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コラム

「やっちゃった!」中学受験生の父親たちの失敗談

教育ジャーナリスト おおたとしまさ
父親たちの空回りにご用心!

中学受験と言えば、母子の二人三脚だと思われていた。しかしいま、子供の中学受験に積極的に関わる父親が増えている一方で、父親のやる気が空回りし結果的に子供の足を引っ張ってしまうことがある。特に、自分自身に受験での成功体験が強かったり、仕事で成功を収めている父親が、自分のペースに子供を巻き込み、子供をつぶしてしまうケースが目立つ。そんな父親たちの切ない失敗談を、「反面教師」として紹介する。

「自分で教えようと思ったことが間違いでした」(Aさんの場合)

息子は国語が苦手でした。私は中学受験していませんが、国語の論理的な解き方を身に着けて成績を上げた経験があったため、自分で教えようと考えました。塾の教材を使って、授業の復習をする形で、音読、本分への記号の付け方、感情の読み取り方、キーワードの探し方、論旨の展開の追い方など、丁寧に教えようと試みましたが、息子は父親であるということで最初から腰が引けている。そして、声を出さない、記号をつけない、勉強しながら寝る……の繰り返し。

あまりにやる気がないときに、「そんなのではダメだ!」と少し大きな声を出すと、「お父さんがムカつくから勉強しない」と言って、自分の部屋に籠り、鍵がない部屋なのに棒を置いてドアが開かないように抵抗し、何時間も出てきません。しかも、それが小6の9~12月ごろのこと。毎週のように塾の授業がなく家庭学習に時間をたっぷりとれる日にこんなことが繰り返され、国語ができるようにならないばかりか、ほかの教科のための時間もなくなってしまいました。第1志望にも第2志望にも落ちた大きな原因になってしまったと考えています。

親が自分の子どもに教えるには限界があります。試みるのはいいけれど、早めに限界を察知してほかの手を考えるべきでした。息子は塾で算数の平均偏差値が65くらいで、社会と理科もまずまずでしたが、国語は45くらい。滅多に50を超えないという体たらくで、対策は絶対に必要でしたが、そこは割り切って、個別指導など第三者に任せるべきだったと反省しています。

また、子供のモチベーションを上げることに、もっと時間を割くべきでした。たとえば、6年の秋、第1志望校のオープンスクールに行く時間が惜しいと考え、家庭学習に当てましたが、その時間が上記のようなくだらない理由で失われていき、息子のモチベーションはむしろ下がり続ける。そんなことなら、思い切ってオープンスクールに行き、「この学校に入りたい」という気持ちを改めて起こさせるべきでした。

受験の追い込みの時期、息子には「今の過ごし方で今後の6年間が大きく変わるんだ」と何度も話しましたが、まったく響きませんでした。小学生にそれを想像させるのは無理だったのだと思います。子供が価値ある6年間を獲得するためには、子どものやる気やモチベーション、または「どうしてもここに入りたい」という気持ちを引き出すことが必須で、そのためには、やる気が失わそうな時期には憧れの学校をもう一度見せること。そして、親の介入に子供が反抗的だと感じたら、すぐに親は身を引き、その点は第三者に任せながら、親は後方支援を怠らない。親はいつも冷静さを保ち、掌で子どもをうまく操ることが必要だと思います。


「親の強気のせいで、余計に子供を傷つけてしまいました」(Bさんの場合)


私自身は地方出身で、中学受験文化を知りませんでした。東京育ちの妻の意向で、某有名大学付属校を目指して、息子に中学受験をさせることにしました。

同校に合格したお子さんのお母さんから、「小6の秋から始まる○○塾の志望校別コースに入っていれば大丈夫」と聞かされ、それを目標にしていましたが、受講することが許されませんでした。偏差値が足りなかったのです。

これも縁だとすぐにあきらめれば良かったのですが、焦った私は、それでもなんとか受講させてもらえないかと塾に直談判するほどに冷静さを失っていました。その様子を見て息子は、「僕は何が何でもその学校に合格しなくちゃいけないんだ」と思ってしまったようです。結局、子供に「○○中学を受験する」と言わせてしまいました。いま思えばとんでもない高望みです。

