2020年、教育が変わるって知っていますか?なんのため?どう変わるの?
教育ジャーナリスト 中曽根陽子
今、国を挙げて教育改革が進められようとしていることを知っていますか。
大学入試が変わるということは知っているという方でも、具体的にどう変わるのかということまでわからないという人も多いのでは・・・
そこで今回は、その内容を解説します。
2020年から大学入試が激変する?その理由は?
今回の教育改革の目玉となっているのが「センター試験」の廃止とそれに代わる「大学入学共通テスト」の導入です。新しく導入されるテストの特徴は、現状と同じマークシート式(選択式)に加えて、記述式の試験が導入されることが検討されていることです。
それによって何が変わるのでしょうか?
その方向性を示すものとして、「大学入学共通テスト」の第1回試行調査が2017年11月に実施されたので、その内容を見ていきましょう。
例えば、数学1・数学Aでは、高校の文化祭でTシャツを販売する設定で、生徒のアンケート結果や業者の選定などの条件を手がかりに、価格をいくらに設定すれば最大の利益が得られるかを考えるという設問がありました。
文脈の中から必要な情報を取り出す読解力や、思考力が求められている数学らしくない問題ですが、この狙いを大学入試センターは、「身近な生活の課題解決に数学が活用できるということを実感させたい」と言います。しかし、正答率はわずか6.8%でした。
高校の現場からは、「こんな問題には従来の授業では対応できない。早急に変えていかないと」という声が聞こえてきますが、これこそが、今回の教育改革の狙いです。つまり、川上の大学入試を変えることで、川下の中等教育・初等教育・幼児教育をドミノ倒しのように変えようということなのです。
激変する社会に対応する能力を育てる
今回の試行調査では、他の教科でも、教科書で扱われていない初めて見る資料を読み込みながら、それらを組み合わせて考えたことを自分の言葉で表現する力までが問われました。
ではなぜこのように、入試を変える必要があるのでしょう。この裏には、私たちを取り巻く社会の変化があります。
私たち親世代は、学んだ知識を当てはめて問題を解くという教育を受けてきました。これまではそれでなんとかなってきたかもしれませんが、今のように、複雑かつ変化の激しい社会では、過去に学んだ知識だけを使って解ける課題はほとんどないと言ってもいいでしょう。しかもAIの進化で、今ある仕事の49%が自動化されると言われています。
そんな時代に、従来の教科書の内容を理解しているかを問う正解探しのテストをしていては、とても変化に対応する力は育てられないからです。
そこで、まず大学入試を従来のマークシート方式から、知識を活用して課題を解決し、新しい価値を生み出す思考力を問う問題に変えようという訳です。
21世紀型能力育成のキーワードは「探究」
また、今回の施行試験では、「探究活動」を題材にした設問も多く出されていました。
「探究活動」は、2020年から順次施行される小中高の新学習指導要領でも重視されていて、探究型の学びを定着させていこうという狙いも感じられます。
新学習指導要領が目指しているのは、生きる力=21世紀型能力の育成ですが、その内容は一般には浸透していないようですので、解説します。
21世紀型能力を簡単に解説すると、国立教育政策研究所が2013年に整理して発表した、これからの社会で求められる資質や能力を定義したものです。
図にあるように、「基礎力・思考力・実践力」の3層構造になっています。
基礎力は、いわゆる知識やスキルの部分ですが、そこに情報スキルが加わったのが特徴です。公立小学校でも、一部タブレット型端末を使った授業が始まっていますが、これからはICTを使いこなすスキルは欠かせないということですね。
さらに、思考力を育てることが重要視されています。
ここでいう思考力とは、一人ひとりが自分の考えを持ちながら他の人と話し合い、考えを比較しながらまとめ、より良い答えや新しいアイデアを考えだす。さらに次に学ぶべきことを見つける力までが含まれており、さまざまな課題を解決するための中心となる能力です。
最後に必要なのが、考えたことを、他と協力しながら実行する力、つまり実践力です。
これまでの学校教育では、一番下の基礎力の部分がほとんどを占めていましたが、今後はこの3つの力を総合的に高めていくとしています。
これからの教育は「主体的・対話的・深い学び」に移行
そこで注目されているのが、探究型の学習です。探究型学習とは、先生が一方的に教えるだけではなく、生徒が主体的に学ぶ学習のこと。その学習方法の一つがアクティブラーニングで、今回の学習指導要領では、「主体的・対話的・深い学び」と表現しています。
今後は、この言葉を耳にすることが多くなると思いますので、覚えておきましょう。
子ども達が、自分で人生を切り開き、変化の激しい時代を生き抜いていける力を身につけるためにも、今回の教育改革が成功するかどうかは、とても重要な要素です。
ぜひ、関心を持っていただきたいと思います。
参考:ビジネスジャーナル 中曽根陽子の教育最前線
http://biz-journal.jp/series/yoko-nakasone-education/
中曽根陽子 [教育ジャーナリスト マザークエスト代表]
教育機関の取材やインタビュー経験が豊富で、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。子育て中の女性に寄り添う視点に定評があり、テレビやラジオなどでもコメントを求められることも多い。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱し、講演活動も精力的に行っている。また、人材育成のプロジェクトである子育てをハッピーにしたいと、母親のための発見と成長の場「マザークエスト」を立ち上げて活動中。
『一歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『後悔しない中学受験』(晶文社出版)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)など著書多数。学研キッズネットfor parents で「AI時代を生き抜くために 失敗力を育てる6つの栄養素」ビジネスジャーナルで「中曽根陽子の教育最前線」を連載中。
オフィシャルサイトhttp://www.waiwainet.com/
※当コラム筆者の中曽根陽子さんによる4月26日(木)開催の教育セミナー(特別講座)「2020年からの教育改革と受験について考える『変わる教育と受験』」のご案内も掲載しています。