学校特集
江戸川女子中学校・高等学校2024
掲載日:2024年9月21日(土)
英語教育に定評のある江戸川女子中学校・高等学校。1986年、都内で最初に創設した英語科は38年の歴史を数えます。2021年にはより濃密なカリキュラムを展開するために、中学校に国際コースを新設し、女子の英語教育を牽引してきました。そして2025年度には、さらなるグローバル社会に貢献する女性を育てるべく、「国際英語科」を発足させます。同校の英語教育がどのように発展するのか、国際英語課の熊川美帆子先生にお話を伺いました。
世界を舞台に活躍できる
女性を育成する国際英語科
1931年創立、90年超の歴史を持ち、かつ都内で初めて英語科を設立した江戸川女子中学校・高等学校(以下、江戸女)。建学の精神は「教養ある堅実な女性の育成」。「誠実・明朗・喜働」を校訓とし、「自立した人」を育む教育を実践しています。
英語は取り出し教育を実施していましたが、カリキュラムをより強化し、2021年から中学で創設されたのが国際コースです。
国際コースには帰国生のほか、生まれも育ちも日本という外国籍の生徒や英語が好きで入学した生徒が混在しています。入学時は一般コースでも、国際コースで学びたいと定期試験や英検などで成果を出して編入した生徒もいます。
1年生〜3年生は、英検2級以上の力を持つ生徒で構成する「アドバンストクラス」と英検3級以上の力を持つ生徒を対象とした「スタンダードクラス」に分かれます。
国際コースの英語の授業は週に9時間。ネイティブ教員による「Reading Writing Listening Speaking」、探究授業にあたる「Global Studies」、文法をマスターする「Grammar」など、習熟度別に英会話のスキルを高めながら、帰国生が苦手としがちな文法もサポート。英語4技能をバランスよく伸ばしていきます。
今年、その一期生が4年生(高1)になり、彼女たちの進級先として、2025年度より5年生からの英語科をリニューアルすることになりました。
「国際英語科」として、以下を兼ね備えた女性を育成します。
・多角的な視野を持ち、異文化・多様性を理解する
・実践経験からの発見、成長を通してチャレンジを恐れないマインドセットを養成する
・国際語である英語をツールにした将来像・キャリアを描く
その前段階である中学の「国際コース」では、
・様々な事象を世界規模で捉えて考える力
・物事を自分なりに考え、自分の考えをはっきりと主張する力
・変化に対して臨機応変に対応する力
・異なる価値観を尊重し多様性を認める力
という、この4つの力を持つことを目標にしています。
江戸女が目指す「真の英語力」とは
国際コースで学んできた生徒たちは高い英語力を誇ります。しかし「真の英語力」とは、英語4技能に知識・経験がかけ合わさったものであるはずだ、と国際英語課の熊川美帆子先生は考えます。
例えば先日、国際コースの生徒たちが、ネイティブの先生と単語当てクイズをしていたときのこと。「『biodiversity(生物多様性)』という単語を知っている生徒が何人もいました。難解な言葉を知っていると感心し、その意味を尋ねたところ、内容を把握していない生徒が少なからずいました。
単語を知っていても、意味を理解していなければ、その言葉を使えるとは言えません。私たちは、その事象を英語を用いて解説できること、まつわる課題に対して探究した経験を持つことや、さらにそれらについて議論できるようになってほしいのです」(以下、熊川先生)
そのために行われる「Global Studies」は、新設される国際英語科の目玉となる授業です。実は「Global Studies」は、1〜3年生の国際コースでも、探究学習として週に1時間行われています。国際英語科では授業時間を増やして、内容をレベルアップさせ、より一層の知識と深い教養を身につけられるよう工夫されています。
「国際英語科では週2時間、毎回外部の講師の方をお招きする予定です。NPOなど海外で活躍されている方にオンラインや対面でお話を伺います」
