学校特集
開智日本橋学園中学・高等学校2023
掲載日:2023年7月1日(土)
「自分で考え、判断し、主体的に行動する」を合言葉とする開智日本橋学園中学・高等学校。国際バカロレア(IB)によるカリキュラムを推進し、学年主任なども歴任した近藤健志先生が、今年度より校長に就任されました。近藤先生に同校の教育と涵養していきたい文化について伺いました。
主体性とはなんだろう?
自らを知り、他者も尊重する心を育む
主体性を持ち、それぞれの生徒が自分の好きなことを探究しながら、互いを尊重し合える関係を構築すること。それが開智日本橋学園の学びです。
同校では、常に「主体性」について考える機会が溢れています。
例えば、学校生活におけるルールは、基本的に生徒たちが議論を行った上で決められています。近藤先生が一例として出してくれたのは、長い髪の毛は結ばなければいけないという校則について。
「おしゃれが気になっている生徒は髪を結わなければならない理由について、周りから『授業の時に前が見にくくなる』などの理由を言われても、納得できないわけです。
そうしたことを言い始めると、制服はなぜ着るのか、宿題はどうしてやらなければいけないのか、といった議論に発展します。さらに、生徒たちはそれならば海外の事情を知りたいと外国人の先生方にも実情を聞いてみるのです」(以下、近藤先生)
実際には日本でも海外でも制服の有無は学校によりそれぞれといったことを知ります。ゆえに生徒たちは校則とはなんだろう? 制服とはそもそもなぜあるのか、宿題の意味とは?と、そのものの意義や価値観といった物事の本質を見極めようとし始めます。
「本校にはさまざまな国籍やバックボーン、いろいろな価値観を持った先生方がいます。ですから、以前からこうしていたから、日本ではこういうものなのだという理由では理解を得にくいんです。それに前例踏襲の姿勢は、思考停止に陥ってしまう可能性もあります。
だからこそ、問題を突き詰めて本質を考える癖がついていきます。教員同士でも激しい議論になることもあります。しかしそれは本質的な議論ができているということで、僕は良いことだと思っています」
こんな正解のない問いを日頃からみんなで考え、話し合うことで多様な見識に触れていきます。
そして自分たちの身の回りには、議論のテーマとなる事柄がたくさんあるということにも気づきます。大切なのは、そのふとした疑問をまず発見できるか、そして真摯に向き合えるかということ。同校ではこうした姿勢が重視されています。
「みんなで最適解を探して合意形成を図らなくてはいけません。学校というのはそのトレーニングの場だと思うのです」と近藤先生は話します。
多国籍で多様な文化に触れられる
グローバルな環境が日常にある
同校の特徴の一つに、日本、アメリカ、カナダ、シンガポール、インド、スペイン、ケニア、オーストラリアと8カ国出身の先生方がおり、校内は自然とグローバルな環境になっているということが挙げられます。
コースにより異なるものの、外国籍の先生が担任を務めることは普通で、日英両言語で対応可能な日本人のバイリンガル教員も含めてホームルーム・学年活動が行われることも多々あります。
「インド人の先生は現代社会や公民などの授業を担当していますが、例えば日本国憲法をインドの憲法と比較しながら教えています。スペイン人の先生の地理の授業も面白いですよ。各国の先生方は英語だけでなく社会、ビジネス、デザイン(技術)、美術等の授業を受け持っていて、そのほか論文指導なども行われています」
なお今年、同校に就任し、高1の英語の授業を担当する先生は、国連での勤務経験も持っています。
「そうした経歴がある先生というのは本当に希少なのです。入学式の式辞でこのことを話したら、生徒たちが早速『将来は国連で働きたいと思っています』と話を聞きに行くんです。
国連ではチームを組む時、国籍が異なるメンバーで構成することも多い。だから本校でいろいろな人と協働して作業する大変さといった経験は必ず生きるという話も生徒たちにしてくれています。実際に働いていた方の生の声が聞けるというのはとてもいいですよね」
さらに同校では、博士号を持つ理数系の先生が3名、その他多数の修士号を持つ先生方が活躍しています。
「僕なんかはまったく理解できないような論文を学会で発表しているような人たちなんです。そういう方たちが自分の専門性を生かして、生徒たちが必死に食らいついていく様子を見るのもうれしい瞬間です」
