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男子校・女子校・共学校という選択

男子校・女子校・共学校という選択 
教育ジャーナリスト おおたとしまさ

男子校と女子校の違いを如実に表す行事がある。運動会だ。

運動会のチーム編成に見る男女の集団性の違い

中高一貫の男子校の運動会では、中1から高3までの全クラスを縦割りにして、赤組・青組・黄組などと色分けのチーム編成で競技する。縦割りのチームの中で、高3をトップにした命令系統が綺麗にできあがり、高校生が中学生を指導する場面もよく見られる。毎年どこのチームが優勝するかわからない。

一方、女子校においては、少なくない数の女子校で、学年別のチーム編成で競技する。高3と中1がリレーで競ったりするのだ。勝ち負けは見えている。だいたい毎年高3が優勝することになる。それでは面白くないのではないかと思う人も多いだろう。特に男性。ではなぜ女子校では学年ごとのチーム編成にしているのか。いくつかの女子校の先生から似たような証言を聞いた。「女子は勝ち負けよりも、チームとしての集団力を高めることのほうにモチベーションを感じるもの。縦割りのチーム編成にした時期もありましたが、それではつまらないという声が上がり、学年別に戻した経緯もあります」。男女の違いを表す象徴的な話ではないだろうか。

一般に男性は「システム化」が得意といわれている。論理的、合理的、効率的に物事を体系化していくことが得意だ。男性は明確な命令系統をもって縦型の組織を築くのが得意なのだ。逆に女性は「共感」が得意といわれている。まわりの雰囲気を察し合い、自然なコミュニケーションの中で組織を組み立てていく。誰が上で誰が下という意識はあまりないし、命令・服従というコミュニケーションも希薄である。気遣いや共感をベースにした横型の組織を築くのが得意なのだ。

学力が上がりやすく性役割意識が固定化しにくい

男子と女子では、特に思春期において、発達段階に大きな差が開くこともわかっている。中学においては男性の性的な成熟は女性のそれに比べて約2年遅れているといわれている。脳の厚さは、平均すると、女性が11歳で最大になるのに比べて、男性の場合はそれよりも18カ月遅れる傾向があることもわかっている。5歳から18歳の男女の情報処理能力テストをすると、幼稚園では男女の差がないのに、思春期には女性のほうが速くて正確であるという差が生じ、18歳には再び男女の差がなくなることも知られている。

また一般に男子は空間認知能力に優れているが、女子は聴覚に優れており、その違いゆえ、注意関心を引きつけるためのアプローチも違うという指摘もある。そのため男子には図解して覚えるのが得意で、女子は耳から聞いて覚えるのが得意であるという傾向があると、ある脳科学者は指摘する。

教室の中でも違いは顕著だ。男子校・女子校の先生たちが指導上気をつけていることを比較すると、さらに違いが明確になる。「男子には大きな夢を持たせることが大事、女子には現実的な具体的目標を持たせることが大事」。「男子の場合は挑戦意欲を刺激することが大事、女子には安心感を与えることが大事」。「男子はスイッチが入らないといくらおしりを叩いても伸びない。女子はやらせればやらせるだけ伸びる」などである。

教室の中でも違いは顕著だ。男子校・女子校の先生たちが指導上気をつけていることを比較すると、さらに違いが明確になる。「男子には大きな夢を持たせることが大事、女子には現実的な具体的目標を持たせることが大事」。「男子の場合は挑戦意欲を刺激することが大事、女子には安心感を与えることが大事」。「男子はスイッチが入らないといくらおしりを叩いても伸びない。女子はやらせればやらせるだけ伸びる」などである。

また、たとえば男子校のクラブ活動で、誰かがおにぎりを握らなければならないとき、「女子、お願い!」なんてことはできない。全部自分たちでやることになる。たとえば女子校の文化祭では、ステージの大道具を用意するとき、工具を使って組み立てたり、重い物を運んだりということも、すべて女子だけでやっている。「男子、お願い!」なんてことはできない。男子校・女子校においては、「男だから」「女だから」という理由で役割が振り分けられるということがあり得ないのだ。

男子校・女子校が激減しているわけ

ここに紹介した情報は、男女別学校に関する数ある知見の中のほんの一部だが、これだけでも、男子校・女子校という環境で学ぶことの意義が感じられるのではないだろうか。いわゆる名門校に男子校・女子校が多い理由の一因ともいえるかもしれない。しかし実は、男子校も女子校も減っている。

現在、全国の高校の中で、男子のみが在籍する学校は約2.5%、女子のみが在籍する学校は約6.5%しかない。たてまえとしては、男女共同参画社会、多様化の時代に対応するためということではあるが、実際のところ、公立の学校においては学校の統廃合に合わせて共学化するケースが目立つ。私立においては、少子化の流れの中で、生徒数を確保するためという理由もないとはいえない。共学化すれば、募集対象者が単純に2倍になるわけだ。共学化して学校が活性化したという成功例も確かにある。新しく学校文化が育まれるのであれば、それも一つの選択といえる。

