佼成学園アメリカンフットボール部、3年連続日本一に向けて!②
「素直・謙虚・感謝」が心のよりどころ。
クラブ活動が学校教育の延長上にあるという考えは、2年連続日本一を成し遂げても変わらない。
クラブ活動のあり方が問われていますが、私学の中には学校が大事にしている理念をクラブ活動にも反映し、成果を上げているクラブがあります。アメリカンフットボール高校日本一を競うクリスマスボウル(関西大会の優勝校と関東大会の優勝校が対戦する全国高校アメフト選手権大会の決勝戦)で3連覇を目指す佼成学園LOTUSはその代表格です。
中学生を指導する東松宏昌先生(57歳)がアメリカンフットボールの楽しさや基礎・基本を教え、高校を指導する小林孝至先生(49歳)が花開かせる、師弟ならではの心の通った連携力で、保護者やOB、学校関係者はもとより、対戦相手の監督からも信頼されるチームをつくり上げています。
泥沼の中で根を張り、つながった状態で美しい花を咲かせる蓮の花のように、泥にまみれながらもチームワークよく日々努力して大きな花を咲かせるチームでありたい。チーム名の“LOTUS”(ロータス・蓮)に込められている願いが、どのようにしてカタチになったのかを、東松宏昌先生と小林孝至先生(共に保健体育科教諭)に伺いました。(取材・文:金子裕美)
生徒がiPadを持つことで練習の質が上がった
アメリカンフットボールは、野球のように2つのチームが攻撃側(オフェンス)と守備側(ディフェンス)に分かれて戦います。攻撃側はパスやラン攻撃で相手のエンドゾーンまでボールを進める。ディフェンス側はそれを必死に阻止するという競技です。
フィールドに立ってプレーするのは各チーム11人ですが、メンバーの入れ替えは自由。中高の大会は参加人数にも制限がありません。
「入学早々から全員がユニフォームを着てサイドラインに立てる競技はそうないですよね。本校では経験の有無にかかわらず、1年生の春から防具をつけて全員で試合に参加しています。点差がつけば試合に出すこともできるので、1つの目標になっていると思います」(小林先生)
1回1回のプレーの合間に“ハドル”という作戦会議が行われるのもアメリカンフットボールの特長です。
「自分たちで考えた作戦が当たり、ゲームの中でロングゲイン(攻撃側が1回のプレーで長い距離を前進すること)する、あるいはタッチダウンを取ると素晴らしく感激します。万々歳で帰ってきます。ディフェンスの時も、相手の状況を見て臨機応変に対応し、それが当たった時は爽快です」(東松先生)
プレーしている時間(約1時間)よりもプレーしていない時間(作戦会議に費やす時間)のほうが長いのですから、それだけ緻密な競技と言えます。
「一人ひとりの役割や責任が明確で、フィールド上にいる全員が自分の役割を果たすことできなければ作戦は成功しません。そのために練習するので、高校ではグラウンド練習と、ミーティング&ウェイトトレーニングを1日置きに行っています。
ミーティングはオフェンスとディフェンス、あるいはポジションごと、学年ごと、というように分かれて行うことが多いです。僕がすべてに参加することはできないので、生徒たちで行い、報告を受けるというかたちで行っています。それができるのも東松先生がミーティングの仕方や戦術の考え方などを教えて、ベースを作ってくださっているおかげです。話し合う時間を作るために合宿をたくさん行ってミーティングの質を高めています」(小林先生)
生徒の自主性や創造力、思考力などを伸ばす機会として、中学校でも5、6年前から朝練習(週3日/自主練)を導入しています。
「ケガがあってはいけないので僕も朝練習が始まる前に学校に来ていますが、口出しはしません。生徒が自分たちでアイデアを出し合い、練習内容を考えて取り組んでいます」(東松先生)
「高校も週3回、朝練習を実施していますが、そこでは体幹トレーニングをしています。中学のような自主練は練習後に30分ほど時間を取っています。19時には全体練習を終えて自主練習とし、19時半には片付けをして下校するという具合です。
