理工系の先端教育を進める芝浦工業大学附属。創立100年を迎えた同校の第1回入試とは
2021年、中学の共学校化とカリキュラムの大改革を実施した芝浦工業大学附属。第一志望者が多い学校として知られています。2022年2月1日に実施された第1回入試の様子と受験生親子を惹きつける同校の教育の一部をご紹介します。〈取材・撮影・文/市村幸妙〉
「理工系の学びで社会課題の解決を目指す」が目標の中高一貫校
「理工系人材の育成」を教育の根幹に据え、私立中高の中でもひときわ存在感を示している芝浦工業大学附属中学高等学校。唯一無二の教育内容により、多くの受験生に選ばれている学校です。
校長の佐藤元哉先生は、
「本校を第一志望としてくださっている受験生からは、『第二志望校が選びにくい』と言われます。皆さん、教育内容を吟味して学校を選んでくださっており、ありがたいことです」と話します。
すべての教科や学校生活の中で“理工系マインド”が徹底されていることが大きな特長で、学校としての強みでもあります。
「全教員が“理工系”の学校であることにこだわりと誇りをもち、生徒たちと接しています」(佐藤校長先生)
ちなみに、共学校化1期生数は男子160名に対し、女子は40名となっています
【写真】は中1の生徒たち。自ら進んで「スクールサポーター」に立候補し、入試補助員として活躍
創立100周年を節目に、未来をめざす!
こうした教員の矜持に加え、校舎自体も理工系だけに留まらないクリエイティブな活動を支えられるよう、造られています。
このように特化した教育で注目を集める同校ですが、2021年度には共学校化と大胆なカリキュラム改革を実施。2021年入試では定員男女計75名の第1回入試(2月1日午前)だけで530名(うち女子93名)という、多くの受験生が志望しました。
年を追うごとに難度が上がり続けているため敬遠する受験生もいたでしょうが、2022年度の第1回入試では470名(うち女子102名)が出願。同校をより強く志願する受験生たちが集う結果となりました。
【写真】は2022年の創立100周年を記念して生徒たちが作成したポスターとロゴ。その思いは学校HPを確認ください(https://www.ijh.shibaura-it.ac.jp/guide/100th/)
全回の入試で女子受験生が増加
その他の入試機会は、第2回(2月2日午前)、特色入試(2月2日午後)、第3回(2月4日午前)の計4回。
同校の入試は男女の区分はなく、性別を問わず同じ土俵で実力を発揮し合い、合否判定がなされます。しかし2022年度入試で特筆すべきは、すべての回で女子の志願者数が増加していること。本物かつ綿密な理工系教育を貫く芝浦工業大学附属中学高等学校は、時代の要請に応えているのだということがわかります。
ここからジェンダーに捉われず、新時代の科学立国・日本を支える研究者やエンジニアが輩出されるのだろうと思うと、期待と感慨深さを抱かずにはいられません。
【写真】は2021年8月の授業風景/理系教科だけでなく全教科で科学技術との関わり合いを考える時間が設けられています
第1回入試当日の様子は?
新型コロナウイルス感染症対策として、芝浦工業大学附属中学校では以下を講じました。
・1月中旬以降は完全オンライン授業を実施
・受験生は1週間前から検温等の「体調管理カード」を記入して持参(必要に応じて提出)
・発熱対応における追試験の設定(インフルエンザなどは2月6日、コロナウイルス感染症は2月12日)
・入口を正面エントランス・ゲート棟入口・駐車場側入口の3か所に分ける。混雑が予想される時間帯は受験番号の奇数と偶数ごとで入場設定して密を避ける
・入口で検温および手指の消毒、各フロアにも消毒液の設置
・1教室30名以下の少人数で受けられるよう、入試会場を設定
・試験開始後の本人確認時以外のマスク着用
など
受験生の集合時間は8時30分で、開門は7時30分ですが、7時20分頃に学校へ到着すると、正面エントランスにはすでに50組ほどの受験生親子が整然と並んでいました。
【写真】はゲート棟入口付近に置かれた看板。学校までの道のりにも先生や在校生が案内している
春からの中学校生活に想いをはせて…
その様子はといえば、多くががんばりの成果を精一杯出すだけという自信と、春からこの学校で学ぶのだというワクワク感にあふれ、晴れ晴れとしています。中には校舎をバックにスマホで記念撮影する受験親子の姿も。
いずれにしても、親子ともども無事この日を迎えられたという安堵の表情が見られました。
開門は7時30分ぴったり。佐藤校長先生をはじめとした先生方や在校生有志からなる「スクールサポーター」の生徒たちが温かく声をかけ、受験生たちを出迎えます。
保護者は校舎内へは入れないので、入り口の手前でハイタッチをしたり、声援を送ったり、荷物のチェックをしたりとみな我が子を見届けます。
受験生たちは校舎へ入ると検温して手指消毒をし、「スクールサポーター」から注意事項が書かれた用紙を渡されたら、会場案内図を確認しながら受験番号ごとに記された階上の試験会場へと向かいます。
※2月2日の午後入試を受験する場合には、保護者1名のみ付添として入ることが可能です。
【写真】は、開門前、正面エントランスに並ぶ受験生親子たち
有志の生徒が務める「スクールサポーター」とは?
