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【熊本県立高森高等学校】全国の公立高校で初めてとなる『マンガ学科』とは?

公立高校初のマンガ学科を新設

熊本県立高森高等学校は熊本県の南阿蘇地区に位置する高森町にあります。人口は6,002人(令和5年3月現在)と過疎化が進む地域とあって、ここ数年は1学年募集定員80名に対して、生徒数20名程度と定員割れが続いている学校でした。しかし、令和5年4月に、普通科グローカル探究コースと公立高校としては


全国初となるマンガ学科(募集定員それぞれ40名)を創設し、全国から生徒を募集するとい...

マンガ制作の授業とは

マンガ制作の授業は漫画家や編集者が行います。この日の講師は、㈱コアミックスの第二本社になる㈱熊本コアミックスの社長である持田修一氏と、『プルコギ』など多数の単行本を出されている漫画家の富沢順氏でした。漫画好きの方はご存じだと思いますが、㈱コアミックスは東京の吉祥寺に本社を構え、『月刊コミックゼノン』などを発刊している漫画出版社です。テキストは㈱コアミックス作成の冊子になったものが用意されていますが、講義内容に応じてプリントが配付されます。授業は、持田社長が富沢氏に問いかけ、富沢氏がキャラクターの描き方やコマ割りなどを実際にタッチペンで描きながらその問いに答えていました。生徒たちは富沢氏が描いたものが映し出された大きなテレビ画面を見ながら、プロ2人の対話を興味深く聞いていました。プロの漫画家とプロの編集者2人の対話は、まるで大学の講義のような授業でしたが、素人の執筆者が聞いていても面白いと感じる話でしたので、あっという間に時間が過ぎていきました。この授業では、講義のテーマごとに講師が代わり、講義やデッサンの指導などを行っているそうです。

「漫画家を目指したい」、「漫画を活かしたい」、「将来クリエイティブな仕事がしたい」など、漫画家や編集者など業界で働きたいという志を持って入学してきた生徒たちにとっては、プロから直に学べることは貴重な財産になるはずです。実際に漫画を描くことがマンガ学科の目標になりますので、そのための知識と技術を高める授業が展開されていくそうです。もちろん高校ですから、数学や国語など他教科も学ばなければなりません。しかし、入学当初に㈱コアミックス社長の堀江信彦氏が来校し、数学や理科などの他教科で学んだことも漫画に必要なことだと生徒たちに話されたそうです。確かに、構図や陰影などは数学や理科をしっかりと学ぶことで、リアリティ―が増すと思いますし、時代劇を描くのであれば歴史的背景を知らなければなりません。一見関係ないように感じることが、実は自分にとって必要なことだったということはよくあることです。
おそらく生徒たちも、漫画のことを深く学んでいくとその必要性に気づくはずです。

マンガ部の活動も充実

漫画家を目指すには週に2時間では足りないのでは?と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、マンガ部を創部したことで週5日の活動日を利用して、授業と部活を併用して技術力を高めることができます。マンガ部はマンガ学科の生徒40名全員が入部していますが、普通科の生徒も希望して入部しています。この日の部活動は、そのまま富沢順氏が指導にあたっていましたので、普通科の生徒たちを呼んで、マンガ学科の授業で話した内容を掻い摘んで説明してから、デッサンを描かせていました。

生徒たちは手書きでデッサンする生徒と、タッチペンで描くデジタル機器でデッサンする生徒に分かれて作業をしていきます。どちらでも自由に選択できるので、自分の好みにあわせてデッサンすることができるそうです。デジタル機器は高森町が費用を負担し、プロの漫画家が使用するものと同じものがマンガ学科の生徒数40名と先生1名分の41台を取り揃えています。デジタル機器でデッサンをしていた生徒さんに話を伺ったところ、「画面が大きく、間違った線を描いてしまってもすぐに修正できるので、とても使い勝手がいいんです」と嬉しそうに話してくれました。他の生徒たちも入学から1ヶ月くらいで完全にデジタル機器を使いこなせていることに驚きましたが、一生懸命にデッサンする様子や話を伺っていると、環境に慣れてきて充実した学校生活を送っているのだろうと感じました。