第1志望を不合格になっただけではなく、第1志望対策に大幅な時間を割いてしまったため、第2志望も、第3志望も取りこぼす始末。

小6の段階で、偏差値から現実を見て、親としての期待は取り下げ、周囲への見栄も捨て、冷静に志望校を選ぶべきでした。偏差値に見合った中で、本人の希望するところを受験させればいいのではないでしょうか。

偏差値から見て無理だと判断したら、もうその学校への未練は捨てる。「うちの子に限って」とか「中学受験には奇跡がある」などの妄想で悪あがきはしないことですね。余計に子供を傷つけることになります。


「私の無責任な一言で、息子も妻もパニックに」(Cさんの場合)


6年生の5月連休明け。模試成績の出題分野別グラフから、好きなところだけやっているからそこでは点が取れるものの、それ以外の分野から出題されるとメタメタであることが判明しました。

息子の中学受験にそれほど関心をもっていなかった私ですが、「ここは父親として何かアドバイスしなければならぬ」と思い、安易に「苦手なところができれば、点数増えるよ」と言ってしまいました。

すると息子は自ら苦手分野克服のためのスケジュールを作成し、苦手分野ばかりを勉強するようになりました。そこは非常に素直だったと思います。

が、冷静に考えれば、苦手分野は好きではないから苦手なのであって、苦手克服計画は遅々として進まず……。得意分野でも次第に点が取れなくなっていきました。年末年始には息子と妻がそろってパニック寸前に! はい。全部私のせいです。

結局苦手分野の克服をあきらめ、模試の復習に集中することでパニックは収束に向かいますが、時間をだいぶロスしたような…。中学受験勉強の最中、ただでさえ藁をもつかむ思いで勉強をしている子供に対して、父親の安易な発言がどのような影響を及ぼすのか、ちゃんと考えていませんでした。しかも妻自身がコツコツ努力するタイプのひとなので「いっしょに頑張ろうモード」にスイッチが入ってしまった。息子本人は既に頑張っているつもりだったと思われ、結果的に空回りを起こしてしまったわけです。

通塾状況やそのときどきの成績はまめに見て、妻とも見通しを共有しましょう。成績が下がったときに怒ったところで何も変わりません。部下育成と同じですね。「苦手分野克服」も聞こえはよろしいが、実行するのは本人・親ともにとても大変。やるなともお勧めもしませんが、やるなら塾に相談するほうがいいと思います。


「中学受験のときの暴言を、いまでも後悔しています」(Dさんの場合)


長男は小学生のころからクラブチームでラグビーをやっており、親としてはラグビーの強豪に進学させたいとも思っていました。某有名大学付属校の学園祭に連れて行ってみたところ、本人が一目惚れ。4年生のころから日能研に通い出しましたが、成績(偏差値)は55-60程度がずっと続き、70前後のその学校はいつも圏外でした。

息子は、いま振り返れば、ちゃんと勉強はしていたと思います。サボっていたわけではない。でも成績は上がらなかった。

平日は仕事が忙しくていつも帰宅は深夜。ときにはタクシーといった日々を送っていたので、ほとんど息子の勉強を見ることはなく、週末のみ、聞かれたことに対して教えるといった感じ。

6年生のころ、いつもどおり「圏外」の模試の結果が出たあとに、息子がリビングでテレビを見ていたのを見て、「何で勉強しない、あの学校に行きたいんじゃないのか? こんな成績じゃ到底行けないじゃないか、お金がもったいないから受験するのなんてやめちまえ!」と怒鳴ってしまいました。

いよいよ願書を提出するタイミングになっても一向に成績が上がっておらず、「本当にお金の無駄だ。父さんが一生懸命稼いだお金をドブに捨てるようなものだ。受けるのは止めなさい」と、また言ってしまいました。

それに対して息子からは土下座せんばかりの勢いでどうしても受けさせてほしいと懇願され、とりあえず願書を提出。息子は勉強を続け、見事合格できました。

ありがたいことに息子との関係はいまも良好、息子は中高と落ちこぼれることもなく上の下・中の上ぐらいの成績を収め続け、部活でも主将を務め、現在は大学生に。ただ、息子から言われたことはないけど、私に感情的に怒られたことは体が覚えているのだろうと思います。ふとしたときに私に対して顔色をうかがうような姿勢がいまだに抜けないのです。ここ数年で、色々と言い返してくるようにもなりましたが。

