東京都市大付属中学校・高等学校

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東京都市大学付属中高は、小田急線成城学園前駅から徒歩10分、東急田園都市線二子玉川駅からバスで20分という、交通の便のよい閑静な住宅街にあります。大学付属男子校ということで、最近注目されている*STEAM教育への期待から人気が高まっています。
帰国生入試を始めたのは4年前ですが、校長の小野正人先生ご自身が海外に暮らしていた経験から、帰国生受け入れのための改革を矢継ぎ早に実践し、帰国生にとっても屈指の人気校となっています。
(取材・文/スタディエクステンション代表・鈴木裕之)

*STEAM教育...理数系にアート・デザインを融合させた教育。STEAMとは、Science、Technology, Engineering, Art, Mathの頭文字をとったもの。

_ 学校に到着すると早速帰国生の英語取り出しクラスに案内されました。最初に見せていただいたのは中学2年生のクラスです。リーディング教材に使われているフレーズや単語を先生が問いかけ、生徒が別な言い方にパラフレーズする対話型授業が行われていました。男子校の英語取り出し授業は初めて見たのですが、やはり共学とは違う雰囲気があります。

中学生段階の男子は一般的に、コツコツと勉強するというよりも、クリティカルな物の見方をしたり、あるいは話が脱線して本筋から外れたりすることを好む傾向にあります。帰国生の英語クラスでも、共学の場合、どちらかというと女子が活発に話をして、男子は聞き役に回るか、もしくはシニカルな見方を提示するといった印象があります。

その点都市大付属の生徒たちは、男子だけの気楽さからか、伸び伸びと英語を使っていました。帰国生ならではの自然な英語が流暢な発音で飛び交いますが、英語を上手に話そうということよりむしろ、会話の展開を楽しんでいる感じです。会話にユーモアを持たせるような精神的余裕があるのです。

続いて向かったのは中3クラスです。こちらも先生が男子生徒の特性をうまく引き出しながら対話による授業を進めていました。

_ 先生「マーティン・ルーサー・キングJrについて何か知っていることがありますか」
生徒A「I have a dream!!」
先生「そうだね」
生徒B「暗殺されました!!」
先生「なるほど。他には?」
生徒C「ホロコースト!!」
生徒D「えっ。それ違うでしょ!」
  全員(笑い)

文字に起こしてしまうと何ということはないのですが、こういったやり取りがAll Englishで行われています。生徒はみな、英語で話すことに身構えることがありません。いたって自然に、必要であれば日本語も入れながら、まさにバイリンガルとして英語も日本語も口を衝いて出てくるといった感じです。

先生の授業はさらに深いところへと進んでいきます。

先生「差別と闘ったキング牧師は、どんな方法で闘ったのか。力(force)によって?」

このあたりの発問は、もちろんある方向(答え)への誘導が働いています。生徒たちは、直感でこの発問が行き着く先をかぎつけています。しかし、その答えに向かって直線的に進まないところが男子生徒の面白いところです。

生徒A「キング牧師は力を使わなかったけど、先生は宿題という力を使いますね」

これに応酬する先生も素敵です。

先生「宿題をやるかやらないかは選択(チョイス)があるから、強制的な力ではありません」

ここで生徒たちは笑いながら軽くブーイング。先生と生徒の信頼関係がよく分かる一幕です。 もちろん差別の問題やキング牧師の勇敢なふるまいについて、生徒たちは瞬時に本質を理解します。その一方で、シリアスな緊張感から解放されたい瞬間が男子にはあるものです。そこでジョークを言ったり、話を逸らせたりするのですが、そのあたりの特性を先生はよく分かっていて、適度にジョークを織り交ぜていきます。

_ 10分ほどの見学の時間でしたが、教室を出る直前には「Persuasion is better than force」という「北風と太陽」の教訓について触れていました。何かを教え込もうとforceを使うのではなく、persuasionが大切だということをイソップ童話のメタファーで伝えたわけです。脱線と思った授業内容が、実は「forceではなくpersuasion」というキーフレーズできちんとつながっているところは見事です。

ちなみにイソップは英語だと「イーサップ」とか「エイサップ」のように聞こえます。人名などの固有名詞は、カタカナの日本語として頭に入っているため、かえってよく分からないものが多いのですが、教科を英語で学んでいると、こういった固有名詞が自然に頭に入っていくことが強みになるのだなと改めて感じました。

