東洋大学京北の「哲学教育」思考・表現力入試が2/4に行われました。
東洋大学京北の「哲学教育」思考・表現力入試。その場で問いを立てて自分の考えを書く記述型の「哲学的思考力」と、「算数」とで行われます。66名が出願、2月4日の入試当日を迎えました。
(取材・撮影・文/市川理香)
2019年入試、大人気の東洋大学京北
2019年入試で大人気となった東洋大京北。一部、入試日程を変更したとはいえ、全日程の総出願者数1,931名(男子1,211、女子720)は昨年の960名(男子589、女子371)の201%(男子206%、女子194%)。午後入試の出願数は言うに及ばず、各日程の出願数の伸びは、模試での志望者人気沸騰の状況をトレースするかのような勢いで推移していました。
2月1日第1回入試では、開門を待つ受験生が、白山側に50メートル、茗荷谷側30メートル並んだそうで、「こんなに長い列は初めて」と学校側も驚きを隠しませんでした。
その人気の背景を、東洋大学との法人合併(2011年)、東洋大学附属校化・京北中学校高等学校の移転・共学(2015年)を経て、「哲学的に考える」哲学教育を三本柱の一つにすえた結果、生徒対応が格段に変わったことと関係者は分析します。先生の発する「言葉の手触り」が変わった、と表現する先生も。
「諸学の基礎は哲学にあり」
社会的な要請で実学の学校の創立が続いた時代にあって、学祖井上円了が哲学の学校こそ必要であるとの信念で創った「哲学館」が東洋大学の起こりです。以来、「諸学の基礎は哲学にあり」の教育理念を受け継ぐ学校として、東洋大学京北中学校の「哲学教育」も、根を張ってきました。哲学教育推進部長の石川先生は、井上円了の理念こそ、私学の存在意義だと語ります。そして、哲学教育にゴールはないとも。生徒たちには、中高6年間、あるいは高校3年間、哲学教育の学びで卒業後も考え続けられる人になってほしい、だからゴールに近づくと考えるのはむしろ危険な発想と考えるからです。
4年前からの新しい京北の歩みと哲学教育の進捗は重なっており、3年前に「哲学的思考力入試」を導入したのも、思考力入試等の従来の科目に縛られない入試型が増加する中学入試のなかで、哲学教育行っているわが学が実施しないで誰がする、という強い自負があったであろうことは想像に難くありません。
石川先生が日ごろ哲学教育で大切にしているのは、
・自分で問いを立てること
・対話。他者と対話することで、自己を相対化すること
・体験を大切にして、言葉に血を通わせること
それをどのように入試に反映させるか、大変でもあり、やりがいもあるといいます。
こう行われた、「哲学教育」思考・表現力入試
2月4日の入試は、2科入試、4科入試、そして「哲学教育」思考・表現力入試の3つの受験型が用意されていました。中には、東洋大学京北の別日程で合格しているが、タイプの違う「哲学教育」思考・表現力入試を受けたいとやって来た受験生もいるようです。校内に入り、まず科目別に受付を済ませた順に、受験生は試験会場に向かいます。受付前で保護者とは分かれますので、会場をめざして階段を上っていく後ろ姿を見えなくなるまで見送る胸のうちは、がんばれの思いだけ。
試験会場では、開始のチャイムとともに問題用紙が配布され試験開始。
問題用紙は1枚。
問一「次のことばを見てあなたが考えた『問い』を三つ書きなさい」
問二「問一で書いた『問い』の中から一つ選び、その『問い』に対するあなたの考え方分かりやすく600字程度で述べなさい」
示されたキーワードは「自立」。
時間は50分です。
解答用紙いっぱいに、自分の考えを綴ります。一生懸命、考え、鉛筆を走らせる姿はたくましく、何度も書き直すのか机の上にきちんと寄せ集められた消しゴムのカスさえ愛おしく見えてきます。時間をフルに使って書く受験生、一気に書き終えて静かに読み返す受験生。どのような問いが立てられたのでしょうか。
試験会場で2時間目の算数(2科・4科型と同じ問題)が始まるとともに、採点会場では1時間目の哲学的思考力の答案採点が行われます。
細心の注意を持って準備してきた評価の観点に従い、複数の目で、受験生たちが立てた問いと考えに向き合う時間。そのときに感じるのは、小学生の世界をみるピュアな目、発想の自由さだと石川先生は教えてくれました。広報部長の井出先生も、横で深くうなずきます。「“キラキラッ”としていなくても、“キラッ”で充分。入学後に一緒にキラキラさせるのが喜びですから」。
しかし、入試ゆえの厳しさがあるのも事実。着眼点や独創性、表現力、論理的な一貫性や説得力などから評価しなければなりません。
2019年の「哲学教育」思考・表現力入試の合格者は4名でした。
控え室では校長先生の挨拶も。
校内で終了まで待つ保護者の皆さんは、カフェテリア(写真)や教室に用意された4箇所の控え室で、新聞やスマートフォンで思い思いに時間をやり過ごしていました。
1日めから、石坂校長が全控え室を挨拶して回ったそうです。
2月4日は、ほとんどの受験生が何かしらの結果を持って受験しているタイミング。石坂校長の、ご自分の経験などを交えた、「最後までがんばりぬくお子さん、こんなにたくましいお子さんはいないと思いませんか。終わったらほめてあげてください」との励ましに、うなずく姿、目頭を押さえる姿も見られました。
建学の精神を礎に
石坂校長の好きな言葉は、世阿弥の「初心忘るべからず」。さまざまな不易そのものが揺らいでいるように見える今の時代にこそ、東洋大学京北では不易流行の精神で建学の精神を足がかりに、私学としてもっと学校を発展させていきたいと意気込み、受験生が画一的になってしまわないためにも、「哲学教育」思考・表現力入試を大切な入試と位置づける考えに変化はありません。先生方から提案のあがる風通しのよさ、生徒の成長が成果となってみえてきた実感、好循環の生まれた東洋大学京北が、今年の入試で人気となったのもうなずけます。
入試のあり方をとおして、東洋大学京北の理念を見つめ直した一日となりました。