学校特集
青山学院大学系属浦和ルーテル学院中学校・高等学校2023
掲載日:2023年9月9日(土)
キリスト教精神に基づく教育を実践する、青山学院大学の系属校となって5年目を迎えた青山学院大学系属浦和ルーテル学院中学校・高等学校。創立から70年の節目にあたる2023年、校長の福島宏政先生が理事長に就任し、校長と兼務することになりました。理事長就任に際し、福島校長は「平和をつくる人間と探究心をもった人間を育てる」という目標を掲げました。生徒一人ひとりが持つ才能を「ギフト」と呼び、そのギフトを見出し、育てていく。それが同校の教育目標である「ギフト教育」です。また、1クラス25名×3クラスという少人数制も同校の特徴。ギフト教育と少人数教育から導き出された同校の教育について、そして新たに掲げた目標について、福島校長にお話を伺いました。
学院創立70周年、キリスト教をベースにした教育は進化し続ける
①「平和をつくる人/喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣く人」を育む
福島校長が掲げた目標の一つは、現代社会を反映したものです。
世界ではロシアによるウクライナ侵攻、国内では突発的で短絡的な事件が相次ぐなか、福島校長は今のこのような社会を危惧し、愛を教え、平和をつくり出す人間を育てることが急務だと語ります。
福島校長:「現代社会にはさまざまな難題がありますが、本来、そられは言葉を駆使し、地道な努力で解決するべきものです。しかし、昨今の事件などの原因の一つには、簡単に答えを求める風潮があるのではないでしょうか。イエス・キリストの時代も争いは絶えませんでした。しかし、イエス様は争いではなく愛によって問題を解決しようとしました。貧しい人々や病気の人々、嫌われている人々に寄り添いながら『互いに愛し合いなさい』と教えました。無償の愛は家族や友達など身近な人に捧げることはできますが、自分とは無関係の見ず知らずの人に捧げることは難しい。愛は自然に身につくもの、というのは幻想です。教育を通して教えられなければ身につきません。愛の基本にあるのは『喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい』(ローマの信徒への手紙12:15)という心のあり方です。このような心を育てるのは教育しかないと思います。人間の弱さをわかったうえで、言葉と態度で愛を教える。そして、平和をつくる人間を少しでも増やしていく。これが本校の教育の使命だと思っています」
②「自分のギフトは何か、一生をかけて探究する人」を育てる
福島校長:「もう一つの目標は『探究心をもった人間を育てていくこと』です。探究といえば、教科の枠を超えた教科横断型の学習をイメージするかもしれませんが、それだけではありません。あなたは神様から何を与えられているか。どんなギフトや使命をもって生まれてきたのか。それを発見していくことも『探究』です。世の中に出ても自分が何者か、自分のギフトは何かを考え続ける姿勢が大切です。世の中を深く知らなければ、自分を活かすことはできません。そして、一つの道を選んだ時、自分にはできないことに気づいても袋小路に入り込まず、新しい観点で別の道を探し、また一生懸命取り組んでみる。そのように、自分のギフトは何か、人のためにどう活かすべきか、一生をかけて探究する人間を育てていきたいのです」
同校が教育の大きな柱として掲げている「ギフト教育」。「ギフト」とは生徒一人ひとりが神様から与えられた才能のこと。そのギフトを見つけ、それを生かし、社会や世界に自分らいしい形で貢献していくことを学んでいくのです。また、このギフト教育を行うため、中高ともに1クラス25名×3クラスの1学年75名を基本とする少人数制をとっていることも同校の特徴となっています。
福島校長:「今年の中1生は複数の学校に合格したうえで本校を選んでくれた生徒が多かったため、例外的に4クラスになってしまいました。しかし、学院本来の姿や温かな家庭的な雰囲気を守るために、今後も1学年3クラス75名の体制は維持していこうと考えています。また、本校は小学校から高校までの12年一貫教育を実践しています。中学受験や高校受験で入学する生徒もいますが、内進生も教職員も家庭的な雰囲気の中で分け隔てなく自然に受け入れているので、すぐに馴染み、打ち解けることができていますね」
2025年入試では、青山学院大学の系属校になって初めて初等部に入学した児童が中学校に入学します。そのため、今よりも内部進学の割合が少し高くなり、中学受験はより狭き門になることが予想されます。
「基礎学力」+「興味・関心」→「才能の開花」→「飛躍」