授業見学が終わり、校長の小野先生からお話を伺いました。

_ (写真)校長 小野 正人先生
見学した授業について、男子生徒だけの環境が新鮮だったことをお伝えすると、校長先生は、定期テストの答案返却で目にしたライティングの授業に触れて次のようなエピソードを聞かせてくれました。
返却される答案を見ていて、わずか数行のライティング答案が、その2倍ほども書かれていた準1級保持の生徒が書いた答案よりも高い評価を得ていて一瞬不思議に思ったが、そのわずか数行の答案は英検1級保持の生徒のものだったというのです。
つまり、たくさん書いたり話したりできることは英語力の一つの目安ではありますが、それを抽象的な概念にまとめていくような思考力を伴う英語力も大切だということです。男子校の環境というのは特に後者のような英語力を発揮しやすい環境であると言えるかもしれません。

入試について

_ (写真)広報部 桜井 利昭先生
都市大付属には、帰国生が受験できる「一般受験以外の入試」が2種類あります。
海外に住んでいた方が受験する帰国生入試(1月6日実施)と、ご両親のどちらかが英語を母国語としている方、あるいは小さい頃から英語に力を入れて学習してきた方を対象にしたグローバル入試(2月2日実施)です。

帰国生入試には英語を使ったA方式(国語型・作文型)と英語を使わないB方式(2教科型・4教科型)があります。昨年(2017年度)の入試ではA方式の受験者が大幅に増加し、英語レベルの高い生徒が集まったようです。

帰国生入試A方式で出題される英語の問題は英検準1級レベルで、そこで50点くらいしか取れなくても、グローバル入試の英語の問題では90点以上取る子もいるそうです。それほど帰国生入試とグローバル入試の英語の問題レベルは大きな差があります。

帰国生入試のB方式には2教科型と4教科型がありますが、理社が苦手であっても4教科型で受験した方が有利だと言えます。というのは、4科で受ければ算国2科での判定と、社理を加えた4科の判定の、2段階で判定されるからです。ここにはなるべく選抜できる機会を増やしてあげたいという学校の思いがあります。最初から無理だと思わずに、少しでもチャンスを多くして受験してほしいということです。

_ (写真)国際部 松尾 浩二先生
グローバル入試は始めてから3年が経過したところです。しかし、こちらの入試も大変注目されており、受験者数は増加傾向にあります。帰国生のセカンドチャンスという意味合いもあるため、例年合格者の平均点は8割を越えた高いレベルを維持しています。目安として英検準2級の取得は必須となるでしょう。

グローバル入試の試験科目は、「英語+算数+作文」です。算数は一般入試と同じ問題ですから、そこであまり点数が取れないことを恐れる方もいるでしょうが、英語で90点以上取れれば、算数は30点程度でも合格ラインに到達できるということです。算数の基本問題だけでもしっかりできるようにしておけばチャンスは広がります。

東京都市大付属では、詳細な入試データをまとめた「T-file」という資料集を発行しています。帰国生入試やグローバル入試についても詳細なデータが出ていますから、説明会などで入手しておくと心強い味方になるでしょう。
詳細なデータが物語っている通り、基本的には得点だけで合否が決定されているとのことです。ただし、合格ラインを少しだけ下回っているという場合に限って、面接や滞在歴などの面を総合的に判断する場合もあるようです。

人気の秘密

東京都市大付属が急速に注目されるようになっている要因の一つには、受験科目の間口を広くして、多様なバックグラウンドの生徒が受験しやすくなっているということが挙げられると小野校長先生はお話されます。その結果、帰国生が実際に多くなってきて、現中学1年では帰国生の在籍率が学年の25%に達しています。このように帰国生が多いということがさらなる安心材料になって、人気が上昇スパイラルを描いているのです。

①英語の取り出し授業

_ 英語の取り出し授業をやっていることは大きな魅力です。男子校で帰国生の英語取り出し授業を実施しているところは実はそれほど多くはありません。都市大付属では、週に4時間のネイティブスピーカーによる取り出し授業を行っており、英語圏で学んでいた授業と同様の英語環境を目指しています。

