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学校特集

自修館中等教育学校2023

「探究」×「グローバル」=自修館。社会に開かれた学びを実践
2年前に定期試験を廃止し、すべての授業を探究化。「観点別評価」で学びが深化している

掲載日:2023年9月10日(日)

学習指導要領の改訂により、「探究」は今ではカリキュラムに組み込まれた学びとなっていますが、1999年の創立以来24年間、自修館が教育の中軸に据えるのが「探究」です。同校は、四半世紀に及ぶ歴史と実績を持つ「元祖・探究」といえる存在ですが、その教育スローガンは「一人ひとりが自修館」。6年間をかけて、「何を学び(自学)・何を身につけ(自修)・何を行うのか(実践)」を追求する学びを展開しています。そして、長年の積み重ねの上に、今は「進化と共存に向け、探究を通じて社会を動かす力」を育成する探究プログラム「C-AIR」を実践。その成果を最大化するために定期試験を廃止して観点別評価に移行したことや、独自の「グローバル教育」について、教頭の大藤行央先生と国際理解担当で英語科主任の小野琴美先生にお話を伺いました。

「全教科を探究的に学ぶ」授業を本格始動

■定期試験の点数ではなく、日々の「観点別評価」へ移行して3年目

自修館_教頭の大藤行央先生
教頭の大藤行央先生

大藤教頭:「時代の激しい変化の中で、すぐに役立つことだけを与えるのではなく、生徒たちには卒業して何年経っても財産として残る『自分で学び続ける力』を身につけさせたいと思っています」

 今、自修館の学びの形が深化しつつあります。生徒にとって「与えられる授業」ではなく、自分で「学び取る授業」へ。そのために、2021年から期末試験を廃止しました。ちなみに、同校は4学期制をとっているため、中間試験はなく期末試験のみでした。

大藤教頭:「生徒が期末試験に向けて勉強をしたり、教師もそのための授業をすることは少なからずありました。期末試験での点数が評価の8〜9割を占めていたことも事実です。ですから、そこからの脱却を図りたいと期末試験の廃止に至りました」

「学び取る授業」とは、各教科とも単元を貫く問いを探究する形で行われるもの。そこでは、より主体的・対話的な学びを目指しています。また、定期試験による評価を排除した「観点別評価」とは、日々の授業の中に知識や思考力、判断力、表現力を発揮する仕組みを設け、それを先生方が読み取り評価するもの。これは、指導と評価を一体化したものです。

大藤教頭:「期末試験では、結果が出るまでにタイムラグがありました。でも、今はすぐに生徒にフィードバックすることができますので、生徒も自分の改善点や目標にするべきポイントがわかりやすいですし、記憶が新しいうちに次の学習に生かすことができます。また、このような形で生徒を評価することは、教師が自分の授業を評価し直す機会にもなっています」

自修館_国際理解担当で英語科主任の小野琴美先生
国際理解担当で英語科主任の小野琴美先生

小野先生:「鉄は熱いうちに打て、ですね(笑)」

 このように、「探究」の先駆者である同校は今、全教科を探究的に学んでいくスタイルを実践しているのです。
 この観点別評価では、ルーブリック(学習の到達度を表を用いて測定する)によって成績をつけますが、先生方はどのように生徒に声をかけるかも意識しているそうです。声かけ次第で、生徒の成長を左右することもあるからです。

小野先生:「例えば、知識はAだけれど、思考力や判断力がBの生徒には『知識は持っているのに、それを使うことにまだ慣れていないんだね』と話すことができます。生徒も、最初のうちは期末試験の『90点』『50点』という点数のほうが自分の成績として把握しやすかったかもしれませんが、今は要素ごとに話ができますので、自分は何をするべきかがわかりやすくなったのではないかと思っています」

大藤教頭:「当初は、保護者の方から『期末試験をなくして、大丈夫なんですか?』と心配されましたが、今ではそのような声は聞かれなくなりました。逆に、模擬試験などでは以前より成績がアップしていますね」