ある生徒の呼びかけで、これら数学科の先生たちが顧問になってできたのが数学同好会です。International Mathematical Olympiad(IMO)という、団体戦国際数学オリンピックの世界大会で5位という輝かしい成績を残したのも、こうした専門性の高い先生方のサポートが大きかったと近藤先生は話します。
「数学は抽象的だからこそ対面で議論したり、探究活動したりすることで、より素晴らしい効果が得られる場面がたくさんあります。教員のいいところや強みをより生かしていきたいですね。数学同好会は数学マニアの先生方と数学が好きな生徒が苦手な子に教えたりしながら、楽しそうに活動しています。数学が苦手と言っても、今はテストの点数には結びついていないだけなのですが。『数学っておもしろい』と感じている生徒たちが集まっています。こうした自主的な活動をもっと広め、伸ばしていきたいのです」
もともと文系で、大学卒業後は銀行勤務を経て、コンサルや外資系の企業などで働いたという近藤先生。「とても勉強になったし、お給料もよかったですが精神的にしんどいこともありました。自分が心の底から好きなことが教育なのだと、35歳くらいになって気づきました」
何歳からでも挑戦はできるという姿勢は、生徒たちにとって大きな刺激にはなるでしょう。ただし「中高生のうちから自分の軸を持って、自分の好きなことはこれだと言えるものを少しずつでも作っていけたら、好きなことを仕事にできる確率は上がる気がします」と話します。
銀行員時代、金融ハイテク商品を扱う部署で数学の微分積分やプログラミング技術を活用しなければならなかったと言う近藤先生。
「その時に理数系的な思考やツールを使いこなしつつ、文系的なコミュニケーションスキルを活用できることが強いということを実感しました。
今後の社会はおそらく理系・文系という区分けは少なくなり、優秀な人は両方を求められると思うのです。少なくとも理系的な知見をどう利用するかという知識はないと難しいでしょう」
だからこそ基礎的な学習を重視しつつ、探究する姿勢とコミュニケーション力を育んでいます。
「自分には思いもつかない考え方やアイディアがあったのだという気づきは多い学校だと思います。さまざまな価値観に触れることで、視野が広がっていきますし、自分の思考も深まります。自分と違う考えの人がいる中でも、説得力をもったプレゼンやディスカッションをすることで自信にもつながります」
多様な価値観があり、自分とは異なる感性も受け入れざるを得ない開智日本橋学園。こうした環境は同校の文化となり、根付いています。
それぞれの個性が発揮できる学びの場
同校では帰国生の割合が15%ほどと、生徒たちもさまざまな背景を持っています。
「この学校は半分、インターナショナルスクールのようなものです。インターナショナルスクールと日本の学校のいいところを掛け合わせて、それぞれの特色を取り入れていると思います」と近藤先生が話す通り、校内は多様性に満ちたグローバルな環境づくりが自然となされています。
「海外の大学に進学した卒業生は、中高時代にそうした環境に身を置いていたことを実感していて、他校から来た学生に比べて馴染みが早いと教えてくれました。
国内外に関わらず、本校の生徒たちは自分の意見を言うことにも慣れています」
日常生活から離れたり、海外に出た時にも高いパフォーマンスを発揮できたりという経験をしてほしいと、同校では現在、コロナ禍で縮小してしまっていた交換留学や海外訪問のプログラムを復活させつつあります。
その一つとして、長らく内線下にあった国、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボ第三高校という学校と姉妹校提携を結んでいます。
「高1の生徒たちが向こうの高校生と、生徒が主体的に計画したオンラインの定期交流会を行っています。
お互いの文化を知り、学校生活の違いなどについて意見交換をしていますが、今年の夏と秋にはいよいよリアルに交流しようと、相互訪問を計画しています」
生徒たちが考えて作り上げた、血の通ったプログラムになっているのが実に開智日本橋らしい取り組みです。
「こうした実際に対面で行う国際交流活動は増やしていこうと思っています。
他の国でもオーストラリアやインド、アメリカ中部の学校などとの交流、訪問計画を進めています」
