学校特集
東京成徳大学中学・高等学校2018
掲載日:2018年8月21日(火)
2020年度から実施される大学入試改革に向け、思考力・判断力・表現力や英語の4技能の獲得が課題となっているなか、独自の画期的なカリキュラムを推し進めているのが東京成徳大学中学・高等学校です。
同校は、2025年の創立100周年に向けて学習計画「東京成徳ビジョン100」を掲げていますが、これは「『徳を成す』という建学の精神をもつグローバル人材の育成」を目指したものです。その学習計画が通常の授業に生かされるのはもちろん、哲学的アクティブラーニングともいえる「自分を深める学習」や、大学や企業と提携した理科プロジェクト「TSP(Tokyo seitoku Science Program)」などもありますが、なかでも要となるのが「ニュージーランド(NZ)学期留学」です。留学に向けた狙いや生徒たちの帰国後の変化などについて、国際交流部長の茂原輝光先生に伺いました。
長年のノウハウに裏打ちされた「学期留学」が
昨年度の入学生から必修に
●語学力の向上と精神的成長を目指す
NZ学期留学は2003年から続くもので、今年で16回目を迎えます。一昨年までは中3の希望者のみで実施され、毎年3~4割程度が参加していましたが、2017年度の入学生からは全員必修に。現中2以下は中3の3学期(1月上旬~4月上旬)にオークランドとウェリントンで約3カ月間ホームステイをしながら、現地校の生徒と一緒に授業を受けることになります。
このプログラムは原則全員参加。しかも1学期間という長期の留学プログラムを実施する私立中高一貫校は他に類をみません。同校が1学年約160名の全員参加に踏み切ったのは、長年にわたる現地との交流や情報が蓄積されるとともに、留学後の生徒たちの成長ぶりに確かな手応えを感じているからです。
実際、学期留学後に自分の将来を真剣に考えはじめて学習姿勢が変わり、高校の生徒会役員に留学参加者が多いというのも、その成果の表れでしょう。また、過去3年間の国公立大学合格者41名のうち、多くが学期留学経験者だったという実績も。留学先での経験は、英語力アップや異文化理解力はもちろんのこと、自律的な生き方や考え方を身につける大きなきっかけとなっているのです。
●留学中の3カ月間はどう過ごす?
「海外留学の成果は、現地でどう過ごすかが鍵になります」と話すのは国際交流部長の茂原輝光先生です。
せっかく留学しても、日本人同士で固まり、英語をほとんど話さず、現地の方々と積極的に交流しないのではまったく意味がありません。その点、同校の留学制度は現地での"生活"に徹底的にこだわっています。
「本校での留学は現地校1校につき、多くても2~3人まで。1クラスに1人、個別ホームステイという形式になっています。同じ学校に行く生徒の組み合わせは、つかず離れずの関係を保てるように学年担任が選び、一人ひとりがなるべく独立して留学生活を過ごせるように心がけています」(茂原先生)
そのため、来年から始まる「全員必修」に向け、すでに現地校を50校は確保しているとか。つまり、NZの人々と英語でコミュニケーションしなければ生活できない状況に身を置くため、生徒たちは必死にならざるを得ないわけです。
当然、ここには過去のさまざまな経験が生かされています。
以前、留学後に「NZの人たちが何も察してくれなくて、最初はつらかった」と言った生徒がいたそうです。
「少し引っ込み思案な生徒だったのですが、留学してみて、自分から声を発しなければ相手は気づいてくれない。『ハロー』でもよいから声をかけなければ、自分の存在にも気づいてもらえないとわかったそうです」(茂原先生)
海外に出れば、「何も言わなくても察してくれる」ということはほとんどありません。最初こそ戸惑ったものの、自分の考えや希望を言葉に出し、行動しようと努力しはじめたことで、その生徒の現地での生活はとても充実したものになったそうです。
●送り出す時の合言葉は「人のせいにしない」
また、学期留学の効果としてもう一つ挙げられるのは「親離れ」「子離れ」ができることだと茂原先生は言います。スマートフォンの持参は許可していないため、保護者の方がお子さんの様子がわかるのは、学校がホームページにアップする週1回のレポートのみ。また、生徒たちも滞在先で困ることがあった時には、NZ在住の日本人アドバイザーに相談するよう指導されます。
「外国では、日本と同じように過ごせるわけではありませんし、日本での考え方を持ち込むとうまくいかないこともあります。現地では、現地のやり方で解決しなくてはならないことを学んでもらいたいのです」と茂原先生。
さまざまな場面でカルチャーショックを受け、自分の気持ちをうまく伝えられない歯痒さを経験しながら、少しずつ自力で乗り越えていく。保護者の方々は心配かもしれませんが、生徒たちはこの期間に、確実に成長を遂げていくのです。
