(後編)名門バレエ団の指導が、毎日の放課後に校内で受けられる
教育ジャーナリスト おおたとしまさ
名門バレエ団のダンサーが校内で指導
聖セシリア女子中学校・高等学校にはクラッシック「バレエ部」がある。正確にいえば、学校の課外活動である。「(公財)井上バレエ団」というバレエ団のレッスンを、放課後、学校の中で受けられるのだ。つまり学費とは別に月謝が発生する。放課後の教室で個別指導塾の指導が受けられることをウリにする学校もあるが、しくみとしてはそれに似ている。
月曜日から金曜日までの毎日、校内にあるバレエ用スタジオまたは幼稚園の体育館でレッスンが行われる。中高生だけでなく、付属の幼稚園生、小学生も対象だ。学年、レベルによってレッスンの時間帯や場所が変わる。中高生の月謝は週1回8680円、2回1万800円、3回1万2960円、4回以上は1回ごとに+2160円。
そもそも中高にクラッシックのバレエ部があるというのが珍しいが、しかも外部のバレエ団の一流のダンサーが学校にやって来てレッスンしてくれるというのは聞いたことがない。
しかも有名なバレエ団の一流のダンサーの指導が受けられるとあって、本来であれば受験者用に開かれる体験レッスンに、わざわざ地方から参加する家族もあるという。「井上バレエ団」の指導が受けたいがために、聖セシリアへの入学を決め、母娘だけ学校の近くに引っ越してきたというケースもある。
校内バレエスタジオができるまでの経緯を、大橋貴之先生に聞いた。
「特徴のある学校づくりのためにいろいろな可能性を模索しました。一案として、普通科と並行してバレエ科をつくる案が出ました」
聖セシリアでは美術や音楽などの芸術教育を大切にしている。バレエは身体芸術であり、聖セシリアの教育理念がより鮮明に打ち出せるのではないかと考えたのだ。
「そこでつてを頼って、井上バレエ団に相談したところ、学校として全面的にバックアップをしてもらえるのならば、全面的に協力するという前向きな回答を得ました。結局バレエ科を設けるには至りませんでしたが、放課後の課外活動として、学校の中にバレエスタジオを設けるという形に落ち着きました」
宝塚音楽学校への合格者も続けて輩出
2007年から校内でのレッスンが始まった。井上バレエ団の指導を学校で受けられるようになったことを発表すると、早速全国から問い合わせがあり、反響の大きさに驚いた。
ヨーロッパではバレエは上流階級のたしなみとされている面があるが、日本では普通の住宅街の中にも小さなバレエスタジオがたくさんあり、子どもの習い事としての市民権を得ている。しかしちょうどトゥシューズが履けるようになる時期に中学受験勉強が本格化してしまったり、中学校の部活との両立が難しかったりという理由で、思春期以降続けることが難しいという構造的な問題がある。しかし聖セシリアに来れば、放課後に思う存分バレエに打ち込むことができる。聖セシリアの「バレエ部」から宝塚音楽学校に合格した卒業生もいる。
現在だいたい各学年に10人くらいずつの参加者がある。初心者も歓迎だが、実際にはほとんどが経験者だという。2年に1回発表会を開催し、学校でのレッスン参加者全員が踊る。中1・2はバレエ部以外も全員で井上バレエ団公演を鑑賞する。
追求しても終わりがなく、どこまでもきれいになれる
学校の中で本格的なバレエが習えることのメリットは何か、部員に聞いた。
「3歳からバレエをやっています。勉強もしながら大好きなバレエをできるということで、聖セシリアだけ中学受験しました。ここでバレエができることのメリットは、有名なバレエ団の先生が丁寧に教えてくれることと、学校のみんなと発表会ができることです。いまではバレエのない生活は考えられません」(高2)
「スタジオまでの移動時間がないので、レッスンが始まるまでの間に自習室で勉強したり、先生に質問したりできます。また、発表会ではいつも教室でともに学んでいる友達とひとつの作品をつくっていくことができるのも、大きな魅力です」(高1)
バレエの魅力は何か。
「みんなで舞台をつくることや物語のなかの1人になれることの楽しさや、きれいな衣装を着られる喜びなど、数え切れないほどの喜びがあります。礼儀正しく品のある女性になれるという意味もあると私は思います」(高2)
「バレエは、追求しても追求しても終わりがなく、どこまでもきれいになれるところが魅力だと思います」(高1)
聖セシリアのいいところはどこか、残念なところはどこか。
「先生たちが生徒一人一人のことをよく見てくれていると思います。セシリアの職員室は、真ん中が通路になっていて、生徒たちが自由に出入りできるので、生徒と先生の距離もとても近いです」(高1)
「先生が、一人一人の生徒の個性を尊重し、それぞれに合ったアドバイスをしてくれるところです。反面、生徒のことをいちばんに考えすぎて、裏目に出てしまったり空回りしてしまったりしていることもあるように思います」(高2)
将来の夢は何か。
「大好きなバレエを続けながら歯科医師になることです」(高2)
「キャビンアテンダントになることです」(高2)
「バレエダンサーか、学校の先生です」(高1)
学校行事や部活動がいままで以上に重要なものになる
森永浩司校長は、「コロナ禍によって、自宅においてもオンライン授業を活用しながら自学自習を進めることは十分に可能であることが実証されました。とすると、学校は『人間関係や社会の構築』のための体験活動の場としての存在が大きくなると考えます。だからこそ、学校行事や部活動がいままで以上に重要なものになることを実感しています」と言う。
であるならば、せっかくバレエという文化が学校に根付いているのだから、体育の授業や選択の教養講座などで、経験者でなくてもバレエの世界を体験できる機会を用意してもいいのではないかと私は思う。聖セシリアでは、すでに美術や音楽の教育に特に力を入れているが、バレエも取り入れることで、さらに生徒たちの心がのびのびと育つのではないだろうか。
→学校ホームページ https://www.cecilia.ac.jp