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未来をつくる教育を展開しようとする教育者が集結!「第1回大阪教育フォーラム」レポートPart2

2018年12月15日、大阪にて「第1回大阪教育フォーラム」が開催されました。2019年4月、大阪において全国初の公設民営による中高一貫校「大阪市立水都国際中学校・水都国際高等学校」の開校と、「香里ヌヴェール学院中学校・高等学校」の改革後2019年全学年入学と、新しい動きが激しく起こる大阪教育市場。両校の教育活動によって子どもたちの成長や教育方法の展開がどのようになるのでしょうか。

Part1はこちらから


基調講演2
「21世紀型教育が実現すること~香里ヌヴェール学院を通して」


そして、『21世紀型教育が実現すること 〜香里ヌヴェール学院を通して』と題し、香里ヌヴェール学院学院長・21世紀型教育機構理事の石川一郎氏が講演しました。
まずは、聴衆にいきなり「あなたならリンゴをどう説明するか」と問いを投げかけます。そして、隣人と対話を促し、その内容を発表してもらいました。特徴を述べたり、性質を説明したり、出題の意図を探るような発言もなされました。
石川氏によると、この問いは「何がリンゴたらしめているのか」をどういうアプローチで行ったのかを可視化するものだと言います。メディアアーティスト・Pixie Dust Technologies.Inc CEO・筑波大学准教授・学長補佐の落合陽一氏によると、「言語的アプローチ」「数学的アプローチ」「アート的なアプローチ」「物理的なアプローチ」があるといいます。この問いを思考力の視点で斬ると、色々見えてくる世界があるとのこと。つい「知識を持つかどうか」という視点で子どもの力を測ろうとするが、京都大学の特色入試のように骨太の問題を通して、さまざまなアプローチができる学生を獲得しようとする動きがあることを示唆します。21世紀型教育機構加盟校では、教育の理念の根底に「Creative Thinking for Others」が根付いており、こうした複数のアプローチができるような教育活動を行っているとのことです。

そもそも、大学でしっかり学べる子を送るべく、大学入学準備教育(プレップスクール)を行うことが21世紀型教育機構の原点だといいます。大学での学びは「知識の再現」では足りません。例えば、海外の大学ではチュートリアルが行われます。教授と生徒が1:3で対話・議論します。そして、教科書の内容理解のさい、別途15時間〜20時間の準備時間を割くことが求められます。つまり、知識を有することは当然で、それらを組み合わせて議論を行うことが求められます。そして、日本の大学教育においても、こうした水準まで達することが理想的です。
そして、社会が変化するなかで、知識を学んですぐに出力できれば要が足りる時代は終わりつつあります。今の時代はプロジェクトベースで行動することが求めれます。つまり定めた目標に向けて、あなたはどう考え、計画し、実行するかが問われる時代です。
そして、そうした教育が施されているのか、学校に対して第三者評価を行う機関が求められるのは必然です。21世紀型教育機構はアグレディテーションチーム(学校・授業評価を通して21世紀型教育を行う認証機関)を有し、認定を行っています。教員という職人が教室という閉じた空間で生み出し、結果としてブラックボックスと化す学校の授業や、見えにくい学校の取り組みを可視化し、学校の発展を促す仕組みは、他の私学にはあまり見られません。こうした仕組みが、未来をつくる子どもたちを生み出す教育をつくるのでしょう。

トークセッション2
「来春新たに開校する水都国際のまだ見ぬ新しい教育への挑戦~ワークショップ付き」


最後に、『来春新たに開校する水都国際のまだ見ぬ新しい教育への挑戦』と題し、大阪YMCAの熊谷優一氏、太田晃介氏による、水都国際中高の教育プログラムや学校等の紹介が行われました。
熊谷氏と太田氏は、日本の教育実践とバカロレアとの融合というチャレンジへの決意を表明していました。そもそも、IBは平和を希求することを理念とし、50年前に生まれた海外転勤者向けの子の教育を担保する仕組みです。小学校高学年〜中学はMYP、大学進学に向けたプログラムはDPといいます。世界で5000校以上で実施され、日本でも2013年の閣議決定と経団連の後押しによってIB校の設置を求められました。通常DPは相当な費用がかかるところを、水都国際中高は公立学校と同じ額で教育を受けることができることから、大きな期待が寄せられているといいます。

教育プログラムのなかで、特徴的なのはTOK(知の理論)とのことです。例えば「NEGATIVE CORNERS」というセクション。4つの選択肢の中からネガティブなものを選ぼうという問いが課されます。悪影響は人によって異なるとのこと。講演の中で、「ドラえもんのキャラクターの中で、のび太の成長に最も悪影響を与えるキャラクターはどれか」と問いが投げかけられました。例えばジャイアンと答えたさいに、その理由を掘り下げます。「暴力は全てのやる気をなくしてしまう」というのであれば、いじめなど、経験や価値観によって影響を与えていることを振り返ります。「何かを知っている」というより「知っているのはなぜか」を伝えることを大切にしている授業とのことです。こうした思考の訓練により、例えば東京大学の帰国生入試の小論文「人間以外の生物に『こころ』は存在するか」という問いにも向き合える素養が育つといいます。こうした話から、母語、そして対話して、思考することの重要性を実感しました。 そして、IBでは目指す人物像が10個掲げられており、それらを身につけることで、新しいことをやっていこうというマインドを育むとのことでした。
こうしてIBの教育観に触れると、知識の習得と活用が自己の意思にはない外側から強く求められる日本の教育とは異なる様子が伝わります。まるで学校教育を通して内燃機関をつくりあげる感覚に近いものがあります。自らの価値観を自覚し、どういう世界をつくるのか、ということが深い次元で問う教育であることがうかがえました。

