学校特集
八王子学園八王子中学校・高等学校2024
さまざまな改革に取り組む
掲載日:2024年6月7日(金)
2028年に創立100周年を迎える八王子学園中学校・高等学校。2012年の中学開設から13年目となり、中高一貫校としての態勢もしっかりと整ってきました。2016年に中学で「東大・医進クラス」を創設し、生徒の学力や進学実績も着実に上がってきており、さらなる飛躍を目指しています。中学教頭の見世理恵先生に、4年後の100周年に向けた取り組みについてお話しいただきました。
2025年度から制服を一新
1928年に開校した多摩勤労中学が、八王子学園の前身です。1948年の学制改革で八王子学園八王子高等学校と改称し、さらに2012年に中学募集を開始して八王子学園八王子中学校が誕生しました。
「人格を尊重しよう、平和を心につちかおう」というスクールミッションを掲げ、平和教育や人間教育にも重きを置きながら時代のニーズに合わせた教育を展開している同校。医学部を始め最難関大進学を目指すコースやリベラルアーツ系のコースを開設し、生徒の個性や能力に合わせたきめ細かい指導を行っています。
2028年に100周年を迎えるため、さまざまな改革に取り組んでいますが、第一弾の取り組みの1つが制服の一新です。中学教頭の見世理恵先生は「制服のリニューアルは生徒総会などでもたびたび生徒から要望が上がっていた課題です。気候変動が激しく"この日から夏服"と切り替えるのが難しくなっているし、個人の裁量で自由に調節できるようにしたほうが勉強にも集中しやすくなると考えました」と話します。
生徒の声も聞きつつ業者と打ち合わせを重ね、新しいデザインが決まりました。現在の制服は高校生のシャツが元気なイメージの黄色ですが、「違う色にしたい」という要望が多く、基調カラーをブルーにしました。
「八王子学園は市民の学校としてスタートしているので、地域とのつながりも活かしたいと考えました。中学の探究ゼミで1年生は八王子をテーマに、八王子の自然などについて探究学習を行っています。八王子市が制定している市の鳥『オオルリ』は瑠璃紺と呼ばれる鮮やかな青色が特徴なので、その色を基調に据えました」(見世先生)。
基本スタイルではジャケット、ネクタイとリボンが紺色で、スカートのチェックにもさりげなく瑠璃色が入っています。シャツも薄いブルーに統一し、爽やかで清潔感があり、知的なイメージになりました。
気温の変化にも対応しやすいよう、基本スタイルのボトムスは夏仕様、冬仕様にして、スラックスやスカートの生地の厚みや素材を変えただけの、見た目は同じデザインのものにしました。
暑さや寒さの感じ方は個人差があるので、どちらを着ても構わないし、トップスはシャツ1枚でもセーターやベストを組み合わせてもOKです。「夏は通学中は暑くても、校舎は冷房がかかっているため寒さを感じる生徒もいます。一人ひとりが自由に組み合わせて体温調節を図り、心地よく過ごせるように工夫しました」。また、これまでの制服の購入状況を調べたところ、半袖シャツの購入者が少ないことも判明したといいます。夏でも日焼けや冷房対策として長袖シャツを着る人が多いため、半袖シャツは作らず長袖に一本化しています。
長袖シャツで暑い時はポロシャツとスラックスやスカートの組み合わせで、もちろん女子用のスラックスもあります。さらに細かい部分へのこだわりも見逃せません。「高校のアスリートコースの生徒など筋肉質の生徒もいるので、ポロシャツの袖は絞らず通気の良い形にしました」。
また、夏用に新たに作成したのがアメリカンスタイルのハーフパンツです。夏場にはポロシャツとハーフパンツでという組み合わせで、スポーティかつ涼しく着こなすことも可能。制服と同時に通学バッグやリュックサックなどもデザインを一新し、トートバッグなど新たなアイテムも計画中です。
現在の制服は2003年に制定されたコムサ・デ・モード・スクールレーベルのものですが、新しい制服はユナイテッド・アローズ社によるデザインになりました。ブランドありきの企画ではなかったものの、業者と協議を重ねる中でブランドが決まりました。「ユナイテッド・アローズ」という社名には、『目標に向かって直進する複数の矢(ARROWS)を束ねた(UNITED)もの』という意味が込められています。 八王子学園も進学以外に芸術系や運動系に特化したコースがあり、様々な方向性の生徒が切磋琢磨しているので、「ユナイテッド・アローズ」のイメージはまさに八王子学園にピッタリです。
新制服を発表したときは、「今までと全然違うので、何だか不思議」という声もありました。しかし、爽やかで落ち着いた基調カラーに加え、バリエーションも豊富でそれぞれが自分の好みや体感温度に合わせて自由に着こなしを決められることが分かり、生徒や保護者、受験生からも「新しい制服が楽しみ」という声が上がっています。
新しい制服は25年度に入学する中1と高1から着用を開始し、在校生は基本的にこれまでの制服で学校生活を送ります。毎年新入生が新制服を購入することになるので、創立100周年を迎える2028年には全生徒が新しい制服を着用することになるのです。
校舎も少しずつ手を加え学食もリニューアル