■基礎知識の定着のための指導もきめ細かに

自修館_ICT教育の先駆校でもある同校では、「いつでも、どこでも」調べられるように、廊下にもPCが設置されている
ICT教育の先駆校でもある同校では、コロナ禍以前から全員がタブレットを持っている

 ここで気になってくるのが、基礎知識の定着度をどのように測るのかということです。
 それは、頻繁に行われる小テストや発表やレポート、成果物の提出、またペアワークやグループワークでの学び合いなど、形のあるものから形のないものまで、さまざまな取り組みの様子を見ながら先生方が評価しています。さらには、意欲など数値化できない非認知能力をも汲み取っていくのです。

大藤教頭:「ただし、基礎学力をつけなければならない中学段階では、学期の後半で英語・数学・国語の活用力テストを実施しています。これは日常の評価と同列に扱い、最大で評価の5割を占めるものとなっています。一回の定期試験の結果に一喜一憂するのではなく、日常的な学習習慣をつける意味でも、学習方法を見直す意味でも、この方法にして良かったと感じていますね。このシステムは、学習の切れ間がない4学期制とも合っていると思います」

 考えてみれば、体調不良など不測の事態に左右されかねない一回だけの定期試験よりも、日常的に評価するほうが公正な方法と言えるかもしれません。ただ、そうなると先生方個々の力量が問われ、指導法の統一も求められますが、そこは24年間の積み重ねのもと、先生方が一体となって探究し続けている同校だからこそ可能なのでしょう。

■生徒の感想「探究化した授業でどんな力がついた?」(抜粋)

【1年生】
・諦めずに、自分で考える力
・他者と意見交換しながら、協力して考えを深める力
・学んだことを活用する力
・何をすべきか、何を問われているかを押さえる力

【4年生】
・情報と情報を結びつける力、多角的に思考する力
・知識の中から活用できるものを選び、課題を解決する力
・知識と思考を結びつけて捉える力
・公式を暗記するのではなく、公式の意味を理解して応用できるようにする力

次代を見据えた「英語教育」&「グローバルプログラム」

■教育方針「Making Global Mind For The Future
〜グローバル社会に向けて一歩を踏みだす〜」を体現するグローバル教育

自修館_全学年で2週間に1回、ネイティブの先生がホームルームを担当する
全学年で2週間に1回、ネイティブの先生がホームルームを担当する

小野先生:「実践的な英語力をアップさせること、グローバルマインドを培うこと、この2つが本校のグローバル教育です。自分とは異なる言語や文化を持つ人の視点に立つには、今はどうしても英語が欠かせません。ニュースなどでも、英語力を持つだけでアクセスできる情報量は桁違いになりますので、3〜4年生のうちにたくさんの情報にアクセスできる英語力を身につけさせたいと思っています」

 全学年で「AE(Active English)」を週に1時間実施していますが(1クラスを2分割)、これもそのための取り組みの一つです。AEは、ネイティブの先生と英語でコミュニケーションしながら他文化をも学ぶ授業です。また、期末試験を実施していた頃よりもプレゼンなど発表に充てられる時間が多くなったため、学んだことをアウトプットする機会が増えたと小野先生は言います。

小野先生:「これからは英語を使えるだけでなく、『英語を使って何をするのか』を考え、また、さまざまな人々と協働するために必須の『多様な価値観を認める心の持ちよう』を育むことがいっそう大切になりますが、そのためにも内容言語統合型学習(※)の導入も検討しているところです」
※内容言語統合型学習(Content and Language Integrated Learning)......CLILと呼ばれ、言語と教科内容を同時に教えることを目的とした、ヨーロッパで生まれた外国語の学習方法のこと。

「世界の仲間と共に世界の共通課題に取り組んでいける人」「その取り組みを、一人だけではなく他者と協働していける人」「多様な価値を認められる人」を育成するために、多様なグローバルプログラムを展開する同校。学年に応じて丁寧に段階を踏みながら、グローバルマインドセットを作り上げていくのです。

 また、授業以外にも、英語を使う機会をさらに増やしていく予定です。来年度からオープンする「グローバルラウンジ」もその一つ。放課後にネイティブの先生が常駐する「英語オンリー」のスペースです。