国際コースの4年生で先んじて行われた授業では、インドの村で教育活動をするNPOの方から聞いた、インドの貧富の差と教育格差について話し合いました。今後は現地の生徒たちと、学校や国の紹介をし合う予定もあります。
またある時は、海外での金融教育について知り、株式に関するゲームを行いました。
「日本ではまだ金融教育が一般的ではありませんが、諸外国では幼い頃から学んでいます。その内容に触れることによって、生徒たちにとって良い刺激になると感じています」
「Global Studies」を通して、多岐にわたる分野の知識を増やし、経験値を上げていきます。それを積み重ねることにより、自分の意見を英語で発信し、話し合い、理解し合えることを期待しています。
「将来、海外に出た際に活かせる知見や教養の一端を、中高で身につけてほしいですね」
世界に通用する教養を身につける手段として、国際コースの音楽や美術では、イマージョン教育が行われています。
例えば、音楽の授業は、楽譜の読み方といった基礎的なものから、合唱、作曲、弦楽器の演奏練習などをオールイングリッシュで学びます。音楽の知識を養いながら、英語での表現の幅も広げられます。
こうした経験を積み重ねることで、英語は国際交流や課題解決のためのツールというだけでなく、国際的な教養人としてアートを語れる素養も涵養します。その姿はまさに「多角的な視野を持ち、異文化・多様性を理解」できる人。これが同校の教育目標「真の英語力を持った人財」につながるのです。
机上の知識を、
実感を伴った理解に変える海外研修
「真の英語力」を育むための知識や経験をという信条は、海外研修にも表れています。
例えば、国際コース3年生(希望者参加)で実施される、5日間のバリ島研修。日本もアジアの一員であることを実感し、行動や思考への刺激を促す、探究型の研修です。
2023年度に行われた第1回目では、約7割の生徒、21名が志望し、事前学習を経て参加。さまざまな貴重な体験を得ました。
例えば、宿泊施設は自然の恵みを利用した、クーラーを使わずに土壁で部屋の温度を下げる造りのコテージ。SDGs的な観点で考えることができました。
研修期間中は偶然「ニュピ(静粛の日)」という、バリヒンドゥー教の元日と重なりました。そのため、1日目には大晦日のお供え物を作ったり、民族衣装をまといバリ・ヒンドゥー教の儀式に参加したり。
2日目は貧困や医療の問題を考えるために、24時間休みなく無償で運営されている病院を訪問し、医師と対話。3日目は「ゴミを一切出さない」というホテルを見学。アップサイクルやリサイクルの方法について考え、ろうそくのリサイクルの実演もしました。
4日目の「ニュピ」は、バリの人々は家から出ず、電気やガス、火も使わず一日を静かに過ごすという日。ただし生徒たちは、日中には現地で活動している日本人の方々のライフストーリーを聞き、夜は満天の星空を鑑賞したそうです。
研修後は、研修中に得たことをこれからどう活かすか、帰国して時間が経っても継続していけるような"小さな約束"を個々に発表。買い物時はマイバッグを持参する、文化祭の時に行っているペットボトルキャップのリサイクルをより広げるなど、さまざまな意見が出されました。
「蒸し暑く、虫も多く、ハードな環境でしたが、生徒たちは徐々に順応していきました。講義もしっかり集中していて、日本とは異なる状況を受け止められる精神的な成長が見られました。バリ島での5日間を『情報としては知っていたけれど、実際に体験すると感じるものがまったく違った』『旅行とは別物。発見が多かった』と口にしていて、まさに今回の研修の意図を汲んでくれたと思っています」
高校入学後は、以前より行われていたニュージーランドでのターム留学や1年留学(オーストラリアでも実施)、イギリス語学研修に加え、2024年度からは2週間の「オーストラリア探究型研修」も開催されます。
「この探究型研修は、『Global Studies』の流れを汲んだものです。学校で学んだことを実際に現地で調べる、自分なりに課題を設定し研修先を訪れるという内容にしたいと考えています」
現地の大学生と将来について語る時間も計画されています。