中学受験を経験したことで、自分でやりきる姿勢が育った一方で、私がときおり高圧的に接してしまったことにより、ひとの顔色を必要以上に伺い、誰かに何かを言われるのを過剰に気にして、物事を自分自身で考え抜こうとしない、消極的な姿勢が刷り込まれてしまったのではないかと思っています。

小学生の子供に対して「お金がもったいない」などとは絶対に言ってはいけません。私自身のエゴの中に子供を一瞬でも置いてしまったように思う。

面白いもので、次男に対しては勉強しろと言ったことはありません。次男はサッカーをやっていて、現在高校1年生、プロチームのユースチームに所属、高校は公立高校を受験してこのたび入学。

次男が5年生のときにサッカーと塾の両立が難しそうだったので、本人にどうしたいかと問うたところ、サッカーをしたいとのことだったので、塾はすべてやめ、サッカーのみ。中学時代も塾には最後の2カ月しか通いませんでした。

でも面白いもので、中学まではほとんど勉強しなかったのに、いまはサッカーばかりではやばいからと言って、家に帰ってくるといつも勉強しています。自分に責任をもって生きている感じがします。

実は長男に対しての接し方を一番反省しているのは「いま」なんです。長男には親の価値観で接したのに対し、次男は親の価値観の外に自分を求めそれを容認した結果、のびのびかつ自主性・主体性をもって生きる人間へと成長していっていること。

長男に対してもっと自由にいろいろと自分で考えさせれば良かった。長男はいまは音楽に夢中になっていますが、別に音楽家になりたいとは思っていないとのこと。一方、もう高校生になった次男は、親から見たらあまり現実的には思えないけど、幼稚園生のときから一貫していまだにプロのサッカー選手になることを目指しています。夢をもっていたほうが行動に繋がるということを2人を見て感じている今日このごろなのです。

幸いだったのは、長男が自分の目で見て決めた大学付属校に行きたいという気持ちを持ち続けてくれたこと。良い学校だったし、良い先生や友達に恵まれました。息子に唯一決めさせたことを息子が達成してくれて本当に良かったと思っています。もし第2志望や第3志望に進学していたらどうなっていたんだろうと思うとぞっとすることがあります。

子供が小さいうちにたくさんの機会を与えること、子供の興味を引き出すことは大事です。でも決して親の価値観を押し付けないこと。子供の人生は、親の敗者復活戦のためにあるのではありません。間違った方向に進みそうになったときだけ方向を正し、わからないときや困ったことに直面したときに、問われたらアドバイスしたり、いっしょに答えを探すように接すれば良いと思います。子供を自分の価値観や想像の範囲の中で成長させようと思ってはいけないと、いまは身に沁みて思います。


「私たち家族の中学受験は、まだ終わっていないのです」(Eさんの場合)


私自身は地方の公立高校から国立大学に進学しました。妻も中学受験の経験はありません。でも東京で子育てするうちに、「やっぱり中学受験させる?」という話になりました。それが「東京っぽい」という田舎者の感覚だったのでしょう。しかしいま思えば、中学受験の何たるかをまったく理解していませんでした。さほどの覚悟もなく、何となく中学受験という後戻りのできない航海に、繰り出してしまったのです。

5年生くらいまで、息子はそこそこの成績を取っていました。某有名大学付属校を第1志望にしていました。しかし、6年生になったころから成績が芳しくなくなります。そこで、私が勉強を見ることにしました。

勉強を見るといっても、私は中学受験を経験していませんから、うまく教えることはできません。そのかわり、長期目標、中期目標、短期目標を定め、それを実現するためのスケジュールに落とし込み、毎日のタイムテーブルを決め、子供に実行させるようにしました。仕事では当たり前のようにやっているPDCAサイクルを、息子の中学受験勉強に応用したのです。でも、そんなこと知らない子供からしてみれば、完全な管理教育ですよね。