「NZに旅立つ際には『人のせいにしない』を、いわば合言葉のようにして送り出しています。文化も環境も違うので、わからないこと、つらいことも多々あるでしょう。それでも目の前のことに目を背けることなく、現実を受け入れて、一歩ずつ進んでほしい。それができた生徒は、帰国してからも物事の見方や生活態度がポジティブになります。その様子を見ていると、留学中に頑張って、良い結果を持ち帰ってきたのだなと嬉しくなります」(茂原先生)
●全員参加でこう変わる! さらに充実する事前研修の取り組み
長くも短くもある3カ月間でひと回りもふた回りも大きく成長する生徒たちですが、その留学体験をさらに豊かなものにするために、同校では事前研修も充実させています。
これまでの希望制の学期留学では、出発前の数カ月間をかけて英会話やNZのエージェントによるガイダンスなどを事前研修として行っていました。この事前研修も年々ブラッシュアップし続けていて、例えばある年度では半年間、英語を絶え間なく口にする練習を行ったところ、現地校から「今年の生徒は、今までと同じ学年? 去年とはまったく違う」という驚きの反応があったそうです。
そこで、これまで数カ月間だった事前研修を、中1から学期留学に旅立つまでの2年半をかけ、じっくりと行うことにしたのです。トレーニングを積めば積むほど、物怖じせずに現地の方々とコミュニケーションをとれるようになり、留学の成果はさらに増すことになります。
「現地でのプログラムはすでにしっかりと構築されていますので、事前準備に時間をかけることで、さらなる成果を目指したいと思っています。全員参加となれば、入学した時点から学校生活をフルに使って準備することができます。1年目は、まずは『ハロー』から始まって自分の思いを発信し、相手を受け止めようとするマインドを育て、中3では1分間トークなども。生徒たちがどう伸びていくか、非常に楽しみです」(茂原先生)
つまり普段の授業そのものが「事前学習」となるのです。現在、中学生には、「聞く・話す」をメインとした英語の授業が週に8時間設けられています。茂原先生が「正しい文法やスペルは重要視せず、まずは話すことに慣れさせます」と言うとおり、専任のネイティブの先生5人による英会話の授業や、検定教科書のほかにケンブリッジ大学出版の「Connect」を使用した授業を週に2時間行い、コミュニカティブな英語の習得を目指します。
「本校では国際的に通用するケンブリッジ英検を採用しているのですが、これは学期留学の対策にも打ってつけのカリキュラムになっています」(茂原先生)
また、イングリッシュキャンプも精力的に開催。今年度の中1は、1学期に日帰りのデイキャンプ、2学期に1泊のキャンプ、3学期には東京大学に在籍する各国からの留学生と一緒に丸一日動物園と博物館を巡り、ミーティングを行います。
このように、コミュニケーション重視の英語の授業や体験プログラムを終えた生徒たちは、初対面の外国の方にもひるむことなく対話できるスキルを身につけていきます。
現地では羊の選別に挑戦!
子羊にミルクを飲ませる体験も!!
●中3の3学期の留学が最良である理由とは?
なぜ同校のNZ留学が中3の3学期に行われるのか、その理由を茂原先生に質問すると「中学生には高校生よりも周囲に合わせて自分を変化させられる柔軟性と伸びしろがあります。また、中高一貫校の3年生の3学期は高校受験もなく、部活もひと区切りついた、いわば空白の時期です。そのころNZは真夏で、1年中で最も良い季節です。しかも、NZの学校は4学期制で1学期が2月から始まります。つまり生徒たちは現地校編入への準備期間を2週間取った後、現地校の授業に参加できるわけです。新学年の始まりなので授業内容もやさしくテストもほとんどありません。現地校の生徒たちも初対面の本校の生徒たちを受け入れてくれやすい状況にあり、留学をするのに最も適した時期でもあるのです」
とはいえ、生徒たちが現地で困惑する場面は多々あるそうです。それは、日本とNZとの授業のあり方の違いにあります。
基本的に大学進学を目標とする日本の私立中高一貫校に対し、NZの学校(留学先は主に公立校)では将来を見据えた実技的な授業もあり、生徒たちは自分の将来についてかなりシビアに考えているのだそうです。一方、日本の生徒たちはディスカッションをしても、知識は言えるけれど意見を言うのは苦手。先生の問いに正答を返しても、すぐに「なぜ?」と切り返されるのが現地校での授業です。
「とにかく『Why? Why?』と聞かれ、正解でも不正解でも、その解答に行き着いた理由を答えさせられるので、慣れるのに苦労しました」とは、留学に参加した生徒たちの言葉です。
茂原先生はこのように徹底的に考えさせるNZスタイルを日本での授業にも取り入れたいと考えています。
「イマージョン(英語漬け)も大事ですが、グローバルな学習観も生徒に伝えていきたいと考えています。自分の意見を言い、人の意見も聞く。活発に議論や意見交換をするNZの授業の雰囲気にあらかじめ慣れておけば、留学中の3カ月間を、最初からトップスピードで過ごせるはずです」
生徒の留学体験を最大限に有意義なものにしてあげたいという茂原先生の思いは、まだまだ広がりつづけています。