校舎のリニューアルにも取り組んでいきます。築50年ほどになる1番古い校舎を含め、校舎や施設の建て替えや改築を現在計画中。食堂や柔道場などの施設も、使い勝手や生徒のニーズを踏まえてリニューアルしていきます。
「今は食堂を利用できるのは高校生だけで、中学生はお弁当の注文ができるようになっています。しかし今は共働き家庭が増えており、毎日お弁当を作るのは大変なので、新しい食堂では中学生のスクールランチなども企画中です。給食とまではいかなくても、栄養バランスのよい定食などが提供できると保護者や生徒のニーズも高まるでしょう」(見世先生)。
また、八王子学園の高校募集では、音楽系や美術系などに加えてアスリートコースも設置されています。インターハイなどに出場するアスリートの生徒を食でも支えていくために、管理栄養士の意見もとり入れながらメニュー開発を進めることも計画しています。
制服と同様に地元を意識して、八王子で収穫できる農作物や地元の名物である八王子ラーメンなどをメニューに盛り込んで提供することも考えています。探究授業で生徒たちが例えば八王子の農業や食について調べたことが、食堂のメニューに反映できると生徒にとっても楽しい思い出になるはずです。
コース編成やカリキュラムの改変も模索
八王子学園は中高一貫コースと高校募集のコースでクラスが分かれていますが、4年後に100周年を迎える年度からは高2で文理選択をする段階で高校の特選・特進・進学コースなどで、内進生と高入生を混在させてクラスを編成する計画があります。「わが校の伝統である、多様な生徒を受け入れるコース編成を模索中です。中学に東大・医進コースと特進コースを設置しているので、その生徒たちが高校に進学した時、優秀な高入生たちと合同クラス編成にすることで切磋琢磨し合ってさらに高みを目指してほしいのです。今までもクラブや生徒会では一緒に活動してきましたが、クラス編成や学習面でも一緒に取り組めばいい刺激になり、モチベーションも上がると期待しています」(見世先生)。
中学開校以来、中3の夏休みに10日間のオーストラリア研修を実施しています。現地校の生徒と交流したりホストファミリーの家庭で過ごしますが、1学年100人前後と人数が多いため、全員同じ学校で受け入れてもらうことはできません。6~7校に分かれ、現地校の生徒がバディとなって校内を案内してくれたり一緒に授業を受けて過ごします。ここ数年はコロナ禍で中止していましたが、コロナが収束しているため今年から再開することが決まりました。
八王子学園の海外研修の特徴の1つは、デジタル・デトックスです。スマートフォンは持参不可なので、生徒たちは10日間はパソコンやスマートフォンなしで生活します。 「スマホを持ち込んだら、ホストファミリーの家でもずっと部屋にこもってゲームやメールに興じる可能性があります。せっかく海外にいるのに、それでは意味がありません」と見世先生は話します。生徒本人が保護者に連絡することができないので、各家庭には毎日、現地での様子のレポートを送って状況を伝えるようにしているそうです。
行く前は不安だったり成田空港を出発するときは自信なさげな顔をしていた生徒たちも、10日後には"やり遂げた"という自信や、"現地の生徒と仲良くなれた"という満足感を抱いて帰国します。「出国時と帰国時ではまったく表情が違いますね」と見世先生は笑顔で話します。
中3は海外研修に向けて春の遠足で立川の「TOKYO GLOBAL GATEWAY GREEN SPRINGS」に足を運びました。海外の雰囲気を模した空間で英語講師を相手に会話をしたり、英語を学ぶことのできる施設です。「ふだん授業を受けている先生とは違う講師を相手に1日英語を話す体験ができ、最初は消極的だった生徒から『もっと喋りたかった!』という声も上がっています。研修に向けた下準備ができ、不安を感じていた生徒たちも研修に意欲を見せています」(見世先生)。
さまざまな改革の成果が実を結び、生徒たちは勉強にも行事も主体的、意欲的でぐんぐん力を伸ばしています。しかし、見世先生は「時代が変わっても、ベースとなる基礎学力は非常に重要。ICTなど技術はどんどん進化していますが、機械や技術に振り回せれないように、土台をしっかり築いていきたい」と力をこめます。
そしてもう1つの軸が、八王子学園ならではの多様性です。「高校の体育祭のリレーでは、オリンピックレベルのアスリートコースの生徒も一緒に走ります。学園祭では音楽や美術など芸術系の生徒の素晴らしい演奏や作品を目にする機会があります。さまざまな能力を持つ生徒が同じ時間を共有することで、お互いが刺激を受けて「もっと頑張ろう」とモチベーションを高めるきっかけになっています。
校歌の一節に「自由の学び舎」とある通り、自由闊達な雰囲気が流れている八王子学園ですが、見世先生は「自由というのは好き放題にやることではなく『自分に由る(よる)』という意味」と語ります。自尊心を持って自律して自分の力を育てて独り立ちしていくことが重要で、そのうえで互いを支え合ったり尊重し合ってより良い学校生活を送り、ひいては世の中を作っていく人になってほしい、と見世先生は力強く締めくくりました。