取り出し授業は、帰国生だけにとどまらず、すべての生徒に門戸を開放しているそうです。4月前半に希望者を対象としたトライアルの期間があり、帰国生以外でも英語が得意な生徒はチャレンジができます。実はこういった取り出し授業の存在が、英語を高いレベルで学びたいという帰国生以外の生徒のモチベーションアップにつながっているのです。

英語取り出し授業を受けている生徒数は、今の高1では16人ですが、年々増えてきて、今の中1生は、合計で38名の生徒が3つのクラスに分かれて受講しています。高1は帰国生入試の初年度で、数が少なかったとはいえ、16人の中に英検1級取得者が3人在籍しているということですから、英語のレベルは相当高いことが分かります

逆に、高1生の取り出し授業を受けている中には、海外経験が全くない生徒も3人いるそうです。しかし、この生徒たちも、中2の秋までに英検2級を取るなど、取り出し授業に参加したいという希望を持って、大変な努力をしました。彼らは、帰国生に引っ張られて自分たちの英語力を向上させたわけです。

帰国生は他教科において一般入試で入ってきた生徒に引っ張られている面があり、双方が刺激し合い、リスペクトする環境ができているのです。

ちなみに、「取り出し」ではない一般の英語クラスもレベルは高く、中学段階ではNew treasureという難易度の高い教科書を使用し、中3生から高校の内容に入ります。ですから、一般クラスに在籍していても、中3生のうちに、ほとんどの生徒が最低でも英検準2級までは取れるということです。

②「編入保証」制度

_ 「編入保証」制度も帰国生には大きな魅力となっています。
「編入保証」制度とは、帰国生入試に合格した後再び海外に戻っても元の学年の在籍が確保されるという制度です。
例えば、帰国時期がはっきり決まっていない場合、父親を現地に残して母と子だけが帰国して受験するということがよくありますが、この編入保証制度を利用すれば、入学式とオリエンテーション合宿に参加した後に現地に戻り、本帰国が決まってから再度編入をすることができます。
帰国が決まってから慌てて編入試験を実施している学校を調べ、欠員の募集をしているかどうか問い合わせをして...などといったことを心配しなくてもよいわけです。

在学中に再び海外勤務になってしまったという場合、あるいは海外留学に行くという場合でも、年数に関わらず帰国までの在籍を保証してくれ、さらにその間の授業料はかからないということですから、まさにグローバル時代にふさわしい制度だと言ってよいでしょう。

③サポート体制やスポーツ施設など

_ 編入保証制度を支えているのは、放課後や講習時での充実した講座群です。進度の異なる編入生を受け入れるためには、サポート体制が十分である必要があります。
都市大付属では、放課後や講習時にさまざまなレベルや科目の講座が用意されている他、必要に応じて帰国生や編入生に対する個別指導も行っています。

その一方で、中高一貫の6年間という長期的スパンで生徒を見ていくということも大切で、目先の成績だけで生徒を追い込むことのないよう配慮しているということです。特に、日本語力といったものは補習で身につけるよりも友達同士で教え合う方が効果的な面もあるため、帰国生が多いという環境がここでもよい影響を与えているようです。実際にこれまで授業進度についてこられなかった帰国生はありませんと校長先生は自信を持ってお話されていました。

スポーツをする上での環境・設備が充実しているというのも都市大付属の強みです。広々としたグラウンドで楽しめる硬式野球部やサッカー部が人気なのはもちろん、アイスホッケー部やアメリカンフットボール部など、男子校ならではといったクラブもあります。

さらに、「科学大好き!帰国生集まれ」「日本語表現力」という標語に表れているように、理科や国語教育を伸ばすことを重視しているのも特長です。英語圏で暮らしていた帰国生からすれば、英語力を伸ばしてもらうこと以上に、自分の興味あるテーマを、日本語で広げてもらうことの方が魅力的に見えるのかもしれません。例えば高1の中期修了論文で4000字以上に及ぶ論文執筆を行うなど、まさに国際バカロレアの*エクステンディド・エッセイにも匹敵するような、探究型の学びが展開されているのです。

* エクステンディド・エッセイ(Extended Essay)...国際バカロレアディプロマプログラム(高校2・3年生向け)で行われる、教科の研究を掘り下げる課題論文。英文で4000 wordsの論文を書く。