自主練習は気楽に取り組めるので身につきます。アメリカンフットボールをおもしろいと思ってもらえるのも、そういう時間があるからでないかと思っています。最近は、朝や昼に時間を見つけて自主練をする生徒もいます」(小林先生)
ICT教育に力を入れる学校が2015年4月から1人1台、iPadを導入すると、「練習成果の向上につながった」と言います。
「もともと、スカウティング(試合の映像をもとにデータ解析をすること)用に試合の映像を撮っていました。練習も含めてストックしている映像がたくさんあります。生徒がiPadを持つことにより、それをいつでも見ることができるようになりました」(小林先生)
「帰りの電車の中で自分のプレーを見て、その日のうちに確認や反省ができます。先輩のプレーを見て比較することができます。映像を見て話し合い、生徒から『こんな練習をさせてほしい』と要望が出ることも珍しくありません」(東松先生)
「実際にプレーする時の感覚と、画像を見た時の感覚が一致してくると、試合で臨機応変に対応できるようになります。その場で起きていることに対して、どのように対応するかを生徒同士で話し合い、スピーディーに正確な答えを出せるというのは大きな力になります。体力や体格はもともと持っているものがあるので、追いつくことができないこともあります。そこは他校より劣っていても、別の方法で勝ることができるのがアメリカンフットボールのおもしろいところだと思います」(小林先生)
こうして育った9割以上の部員が、アメリカンフットボール部のある大学に進学し、競技を続けています。
「大学進学については高1から意識をもたせて、日々の授業を大切にするよう指導しています。その結果、スポーツ推薦だけでなく、指定校推薦や AO 入試など、さまざまな方法で志望校を突破しています」(小林先生)
東松先生は「僕らがやっている、試合準備⇒試合⇒振り返りや修正⇒次の試合準備……という流れは、事前学習⇒実施⇒事後学習⇒次の事前学習……という学習の流れと同じ。アメリカンフットボールを通して身につけた方法は学習にも役立つ」と話します。
世代別日本代表として活躍する選手も多く、2018年度はU19に6人、その上のカテゴリー(U21)に1人が選出されました。この先、海外の大学で活躍する生徒が出るかもしれません。
日本一を目指すことに意義がある
クリスマスボウル(12月24日)で3連覇を目指す高校生に続き、中学生もフラッグフットボール東日本大会で優勝し、NFL FLAG FiNAL(全国大会/12月24日)に出場します。LOTUSにとって、2018年は兄弟揃って日本一に挑む熱いクリスマスになります。
「高3は、高1の春の関東大会決勝で敗れて以来、公式戦で負けていません。高2、高1は負け知らずですが、勝ち続けるということは簡単なことではありません。生徒には常々『先輩たち以上のことをやらなければ3連覇は難しい。プラス20%を目指せ』と話して来ました。クリスマスボウルでは、3連覇という難題に挑む機会をつくってくれた先輩たちに感謝して、力いっぱい戦ってほしいと思っています」(小林先生)
東松先生と二人三脚で取り組んできたことが実り、アメリカンフットボールの強豪校となった今も、「僕の一番の自慢は、部員が佼成学園を大好きでいてくれること」と話す小林先生。学校が指定する強化部だからこそ、原点をしっかり見つめて活動する姿に心を打たれました。
小林先生に聞いた佼成学園らしさとは
・生徒の印象は、「純粋」「素直」「ませてない」「すれてない」
・学校の雰囲気は穏やかで仲がいいです。
・教員が生徒をかわいがるので、生徒たちも信頼してくれて、お互いに認め合う関係ができていると思います。
・保護者の方がよくおっしゃるのは「生徒たちが犠牲にならない学校だね」ということ。生徒の気持ちを尊重し地道に教育活動に取り組んでいます。
・進学指導でも生徒の第一志望を応援しています。