2016年は「習い事入試」が生まれた画期的な年に!(1/2)
すでに4年後となった「2020年大学入試改革」をはじめ、日本の教育や学力観が大きく変わろうとしている節目に、中学入試の形態や出題も、より多様なものになっています。
すでに2016年の帰国生入試や、1月の茨城・埼玉などの中学入試がスタートしている時期ですが、先には当ブログの記事で、今春2016年に首都圏中学入試で実施される「英語(選択)入試」と「適性検査(思考力・PISA)型入試」の増加についてご紹介しました。 そしてついに、今春2016年の中学入試には、新たなコンセプトと形態(スタイル)の入試が登場しました。いわゆる「習い事(スポーツ・芸術・音楽・英会話)入試」です。 そして今春2016年入試で生まれた新たな入試の象徴が、たとえば中村中学校〈東京都江東区・女子校〉の「ポテンシャル入試」です。 それゆえ同校のWebサイトの「入試情報」→「募集要項」のページには、アドミッション・ポリシーとして上記の意図が紹介され、「出願資格」にも「中村の中高一貫教育を望み、教室から世界を変えるという志に共鳴する者」という一項が明記されています。 第1回は2月2日(火)、第2回は2月5日(金)のAMから、「書類審査・作文・面接」で実施(本人が書く志願書・活動報告書・作文および面接を、それぞれA~Dの4段階で評価し、総合的に判定)されます。 同校Webサイトにはサンプル問題が提示され、そのなかには「例年の設問」と「変更後の設問」の両方が示され、出題のなかで問う力と解答の形式が、従来とは違ったものになることも示されています。そこには様々な出題の工夫がありますが、そこで問われる力は、この先の変化する大学入試で問われるような「与えられた情報を整理し、その場で考え、表現する力(思考力・判断力・表現力)」といえるかもしれません。 また、今回ご紹介した中村中学校の「ポテンシャル入試」が、従来から高校入試や大学入試で行われてきた「スポーツ推薦入試」や「一能(一芸)入試」と大きく違うところは、特定の分野(スポーツや芸術などの)で優秀な能力を持つ生徒を迎え入れるという狙いではなく、そうした子どもたちに英語の力はもちろん、これからの時代に求められる学力やコミュニケーション力をバランス良く身につけさせ、将来の大学進学や職業選択を含めたキャリアデザイン(ライフデザイン)につながる力を中高6年間で育て、今後のグローバルな社会で力を発揮できる人間力を育てることを目標としていることです。 そうした意味では、「中高一貫イノベーションコース」を昨年度から開設した東京立正中学校〈東京都杉並区・共学校〉が、今春2016年入試から新たに2月1日(月)AMに実施する「AO(スポーツ・芸術・習い事)入試」も、ある意味では先の中村中の「ポテンシャル入試」と同様のコンセプトの新入試といえるでしょう。変化しつつある受験形態
今後の社会で求められる力がこれまでの時代と変わってきたことによって、大学入試のみならず、中学入試と中高一貫教育の「ディプロマポリシー⇒カリキュラムポリシー⇒アドミッションポリシー」も変化しつつあると考えてよいでしょう。「習い事(スポーツ・芸術・音楽・英会話)入試」導入!
現在の若い世代の小学生の保護者は、わが子に多様な価値ある経験をさせてあげたいと願うことの多い世代。そのため幼少時から、わが子が興味を持ったり、好きなことに熱中できる場や機会を与えるために、さまざまな習い事や体験をさせてあげようとする家庭が増えています。
銀行などの調査による、一家庭あたりの「子ども(一人)にかける教育費(学校・学校外)」が決して低くならないのは、そうした「習い事」にかける費用が多くなっているからだと考えられます。
そして、そういった、自身が好きな「習い後やスポーツ」に幼少時~小学生時代に打ち込んできた子どもたちには、相当に高い潜在的能力(=ポテンシャル)があり、そういうわが子の活動をサポートしてきた家庭には、やはり高い教育力と保護者の意識があると、私立中高一貫校にも受け止められるようになってきました。教育改革「ZERO.1」
この「ポテンシャル入試」は、同校が新たにこの2016年度からの始動を打ち出した“教室から世界を変える”教育改革「ZERO.1」のコンセプトを背景に生まれたもので、従来の「国・算(国・算・社・理)」の教科型で行われる「コンピテンシー入試」と、この新たな「ポテンシャル入試」の両方のスタイルの入試を行うことで、多彩なポテンシャルをもつ生徒が共鳴し合う新たな教育空間を創造し、そこで魅力的な人間集団を育成するための入試改革として打ち出されたものです。
そして、この教育改革「ZERO.1」は、「全員レギュラー(=一人もあきらめない)」教育を、『学び合い』のなかで実現しようとする同校の新たな教育の理想に基づくものです。様々な価値観や異なる意見をもつクラスメイトや仲間が、互いに尊い違いを認め合い、それぞれが豊かな才能を開花させる空間、それが「ZERO.1」のめざすところです。
そのなかで先の「ポテンシャル入試」は、「様々なポテンシャルを持った仲間と出会い、刺激しあい、想像を超えた発見や失敗を起こし、ゼロから「1」を生み出す空間をつくりたい。芸術・スポーツ・英語をはじめ多方面の分野で高い能力を、またトレーニングを受けた経験を持つ小学生を対象とした入試です」と説明されています。ポテンシャル試験の一例-中村学園
この作文は、試験時間が9:00~9:30の30分間で、文字数は400字程度。作文の題材も、「身近な人」と「言葉」という二つのテーマが、すでに同校Webサイトに提示されていて、入試当日はテーマに基づいたタイトルが示されるということです。
面接は10分間程度の個人面接で、そのうち3分間を自己アピールの時間として、残りの7分で面接が行われます(英語による面接を希望した場合、3分間はネイティブとの英会話、7分間は日本語による面接)。
一方、2科(国・算)または4科(国・算・社・理)の選択で行われる教科型の「コンピテンシー入試」についても、「コンピテンシーとは総合的変化対応能力のこと。問題を解決するために、自分で情報を収集し、総合していく力です。コンピテンシー入試とは、国語・算数・理科・社会の基本的な知識の定着を土台とし、さらに思考する力や考えるプロセスを見ることも視野に入れた入試です」と説明されています。問われる力・求められる力
このように、新たな時代に求められる力を、中学入試の出題や形態に反映し、多様な個性をもつ生徒を迎え入れようとする私立中高一貫校が現れたことも、今春2016年入試の大きな変化のひとつであり、ある意味で歴史的な転機を迎えたと解釈することもできます。
多様な入試のあり方に向けて、多様な受験準備のスタイルや、幼少時~小学生時代の過ごし方を経てきた小学生が、それぞれの家庭や保護者、子どもたち自身の価値観や希望に合った教育と入試を実践する私立中学校を見つけ、そこを受験していける。そんな新たな時代がやってきたということもできるでしょう。
あえて表現するならば、中学入試全体が、従来は(2~3年の塾通いが必須であった)いわば「単線型」の受験準備スタイルから、多様な受験準備のスタイル(塾での受験勉強と習い事やスポーツとの両立など)から中学受験にチャレンジすることのできる「複線型」あるいは「複々線型」の受験準備スタイルを受け入れる入試に、少しずつ変わってきたといってもいいのかもしれません。「ポテンシャル入試」の意図は?