渋谷教育学園渋谷中の帰国生入試の英語で問われる高次思考力

2018年9月15日

(文/スタディエクステンション代表・鈴木裕之)
GLICC代表の鈴木裕之です。今回は、渋谷教育学園渋谷中(渋渋)の入試問題を取り上げます。

_ 渋渋の帰国生入試では英語力によって合否が決まります。入学してくる帰国生はほぼ全員が英検準1級以上、何名かはすでに1級を持っているというのですから、そのまま大学のAO入試でも合格してしまうレベルです。

そんな渋渋の帰国生入試の英語問題の難しさは当然相当なものです。しかし、大学入試や英検1級の問題の難しさとはちょっと質が違います。単語やイディオムが問われるわけでも文法知識が問われるわけでもありません。また、大量の英文を速読して情報処理をするようなリーディングでもありません。むしろその難しさは、小説と詩において高次思考が試される点にあります。

例えば2018年のCritical Readingを見てみますと、物語(Fiction)を読ませた上で、次のような問いで始まっています。

1. How does the narrator feel about the events he is looking back on?
(語り手はどのような気持ちで出来事を振り返っていますか)

こういうタイプの問題は、英検やTOEFLにはまず出てきません。書かれている情報を正確にキャッチすることが検定試験では求められているので、直接的な手がかりが文章中にないような読解問題は出題されないのです。
それに対して渋渋のこの問いでは、出来事全体を把握した上で、語り手の気持ち、つまり小説全体のトーンをクリティカルに捉え返す視点が問われているわけです。

これだけではあまりこの問題の質が伝わらないかもしれません。そこで、この小説の書き出しを「日本語訳」で紹介します。もちろん、受験生はこれを英文で読みます。

そういうわけで・・・私は一日一日、確実にかの真理に近づいていった。・・・その真理とは、人間が単一の存在ではなく、実は二元的存在だという事実である。もちろん、ここで二元的と述べているのは、目下のところ私の知識がそれ以上を出ないからにすぎない。やがて私と同じ研究にたずさわり、私を凌駕する人びとがあらわれるだろう。したがって、敢えて推測を試みるならば、将来いつの日か、人間が多元的存在であることが明らかにされるのではないだろうか。すなわち、人間は一個の国家であって、内部には雑多で独立した住民が互いに対立し合っている。私個人の場合はといえば、自分がこれまで送ってきた生活の性質上、ただひとつの方向にむかってひたすら進んできた。私が人間の本源的二元性を明白に自覚するにいたったのは、道徳面においてであり、それも私自身をとおしてであった。意識の内部では善と悪の二つの性質が争い合っているが、私が自分をそのいずれか一方の人間だと誤りなく指摘できるとしても、実は本質的に私がその両者だからにほかならないことを悟ったのである。 
『ジーキル博士とハイド氏』(岩波文庫) スティーヴンスン著、海保眞夫訳より

ここに抜粋した箇所は出題されている部分のごく一部に過ぎませんが、この箇所には会話文もなければ、出来事らしい叙述もありません。受験生はこういった文章を読んで、語り手が伝えようとしている意味や語りのムードを捉える必要があります。

同年のShort Answersのパートでは、詩には文字通りの意味と比喩的な意味があることを押さえさせたうえで、詩の解釈を1~2段落で書かせるという問題が出ています。

Crossing the Bar
By Lord Alfred Tennyson

Sunset and evening star,
   And one clear call for me!
And may there be no moaning of the bar,
   When I put out to sea,

 But such a tide as moving seems asleep,
   Too full for sound and foam,
When that which drew from out the boundless deep
   Turns again home.

 Twilight and evening bell,
   And after that the dark!
And may there be no sadness of farewell,
   When I embark;

 For tho' from out our bourne of Time and Place
   The flood may bear me far,
I hope to see my Pilot face to face
   When I have crost the bar.

いくつかの古語が入っていますが、それら単語については英語での注が入っており、この詩に使われている単語の意味が難しいというわけではありません。むしろこの詩の表面的な意味からどういう解釈を引き出すかということが要求されている点に難しさがあるのです。ここでも高次思考が試されていることは明らかです。

渋谷教育学園渋谷中に入学する帰国生の英語力の高さはこの2問の出題によって垣間見ることができます。それは決して難しい単語を多く知っているとか、高度な文法が理解できるということではなく、書かれている内容を元に、場面の雰囲気や比喩的な意味を解釈し、論理的に説明する力、高次の思考力が求められているのです。

それでは、これらの力はどのようにして身につくのでしょうか。
母語の大切さは言うまでもありません。家族とふだん日本語で会話するのであればそのコミュニケーションの質は大切です。
さらに大切なことは大量の読書経験です。英語受験を考えているのであれば洋書の多読が効果的です。それも検定問題集に出てくるような味気ない評論文ではなく、数多くのストーリーに触れることが近道です。自分の英語レベルに合わせた本を図書室で借りてくるなどして、どんどん読んでいくことを習慣にするとよいでしょう。

今月も読者の方には無料添削サービスをいたします。上記の詩の解釈を1~2段落の英語で書いて送ってくだされば、添削とコメントをしてお返しします。詳しくはhttps://glicc.jp/contact-usからお問い合わせください。