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「ドラえもん」の漫画も登場 東京都市大等々力中9回目のアクティブラーニング型入試で問われた力とは

2/4(火)に行われた東京都市大等々力中のアクティブラーニング型入試の様子をお伝えします。

2025年で導入9年目となる、東京都市大等々力中学校のアクティブラーニング型入試。その入試で入学した生徒の追跡調査を行い、さらにブラッシュアップされた内容で実施されました。その内容とは?〈取材・撮影・文/教育ジャーナリスト マザークエスト 代表 中曽根陽子〉

ドラえもんの漫画が題材。答えが一つではない課題について考える

2月4日(火)、東京都市大等々力中学(東京都世田谷区)では、本年度中学入試の最終日。この日は、英語1教科入試とアクティブラーニング型入試が行われました。今回は、アクティブラーニング型入試(以下AL型入試)の様子を取材しました。

2017年から始まった東京都市大等々力中学のAL型入試。9回目となる今回は67名が試験に挑みました。

入試は検査Ⅰ個人ワーク(30分間)と検査Ⅱ-①のグループワーク(70分間)そして、検査Ⅱ-②個人ワーク(15分間)の3段階で行われます。5階のホールに集まった受験生は、受付順にビブス(ベスト)を身につけて着席。全体の流れの説明の後、9時から検査Ⅰの個人ワークに臨みました。

今年の問題は、資料として提示された「ドラえもん」の漫画を読んで、そこからどのようなことを学んだかを自由に書くというもの。採点者にとって分かりやすいように工夫することという注意書きが添えられています。

子どもたちにとって馴染みのあるドラえもんですが、答えは一つではなく、そのストーリーから何を学び取ったのか、そしてそれを採点者に分かりやすく表現するという課題に黙々と取り組む受験生の後ろ姿は真剣そのものです。

時間ギリギリまで問題に取り組む受験生たちは、終了の合図とともに鉛筆を置き、緊張した面持ちで次の指示を待ちます。

試験問題が回収されると、検査Ⅱのグループワークが行われる会場への誘導が始まりました。誘導を担当するのは在校生ですが、全員が、このAL型入試で入学した生徒たちだそうです。中学1年生もいたそうですが、1年前に同じ入試を受けた先輩として、一生懸命役割を果たしている姿に成長を感じました。

案内に従って荷物を持って移動する受験生の様子を後ろから見ていて感心したのは、みんな椅子を元の位置に戻してからその場を離れていたこと。細かいことですが、きちんとしている受験生が多いなという印象でした。

【写真】入試の手伝いをする在校生はかつてAL型入試で入学

抽象的なお題から具体を導き出す高度な課題にくらいつく受験生

検査Ⅱのグループワークは、4階と3階の10教室に、1教室6〜7名が振り分けられて入室。試験が始まるまでの間に誰ともなく自己紹介を始め、談笑する姿が複数の教室で見られました。

通常、ファシリテーターが場を暖め緊張をほぐすために行うアイスブレイクを自らやっている受験生の姿に、廊下で見ていた先生も「コミュニケーション力が高いな」と感心していました。

今の子どもたちは、こういうワークショップに慣れているのでしょうか。

検査Ⅱは「公」というテーマについて、グループのメンバーと力を合わせて劇の脚本を作り、紙人形を使って幼稚園児や保育園時に見せる劇を演じるというもの。「公」というつかみどころのない言葉をどう解釈して、そこから何を伝えるのかを話し合い、グループとしての考えを明確にして、劇の台本に落とし込み、配役を決めて実演するという一連の作業。なかなか難易度が高いと思います。様子を見ていると、積極的に考えを話す子、相槌を打ちながらメモをする子、笑いをとりながらアイデアを出す子。それぞれに素の姿が見えてくるようです。

その様子を、教室内の3名と廊下で全体を見渡す先生が見守ります。

答えが一つではない、抽象的な概念を子供達がどんなストーリーに落とし込むのか、果たして時間内にまとまるのかなと思いながら見ていると、ここでも受験生は果敢に取り組む姿がありました。当然、教室によって熱量は違いますが、40分が経過した頃には、ストーリーが固まり始め、配役を決めて紙人形に模様や文字を書きこむ様子が見られました。

終了10分前には、舞台を想定した机に移動して劇を演じます。見ていると、小さい子にも馴染みのある昔話や運動会などを題材にして、公共心や道徳的な行動、勝ち負けではない価値などについて表現しているチームが多かった印象。小学生にとっての「公」に対する解釈が垣間見られて、興味深かったです。

発表が終わると、再び5階のホールに移動して、検査Ⅱ-②個人ワークに取り組みます。ここでの問題は、グループワークを振り返り、自分自身の行動やグループとしてどのように取り組んだかをまとめるというものでした。

15分という時間で70分の作業を振り返り、内省してまとめるという作業は大人でも簡単なことではないと思いますが、開始の合図とともに、会場には鉛筆を走らせる音だけが響いていました。終了の合図とともに鉛筆を置く受験生。

