2月2日午後、日大豊山女子の「思考力(プレゼン)型入試(1)」が行われました。
数ある新しいタイプの入試の中でも異彩を放つのが日本大学豊山女子中学校の「思考力(プレゼン)型入試」です。導入3年目の今年も、その場で与えられたテーマから興味のあるテーマを選び、それについて調べたり、まとめ発表したりする入試に、受験生がチャレンジしました。(取材・撮影・文/市川理香)
思考力(プレゼン)型入試を導入できた、日大豊山女子の土壌
2020年の大学入試改革により、思考力・判断力・表現力が問われる入試に大きく変わるとされたこともあり、中学入試でも知識や技能を問うだけではない、新しいタイプの入試が注目されてきました。確かに大学入試からの流れは大きな要因ではありますが、学科試験ではない入試を行なっている学校には、すでに以前から、調べたり、まとめて発信したりする教育を行ってきた学校が少なくありません。日本大学豊山女子もその一つ。以前から校外学習などを通して、調べ学習、まとめ、発表する機会を数多く設け実施してきました。
スピード感を持って2017年入試で「思考力(プレゼン)型入試」を導入できたのも、そうした土壌があってこそでした。そして冒頭で異彩を放つと申し上げた理由が、試験という既成概念を軽々と越えて見せた、当日の進め方です。
まとめ作業は高い自由度。音楽も流れる試験会場
受付では先輩直筆の応援メッセージを書いたカイロのプレゼントを受け取り、2科型受験生は新館の会場へ、思考力(プレゼン)型受験生はラーニングコモンズまで在校生が案内してくれます。2日午後入試は受験する型によらず15:30を着席完了としているので、午前中に他校を受験していても余裕を持って学校まで来られます。
「思考力(プレゼン)型入試」は試験開始後60分~90分で、(1)テーマ決定、(2)情報収集、(3)まとめ作業まで行い、そして場所を移して5〜10分の (4)発表、という流れです。まず始めに複数の課題が与えられ、そこから自分が選んだ一つのテーマについて、図書館の本や、タブレットを利用してWEBサイトを調べ、まとめ作業を行い、自分の意見を発表する、という入試なのです。
さて皆さんは、中学入試の試験会場といえば、どのような景色を思い浮かべるでしょうか。ピーンと張り詰めた空気の中、ペンを走らせる音しか聞こえない、消しゴムが落ちる音さえはばかられる、シーンとした部屋が普通でしょう、とイメージされるのでは。
ひるがえって日本大学豊山女子の「思考力(プレゼン)型入試」のまとめ作業を行う会場では、クラシックや校歌のインストゥルメンタルが流れていました。導入後、昨年までの2回をとおして、会場の空気の堅さが気になっていたことから、3年目の今年の初企画。受験生には、知らず知らずのうちに気持ちを落ち着ける効果があったのではないでしょうか。
そして通常は在校生が自習する際に利用するラーニングコモンズという部屋ですから、隣とは仕切り板で隔てられた個別ブース。開始前にタブレット、定規、糊、ハサミ、ペン数本が予めセッティングされています。もちろん受験生は自分の筆記用具を使うこともできますし、学校が別に用意した様々なカラーペンを使うこともできます。出題されたテーマに関連する図書は、ラーニングコモンズに移動して並べてありますので、それを活用することができます。そこにある資料で足りなければ、一階下の図書室に行って探すのも可。そう、受験生は本を探したり、資料作りの文房具を選びに席を立ったり自由に動けますし、行きたい時に同じ部屋にあるトイレにも行けるのです。実際にはありませんでしたが、受験生同士が話をすることも認められています。書架の前で資料選びを迷っている受験生には、その場にいた先生からアドバイスもされていました。
「まとめ」を、一枚の画用紙にどう表現するか。
今年は9つのテーマが用意されました。その中から自分の興味のあるものを選びますが、すんなりテーマが決まり早めにまとめ作業にかかる受験生もありますが、あれもこれも気になるテーマなのか一つに決めきれず、テーマ決めに時間のかかる受験生もあります。ただ、まとめ作業の時間は60分〜90分ほど設けられており、早さを競うものではないので、焦る必要はありません。この日の受験生8名が選んだテーマは、全部で6つ。興味・関心の多彩さは学校の期待以上のようです。