大藤教頭:「ここでは、英語を使うことはmustですが、音楽や映画、ゲームなど、楽しみながら英語に親しむことが狙いです」

小野先生:「すでにプレオープンしているのですが、普段の授業ではとてもシャイでほとんど喋らない生徒が、グローバルラウンジにやってきては趣味のことなどを楽しそうに話すので驚いたと、ネイティブの教師が言っていました(笑)。場所が変われば、人も変わります」

自修館_海外フィールドワークにて(5年生)
海外フィールドワークにて(5年生)

 学びの場、学びの機会がさまざまな形で開かれているからこそ、生徒たちはそれぞれのタイミングで自分の関心を発芽させ、自信をつけていくのです。

大藤教頭:「英語を使うだけではなく世界共通の課題にどう取り組んでいくかが大事ですので、今後は、5年生で実施する海外フィールドワークでは現地の高校生と交流するだけでなく、SDGsなどに一緒に取り組むプログラムも行う予定です。これまでは『英語を学ぶ』研修が主でしたが、これからは『英語で学ぶ』プログラムを充実させるために準備しているところです」

小野先生:「今年からスタートした『ハワイ短期研修』では、ハワイ大学の学生と交流して歴史や文化を学び、スピーチやプレゼンを行いましたが、宿泊はハワイ東海インターナショナルカレッジの寮に泊まりました。これまでの海外研修ではホームステイがほとんどでしたが、定員の倍近くの応募者があったことから、希望する生徒のチャンスをなるべく生かしたいと、収容人数の多いドミトリー形式にしました」

■自修館のグローバルプログラム
※赤文字は今年度からの新しいプログラム ※星印がついているものは全員参加。それ以外は希望制

1stSTEP(1・2年生)... 生活習慣を整え、基礎学力を充実させる段階
 英語に興味を持つところから始め、実際の英語活動を通して異文化への関心を高める
→「★レシテーションコンテスト」「★TGGへ行こう」「Jishukan English Day」「河口湖English Camp」など
2ndSTEP(3・4年生)...責任ある行動と主体的な学習能力を身につける段階
 実際に海外に行き、培った英語力で異文化体験・交流を行う
→「オーストラリア短期研修」「ニュージーランド交換留学」「ハワイ語学研修」「セブ語学研修」など
3rdSTEP(5・6年生)... 自己指導力の確立と、総合的な学力の獲得を目指す段階
 海外フィールドワークの渡航先との文化・歴史の比較、国際系学部への進学・海外大への進学を視野に入れた活動を行う
→「ターム・長期の留学支援」「海外大学進学支援」「協定校推薦制度(UPAS)」など

6年間を通じて実践する探究プログラム「C-AIR」

■生涯学び続ける自立した学習者へ

自修館_1年生の「C-AIR」は、探究の仕方を学ぶことからスタート
1年生の「C-AIR」は、探究の仕方を学ぶことからスタート

 全教科を探究的に学ぶ授業を実施するとともに、それまでの「探究」を「C-AIR」として再構築して4年目。生徒の探究力を引き出し、伸ばす「C-AIR」とは、「Change and Coexistence-oriented Agents through Inquiry and Research」の頭文字を取ったもので、「変化と共存に向け、探究を通じて社会を動かす力」を育成するプログラムのこと。私たちが暮らす社会に積極的に関わり、働きかけることを活動のベースにしています。

自修館_「自倫祭」で探究の成果を発表する生徒たち
「自修祭」で探究の成果を発表する生徒たち

 社会では何が起きていて、この先どうなるのか。自分には何ができるのか。そのことを自分で考え、発信するのです。社会との関わりを見つめながら、自分の興味や関心を掘り下げ、プレゼンテーションや論文という形で学内外で発表します。

■自修館の「C-AIR」プログラムの概要

「C-AIR」は1年生から5年生までが必修、6年生は選択としていますが、1〜4年生の探究活動は「理論編」「実践編」に分かれています。
「理論編」は探究の手法や進め方を学ぶもので、一人の先生が全クラスを教えて基礎をつくり、それを踏まえたうえで担当の先生が「実践編」を受け持ち、探究活動を進めていくのです。

