2/4(日)かえつ有明「AL思考力特待入試」レポート
2月4日午前、かえつ有明の「AL(アクティブラーニング)思考力特待入試」が実施されました。出願者数で163名、前年対比50名のプラスです。実受験者も81名に達しました。2月4日に実施する入試で、これだけの受験者が集まるということからも、かえつ有明の人気の高さが伺えます。(取材・撮影・文/スタディエクステンション代表・鈴木裕之)
かえつ有明「知のコードプロジェクト」が育てたAL思考力入試
会場に案内する前の集合場所であるホールでは大勢の受験者と保護者が試験開始を静かに待っていました。ホールで試験実施についての進行説明をする井上樹里先生は、「かえつのアクティブラーニング入試は例年『楽しかった』という感想をいただける入試です。ぜひ楽しんでいってください」と受験生にエールを送ります。
AL思考力入試は、「かえつ有明 知のコードプロジェクト」が推進、育ててきた入試で、今年で3年目を迎えます(初年度の名称は「難関思考力入試」)。
入試形態などもかなり知れ渡ってきて、同じような入試をする学校も出てきましたが、この分野で常に先頭を走ってきたのがかえつ有明です。自主的な研修や勉強会も数多く実施してきました。ですから、AL入試のコンセプトや具体的な評価基準は、教科を超えて多くの先生方の間ですでに共有されています。
そのような仲間を、教育統括部長の佐野和之先生は「チームかえつ」と呼びます。入試期間中の採点・準備で忙しいさ中であるにも関わらず、AL入試のための予行演習を何度も行ったそうです。それも、ただ進行をチェックするというレベルではなく、先生が受験生になってアイスブレイクのゲームもすべて実際にやってみるのだそうです。最後の最後までよりよい入試にしようとする熱い教員チ―ムの存在がこの入試を支えているのです。
試験会場はカフェテリア!
在校生に引率されて連れてこられた試験会場はカフェテリアです。
カフェテリアで入試が行われるなどという発想だけでも驚かされますが、81名もの受験生を一つの会場に集めて入試を行うというのが、「常識破り」の入試であることを強く印象づけます。カフェテリアにはBGMが流れていて、入学試験にありがちな厳つい雰囲気はまったくありません。
6名が1グループとなり、テーブルに座ります。凄いなと感じたのは、席に着くなり早速いくつかのテーブルで自己紹介が始まっていたことです。先生からの指示もないうちに自然とそういう雰囲気が出来あがっていることが不思議でした。
験生を「緊張モード」から「解放モード」へと引き込む!
この日の入試の司会進行役は英語科の筒井美帆先生。TEDのプレゼンテーターのように両手でジェスチェーを使いながらテンポよく指示を出します。
最初はアイスブレイクとして、となりの子ども同士で後出しジャンケンゲームを実施、それが終わるとオリジナルの「かえつ有明ゲーム」を披露し、子どもたちも立ち上がってポーズをとるなど、受験生を「緊張モード」から「解放モード」へとあっという間に引き込んでいきます。
桃太郎以外を主役にしてストーリーを作り、ひとつの場面を選ぶ
アイスブレイクが終わると、入試問題が配られます。問題といってもそれはオリジナルのイラストが描かれた「ももたろう」の冊子です。ストーリーは昔話の「ももたろう」そのまま。まずは一人一人がその文章を黙読します。
ここまでの時間がわずか15分ほど。タイマーを常に表示し、和やかな雰囲気とは対照的に一つ一つのアクティビティは厳密なタイムスケジュールによって運営されています。
全員が読み終わったところで課題が提示されます。その課題というのは、
「桃太郎以外を主役にしてストーリーを作り、ひとつの場面を選ぶ」
というものでした。各グループに封筒が配られ、グループごとに主役が指定されます。
配役を決め、考えたストーリーを「演じてみよう!」
ここからはチームで考える時間です。指定されたキャラクターを主役にしたストーリー作成が開始されました。
子どもたちの発想は柔軟です。「サルだからキビ団子では釣られない。バナナでしょ」など、ストーリーの細部を変更し、ホワイトボードにアイディアを書き出していきます。
だいたいのスト-リーが出来上がったところで、次の課題が提示されます。その課題とは
