帰国生にとって日本の学校は異文化環境です。特に小学生時代を海外の学校で過ごして日本の中学校を受験するという場合、環境の違いによる逆カルチャーショックは想像以上に大きいものです。校則などの規律や、集団行動が前提となる行事、あるいは毎日の登下校といった日常的なことなど、様々な違いがハードルとして立ちはだかります。学び方の違いもそのようなハードルの一つと言えるでしょう。
海外の現地校やインター校の多くは欧米型のカリキュラムを採用していて、小学生段階では、探究型の学習(Inquiry-based learning)が主流です。教科の壁は緩やかで、教科知識を暗記するということもそれほど重視されません。その代わり、ディスカッションやグループワークなどを通して、調べることや疑問を持つことが重視されます。
日本では、まだまだ覚えることが勉強の中心である場合が多く、こういった勉強に慣れていない帰国生は、学校で行われる定期試験にうまく適応できないことがよくあります。暗記するという勉強スタイルに馴染みがないので無理もありません。暗記どころか、机に向かって1時間じっと座っているといった体験もないという話も耳にします。
このあたりの事情について理解のある学校を選ぶかどうかは、帰国生のその後の成長を左右すると言っても過言ではありません。最近では、アクティブラーニングという表現をよく耳にするようになり、授業スタイルが生徒主体になっている学校も出てきました。このような授業スタイルを採り入れている学校は、帰国生に対する態度も比較的寛容だと考えられます。アクティブラーニングを推進している学校は、探究型の学びを進めている学校とほぼ重なると考えてもよいでしょう。ただし、授業だけでなく、試験や評価の仕組みまで見てみないと、本当の意味で探究型と言えるかどうかは判断できません。
探究型の試験というのがどのようなものかという例を示すならば、次のような問題が挙げられます。
もし地球が東から西に自転していたとしたら、世界は現状とどのように異なっていたと考えられるか、いくつかの観点から考察せよ。 |
これは、東京大学理科1類の帰国生入試の問題です。この問題には、唯一の正解というものはありません。教科の枠を超えて発想しないと解答できないオープンエンドの問いです。一般入試ではなく、帰国生入試でこのような問題が出題されるというのは、海外での学びのスタイルを意識しているからでしょう。
中高においても、このような問題を作成したり、生徒と一緒に考えることを楽しんだりするような学校が、帰国生の学習スタイルに合うわけです。
前回の記事でも触れましたが、思考力テストを実施している学校に注目しようというのは、そういうことです。思考力テストを実施するということは、オープンエンドの問いを作成し、それを評価する仕組みを整えているということですから、学校全体の授業や定期試験でも、探究型の学習環境が形成されていると考えられます。
4教科型入試の学校でも、それぞれ問題にオープンエンドの問いが多く出題されているのであれば、その学校の学習環境は探究型である可能性が高いと言えます。ただし、残念ながらこのような学校で、帰国生入試も実施している学校というのはまだまだ非常に限られているのが現状です。