企業・県・町が連携協定を結び学校や生徒をバックアップ

令和5年度、マンガ学科に入学した40名の生徒は、男子5名、女子35名で、マンガ学科は県外からの生徒も受け入れています。管内の生徒が5名、管外の生徒のうち11名が県外からになります。県外から入学した生徒さんに話を伺うと、「もともとは地元の私立高校のデザイン科を志望していたが、インターネットでマンガ学科がある高森高校を知って志望した」と話してくれました。同校は2021年9月に、㈱コアミックス、熊本県、高森町と連携協定を結んでいますので、高森町の協力を得て、自宅から通学できない生徒には、高森町が運営する学生寮『たかもり時空和(ときわ)ベース』への入寮と、入寮できなかった生徒には町民の方の家での下宿を紹介することができます。親元を離れることに不安な生徒や保護者の方々も、その制度のおかげで安心して子どもを送り出すことができたそうです。しかし草原俊明校長先生によると、これから毎年入学してくる生徒数を考えると、まだまだ受け入れ先が充分ではないので、受け入れ先について高森町と協力して少しずつ検討していく予定だということでした。そして学校生活については、高森高校全職員が一丸となって、生徒たちの学校生活をサポートしていきたいとのことでした。

なぜマンガ学科だったのか?

同校がマンガ学科を新設するまでの経緯や取り組みなどを今年の春に着任された草原校長先生にお話を伺いました。
熊本県は2016年4月14日に最大震度7の大地震が発生し、18万人を超える方たちが避難するなど、多くの方が被害にあわれました。その後、熊本県は復興プロジェクトとして、人気漫画『ONE PIECE』の作者尾田栄一郎氏など、多くのマンガ家を生み出していることもあり、漫画出版社の㈱コアミックスを誘致し096k(オクロック)熊本歌劇団の旗揚げや、世界中から「笑顔」をテーマにしたサイレントマンガとイラストを募集し、熊本で展示・表彰するという復興支援イベント「熊本国際漫画祭」を始めました。また南阿蘇地区に位置する高森町は、漫画クリエイターの育成・交流をはじめとしたエンタメ業界の人材育成拠点を形成することでの地域振興を目標とする「エンタメ業界と連携したまちづくり事業」を始めました。その一環として、2020年に㈱コアミックスが高森町に第二本社として㈱熊本コアミックスを開設し、096k熊本歌劇団の拠点「アーティストビレッジ阿蘇096区」の設立など協業しています。そんな熊本県内や高森町の動きを汲みながら、地元の高等学校としてどういうことができるかという発想のもと、マンガ学科の新設に至ったそうです。

少子化対策・地方再生のモデルケースになる。

草原校長先生は同校に着任して、「生徒たちはいろいろな方やいろいろな面で支援してもらっている」と感じたそうです。㈱コアミックス、熊本県、高森町と連携協定を結んで、以下のような役割分担をしています。

【コアミックスの役割】
・授業など講師に係る支援
・授業に必要な機器や設備等の助言
・進路に係る助言
・アーティストビレッジ阿蘇096区の使用

【高森町の役割】
・町営学生寮の整備
・PR(広報、町CATVなど活用)
・連携事業(くまもと国際マンガCAMPなど)
・幼・保・小・中・高一貫教育の推進(英語教育・ICT教育)

【熊本県教育委員会の役割】
・マンガ関連学科等の設置検討(施設等の整備)
・情報の発信

【高森高校の役割】
・マンガに係る教育活動の展開
・マンガに係る人材の育成

実際に先述した寮や下宿の提供、デジタル機器の購入は高森町が支援しています。他にも高森町が放映しているケーブルテレビで同校の様子を生徒自らが機材を使用して発信しているのですが、そちらの機材も高森町が提供しているそうです。これらの費用は、2,000万円ほどかかったそうですが、驚くのはその費用を高森町はふるさと納税で賄っているということです。また同校も含め、熊本県や高森町はマンガ学科を周知させるため広報活動をしていますが、㈱コアミックスが雑誌の裏表紙に「高森高校がマンガ学科を新設する」と掲載したり、HPやSNSでも告知することで、熊本県外にも周知することができています。このように企業と自治体、学校が連携してすることで、㈱コアミックスは「企業や雑誌のアピールや後進の育成」、高森学校は「生徒募集」、熊本県や高森町は「注目を浴びることで海外や若い世代が集まってくる」とそれぞれの目的が達成されていきます。これから日本人の出生者数は80万人割っており、全国的に少子化対策や地方再生をどうしていくのかという課題があります。ですから、これらの工夫された取り組みは1つのモデルケースと言えます。

学校生活を有意義に過ごすための大事なことは?

今回高森高校をご紹介させていただきましたが、全国にこのような取り組みをされている学校があります。学校生活を有意義に過ごすことに大事なのは、「自ら学ぼうとする気持ち」です。自分が将来やりたいことがある人や、高校でこんなことをしてみたいという方は是非、自分の夢をかなえるための学校選びをしていただければと思います。

高森高校にご興味ある方は、同校のHPをご覧ください。

熊本県立高森高等学校ホームページ