④海外研修プログラムの充実

_ 海外研修プログラムが充実しているのも、都市大付属の大きな魅力となっています。
中3でマレーシアに10日間、高1になる前に3か月のニュージーランドターム留学、そして高1の夏にも3週間のニュージーランド語学研修、さらに高1の3月には北米への研修旅行、と合計4回の海外研修のチャンスがあるとのことです。
前回実施した高1の3週間語学研修には、53名もの生徒が参加し、今度の3ヶ月留学には中3生24名が参加するそうです。これだけ多くの生徒が出かけていくというのも、帰国生に刺激を受けている面があるということでした。

海外研修では、初日から現地校の生徒と*バディを組んで英語学習をするプログラムにこだわっているそうです。通常は、いきなりバディを組むことを了承してくれる学校は少ないのですが、短期間で効果を最大限に上げるために、そのようなプログラムを実施する学校を見つけてきます。今回のニュージーランド研修も参加者が多かった分、学校も多く探してきて、1校当たりの参加者数を適正な人数に抑えることができたということです。
バディを組むことで、授業時間以外も英語を使って生活する時間が増えるため、3週間でも英語でのコミュニケーション力を身につけて帰ってくるということです。

*バディ...外国語を交換する相手。都市大付属の留学プログラムの場合、生活面や勉強面をサポートしてくれる現地校の生徒を指す。

ある高1の生徒は、模試で英語トップを取ったのですが、夏のニュージーランド研修に行った時に思うように話が通じなかったことが悔しかったらしく、自分で留学プログラムを探してきて再度ニュージーランドに行ってくると話していたそうです。

このように、帰国生が当たり前のように英語を使う環境に刺激を受け、生徒が「使える英語」を身につけようとする雰囲気が自然に醸成されているのです。

大学入試・海外進学・キャリア指導

_ 2017年度の都市大付属の合格実績は旧帝大10名を含む国公立の合格が59名、早慶に89名合格と、前年と比べ飛躍的な伸びを示しています。
まだ帰国生入試を実施していない頃ではありますが、これまでも海外就学経験のある生徒はパラパラと在籍していて、その合格実績も公表されています。そのリストを見ると、京大、東北大、筑波大などの国公立大学や、早慶上智などといった難関私大にしっかりと合格が出ています。

一般的に、大学入試においては英語の比重が高いので、英語力の高い帰国生は有利になると言われています。特に難関大学では、自由英作文や長文の速読力が合否の決め手になることが多く、かりに英文法が多少苦手であっても、英語取り出し授業のようなネイティブスピーカーの授業を受けていることは大きな得点力につながるのです。

都市大付属の先生方もそれを見越して、取り出し授業を受けている生徒たちは、高1までで大学受験レベルの英語は完成させてしまい、時間的に余裕を持たせたうえで他教科の受験勉強に向かわせたいと考えているようです。
現在の高1生が卒業する2020年以降は、大学進学実績の面でもさらなる飛躍があることが期待されます。

また、今後は海外大学に進学したいという生徒も増えるだろうと小野校長先生は予想しています。今年の2月に海外大学進学説明会を実施したところ、申し込み時点で200人が集まったということで、海外進学への関心がかなり高いことにグローバル教育の手ごたえを感じているようでした。

_ 進学面だけに限らず、将来のキャリア全般に向けた教育にも力を入れています。その一例として、毎月定期的に校長室で実施している、中1生対象の誕生会があります。「君たちの夢は何?」「どうしてこの学校に来たの?」などと聞きながら、その子どもの将来の夢を具体的にイメージしていくことを校長先生みずからサポートしているのです。
今年は海外経験のない子が二人、志望動機として帰国生がいるからと述べていたそうです。いろいろな国の話を聞きたいし、自分もやがては海外に進んでみたいと。

グローバル化が浸透してきて、多様なバックグラウンドの人が多くなっています。帰国生は、そういった多様性を理解する上で大きな鍵を握っている存在です。英語力だけではなく、文化や考え方の面でも帰国生が持っている経験をどう引き出して尊重していくかは21世紀を生きるスキルを身につけていく上で重要なポイントです。
東京都市大付属中高の帰国生教育が注目されるのは、「帰国生のための教育」だけではなく、「帰国生から学ぶ教育」という面を上手に活用しているからなのかもしれません。