2023年春の青山学院大学への進学者は卒業生71名中21名。系属校になってから年々増えていますが、今年の進学者の中には聴覚に障害をもつ生徒もいたそうです。
福島校長:「聴覚障害者の立場から社会の仕組みや社会情報のあり方を学びたいと、社会情報学部に進みました。とても努力家で、在校中には英検2級も取得しましたね」
これも、「ギフト教育」の成果の一例です。ほかに早稲田大学やG-MARCH、医歯薬系などへの進学者が多い同校ですが、特にG-MARCHには4割の生徒が進学しています。
福島校長:「高校生になって偏差値が10〜20アップする生徒もいますが、その大もとは、中学で学習の基礎をしっかりと固めていることです。本校の教科指導は中学までは基礎が中心で、闇雲な先取り学習はしません。歴史の授業でいえば、表面的に出来事を追うのではなく、その背後にある原因や、次の時代への影響などを深く、探究的に学んでいきます」
このように、学ぶべきことを学ぶべき学年で深く学ぶことで、生徒たちは確実に伸びていくと校長は言います。一人ひとりが望む進路に向かうためには、中学のどの段階でどれくらいの力をつけていればよいのかと、逆算して指導していることも同校の大きな強みです。
先生方は中高両方で指導しているため、大学入試の時期でもすべての先生が生徒個々の状態を把握していますが、その指導力さらに高めるため、昨年から若手の先生を対象に外部講師を招いて「授業研修会」を発足。また年に2回、全校一斉の授業研修週を設け、先生方が互いに研鑽しあう研究授業を行っています。
福島校長:「今は基本的な研修ですが、いずれはもう一段階上げて、『ICTを活用した探究学習』などのテーマを設定し、切磋琢磨していきたいと考えています。教師の指導力が向上すれば生徒の学力もアップします。生徒に実力をつけさせ、それぞれの志望進路を実現できるようにしっかりサポートする。それが学校の務めだと考えています」
さらに中学では週に1時間、自分の興味・関心のある分野の学びを深める「フィールド・プログラム」という探究学習の活動を行っています。フィールド・プログラムは「フィールドA(アーツ)」「フィールドE(イングリッシュ)」「フィールドS(サイエンス)」の3分野に分かれ、生徒自身の将来への希望に弾みをつけるきっかけとなっています。また、学びの集大成として資格検定にも挑戦しています。
福島校長:「『フィールドA』の生徒たちは毎年『世界遺産検定』に挑戦します。昨年、今年と2年続けて『最年少最優秀賞』という特別の賞を協会から頂きました。これは中1生で4級(高校レベル)満点をとった実績に対して贈られたものです。また、青山学院大学では他者の役に立つ『サーバントリーダー』を目標としていますが、社会や世界に貢献する人を育てるという教育指針は本校も同じです。『フィールドE』では貧困国の子どもたちをサポートするワールド・ビジョンという団体の指導者を招いて、活動について紹介していただきました。英語を活用して、いかに世界に貢献していけるかを学んでいます。フィールド・プログラムは年々進化しているので、今後の生徒たちの活躍がますます楽しみですね」
フィールドA▶芸術、文化、歴史などをアクティブラーニングで学びます。最も力を入れているのは世界遺産の研究です。グループごとにテーマを設定し、ICT機器を活用して協働で調査・探究します。それぞれの世界遺産を訪ねるツアーの企画をプレゼンし、最も優れたツアーを実地で行う計画を立てています。活動のまとめとして世界遺産検定に挑みます。
フィールドE▶高いレベルの生きた英語力を身につける目標を掲げています。昨年はワールド・ビジョンの活動を知ることを通し、英語力を国際的に生かす道を考える学習を行いました。英語力の目安として英検2級以上の取得を目指します。
フィールドS▶自然観察や理科実験など、サイエンス分野の学びに取り組みます。生徒の関心が高いのは自分たちで作ったビオトープの観察で、生き物たちの実態を身近に学ぶことができます。数検や理科検にも挑戦します。
伝統のグローバル教育が本格的に再始動
学院の創立にアメリカのルーテル教会ミズーリ派が関わっているなど、当初からグローバルな環境にある同校。この3年間、新型コロナウイルス感染症の影響で、伝統の海外留学や海外研修に制限がありました。しかし、高校生の長期留学(アリゾナ州フェニックス)は継続していました。通常であれば高2の7月から高3の5月までの10カ月間の留学となりますが、昨年は感染症の影響もあり、2022年1月から2023年5月までの留学期間となりました。
そして6月14日。長期留学から帰国した一人の生徒のために、チャペルで卒業式が執り行われました。参列者の中には、たまたま「日本研修」で同校を訪れていた留学先の校長の姿があるというサプライズも!
