思考力入試の先駆け!聖学院中のものづくり思考力入試レポート
すでに首都圏の私立中約300校のうち約170校が適性検査型入試や英語入試をはじめとした「新タイプ入試」を導入している中学入試の多様化が目立つなか、それら新タイプ入試のなかでも、まだ少数派の思考力入試の先駆けともいえるのが、レゴブロックを使った聖学院中学校の「ものづくり思考力入試」です。2024年2月1日午後に行われたその入試の取材レポートをご紹介します。〈取材・撮影・文/北 一成〉
聖学院中学校の多様な入試
聖学院中学校〈東京、北区。男子校〉では、首都圏の私立中学校のなかでも最も早い時期から思考力入試を導入し、現在は、この「ものづくり思考力入試」に加えて「デザイン思考力入試」と「グローバル思考力特待入試」という3種類の思考力入試を実施しています。
さらに昨年2023年からは、「オンリーワン表現力入試」というユニークな入試も加え、それ以前から行ってきた英語入試や、従来型の4科・2科入試、帰国生入試などを加えると、かなり多くの入試を行い、それぞれ違った評価軸で受験生の良いところに光を当ててくれています。
ものづくり思考力入試は今年も体育館で実施
今春2024年2月1日pmに行われた「ものづくり思考力入試」には、募集人数15名のところに57名が出願。そのうち欠席はわずか1名の56名が、この日の入試に訪れました。
この「ものづくり思考力入試」志願者が、まだこれほど多くない年には、体育館ではなく多目的ルームで実施していましたが、聖学院中のユニークな3種類の思考力入試の認知度が高まり、入試全体の人気が高まるとともに、校舎内の試験会場では収まりきらなくなりました。
そして、コロナ禍が重なったこともあり、2021年入試からは続けてこの体育館で実施する形になっています。
56名の「ものづくり思考力入試」受験生が試験開始を待つ
聖学院中「ものづくり思考力入試」は、「思考力」と「協働振り返り」で15時から試験開始です。
この日、2月1日(木)午後に行われた聖学院中の入試(第2回「アドバンスト入試」と「ものづくり思考力入試」)の受験生集合時間は14時30分。いった保護者と一緒に講堂(チャペル)に集まった受験生は、定刻の14時30分になると、それぞれの試験会場にまとまって移動します。
「ものづくり思考力入試」の受験生の後を追って体育館に向かうと、そこには60数名分の受験生用のテーブルと椅子が整然と並べられ、四隅にはストーブも炊かれていて、館内は暖かく受験生を迎える用意が整えられていました。
それでも、2月の午後はまだ外気は冷えるのと、最初の「思考力」試験は80分間という長丁場ということもあり、試験開始の15時の少し前にもう一度「トイレに行きたい人は、いま案内します」とアナウンスされ、体育館後方のドアから、数名の受験生が先生に案内されて行きました。
受験生のテーブルには必要なものがセット
この「ものづくり思考力入試」は、まず、レゴブロックを使って、出されたお題について自分のアイディアで作品をつくり、その考え方や理由を記述させる「思考力」試験が80分間で行われます。
受験生が1人で1台に着席する長テーブルには、この80分間に使うレゴブロックのセットと、つくった作品を固定する台座、受験生へのアンケートが用意されていました。
「思考力」試験開始時に配られた「2024年度ものづくり思考力入試」の問題用紙と、「脱プラスチック」関連の話題(①~④)に加え、「⑤環境に配慮した過去の事例」、「⑥新しいものが生まれるとき」、「⑦便利を手放すことはできない!?」、「⑧ものごとの関係性・複雑性」と題した見出しの並ぶ、A3判用紙の表裏にカラー印刷された二つ折りの資料集を見ながら、受験生は問いに答えつつ、自分のアイディアをレゴブロックで作品化していきます。
1から6まで「問い」のうち4題は、70字~150字の記述で回答させる形式です。
ものごとの「つながり(関係性・複雑性)」に目を向けよう!