また、このセッションではオックスフォード大学に先日合格した原氏と、その支援をしたGLICCの鈴木裕之氏より、GCSE(イングランド・ウェールズ・北アイルランドにおいて義務教育(5歳~16歳)を修了するときに受験する試験)の紹介がありました。原氏より、知識を覚えることは前提で、試験ではそれをもとにしたエッセイを通し、創造的思考力が問われるものであったと報告がありました。知識をもとに思考できる、インプットをもとにどうアウトプットして創造的に考えるか、批判的にリソースを見てどう解決するか。まさに、高次の思考が問われる試験です。また、学校の先生は評価するが絶対的ではないといいます。あくまでも外部機関が評価します。そして、両者に差がある場合は不服申し立てができ、再試験が受けられます。その点、日本では評価者が上位になるゆえに、公正な制度として機能していることがうかがえます。なお、評価には許容範囲がある一方、採点者も評価される制度が整っているとのことです。

加えて、太田氏はアメリカ・サンディエゴのチャータースクール・High Tech High(HTH)の視察から帰国した直後であり、同校の報告もありました。HTHは全部で14校あり、教職大学院を有する学校です。HUMANITY、MATH、SCIENCEを中心に学び、ARTとMATHは必ず1日1時間あります。完全なるProject Based Learningを展開しているとのこと。カリキュラムは先生ごとに決め、「その子たちに大事だと思える授業をつくる」ことが求められています。1プロジェクト6週間が標準で、学年が上がると期間は長くなるとのこと。最後にはエキシビションがあります。
全生徒の3割は貧困層であり、HTH運営側はあえて入学させているそうです。もちろんSATも受験しますが、全米の平均よりもカリフォルニア州の平均は高く、HTHの平均は州の平均よりも高いそうです。共通テストを意識した指導をしている効果があるそうです。校内にさまざまなアート作品が展示され、学校の中が美術館のようだったと太田氏は言います。作品にはHUMANITYとSCIENCEが必ず入っており、文化として根付かせようという意図を感じます。

日本の教育は学習指導要領により必修科目・選択科目が定められ、道徳の教科化や高大接続改革による高校改革が進んでいる状況にあります。日本はどこへいっても教育水準が保たれていることが強みです。しかしながら、総合的な学習の時間の取り扱いが学校により異なることや、大学入試に多分な影響を受けること、飛び級制度等子どもたちの能力に合わせて弾力的に運用しにくいこと、という問題も抱えています。ただ、太田氏は「IBも21世紀型教育機構もGCSEやAクラスも『目の前の子どもたちに必要な力をつけよう』という同じ頂上を目指している」といい、生徒がその学び方が選べる世界が理想だと述べます。人それぞれ持つ才能も違い、育みたい才能も異なるものです。ゆえに、教育ももっと弾力性のあるものが求められるといえます。そうした選択肢が、時代背景を根拠に広がりつつあります。

そして、太田氏は最後にレゴで「アヒルをつくろう」というワークを行いました。なお、太田氏はLEGOⓇ SERIOUS PLAYⓇ(LSP)の公認ファシリテーターです。
グループをつくり、まずは個々でレゴを使いアヒルをつくります。そして、机で配置してその意味を語るワークです。
太田氏は、思考の基本は言語であるといいます。そして、安心安全に話し合う場づくりが大事だとも指摘します。楽しみながら、自他の違いを理解し、最終的にそれらを統合します。
レゴという媒体があると、言語化しやすいものです。そして、制作物に意味を与え、メタファを入れ、配置を考える過程で、ストーリーや論理関係を構築することに繋がります。
そもそも、思考の本質は推論。認知心理学では、推論とはある前提から結論を導く精神活動のことを指します。ストーリーには、持っている知識や背景が現れます。その背景を出すことができるのがLSPとのこと。さまざまな学習理論が詰め込まれ、この取り組みを通して実証研究する研究者もいるとのこと。太田氏は、学習するツールとしてLSPを利用しているということです。
こうした学習理論を駆使しながら、勘と経験と度胸に頼りがちな学校教育をどう変えるのかを模索する教師が、水都国際中高に存在します。

本フォーラムは、さまざまな思考スキルを訓練し、未来をつくる教育を展開しようとする教育者が集結した会だったといえます。IB&MEXT(文部科学省)がつくる水都国際中高、21世紀型教育機構の加盟校である香里ヌヴェール学院、HUMANITYとSCIENCEとARTとMATHの複合型教育・HTH、創造的思考力を問うGCSE&Aクラス。それぞれの教育がつくる未来と、そうした空間で育まれる才能に期待します。そして、これから起こるであろう大阪における教育の新たなウネリを、先んじて感じることができたひと時でした。