●費用対効果で考えても、実りの多いプログラム
魅力的なNZ学期留学プログラムですが、気になるのは費用面。留学にかかる費用は約120万円。かなりの高額ですが、同校には高校進学の際の入学金がありません。また、中高6年間で2回行っていた修学旅行を1回に変更し、その分も留学費用に充てられました。その結果、6年間の学費の合計は、都内私立一貫校の平均程度に抑えられているそうです。
同校は、これまでに約600名の生徒を学期留学に送り出していますが、途中帰国した生徒は一人もいないそうです。保護者の方の約99%が「わが子を参加させて良かった」と評価するこの留学プログラム。生徒たちがさまざまな体験をし、そこから得たものを考えれば費用対効果は計り知れないものがあるでしょう。
生徒自らの選択が、
生徒自身を育てていく東京成徳大学の学び
●個々の資質を伸ばすアクティブラーニング
同校はアクティブラーニングにも精力的に取り組んでいます。ここでは2例をご紹介しましょう。
まずは「有徳の人間形成」という建学の精神に則した独自プログラム「自分を深める学習」。これは、同校が10年以上前から取り組んでいるプログラムですが、中1~高3の総合学習で、人や社会とのつながりなどを考え、ディベートをし、テーマを深く掘り下げるもの。「自分とは何か?」「なぜ学ぶのか?」「どう生きるのか?」を思春期のこの時期に自問し、価値ある生き方を考える哲学的アクティブラーニングです。
もう一つは、2015年度から始まった理科への興味を喚起させる「TSP(Tokyo seitoku Science Program)」。
「文系・理系の進路にかかわらず、理科に興味をもたせるのが狙いです。教科書を飛び越えた実験や研究を通して観察眼や分析力、科学的思考力が育つように導きます」
テーマ例としては、「コピーの仕組みはどうなっているのか」「美味しいパンの科学」「宇宙エレベーターはどうすれば実現するのか」「エッグドロップ」などがありますが、タブレットを活用しながらアクティブに学び、科学する心を培っています。
また、大学や企業と連携してワークショップを開催したり、外部のコンテストなどにも積極的に参加しています。
多角的な授業を行っているのも同校の特徴です。たとえば、「TSP」の研究成果を英語でまとめてポスターを作成すれば、「理科×英語」の教科横断型になります。また、歴史で学んだ人物を英語で紹介するチラシをiPadで作成すれば「日本史×英語×美術(デザインレイアウト)×ICT活用」のコラボレーションに。
そして、このように自分の作成したものを発表することは、どうすれば相手に伝わりやすいのかとプレゼンテーションの意味を真剣に考え、工夫を重ねていくことにもつながるのです。
●臨機応変に対応できるよう、ICT活用への意識を育成
2017年度入学生から一人1台のiPad Proを所有している東京成徳大学中学。「アナログでやっていたことをより上質に」という理念のもと、タブレットを文房具と同じツールとして活用しています。校内のどこからでもインターネットに接続できるため、iPadを活用した各教科の授業ではプリントの配布や板書の必要がなくなり、能動的な活動に費やせる時間が増えたそうです。
生徒が持つタブレットは手書きも可能なiPad Proですが、タイピングの練習にも取り組んでいます。また、WindowsやMacなど、どのデバイスでも使えるように指導していますが、これは実社会ではさまざまな端末が使われている実態を見据えてのもの。このような学習は、前述のNZ学期留学でも役立っているそうです。
「NZでは、3年前からPC必須の学校が続々と増えはじめ、BYOD(Bring Your Own Device)が当たり前となってきています。タイピングができないとレポートも書けませんし、テストでiPadを使用するという学校もあります」と茂原先生。
生徒たちはiPadとノートを併用しながら、ある時は辞書を引き、ある時はiPadで検索するというように、その時々にふさわしい方法で学習しています。それに対して、先生方は何も指示を出しません。
「私たち教員は、使い方を教え込むのではなく、選択肢を生徒たちに与え、自分で使い方や学び方を考えさせるように心がけています。答えを示すのではなく、考えるきっかけや材料を生徒たちに提示していくのが我々の役目ですから」
(茂原先生)
いまの中高生たちは、答えのない課題に向き合っていかなくてはならない世代です。与えられた知識や情報をどう取捨選択するか、またはそれらをもとにどう新しいものを創造していくのか。自分の意志と責任で決めることが、生徒たちの明るい未来をつくっていくのだと先生方は考えています。
グローバル教育を核として多角的に展開される教育のもと、同校では6年間継続して多様な体験を積んでいきます。このように重層的に学びを深めるからこそ、生徒たちは「学力」「グローバル力」「人間力」という未来に生きる力とアドバンテージをもって、自分の希望する未来へと邁進していけるのでしょう。