「海外の学生は、日本に比べると精神的に自立していますから刺激になるはずです。また、同じように研修に来ている他国の高校生と交流して、自分の将来を真剣に考えるきっかけになればと思っています」
生徒たちが海外大に進学した際のロールモデルとして捉えるという側面も狙いの一つとなっています。
未来の目標に向けて、
得意を伸ばし苦手を克服する
このように知識や教養、経験を蓄える一方、元から持っていた英語の4技能を維持し、さらに引き上げる学びも欠かしません。
習熟度別の英語の授業はもちろん、4年生からは週に2時間「Communicative Skills」という授業が加わり、自己発信やスピーキングスキルに磨きをかけます。
「Communicative Skills」のうちの1時間は「IELTS(アイエルツ)」対策の時間。「IELTS」は海外留学にも日本での受験にも役立つ、国際的に通用するテストです。国際英語科の4・5年生全員に「IELTS」を受験することを定めています。
「国際コースの中には海外大受験を考えている生徒がいるので、それに対応できるようにします。目標は海外・国内トップレベル大学入学レベルの『IELTS』6.0以上の取得です」
2023年度からは、日本とアメリカの高校の2つの単位を取得でき、海外大学への指定校推薦も可能な「U.S.デュアルディプロマプログラム」を行っています。現在、4年生の6名が挑戦中で、通常授業の後、課題や試験に向けてオンラインで週に7時間ほど学習しています。
「生徒たちは、両立は大変だけど楽しいしやりがいがある、と目を輝かせています。きっと志望を叶えてくれることでしょう」
江戸女の先生方の面倒見の良さに支えられ、生徒たちは得意分野を伸ばし、苦手分野を克服しながら未来の目標に向かって歩みを進めています。
多様な経験、普段の学校生活の中から、 将来の種を掴み取る
国際英語科の中核となるのは、中学から国際コースで学んできた生徒たちです。
彼女たちは、通常授業は国際コース単独で行いますが、行事や部活は普通科の生徒と共に行い、お互いに刺激を受けながら、学校生活を送っています。校外学習や農業体験、修学旅行などの体験を一緒にすることにより、一般コースの生徒は国際的な視野から見た日本の姿を、国際コースの生徒は日本の文化や習俗を学びます。
「特別活動」として行われる情操教育もその一端を担っています。中学3年間の週1時間、茶道・箏曲・華道に取り組みます。日本の伝統文化を知り、品性と教養を身につけられる、かけがえのない時間です。
夏休みに理科の実験教室を催している同校。解剖なども行われますが、抽選になるほど希望者が多いのだとか。そのような経験も、生徒たちが進路を考える契機となっています。
「今までは理系でも薬学系を志望する生徒が多かったのですが、過去には海洋生物の研究を志し、東京海洋大学に進学した卒業生もいます」と熊川先生が話す通り、生徒たちの志望する進路も多彩です。海外大進学、国内大の文系に行きたい、理系学科でこれを学びたい、大学在学中に留学をして見聞を広めたい......など。
「生徒たちには常々伝えていることですが、学校生活には無駄なことは一つもありません。私たちもいろいろなところに種をまいています。それを自力でしっかり掴み取って、将来の礎にしてほしいと思っています」
国際コースが発足してから4年。毎年クラスは30人前後で推移してきましたが、2024年度には40人の生徒が入学しました。認知度の上昇と期待値の高さがうかがえます。
先日行われた学校説明会に訪れたのは同校英語科の卒業生。そのOGは、帰国子女である自分の娘を江戸女の国際コースに入学させたいと考えているそうです。その理由は、せっかく身につけた英語力を維持したいから。
「ご自身が在籍していた時に、江戸女の英語科にいてよかったという思いがあったから、それを娘さんにも、と考えてくれたのでしょう」と熊川先生が話してくれました。
伝統や教養を重んじながら、日々進化を続ける江戸川女子中学校・高等学校。先生方は心を尽くして生徒に寄り添いつつ導き、自立を促しています。各コースで切磋琢磨する生徒たちが手を取り合う学校の未来に、ぜひご注目ください。