なお、有志の生徒が務める「スクールサポーター」は中1から高3までの生徒が揃います。自ら立候補し学校説明会での案内役など、1年間を通じて様々な役割を担ってきました。
この日も「入試補助員」として試験会場前に控えて受験生のサポートをしたり、駅から学校までの案内役を務めたりと大活躍。実はこれまでの入試では「スクールサポーター」に加え、進路が確定した高3生にも「入試補助員」を依頼していましたが、今年はスクールサポーターを希望する生徒が多く、一般の生徒の手を借りずとも彼らだけで補えたのだそう。学校が大好きな生徒たちが、いかに手を挙げて学校生活を楽しみながら充実させているのかがわかります。
「スクールサポーター」を務める中1の女子生徒に学校生活の様子を聞くと、
「探究やGC(グローバルコミュニケーション)の授業が特に楽しいです。授業で扱ったドローンをもっと操縦したいと思い、自宅用に購入しました」と笑います。
なお彼女は、元々算数は好きで、暗記科目が苦手だったことも、社会科が入試科目にない同校を選んだきっかけの一つだったそうです。
【写真】は、校舎へ入るときの感染防止対策。落ち着いた様子で検温や消毒に臨んでいました
理系ではなく、理工系の意味とは
2022年度入試の変更点として、国語・算数・理科の3教科のすべてに同校独自の「リスニング問題」が導入されました。2021年では国語と算数で実施されたこの「リスニング問題」は、各教科の試験の最初に読み上げられた問題をメモを取るなどしながら解答していくというものです。
この出題の狙いを広報部長の斎藤貢市先生はこう話します。
「2021年度から本格的に始まった探究型の授業などで、グループ学習の機会がより増えました。そこで重要となったのが、耳で聴いた情報を正確に受け取ることができるか、聴くことで物事をイメージできるかという“聴く力”です。この力がなければ駄目ということではありませんが、学力同様に配点をしようという意図で『リスニング問題』を実施します」
視覚だけに頼らず、聴覚も鍛えることで、よりバランスの取れた能力を伸ばす同校。様々な刺激が学校生活の中にあることで、視野も広がりますし、思考も活性化されます。
【写真】は、記念撮影する受験生など、和やかなムードに包まれていました
聴いて解く「リスリング問題」導入の効果
「今の中1生のコミュニケーション能力が上がっていると感じるのは、『リスニング問題』を経験したことと無関係ではないと思っています」と斎藤先生が教えてくれました。
同校で大切にされているのが「STEAM教育」。これからの世界を生きていく子どもたちに必要なのは科学だけでなく、技術、工学、情報、数学、芸術としており、これらにも力を入れて取り組んでいます。だからこそ同校は「理工系」を謳っているのです。
それに加えて、2021年度からより追究しているのが「探究」の学びです。すべての事象に対して「なぜ」という気持ちを重視しつつ考えを深め、最適解を選んでいきます。
さらにかねてより力を入れているのが、「言語教育」です。コミュニケーションの基礎となる、日本語・英語、さらにコンピュータ言語を学ぶことで、語彙を増やして表現力をアップさせること、論理的思考力などを育んでいます。
【写真】ゲート棟入口から入ると、階段を登る受験生を建物外から見送れるというメリットがあります
男子と女子が互いに切磋琢磨して学校生活を送る
なお、現中1では男子は理数系が得意で、女子はコミュニケーション能力に長けており、授業を引っ張る存在という傾向があるそうです。それぞれの良い部分を活かし合いながら、尊重し合いつつ、切磋琢磨できる学校生活を送っています。
こうした学びが日々の生活の中に浸透し、ワクワクしながら学校生活を送れるような教育実践がなされている芝浦工業大学附属中学高等学校。
在校生や先生方の瞳の輝きが受験生たちへ希望を抱かせる求心力となり、より強い志望動機へと結びついているのです。
【写真】ゆりかもめ「新豊洲駅」から徒歩1分。地下鉄有楽町線「豊洲駅」からも歩いて8分程度だ
【写真】駐車場側入口では、ネイティブのモーガン先生が出迎えてくれました