福島校長:「留学先の校長先生が参列してくださったのは本当に偶然でした。生徒本人も保護者の方も、とても感激していましたね」
たった一人のために卒業式を行う。同校が大切にする「ギフト教育」の真髄を垣間見た気がします。
また、今年はカリフォルニア州アーバインとアリゾナ州フェニックスで4週間の研修を行う「米国研修」やアリゾナの姉妹校から生徒と先生が来校する「日本研修」も4年ぶりに復活しました。さらに、主に中学生向けに「国内語学研修」を新たに開始しました。ルーテル伝統のグローバル教育が、内容をグレードアップして再始動しています。
福島校長:「『国内語学研修』では4泊5日で長野県に行き、アウトドアや観光を楽しみながら、外国人インストラクターと共に異文化理解やプレンゼンテーションを行ったり、外国人向け観光ガイドのツアーなどを体験します」
米国研修▶︎中3から高2を対象に、夏休み期間に行う4週間の研修。前半は、カリフォルニア州アーバインの姉妹大学の寮で英語や米国文化を学び、後半はアリゾナ州フェニックスの教会員宅にホームステイ。言葉や文化を越えた中身の濃い体験ができる研修です。
日本研修▶︎アリゾナ州フェニックスの姉妹校から生徒と先生が来校し、同校で10日間ほど学校生活を共にします。4年ぶりとなった2023年は校長を含む3人の先生方と、14歳から18歳までの生徒8名が来校。姉妹校の生徒たちはスピーチコンテストでゲストスピーチをしたり、礼拝に参加したりと、同校の生徒たちと交流を図りました。
長期留学▶︎高2の7月から高3の5月までの10カ月間、アリゾナ州フェニックスの教会員の家庭にホームステイし、姉妹校に通学。アメリカで取得した単位は、日本でもそのまま認定されるのも大きな特徴です。
このように、英語4技能をはじめとする「基礎的な学力の養成」と、フィールド・プログラムなどで「興味・関心を発見」する機会があるからこそ、生徒一人ひとりのギフトが発芽し、開花していくのです。
どのようなタイプの生徒でも、その可能性を信じる
卒業生のエピソードを語る時、福島校長はいつもこの上ない笑顔になります。今回は、長い教員生活の中で印象に残ったある40代の卒業生について教えてくれました。
先日、その卒業生の母親から「あるミッション系の大学の准教授になりました」と連絡をいただいたそうです。校長は、何があっても諦めず、その生徒を見守り続けていました。保護者の方は、電話口で「わが子を信じて見守ってくれたからこそ今がある」と、感謝の言葉を口にされたとか。
福島校長:「高校生の頃、私がその生徒の担任をしていたのですが、ご家庭の事情もあり、少し生活が荒れていました。進路については大学には行かず、競走馬の調教の仕事を志し、弟子入りを希望してある関係者の方に手紙を書きました。するとその方から『まず、今の学業をしっかりやり遂げることが先決だ』と諭され、弟子入りは叶いませんでした。その後、彼はI T関係の専門学校を卒業し、派遣で仕事をしていたのですが、働いているうちに大学や大学院で得られる資格の必要性を痛感し、大学の通信課程で国際政治学や経営を学んだのです。やがてMBA(経営学修士)の資格を取得し、かつてと打って変わって学生に教える立場になりました。どんな生徒にも、必ず神様から与えられたギフトがあります。そのギフトを在校中に開花させる生徒もいれば、卒業後に経験や研鑽を経て開花させる者もいます。一生、自分のギフトを探究する姿勢が大切ですし、教師は生徒を信じて見守ることが必要なのだと改めて気づかされます」
70年という歴史の中で、大切にされてきたキリスト教精神に基づく「ギフト教育」。同校の、そして校長の、揺るぎない信念が社会に貢献する志を持ち、活躍する人を育てています。