1・2年:経験型【社会の見方を学ぶ】→地元を素材にグループで学習・発表
 1年...人文・社会系を学習(テーマ例:伊勢原市役所と連携した「伊勢原のまちづくり」)
 2年...理工・生物系を学習(テーマ例:大学・研究機関と連携した「科学の力で生活の質を高める」)
3・4年:学術ゼミ型【社会とつながる】→ゼミで思考を深め、4年生で「探究論文」を執筆
 12学術分野(人文・社会系4、理工・生物系6、総合系2)を基盤とするゼミ活動を実施。
 各ゼミは2名の先生が担当する
5年:自律型【社会に働きかける】→個人やグループで自律的に探究活動
 テーマや形態は自由で、自律的な探究活動を実施
6年:選択型【社会を見通す】→大学での学びに接続するキャリアを形成
 大学進学後も視野に入れ、テーマを深めて自主研究を実施 


 テーマは自分が興味を惹かれたこと、それをとことん追求していく。探究活動を基軸に、「思考力・判断力・表現力」という普遍的な学力とともに、コミュニケーション力や協働力などの人間力を身につけていくのです。
 このように、「外の世界に飛び出していくための土台」を作ることを最も大切にする同校だからこそ、そこには、グローバルユース国連大使(全国の中高生から20名を選抜)に挑戦して選ばれる生徒や、自分で留学先を見つけてくる生徒など、それぞれ自分の手で扉を開いていく生徒たちの姿があります。

■「C-AIR」をはじめ、学びのすべてを支えるのは「EQ(SSの授業)」

「探究(現C-AIR)」と同様、創立以来継続している学びに、1〜3年生で週に一回実施される「EQ」に基づいた「SS(セルフサイエンス)」という授業があります。「EQ(Emotional Intelligence Quotient)」とは心の知能・感情知性と呼ばれるもの。1990年にアメリカの心理学者が提唱した理論で、「人と仲良く付き合っていくには相手の感情を読み取り、自分の感情をうまく表現する能力が必要」という考え方に基づくものです。

 同校では各学期に「EQ検査」を実施していますが、グラフ化された自分の心の動きや行動特性を科学的に解析することによって、自分の行動の特徴や強み、弱みを知っていきます。つまり、「SS」はコミュニケーション能力や感情をコントロールする力を育み、より良い行動へつなげていくための授業なのです。
 生徒たちは授業の中で今の自分を見つめ直し、自分でも知らなかった自分と出会い、そのことに客観的に向き合ううちに、「性格だから仕方がない」と思っていたことも変えていくことができるようになるのだそうです。
「EQ」は企業の社員教育にも活用されていますが、良好な社会生活を営むために不可欠なコミュニケーション力を、感情と行動の中間にあるEQを高めることで伸ばしていく。自立した学習者、そして他者と協働できる人を育てるために、このような学びを大切にしているところも同校ならではです。


自修館_文化部、運動部合わせて19の団体が活動。上は「ミスダンスドリルチームインターナショナルin USA」に出場したダンス部のみなさん
文化部、運動部合わせて19の団体が活動。上は「ミスダンスドリルチームインターナショナルin USA」に出場したダンス部のみなさん

 同校では「EQ」は人の「OS」にあたり、教科学習や諸活動は「ソフト」と捉えています。OSがしっかりしていなければ、その中にどんなソフト(知識や専門性)を加えても機能しない、という考え方です。

「EQ」を根幹に、探究的授業や「C-AIR」、「グローバルプログラム」などで多様な経験を積む。そこで、知識やスキルを身につけながら思考力と人間力を磨き、世界市民の一員としての生き方を追求していく。
 それは部活動や行事などの諸活動も同様ですが、すべてが連環した同校の教育からは、「生きる力」を持って実社会に旅立っていく生徒たちの将来像がリアルに目に浮かんできます。

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