もともとは戦後、GHQによる教育改革の一貫で、学校の共学化が進められた。逆にいうと、戦前の旧制中学校はすべて男子校であり、女子は女学校に通っていた。戦後、GHQによる管理を免れた私学の多くは男子校・女子校を続けた。公立の中でも地域によっては、GHQの指導が徹底されず、男子校・女子校が継続したが、時代の流れとともに、ほとんどの公立校は共学化した。それで今では、たとえば埼玉県、群馬県、栃木県など北関東の一部に男子校・女子校の高校が残っているだけになっているのだ。

日本の学校を共学にしろと命じたのはGHQであったわけだが、そのアメリカにおいて、男女別学教育を望む声が多く上がるようになっている。アメリカの法律では共学が原則だが、一部の学校で試験的に男女別学教育を導入したところ、顕著な効果が表れたという報告があったからだ。日本でもトップ進学校の多くは男女別学校だが、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、韓国などでも男女別学校の生徒の成績が良いという傾向が報告されている。男子と女子の違いを十分に考慮すれば、共学校でも男子校・女子校の良いところを取り入れた教育ができるのではないかと思う人もいるだろう。たしかに理論上は不可能なことではない。しかし、同じ教室の中で、男子には男子用の対応をし、女子には女子用の対応をするというダブルスタンダードをする教員は大変だ。男女の生徒間に不平等感も生まれやすい。

男子校・女子校の弱点と共学校のメリット

ただし、共学校よりも男子校・女子校が学校として必ずしも優れているというわけでもない。

共学校では、たとえば女子がコツコツ勉強を積み上げているのを見てそれまで遊んでいた男子が危機感をもったり、逆に受験間際になって急に成績を伸ばす男子の様子に、女子が刺激を受けてさらに勉強することがある。このように、普段より異姓を意識し合うからこそ、互いに刺激し合い、伸びていくケースが多く見られる。異性がいると勉強に集中できないのではと考える人もいるかもしれないが、思春期特有の悩みや誘惑が身の回りにたくさんあることは男子校や女子校でも同じ。そこに男子校、女子校、共学校による違いはさほどない。

異性の目を気にせずにのびのびできたり、「男らしさ」とか「女らしさ」にとらわれず自分らしくいられたりということが、男子校・女子校に共通のメリットだが、一方で、異性について無知なままというのが共通の弱点だ。特に大学に入りたてのころは異性との適切な距離感がつかめず、苦労するということをよく聞く。男子校・女子校に通ったからといって、彼氏や彼女ができないわけではない。学校の外ではいくらでも異性の友達を作る機会はある。地域活動やボランティア活動に参加するのもいいだろう。クラブ活動や学校の枠を越えた課外活動に参加するのもいいだろう。塾が異性とのコミュニケーションの場になることもあるだろう。男子校・女子校に通っている生徒ほど、他校の異性の生徒と交流する機会を意識的にもつべきだ。そのためには保護者の理解も必要である。

共学校では、自分づくりと異性とのコミュニケーションを同時並行で行う。男女別学校では、じっくりと自分づくりをしたあとに、異性とのコミュニケーションを学ぶことになる。外国語の習得方法に比較するとわかりやすい。共学校は日本語と英語を同時並行で学ぶバイリンガルスタイルに、男子校・女子校は日本語をしっかり習得してから英語を学ぶスタイルに例えられる。

自分に合った環境を選べることが中学受験の意義

男女別学校と共学校の「おいしいとこどり」ができる学校もある。

たとえば神奈川の桐蔭。中等教育学校と男子部には男子しかいない。女子部にはもちろん女子しか在籍していない。しかし、高3になると進路によって男子と女子が合同で授業を行う。同じく神奈川の桐光は、一般的には共学という扱いでありながら、男子と女子の校舎がわかれている。ただし、図書館や食堂などは共有。男女いっしょに活動するクラブもある。東京の國學院久我山も同様のしくみだ。同じく東京のかえつ有明の場合は、校舎も男女いっしょ、クラブや行事は男女共同、ただし授業は男女別々という仕組み。高2から進路別の男女混合クラス編成になる。これらの学校は、男女別学校の良さと、共学校の良さの両方を享受できる、第3の選択といえるだろう。

この約20年で男子校・女子校は一気にへった。その反動として、「学校としては共学でも授業は別学」というような線引きをする学校が、今後増えてくる可能性はある。男女別学校と共学校を比較すると、「結局どっちがいいの?」という話になりがちだ。しかし大切なのはどちらが絶対的に優れているかを論じることではなく、「その子」にとってどんな環境がふさわしいかである。

勉強もスポーツもできてコミュニケーション能力も高い子供なら、男女別学でも共学校でもうまくやっていけるだろう。異性から人気のあるタイプなら、共学校のほうが充実した中高時代を過ごせるかもしれない。しかし逆に、いかんせん異性が苦手なタイプや、引っ込み思案だったりこだわりが強かったりと個性が強い子供であれば、男女別学のほうがストレスなく過ごせるかもしれない。要するに、社会としては、男子校も女子校も共学校もあることが大切。多様な選択肢の中から、自分に合った学校環境を選べることが、中学受験をする大きな意義なのである。