今回の「ものづくり思考力入試」の問題作成にあたった社会科の伊藤航大先生に少しだけを聞くと「今回のテーマは脱プラスチックを中心とした環境問題でしたが、これらの問いと資料を通して、ものごとの『つながり』に目を向けてほしい」ということでした。
これが、脱プラスチックという、この先に自分だちが生きる地球環境を考えていく必要のある小学生にとっても身近なテーマを通して、環境問題全体と、そのなかでの様々なつながり(関係性。複雑性)にも目を向けて、最適解を考えていく姿勢を身に着けてほしいという、聖学院の教育のコンセプトを反映したものなのでしょう。
こうしたテーマで「思考力」試験を受け、自分の手で作品をつくり、また新たな気づきを作品と自分の考え方に盛り込んで、さらに考えを深めていくという、まさに「聖学院での授業」のひとコマを、この場で経験できる入試と考えてもよいはずです。
レゴ作品の上手い下手が問われる訳ではない
同校の公式Webサイトの「中学入試」コーナーの「2024年度募集要項概要・2024年度入試結果のページで後に確認したところ、今回の「ものづくり思考力入試」の結果は、受験生のうち1名がアドバンスト合格、20名がレギュラー合格ということでした。
ということは、実質倍率(=実受験者数÷合格者数)は「2.7倍」となり、決して易しい入試ではないことも分かります。それでも、評価軸は、従来の「4科・2科入試」での教科型の筆記試験とは違った観点で、受験生のまさに「思考力」を問うものです。
小学生にとっての身近な問題から、自分たちが暮らす社会や地球環境の問題まで関心の幅を広げて、自分なりの考えでアイディアを創出し、それを「第2の脳」とも言われる自分の手を使って作品をつくる過程で、自身の考えたことも言語化しやすくなり、それを記述欄の回答に反映させる、その一連の力を問うものなのでしょう。
決して、レゴブロックでつくった作品の「上手い下手」が問われる訳ではありません。
[問]と資料を見て自分の考えを記述し、レゴで作品化
試験が開始されると、受験生が一斉に問題用紙を開く音が体育館に響きました。
最初の[問1]は、「最近自分がやったことの中で楽しかったことは何ですか? レゴで作品をひとつ作り、100字程度で説明をしてください」という問いで、140字分のマス目の記述解答欄の上には「作品は小さなプレートの上に作ること」と注釈があります。
先ほどお話を伺った社会科の伊藤航大先生先生によると、「これは、この思考力入試のベースになっているLEGOⓇSERIOUS PLAYというメソッドの『アイスブレイク(導入)』にあたるものです」とのこと。
これでアタマと手を柔らかくして、いよいよ[問2]からが環境問題に関した本題に入っていきます。
具体的な[問い]の一部は、追って聖学院の公式Webサイトや学校説明会などで公表されると思いますので、そちらをご覧いただければと思います。
そして、[問2]から「問6」まで、環境問題についての問いが並び、一緒に配布された資料を見ながら、ほとんど記述の解答をしつつ、[問6]では、大きなプレートのうえにレゴ作品を作っていきます。ここには「自由な発想でかまいません」という注釈も添えられています。
問題と資料は、徐々に思考を深めていく導入~手引きの役割?
もちろん、小学生に求める考えやアイディアですので、必ずしも実現可能なものでないといけない訳でもありません。「自由な発想でかまいません」と付記されているのは、そうした意図も込められているということなのでしょう。
問題用紙と資料に向き合うと、すぐにレゴブロックをいくつか手に取ってプレート上に作品の一部をつくり始める受験生や、まずはじっくり問題と資料を呼び込んでから初めて手を動かしてレゴを組み立て始める受験生など、やり方の手順は様々なようです。
配られている問題用紙と資料は、アイスブレイク的な[問1]から、最後に選択肢で「あなたの想像する10年後の社会について、もっとも近いものを」選ばせる[問6]まで、いずれも導入的なストーリーで、環境問題の「つながり」を考え、そしてさらに思考を深めていくある種の手引きとなっているように感じました。
こうした学びが、入学後の聖学院中高の探求学習であり、同時にグローバル教育でもあり、そして数多い学校外での体験学習や行動にもつながるPBL(問題解決学習)の入り口になっていくのかもしれません。
グループでの「協働振り返り」は聖学院の思考力入試ならでは!
15:00~16:20まで80分間の「思考力」試験が終わると、10分間の休憩を挟んで、16:30~17:00までの30分間で、次の「協働振り返り」が行われます。
4~5名ずつグループになり、各グループにファシリテーター役の先生がついての「協働振り返り」では、各受験生が自身の作品を指差しながら自分のアイディアを説明し、グループの仲間からの質問や意見を聞くことで、自ら気づきを得ることができます。
聖学院中学校が実施している3種類の「思考力入試」(ものづくり思考力入試・デザイン思考力入試・グローバル特待思考力入試)と、昨年2023年から新設された「オンリーワン表現力入試」には、いずれもこの「協働振り返り」の時間が設けられているところが、聖学院の教育の真骨頂につながるものでもあります。
他者の意見を聞くことで新たな気づきを得て、また他者のプレゼンの良いところを認めて受け入れることで、多様な人々と協働して、より良い解決策(最適解)を導き出していくような、そうした思考力を育むための入試と考えて良いでしょう。
思考力入試はこんな方にオススメです!
こうして80分間の「思考力」試験と、休憩後の30分間の「協働振り返り」の時間が終わると、体育館内に何か「ホッとした」かのような空気が流れます。
与えられた[問]と資料を見て考えを巡らし、楽しみながらレゴブロックでの作品を作ってきた受験生が多かったと思いますが、それでも、これだけ長時間にわたって、作品作りに加えて、五つの[問]の記述解答をしてきた受験生は、その間かなりの集中力を発揮していた様子ですので、きっと疲れも感じたのかもしれません。
しかし、多くの受験生の表情には、何か「やり切った」充実感さえ表れていたように感じました。
聖学院中学校の公式Webサイトに掲載されている「思考力入試ガイド」には、思考力入試のコンセプトや、これを設計しているLEGOⓇSERIOUS PLAYのファシリテーター資格を持つ同校の10名の先生方、それぞれの入試の評価軸などの詳しい説明に加え、「思考力入試はこんな方にオススメです!」いうメッセージも紹介されていますので、関心のある方は、ぜひそちらを参照してご覧いただきたいと思います。