そういえば、仕切り板のある部屋ゆえですが、最初の諸注意も、部屋に分散している受験生全員の顔が見えるようにと先生は椅子の上に立ってお話をされていましたし、受験生側にも先生が見えるところに椅子を移動するよう促され聞いていたのも、試験はこうあらねばならないという枠にはまらない入試の一端を垣間見せてくれたように思えます。
まとめを書くのはB4サイズの白い画用紙です。
画用紙には、思い思いのやり方で資料が出来上がっていきます。切り貼りしたい資料は、画用紙に貼りたいスペースに合わせてプリントアウトしたりコピーしたりしていただけます。画用紙へのまとめのほか、「テーマを選んだ理由」「調べた資料」「発表の組み立てなどのメモ」をA4サイズの「発表カード」に書いておけるので、一連の作業を通して、発表までの調べ、まとめ、という段階を行っていることになります。のりやはさみを使った作業や、ポスターカラーの色選び、文字の大きさや配置も、発表する(伝える)ため、どうしたら効果的かを考えながら行っているようです。
縦に使っても横に使っても、それは自分次第。試験会場にいる先生方には試験監督という雰囲気はなく、資料作りの道具の提供や、まとめ作業をしやすい雰囲気を作ること、受験生が考えを整理しやすいような声かけ、プリントやコピーの補助といったことをしながら、受験生に静かに寄り添っているように見受けられました。
思い思いのプレゼンテーション。受験生から言葉を引き出す質問
まとめ作業が終わった受験生から別室に移動します。始めてから75分経った頃に、一人めの受験生がプレゼンテーションの会場に案内されて行きました。
プレゼンテーションの会場では、黒板に資料を貼り、2人の先生を前に調べたことを発表します。発表を聞いた先生からいくつか質問があり、それに応える、という流れです。ここで大切なのは、言葉のキャッチボールができること。小学校でプレゼンテーションに慣れていたり、饒舌に話せたりする受験生ばかりではありませんが、係の先生方は、身を乗り出すように、にこやかに耳を傾けてくれます。日本大学豊山女子に入学したら調べ学習や発表の際に中心になってくれるような、物事に興味のもてる子、意欲のある子かどうかを知りたいと、受験生から言葉を引き出せるような質問を心がけていると言います。
テーマ決めから発表まで、集中力を切らさずに約100分の入試をやりきった瞬間に、ようやくホッとした笑みが浮かび表情がとても和らぎます。「まとめ作業に時間が足りなかった」「画用紙が小さくて足りなかった」「発表はもっとたくさん伝えたいことあったのに思うように話せなかった」など、反省を口にする受験生もありましたが、きっとそれだけ濃密な時間だったのでしょう。
作業や発表に集中して取り組む受験生の姿からは、学ぶことの始めにある、「なぜ」「どうして」を持っている小学生にとって「思考力(プレゼン)型入試」は魅力ある選択肢だと思わせられます。
スクールバスで帰路に
試験終了後は、保護者控室に戻り合流。同時に行われていた2科入試の受験生たちと一緒に解散となりました。練馬と赤羽行きのスクールバス(行き先表示は「日本大学豊山女子中・高校」!)が用意されているので、それを利用して帰路につく親子、東武線東上線上板橋駅か都営三田線志村三丁目駅まで歩いて向かう親子など様々。声をかけてくれる先生に試験の感想を話したり、保護者にどんな入試だったかを報告する姿には、力強さがにじみ出ています。2月の夕方ともなれば、あたりは暗く、気温も下がっていますが、受験生の今の頑張りが未来に繋がると思うと、体の芯から熱い力が湧き上がってくるような思いにかられました。
2月11日にも、「思考力(プレゼン)型入試」は受けられます
日本大学豊山女子の「思考力(プレゼン)型入試」は、2回実施。2月2日午後のほか、2月11日(月・祝)午前には(2)を実施予定です。
2月11日(月・祝)8:00まで出願受付(WEB)。前々日2月9日(土)には都立中高一貫校の合格発表が行われますが、その結果を確認してからでも出願、受験が可能です。これまでの受験を通して、中高6年間の教育環境に改めて思いを致したご家庭も少なくないでしょう。お子様の興味・関心を伸ばせる環境の選択肢として、残された入試機会へのチャレンジは受験を悔いなく終えることにもつながるのではないでしょうか。