要素に同感か共感かを書き込んで当人に返し考えをシェアします。共感する視点もあれば自分が気づかなかった視点もあることを踏まえて、STEP3でプリンセスに欠かせない要素を3つ、自分なりに決定。そして最後に、数人が自分の意見をクラスに発表する、という流れです。
学生は「プリンセスらしさ」という決めつけは、「男だから泣かないで」といった日常にある風景と同じであるとまとめましたが、授業後、中学生たちは自分が偏見に無自覚であったことに気づいたと興奮気味に話してくれました。
またディズニープリンセスの、シンデレラ→オーロラ姫(眠れる森の美女)→アリエル(リトル・マーメイド)→ベル(美女と野獣)→ジャスミン(アラジン)→ポカホンタス→ムーラン・・・という変遷に多様な生き方が認められてきた時代の変化を再確認。ディズニープリンセスと、サッチャー政権やマンデラ大統領誕生といった知識を重ねて見ると、違う景色が広がることにも興味をそそられたようです。学生は、看護師、主婦、保育士という言葉から女性だけをイメージしがちなように「日常の中にバイアスがあることに気づいて欲しい」と結びました。「保母」という言葉も知らない中1生世代。それでも保育士は若い女性とラベルを貼っている、自分たちの無意識のバイアスに驚いたようです。
「ファースト・ジェントルマン」
もう一つのテーマ「ファースト・ジェントルマン」は、「もしあなたがファースト・ジェントルマンだったら、今までの仕事を続けるか、仕事を辞めて妻を支えるか」を考える、というものでした。
おどけた“ある男性”と、笑顔の“ある女性”の写真を見ながら、職業や家庭生活や役割を想像してワークシートに記入した後で、実は写真の人はハリス米国副大統領とバイデン大統領のパートナー、つまりセカンド・ジェントルマンとファースト・レディとであることが種明かしされると、どよめきが起こりました。生徒たちの多くは、男性に「役員」「朝早く家を出て夜遅く帰ってくる」、女性に「家事担当」「営業」といったイメージを書いていたからです。
では自分がファースト・ジェントルマンだったら、今までの仕事を続けるか、仕事を辞めて妻を支えるか? 生徒は、この問いだけを頼りに、大統領の仕事はどんなものだろうか、自分はどんな仕事をしているだろうかなど、知識と想像力を動員して「人生を選択」しました。現在のアメリカのファースト・レディは仕事を続け、セカンド・ジェントルマンは仕事を辞める選択をしましたが、挙手して発表した生徒は、仕事を続ける、辞める両方の意見を表明。もちろんどちらかが正解というものでもありません。このテーマから、主観的な見方だけでなく、相手の立場や第三者として考えてほしいという学生のプレゼンから、生徒たちは何を感じたでしょうか。
これから3年間のプロジェクト
この日、ある生徒は授業後に、取材の記者に「自粛警察という言葉が思い浮かんだ」と言ったそうです。偏見を意識した後で、誰かの立場になって考えることに発想が及んだ生徒の言葉に、担当の先生方は喜びを隠しませんでした。
中学受験では難関校に数えられる進学校ですから、学力的素養は十分。だからこそ、と学年主任とプロジェクト担当の先生は力を込めます、「社会に出たときにいろいろな人の立場を考えられるリーダーになって欲しい。そのために、まずいろいろな価値観、多様な立場を理解する場が必要」と。
今回のプロジェクトは2020年1月に行われた昭和女子大学のジェンダー平等を考えるセミナーに生徒数名とともに参加した先生からの提案が発端。今後、中学3年間を通して行われ、昭和女子大学の学生と共同で報告をまとめる予定になっています。当日は空き時間の先生方が見学に入り、学校全体でこのプロジェクトの内容を肌で共有されていました。
このプロジェクトに参加した中学1年は、学年目標に「“大人”になろう」を掲げています。中学生が、「最も接点のない遠い存在」である女子大生との出会いで、どのような成長を見せてくれるのか、今から楽しみです