そして、最後にアンケートに答えて入試は終了です。

問われたのはメタ認知能力

今回の入試結果はすでに同校のホームページに出ていますが、アクティブラーニング型入試には、80名が志願して67名が受験。S特選合格者は該当無し、特選合格者は8名。倍率は8.38倍。募集定員は20名ですが、求める基準に達しなければ合格者数は定員を下回る可能性があると事前に言われていた通り、なかなかタフな入試となりました。

そこで今回の入試の意図や求める力について、AL入試担当チームの先生に伺いました。

今年度の問題作成には社会科2名 英語科1名 理科1名 数学科1名 芸術科1名の計6名の教員(教員歴5年~15年程度の30代から40代)がチームを作り、1年間に渡り約40時間かけて取り組んだそうです。そして、出題の意図は「メタ認知」。その理由は、以下のとおりです。

AL入試担当チームリーダーの岩城先生はこう話してくれました。



これまでは、例年、「喋れる」だけではなく、「聴ける」ということを重視して問題作成を行ってきました。アクティブラーニング型入試と銘打っている以上、コミュニケーション能力に長けている生徒はもちろん評価していますが、「喋れる」「聴ける」という能力に長けている生徒全員が入学後に活躍をしてくれているわけではありません。そこで、ここまで8年間行ってきたAL入試入学生を委員会にて分析した結果、大きく活躍している生徒の共通点として、「メタ認知」能力や思考操作の能力が高いのではないか、という仮説にたどり着いたのです。

そこで、今年度の出題は、具体的な物語から抽象的な学びを導き出す検査Ⅰと、抽象的なテーマから具体的な物語を作成させる検査Ⅱとを用意。さらに検査Ⅱの後半では、自らのグループの活動を後から振り返らせることによって「自分自身や自分のグループに対する客観的な視点」をもてているかどうかを問いました。検査Ⅰと検査Ⅱで逆方向の思考のプロセスを経験させることで、受験生の表面的な活動のみならず、内面的な思考の活動をも測ろうとしました。

人物像としては、通常よりも高いレベルでの「喋れる」「聴ける」の能力に加え、与えられたテーマ、状況に対して柔軟な発想と思考の転換ができる受験生を求めており、より具体的には、「クラスをまとめられる生徒」という生徒像に加え、「問題(教科ではない)に対して多面的なアプローチをできる生徒を取りたいと考えていました。



ということで、なかなかタフな結果になった理由も分かりました。

準備できないAL型入試「小学校でよく学びよく遊ぶ」が大事 ...

私は、2019年にも同校のAL型入試を取材しましたが、その時の入試は「知識構成型ジグゾー法」という手法を使い、さまざまな資料を使ってグループを変えながら話し合うというものでした。その後コロナ禍でグループワークができない状況になり、自己アピール型入試が2年続き、2023年からグループワークが復活。昨年の検査Ⅰは動画を見てから課題に沿って自分の考えをまとめるというものでしたが、今年度は上記の通り、形式を変更して実施されました。

このように、同じAL型入試でも、その時々で求める力は、担当の先生の考え、そして時代背景も含めて変化していきます。しかし、これだけの準備を重ねて行われる入試ですから、学校としてのメッセージが込められているのは確かです。

そういう意味では、今回のテーマはnoblesse oblige(ノブレス・オブリージュ)という本校の教育理念がベースにあるのだと感じました。

【写真】検査Ⅱ-② 個人ワーク 最後の課題に取り組む受験生

最後に、こうした入試にどんな準備をすればいいのか質問をしてみました。



例年、この入試に向けてよく準備をしてくださっている受験生を何人か見かけます。ただ、AL入試検討委員会全員一致の意見として、「きれいに対策できる入試であればそれはAL入試ではない」と考えています。もちろん、日ごろから様々なニュースを見る、身近な人と議論を交わす、などは対策と呼べるかもしれません。しかし、そういった”対策”をしてきた小学生だけでなく、小学校生活を日々精一杯楽しみ、そこで生まれる様々な疑問、トラブル、楽しいこと、充実していたことを自分自身の人生経験としてしっかりと胸に刻んでいける小学生にこそ、この入試で本校に入学して頂きたい。そういう意味では、本校のAL入試の対策は、「小学校で良く学び、よく遊ぶ」なのかもしれません。様々なことにチャレンジをし、たくさんの成功と失敗を繰り返し、そこから学んでいける。日常に山ほど娯楽があふれている現代だからこそ、デジタルではない、アナログな日常を大事にして欲しいと思います。



いかがでしたか? 来年はどのような内容になるのか分かりませんが。こうした多様な入試をすることで、ペーパーテストでは測れない力を持つ生徒が入学できるチャンスが広がることは確かでしょう。

中学受験に風穴をあける新タイプ入試。我こそはと思う受験生はぜひ挑戦してみてはいかがでしょう。

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