厳しい目標を与えられ、毎日の業務を管理されたとしても、大人であればやったふりをしたり、話を聞いた振りをして、適当に受け流すことができるでしょう。理不尽なことがあれば、同僚を誘って居酒屋で愚痴を言い合って、ストレスを発散することもできます。大人社会では、多くの職場で、そうやってうまくやっているのが現実だと思います。

でも、子供にはそういうことができません。父親からの命令を、まともに受け止めてしまいます。息子には相当なプレッシャーだったのでしょう。さらに成績は下がり、それに反比例して、私の指導熱は高まっていきました。

あるとき、息子の忍耐の限界点を超えたのでしょう。まったく勉強しなくなってしまいました。仕事から帰ってくると、予定していたことを何一つやっていないのです。

「なんでやってないんだ! いますぐやりなさい!」

怒鳴りつけ、夜遅くまで、無理矢理やらせました。その日のうちに終わりきらなかった分は翌日以降のスケジュールに上乗せされます。そんなことが、最初は週1回程度、そのうち週2回、週3回と増えていきましたあ。こちらはいよいよ受検本番まで時間がないと思って焦っているのに、どんどん息子のモチベーションが下がっていったのです。

夏休みに遅れを取り戻そうと、私は一層熱を入れて、子供を管理しようとしました。しかし、成績は上がらず。

すると、秋になって、子供の体に異変が起こりました。頭髪が薄くなっているのです。よく観察してみると、息子は頻繁に自分の髪の毛を抜いて、その毛根を食べていたのです。ネットで調べると「抜毛症」という言葉があることがわかりました。心因性である可能性が高い。急いで医療機関に相談しました。

それほどまでに息子を追いつめていたことに、私はまったく気付いていなかったのです。

考えてみれば当時私は、仕事で大きなストレスを抱えていました。自分自身の心に余裕がないまま子供に接し、子供の成績だけを見て、子供自身を見ていなかったのです。散々に暴言を浴びせてしまいました。手も出しました。それを息子は、小さな体で必死に受け止めてしまっていたのです。本当に申し訳なかったと思います。

「抜毛症」に気付いて、私も目が覚めました。「中学受験、やめる?」と息子に聞きました。「うん、やめる」という返事が返ってくると思っていました。

でも息子は、「やる」と返事しました。ここまでやってきたことを、無駄にはしたくないという気持ちが、息子の中には残っていたのです。

第1志望のランクを落としました。当時の成績で無理なく入れそうなところにターゲットを絞りました。PDCAサイクルも、スケジュール管理も、ぜんぶやめました。それでも息子は、新しい第1志望のために、自分から机に向かうようになりました。

入試本番。第1志望合格を聞いたときの息子の言葉とそのときの表情はいまでも忘れられません。

「ああ、ほっとした……」

東京で暮らしていると、みんなが難なく中学受験をしているように思えてしまいます。上手に作戦を立てて実行できたご家庭のお子さんが、順当に偏差値の高い学校に合格していくものだと思っていました。しかし親がしっかりしていないと、子供をこんなにも傷つけてしまうことがあるのだということを、私たち夫婦は知らなかったのです。中学受験を、まったく甘く見ていたのです。

中学受験が終われば、息子の頭髪も元に戻るだろうと思っていましたが、一度ついてしまった癖はなかなかなおらないようです。大学生になったいまでも、息子の頭髪は完全には戻っていません。その意味で、私たち家族の中学受験は、まだ終わっていないのです。ただしそれは息子の失敗ではなく、私の失敗です。


中学受験で親の未熟さがあぶり出される


子供の成績が上がらない、やる気が感じられない……そんなとき、改めなければならないのは子供ではなく、親自身の態度なのかもしれない。そう考えたほうが、多くの場合、うまくいく。子供を変えることは簡単ではないが、自分を変えることならいますぐにでもできるはずだ。

中学受験とは、親子の成長物語である。子供が成長しなければならないのはもちろんだが、親にも自分の未熟さを自覚し改める謙虚さが求められる。それができないと、親の未熟さを、子供が背負い込むことになる。それが中学受験を、子供にとって過酷なものにしてしまうことがある。