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受験情報ブログ

かえつ有明中学校の2月1日「思考力特待入試」取材レポート 

かえつ有明中学校で2月1日に行われた「思考力特待入試」の様子をレポートします。

2023年2月1日に行われた「思考力特待入試」は、昨年までの思考力入試をアップグレードし、「個人探究」という名称とともに生まれ変わりました。これにより、主体性や協働性を評価する2月3日の「アクティブラーニング思考力特待入試」と好対照をなす特徴が明確に打ち出されることとなりました。その「思考力特待入試」の様子をレポートします。〈取材・撮影・文/(株)スタディーエクステンション代表・鈴木裕之〉<...

「個人探究」という名称で生まれ変わった「思考力特待入試」

2月1日の朝、受験生を迎える試験会場は静謐な雰囲気に包まれています。2023年度の「思考力特待入試」は、昨年までの思考力入試をアップグレードし、「個人探究」という名称とともに生まれ変わりました。これにより、主体性や協働性を評価する2月3日の「アクティブラーニング思考力特待入試」と好対照をなす特徴が明確に打ち出されることとなりました。

今回の思考力特待入試の入試要項には、次のようなタイムテーブルが記載されています。

アイスブレイク 8:40~

個人探究Ⅰ  9:00~ 10:00(60分)

個人探究Ⅱ 10:10~ 11:10(60分)

ふりかえり 11:10~ 11:30(20分)

アイスブレイクとふりかえりを含めると3時間近くにも及ぶ試験時間です。夏以降に何度か体験講座が実施されてきたとはいえ、この未知なる入試に挑む受験生はとても勇気のある子どもたちでしょう。同時に、かえつ有明の学びに魅せられ、どうしてもかえつで学びたいという強い希望を抱いている子どもたちでもあるはずです。というのも、通常の試験対策では対応できない思考力入試を2月1日に受験しようと選択してきたわけですし、また、この試験はかえつ有明に入学した後に経験する学びの入り口でもあるからです。

さて、前置きはこれくらいにして、肝心の入試の中身をお伝えしていくことにしましょう。

アイスブレイク

アイスブレイクとは、緊張を解きほぐすための時間です。

「アクティブラーニング特待入試」では体をほぐし、グループメンバーや参加者同士の安心安全を確認するような働きがありますが、「思考力特待入試」の個人探究においてはむしろ、学びに向かうマインドを解きほぐし、柔軟な思考を可能にするための時間として設置されているようでした。

暗号解読や論理パズルといった論理的思考を必要とする問題が用意されていましたが、これは全てゲームとしての問題であり、入試の得点には関係がないことが伝えられます。このパートだけでもユニークな思考力を試す問題になっていて、私などは「せっかくの良問がもったいない」と思ってしまったのですが、この後にこの入試の大切なエッセンスが伝えられました。

ファシリテーターは田中理紗先生。サイエンス科とプロジェクト科を牽引する先生の一人です。進行役を務めながら受験生にこの入試の性質を丁寧に説明していきます。

キーワードは「自分なりの問いに出会うこと」。これはかえつ有明の学びの目標で、「入学してから6年間かけて考えていくことを、この入試では3時間にぎゅっと圧縮して体験するものになっています」と明快な指針を与えてくれました。

そして、先ほどのアイスブレイクの問題のように正解が一つしかない問いと、自分なりの答えがあり得る問いについて説明し、この思考力入試が後者のタイプであることを確認します。

論理パズルや暗号解読問題が解けた受験生にとっては、このパートが得点には含まれないと知って肩すかしを食ったと感じたかもしれません。しかし、探究に必要なのは、答えが用意された問いなのではなく、自分が本当に不思議だと思うこと、あるいは追究したいと感じる物事をしっかりと問い続けることなのです。この入試にファシリテーションが必要な理由がとてもよくわかりました。

受験生はともすると、無意識のうちに自分の知識をゴールとした探究の問いを設定してしまいがちです。それは調べる前から答えが分かっている問いで、「予定調和型」の問いと言ってもよいかもしれません。かえつ有明の思考力入試では、知識やロジカルシンキングだけを見るわけではないですよというメッセージをかなり丁寧にアイスブレイクの中で伝えていたのです。

個人探究Ⅰ

個人探究Ⅰのパートでは、詩を読んで答える問題が最初に配置されていました。

ここは国語の問題のように見えますが、やはり設問を見ると、詩について「気づいたこと」を書きなさいとなっていて、どうやら「唯一の正解」を求めているわけではなさそうです。気づいたことですから、ある意味何でも正解になるわけです。その気づいたことを書いた後に、同じ詩について、評論家が書いた鑑賞文を読み、自分の解答との違いについて書かせます。

ここも自分の解答との違いを書けば良いという指示になっていて、前問で自分が解答したことを直さなくてよいと伝えられました。つまり、あたかも「正解」があって自分の解答がそこに到達していないという感覚を持たせるのではなく、「気づきの違いに気づかせる」という問いの構造になっているのです。

