駒場東邦、中3生が女子大学生と考える
2 月20日に、昭和女子大学の学生と、駒場東邦中学校の中3生による特別授業が開催されました。2021年から取り組んできた「女子大学生と男子校中学生が一緒に考えるプロジェクト」の集大成です。(取材・撮影・文/市川理香)
昭和女子大学のコスモスホールを、紺色の詰襟を着た男子中学生が埋めました。「こんな光景は、学校始まって以来、初めてです」と学校関係者がいうのも当たり前と言えば当たり前。ここは「女子大」。 2年目の2022年もオンライン開催で、中学2年生になった駒東生に、昭和女子大学の学生が質問を投げかけながら進行。この年は多様性に注目しました。赤ちゃん用おむつや化粧品のコマーシャルから固定概念の変化を考えたり、ユニバーサルデザインの街並みやグッズから共生社会について考えたり。 クラス別ワークショップでは、大学生がまず別学の歴史を説明。武家主導だった江戸時代や、明治期の尋常中学校と高等女学校の科目の違いなど具体的に示しながら、男女で異なる慣習的な内容が明文化されていった流れを振り返りました。 今年も前回2回と同様に、大学生は結論を出しません。 2つ目のワークショップは、「仕事と役職について考えよう」。 中学生にとって、企業の取り組みは新鮮だったようで、ある生徒は、「具体的なことは知りませんでしたが、朝早くからでも夜でも入れるフレックスが印象的でした」と言います。別の生徒は、「女性の問題を解決しようとして結果的に男性にも良い改良ができた事例が印象的でした。一つの問題を解決しようとして、別の問題も解決できるんだなと思いました」と話します。 中学生から大学生に、三年間のプロジェクトの感想を預かりました。女子大学生と男子中学生が一緒に考える
昭和女子大学と駒場東邦中学校は、女子大学生と男子中学生という“最も接点のない遠い存在”同士が、対話をし、異なる価値観を持つ他者を理解するとはどういうことかを考えるプロジェクトに三年間にわたり取り組んできました。
初回の2021年。コロナ禍下であり、駒場東邦と昭和女子大学をオンラインで繋ぎ開催。「ディズニープリンセス」の変遷をたどりながら、プリンセスらしさを考え、次いで、もし自分が「ファーストジェントルマン」になったら仕事を続けるか辞めて妻を支えるかを考えるというもの。当時中学1年生だった駒東生は、自分の中にあった、無意識のバイアス(アンコンシャスバイアス)に気づいていました。
そして、集大成の3年目は、グローバルビジネス学部、人間社会学部1〜4年生22人と、駒場東邦中3生全員が昭和女子大学に集合し、初めて対面で活発に議論を行いました。テーマは「男女別学」「男女の仕事・役職」について。
ホールでの事前アンケートの分析結果の発表ののち、6つの教室に分かれました。教室への移動前に、全クラスとも女子トイレに立ち寄ったのですが、事前に聞いていたそうで、サニタリーボックスや鏡などをサラッと確認する感じ。中3生の照れ、でしょうか。「男女別学」は必要か?
「将来、男女別学は必要かを考えてみよう」ということで、大学生は中学生に質問。「駒場東邦に入った理由は?」、「入ってみてよかったことは?」
中学生は、「異性がいないから自分らしくいられる」、「楽しい」という今の素直な感想を述べ、さらに「別学の方が卒業生の繋がりが強い」、「別学が必要な人もいるから選択肢が必要」、「少子化が進む原因になっているのかも」、「教育方針が同じになってきたから不要」など、普段あまり考えてこなかったであろう男子校の存在意義について思いをめぐらせました。
「男女別学にはメリット、デメリットがあります。これから出会う人に、どう歩み寄るか、考えてください」と結びました。「仕事と役職について」考えよう
「もし男子校の先生が、全員、女性だったらどう思うか?」、「性別に偏りのある職業を考えてみよう」と問いかけ、偏りがあることで困ることを考えました。
中学生からは、「性別が少ない職業にはつきにくい」、「ロールモデルがいない」、「人数が多い方の性別向きの設備に偏る」、「商品開発が偏る」といった意見が出ました。
ここで大学生は、男女の偏りを課題と捉えて改革を進めている企業の事例を紹介しました。女性総合職の採用、若手外部人材の登用、フレックスタイムの導入などです。
さらに大学生は、「男性8割、女性2割の駒東商事の経営者になって、「妊娠中、育児中、家族の介護が大変な社員のための制度改革を考えよう」と呼びかけ、中学生はグループで意見交換しました。
女性向けに改良した作業服が男性にもメリットがあった事例や残業を減らすことで社員の出生率がアップした企業、外国人や性的少数者の労働環境を整えている事例が示され、大学生から、多様な人が共に生きる社会を作るために「歩み寄ること」の大切さを伝えられました。僕らが大人になった時には変わっている
「小学校時代に、『女子は算数が苦手』だと思っていましたか?」と聞くと、「塾では男子・女子という違いでなく、個人個人の得意、不得意なのだと思っていました。そういうものってなってしまっているんだと思います」と言いますが、「僕たちが大人になった時には、色々なことがもっとイーブンに近づいているのではないかと思います」と力強い言葉も。
「男子校の学校生活を送っていたら接する機会がない女子大学生とのディスカッションの機会が得られ、視野が広がり、よかったです」
「関わり合わないもの同士なので価値観が違うことがわかりました。お互いを思いやるのは、大切だと思いました」
学年主任の向井恒爾先生は、「一回や二回の授業で大きな変化があるとは思っていません。でも、こうした機会があったことを後々振り返ったときに、役に立てばいいと思っています」と話します。