12歳の男子が内なる力を発揮する、聖学院の「ものづくり思考力入試」
聖学院では昨年に引き続き、2020年入試でも「ものづくり思考力入試」(2月1日午後)、「M型思考力入試」(2月2日午後)、「難関思考力入試」(2月4日午前)3パターンの思考力入試が行われました。今回、2月1日午後に行われた、聖学院の「ものづくり思考力入試」を取材。12歳の男子が内なる可能性を発揮する瞬間を目撃しました。(取材・撮影・文 / 市川理香)
聖学院の思考力入試
思考力入試の先鞭をつけたのは、まちがいなく聖学院でしょう。ブラッシュアップを続け、2020年入試では昨年に引き続き、「ものづくり思考力入試」(2月1日午後)、「M型思考力入試」(2月2日午後)、「難関思考力入試」(2月4日午前)の3パターンが行われました。聖学院の思考力入試のなかでも、「ものづくりが好きな児童向け」なのが、名前が示す通り、レゴブロックを使った「ものづくり思考力入試」です。与えられた課題について、レゴブロックで表現、それを文章に落とし込んで説明するというもので、従来の入試のように机に座って解答用紙の枠に答えを書くだけでなく、“動き”のある入試です。
今年の出願は、試験会場を2会場に増設する寸前の40名。例年、受験率が高く、今年は39名が受験しました。
試験会場はフューチャーセンター
試験会場のフューチャーセンターに入ると、部屋は左右に大きく分けられ、真ん中のゾーンには、レゴブロックが入ったバットが置かれています。10個のバットには、形や数が同じ数だけ用意し、条件を等しくしています。床には、境界線を示すテープが貼られていますが、これは使用するバットを座席ごとに指定するためのライン。ブロックを取るのも返すのも、座席ごとに指定されたバットから使うルールです。思考力セミナー(ワークショップ)を体験している受験生も多く、控室から試験会場に入った瞬間から視線はレゴブロックへ。
試験会場で受験生を迎える21人の監督兼採点官の先生は、一人当たり12人の受験生を見るようフォーメーションが組まれています。これまで実施してきた思考力セミナーでの経験記録、また中1生での入試シミュレーションなど事前準備はきめ細かく、迎えた入試当日も隙のない運営であることをうかがわせます。
試験80分+休憩10分+共有10分
試験時間は80分。設問に対して、自分なりの答えをブロックで表現し、その作品について文章を書く、という入試。レゴブロックで作る課題は2つあります。一つの作品を作ることに没頭するあまり作文の時間が足りなくなる、2つ目の課題に取り組む時間が少なくなるといったことのないように時間配分する力も、この入試では必要になってきます。
試験開始の合図とともに問題用紙を開く受験生。何をレゴで作るのか、一斉に頭、心、手が動き始めました。
問1「ついうっかりやってしまう」失敗を、レゴを使って表現する
レゴブロックを一度にたくさん取ってお皿に入れる受験生、バットの中をじっと見つめて厳選しながらブロックを集める受験生、満足行くまでレゴブロックと席を何度も行ったり来たりする受験生。それぞれの方法で、自分の世界観を表現すべく一心不乱に作品作りに取り組みます。他の受験生や周囲の大人(監督)の姿は、まるで目に入らないかのよう。
作品について説明する作文は、「いつ、どこで、誰に、何を」を入れて150字程度で書きます。「自分のうっかり」を、一旦ブロックで形にし、それを見ながら文章に置き換えていくので、作文が苦手な受験生も言葉にしやすくなっています。問いへの答えにも、形にも、正解はありません。また毎年、問1は自分のことなので、比較的、取り組みやすくなっています。
問2 文章と資料を読んで、問いに答える
気候変動に関する文章と、2100年の天気予報図(札幌40.5度、東京43.3度、那覇38.5度など各地の最高気温が記載されている)、気候にかかわる9つの資料をみて、気になった資料を挙げて、なぜ気になったのか理由を記入します。文章読解や、グラフや図表から情報を読み取る基本的な力はもちろん、9つある資料の関連性、社会(今回はSDGsのうち気候変動)への関心、世界の国々の動きなど、実は知識と教養も求めていることが感じられます。
問3 日本の気候変動に対しての取り組みを考える
問3は、持続可能な社会にむけて、日本の気候変動に対しての具体的な取り組みを考えます。問1と同様に、まずレゴを使って表現。そしてその作品を150字で文章に移し替えていきます。文章から課題を発見し、解決するための自分のアイデアをレゴで形にすること、文章で表現すること、ここでの一連の流れには、知識も必要になってきます。
「ものづくり思考力入試」の評価のポイントは、「課題を発見する力」「課題解決に向けた発想力」「アイデアを形や文章にする力」としています。思いついた自分なりの工夫を形にできる楽しさや、思うような形にならない苦労を感じながら、さらに形を作文にしていくので、80分はあっという間に経ってしまいます。試験時間が少なくなってくると、「まだ問4がある」と声をかけたくなる受験生の姿もチラホラ。問4に取り掛かっているかをチェックしさり気なく声をかける配慮もありがたく、この入試形態ならではでしょう。
問4 原子力、天然ガス、石油、石炭がなくなったとしたら、どう...
最後の問題は、レゴを使いません。つまり形を作って書くという段階を踏まずに、問2や問3に取り組む中で考えたことや知識を活かして、自分の意見をまとめ上げることを求められる問題です。周到に仕組まれた思考と表現の繰り返しが、問4に至ってテコのように受験生の思考をはばたかせ、問題解決の案を書き始める姿は圧巻です。
共有 グループで意見を共有。そして修正を考える
休憩後、座席で分けられた小さなグループ毎に、自分の作品について、他の受験生に言葉で説明します。その後、他人の作品の着眼点や発想を聞いて気づいたことワークシートに書くのが、「共有」と呼ばれる最後の時間。人の意見に耳を傾けて、自分の意見と比べたり、なぜそう思ったのかを受け止め改良したりする姿勢が問われます。ワークシートの内容は、採点対象となります。
このような答えのない課題、作品をどのように採点するのでしょうか。
受験生退場後、試験会場は採点会場に早変わり。担当する受験生の作品と解答用紙を見ながらの採点が進みます。今回の「ものづくり思考力入試」では、採点のルーブリックが13項目5段階で設けられていて、受験生一人に対して採点官が6人で評価しているため、公平性を担保しています。一人の受験生を複数の目でみるので、採点リーダーの採点を共有し、迷いや疑問を解消し、基準が大きくぶれないようにする時間も設けられていました。試験中の観察、作品や作文の評価まで採点者側に大きな労力とスキルが求められるのは否めません。それでも聖学院で思考力入試が続いてきたのは、教科中心の従来型の入試だけでは測れない力を、受験生が発揮できる入試だからでしょう。
思考力入試は受験生の可能性を見つける入試であるとの思いを強くした取材でした。
聖学院の「思考力セミナー」では、実際にレゴブロックを使い、入試本番に近い体験ができます。あわせて学校説明会などにも足を運んでみられることをお勧めします。