詩も、その鑑賞文の内容も「みんなちがってみんないい」と、多様性を肯定するものですから、まさに違いは結構なことだと受験生は勇気をもらえたはずです。ところが、次に出てくる論説文では多様性を肯定するようなあり方は「相対主義」につながるので危険だと述べています。ここでどうやら出題の意図が見えてきました。意見の違いというのは、どのような視点の違いから生まれるのかということに考えを巡らせることが求められているようです。どんな場合に多様性が肯定され、どんな立場の人やどのような状況において多様性が推奨されないかを切り分けて考えてみようということだったのです。

受験生はそれぞれの立場の主張をとらえながら、意見の違いの背後に目を向けることが要求されているようです。

その後、多くの人が賛成できそうなことや常識が挙げられた文がいくつか提示されます。その「常識」を疑い、その考えが賛成できないような場合を考えてみるという「視点をずらす」エクササイズが続き、いったん10分間の休憩。後半戦に備えます。

ここまでで必要となる力は、与えられた情報を自分なりに吟味し、それを比較しながら、ある主張や意見について複眼的に考えるといったことだと私なりに理解しました。

個人探究Ⅱ

休憩の後はいよいよ「自分なりの問い作り」の開始です。まずは素朴な疑問を書き込むことから始まります。そこからかえつ有明独自の「問い」の生成・精錬シートが登場します。このシートによって「漠然とした問い」を「探究に向かうための問い」に変形するのです。受験生がそれを意識しているわけではないでしょうが、私たちが日常的にリサーチする際に行っている問いの変形をこのシートを通じて行わせているのです。このようなツールをサイエンス科やプロジェクト科では日常的に活用しているのでしょう。さすが、探究的な学びをもう20年にも及んで実践している経験値がこういうところに表れています。

自分なりの問いはただし、暫定的なものです。この後探究を進める上でいくらでも「問い」を変えて良いという指示が出されているため、子どもたちは鉛筆を握りしめ、その問いを探究してみたい理由や、さらに、探究を進める上で課題となりそうな想定される困難などをどんどん書いていきます。

この後、受験生は自分の探究を進めるに当たって参考となりそうな本を見つけにドルフィンの中を探索します。この頃には自分なりの問いが頭の中を巡っていて、一種の「フロー状態」、試験であることをすでに忘れているかのようです。

与えられたドルフィン内のエリア図をもとに効率よく本を探そうとする受験生もいれば、直感を頼りに書棚に並んだ書籍の背表紙を目で追いかける受験生もいます。一方で、本を探すよりも自分の問いと課題となりそうなことを机の上で練っている受験生もいます。進め方は自分のタイミングで良いのです。

本のタイトルをメモし、さらにフィールドワークや専門家の意見を聞く必要があるかどうかをワークシートに従って考えてみます。

最後に、協力者を説得できるよう、自分の探究のポイントや目的を説明するというところまでが個人探究Ⅱのパートになっています。

ふりかえり

ここは探究型の学びについて気づいたことを書くパートです。

探究でワクワクした思考をクールダウンし、内側で燃えている情熱をいったん脇に置いておきます。そしてこのような気づきを中心とした経験がかえつ有明の学びであると感じた受験生はどうしても入学したいと思うことでしょう。これは試験というより探究型授業そのものです。

かえつに入学した後には、ここで得た探究の方向性が実際のリサーチとなり、さらにレポートや論文、プレゼンテーションという表現活動に繋がっていくのです。思考力入試では、その入り口の「リサーチクエスチョン=探究のための問い」を設定するところまでが試されているということが分かります。

このことはとても重要です。これまでのテストは、アウトプットを評価することが主要な目的でした。その場合、プレゼンテーションや小論文などの完成度に目がいきます。当然試験対策などの指導もそこに注目していくわけですが、大切なのは、本人の内側にどのような好奇心や強い思いが生まれているかということでしょう。そういう意味で思考力入試の個人探究は内側に起こっている変化がワークシートに表れてくる、そのプロセスを評価しているように思われます。

これがいかに画期的なことであるかというのは、入試問題と授業の関係を考えている方にはすぐに理解されるのではないでしょうか。授業で良い質問をする生徒をいかに入試問題で評価するかというのはそれほど難しいことなのです。この思考力入試の個人探究という入試問題は、かえつ有明の様々な教科の先生方が協働して作成されたと聞いています。探究活動のエッセンスがこれほど詰まった入試というのは、これまで見たことがありません。もちろん「問い」を生成・精錬していく際には、対話が必要であったり、多くの知識を習得していくことも必要でしょう。そのことは百も承知の上で、公平性を担保しながら、探究の本質を入試問題という形にして提示したのは、中学入試における金字塔と言えるでしょう。かつてAL入試を世に問うたかえつ有明がまた新たな1ページを切り開いたのです。