「演じてみよう!」
とまどいつつも嬉しそうな、子どもたちからのどよめきが会場を包みます。さっそく各グループとも配役を決め始めます。配役決めのルールはただ一つ、「全員が出演すること」です。
3分で配役を決め、簡単な打ち合わせをしている間、カフェテリア中央にスペースが作られ、舞台の準備が整います。そこで演じるグループとそれを見るグループが分かれます。演じる時間は3分。みな台本が十分ではない中でも即興を交えながら自分の役を演じていきます。
演じるグループが終了するたびに会場のあちこちで拍手が沸き起こります。片方のグループの演技が終わると、今度は演じる側と見る側が入れ替わります。このようにして、それぞれのグループが異なる主役の「ももたろう」を鑑賞します。だれが主人公になるかで物語の見え方が変わることを子どもたちは実感したことでしょう。その気づきを振り返り、各自が一つの考えを1枚のふせんに書き出していきます。
数多くのふせんが次々に中央の模造紙に貼られていきました。それをグループで共有し、カテゴライズしながら対話・議論を深めます。その後グループでの話し合いの内容を発表。視点が変わると物語が違った印象になることが確認されました。
『当たり前ではないかもしれないな』となる問いとは…?
ここからいったん「ももたろう」を離れて、自分の生活の中で「当たり前だな」と感じていることをふせんに書き出してみるという課題に移ります。そして、その書き出した「当たり前」の中でみなが一番はっとしたことを選び出します。
さらに次の課題は、今選んだ「はっとしたこと」について、
「それが『当たり前ではないかもしれないな』となる問いを作ろう」
でした。
当たり前だと思っていることの前提に子どもたちの思考は向かっていきます。視点の転換が起こっていくのです。
「なぜ」「どのように」「もしも」といった言葉を使ってみるとよいかもしれないといったヒントをもとに各グループが対話を深めていきます。
「問い」をホワイトボードに書き出し、気づいたことを伝える
元の「当たり前だと思っていたこと」とそうではないかもしれないとなる「問い」がホワイトボードに書き出されます。
その作業が終わると、他のグループの問いを見て回り、自分が気づいたことを、ふせんを貼って伝えていきます。
筒井先生は、試験の最後に次のようなメッセージを受験生に投げかけました。
「この入試で私たちが伝えたかったことは、当たり前だと感じていることに疑問を持ってみることで世の中が変わっていくということです。」
考えてみると、まさに今実施しているAL入試も、従来の入試のあり方に疑問を持って出来上がったものです。多様である子どもたちの可能性は、一つの指標では測れないはずだという思いがAL入試を生み出したのだとすれば、その思いはきっと世の中を少しずつ変えていくことになるでしょう。少なくともかえつ有明の教育にはそのような変化が起こっているようです。
常に子どもが中心にいる「チームかえつ」
入試が終わってから、振り返りをしていた先生方に「凄い入試ですね」と声をかけると、みな口々に、子どもたちのポテンシャルが高いことに言及します。自分たちではなく、常に子どもが中心にいるのです。
「チームかえつ」は、リーダーシップをシェアしながら、それを子どもたちに授けていく仲間なのです。
「知のコード」のルーブリックで子どもたちのパフォーマンスを評...
受験生が帰っていった後、先生方は「知のコード」をブレイクダウンしたルーブリックを元に、それぞれの目から見えた子どもたちのパフォーマンスを言語化し、評価していきます。
もちろんパフォーマンスというのは、それと分かる形で外に表出されているものだけではなく、内側に秘めたパッションがほんの一瞬表れ出たものもあります。
そのわずかな光を逃さずに対話・議論をしていく「チームかえつ」の姿は、日々実践しているかえつ有明の教育の質そのものを表していました。
入試問題は学校の顔
入試問題は学校の顔と言われますが、それはペーパー試験だけでなく、こういう入試のあり方にも如実に表れるものなのです。取材をしながら、このような入試があり得るということに驚嘆の念を禁じ得ませんでした。