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中学受験<最強の親>は、わが子を尊敬できる親

「芝×桐朋×武蔵」特別トークイベントレポート
教育ジャーナリスト おおたとしまさ

2018年10月28日、芝中高を会場に「最難関校模試」が実施された。教室ではハイレベルな受験生たちが日ごろの努力の成果を答案用紙にぶつけている間、講堂では保護者を対象にしたセミナーが開催された。中学受験に関する識者が1時間ほどの講演を行った後、会場校がミニ学校説明会を実施するのが通常の流れ。しかしこの日の保護者会は違った。

<司会>(写真左側)
芝中学校・高等学校 武藤道郎校長

<パネリスト>(写真右側・左より順に)
芝中学校・高等学校広報部部長 荒久保聡教諭
桐朋中学校・高等学校広報委員長 河村理人教諭
武蔵高等学校中学校教頭 加藤十握教諭
教育ジャーナリスト おおたとしまさ

模試の後、「どうだった?」は禁句!?

前半の識者講演は私、教育ジャーナリストのおおたとしまさが担当した。後半の学校説明会は中止。代わりに、芝の荒久保聡先生、桐朋の河村理人先生、武蔵の加藤十握先生そしておおたとしまさの4人でのトークイベントが開催された。司会は芝の校長・武藤道郎先生。今回のテーマは「中学受験<最強の親>は、わが子を尊敬できる親」。

司会の武藤先生が振った最初の話題は「今日、模試が終わって子供が出てきたときに、最初の一言、何と声をかけるべきか」。一般的には「どうだった?」であろう。でも、強い緊張の中で全力を出し切った子供たちにいきなり「どうだった?」はいかがなものかと登壇者は口をそろえる。

芝の荒久保先生は、まずはがんばりをねぎらうような一言をと言う。桐朋の河村先生は、出てきたときの子供の表情を見れば、テストの出来はわかるはずだと言う。そのうえで、どんな表情の時にどんな声をかけるか、数パターンを用意しておいたほうがいいとアドバイスした。武蔵の加藤先生は、「せっかく天気もいいんですから、帰りに武蔵の創立者の根津嘉一郎のコレクションを集めた根津美術館でも行ってみたらいかがでしょうか」と提案し、会場の笑いを誘った。

親が子供を尊敬したっていいじゃないか

その後、話題は「尊敬(リスペクト)」について。荒久保先生は、親子であっても別個の人間であることを忘れない大切さを訴えた。それにちなんで加藤先生は、「自分が自由でいるためには、お互いを認め合うことが何よりも大切」と、「自由の相互承認」の概念を紹介した。

一般的には「子が親を尊敬する」という方向性で語られることが多いが、「尊敬」とは必ずしも上下関係を伴うものではないはずだと、私は主張した。そのうえで、親として自分もがんばっているけれど、子供も精一杯がんばっていることを認めるという意味で、親が子をリスペクトするということもあるのではないかと訴えた。親子の相互承認である。

それに対し、「親からリスペクトされながら育った子供は、学校の担任にはどう見えるのか」という質問が、武藤先生から、各先生に投げかけられた。親から一人の人間として尊重されている子供は、心に余裕があり、だからこそ新しいことにも意欲的に挑戦できているように感じると、先生たちは証言した。

次に話題は「信頼関係」へ。荒久保先生は、「大人同士の信頼関係と、子供同士の信頼関係はそもそも意味が違う」と指摘し、河村先生も加藤先生もそれにうなずいた。子供同士はちょっとしたことでぶつかり合う。「しかし、特に男の子の場合、数日後にはお互いにケロッとしていることも少なくない」と河村先生。

加藤先生は、「大人は責任の所在を明確にして白黒を付けたがるが、生徒達の関係性を考えてあえてあいまいにすますこともある」と言う。大人が介入してどちらがどれだけ悪かったなどと裁ききってしまわないほうが、当人たち同士で溝を埋めやすいということだ。武藤先生も、学校での子供同士のできごとに、親が感情的になりすぎないようにしてほしいと本音をのぞかせた。

第一志望合格だけが中学受験の「成功」じゃない

最後に、「中学受験の成功とは何か」。第一志望合格は最高の結果ではあるだろうが、それが成功とは限らない。ましてや中学受験の合格が人生のゴールであるはずもない。そのうえで、私は、「親子で成長できれば成功」と述べた。

親にとっての成長とは、入試本番、試験会場に一人で向かっていくわが子の背中を見て、「自分にできることはもう何もない。自分は無力である。その代わり、わが子は自分で自分の道を切り開く力を身に付けてくれた」と思えるようになること。

子供にとっての成長には2パターンある。1つは、第一志望に合格して、努力が報われることを学ぶこと。もれなく自信も付いてくる。もう1つは、どんな結果になったとしても自分の努力の結果を潔く受け入れられるようになること。100%思い通りの結果でなくても、そこで腐らず、自ら切り開いた道を堂々と笑顔で歩み出せるようならば、これからの人生、少々のことがあってもくじけない。その力を、中学受験によって培えたのならば、その中学受験は大成功だ。

受験生の保護者の緊張がちょっとだけ緩むひととき

トークは約100分間におよんだ。実際にはもっと具体的で、「そこまで言っちゃっていいの?」という本音がバンバン飛び出したが、それを聞けるのは会場にいた保護者だけの特典だ。模試会場の保護者会や普通の学校説明会では聞くことのできない生トークに、つかの間でも、わが子の模試の出来を気にしてそわそわする気持ちを忘れられたのではないかと思う。

会場では、ときどきハンカチで目元を拭うシーンも見られた。それだけ受験生の親として、みんな一生懸命なのだ。親御さんたちも、そんな自分を誇りに思ってほしいと、先生たちは励まして、会は終わった。

「そろそろお子さんたちがテストを終えて出てきます。本日は特別に、校庭に東京タワーをご用意いたしましたので、東京タワーがよく見える校庭で、お子様とお待ち合わせください」。武藤先生のお約束のギャグが決まった。

模試で実力を出しきることができた子供も、ちょっと落ち込んで出てきた子供も、いつもの模試の後とは違う親御さんの柔らかい表情に、むしろ戸惑ったかもしれない。「え、なんで、『どうだった?』って聞かないの?」なんて。

実はこのイレギュラーなトークイベントは今年で3回目。トーク終了後、「来年もハロウィンのころの最難関校模試で、この続きを話しましょう。今度のテーマは何がいいかな?」と登壇者一同で盛り上がった。来年も、やります。たぶん。

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