どんな場所でも生徒一人ひとりが自分らしく、そして他者を慮る気持ちを持って活躍できる素地を培っています。
生徒一人ひとりが自分のストーリーを持ち、
互いの学びを高め合う
こうした多様な考え方に触れ、議論ができるためのベースとなっているのが、中学で行われている「哲学対話」という授業です。
「相手の話を否定せずに、自分の意見を自由に話し合っていく機会としています。
最初は『ペットは犬と猫のどちらがいい?』といったことからスタートするのですが、『私は犬、あの人は猫でいいよね』とそれぞれの価値観や考え方を受け入れることから始まります。
そうした感性がとても重要で、臆さず意見を言える環境づくりをすることで、生徒一人ひとりが主体的になるためのいい仕掛けになっています。もちろん教員の目線を低くすることやマインドもとても大切で、生徒のいいところを見て伸ばすことを重視しています」
授業では生徒たちが自由に、そして真面目に話し合っている光景を多く見ます。先生方はそれを見守る、ファシリテーターとしての役割も担っています。
また理科の実験も実に同校ならではです。
「日本の典型的な理科実験って、まるで『3分クッキング』のようだと思うこともありました。教科書と同じことをやって、その通りになったでしょうと。
本当に探究するのであれば、仮説を立てて、どんな実験を行えばいいかを考え計画し、実際にやってみることが大事です。
思った通りの結果が出ないかもしれません。実験のやり方が間違っているのか、それとも計画が違ったのか、そもそも仮説が間違っているのか。そういったことを振り返ってまた実験をする。これが本当の意味での学びです」
中学生は、ロングホームルームや放課後を使ったゼミが行われています。学年単位で行われ、生徒たちは自分の興味関心がある分野を選択。ゼミは芸術や文学、STEAMなど6種類ほどで専門性の高い先生方と研究する機会を設け、探究結果をゼミごとに発表し合うなどの活動をしています。
こうした気風がさまざまな授業にも有機的につながり、生徒たちの行動にも反映されています。
「LGBTQに対して関心を持っている生徒たちが、なぜ女子はスカートを履かなければいけないのかという話し合いから、スラックスを導入したこともありました。
このグループの中の生徒の一人は、LGBTQに関連する意見をYouTubeなどでも発信し、将来的にはLGBTQという切り口から日本企業の人事制度を良くしていきたいという夢を持っているんですね。個性を持った人々が区別されず、働きやすい会社を作っていくためのコンサルタントになりたいのだそうです」
固定された価値観の中で個性が否定されるような環境だったら、そういった生徒は育たないことでしょう。
「もちろん生徒たちは『自分らしさって何?』と悩むことも多いでしょう。考え方の不一致から喧嘩に発展することもあります。でも、それでいいと思います。
だからこそ、自分も相手の意見も尊重しつつ前向きな話し合いができる文化づくり、環境づくりをより一層強くしていきたいと考えています。
そうすることで自ずと本当の意味で主体性のある生徒は増えます。受け身でいるより、主体的な生徒のほうが絶対に伸びると思っています」
自分とは何か、他者とは何か。そうしたことを考え続け、視野を広げて思考を分かち合う6年間。多感な時期にこうした環境下に身を置けることは、生徒たちが将来大きく羽ばたくための礎となっています。
これからの社会と開智日本橋について
近藤先生と話していると、生徒の一人ひとりが個性を発揮して、主体的に自分の人生を掴み取り、楽しんで生きていってほしいという思いがひしひしと伝わってきます。
近藤先生が校長に就任したのは、ちょうどコロナ禍を境とした時期です。2020年、新型コロナウイルスが流行し、すぐさまICTを使った授業の体制を整えた同校。だからこそ気づきがあったと話します。
「学校に来る意味って何?という問いを突きつけられている時代でもあると思います。
講義を受けて学びたいだけならば、YouTubeやさまざまなアプリでわかりやすく説明してくれます。体系的に知識を覚えたり整理したりする学習であれば、そちらのほうが逆に効率がいいかもしれません。
ではなぜみんなが物理的に集まる学校があるのかを考えた時、今までの延長線ではない、何か新しい考え方をお互いから学び、さまざまなリアルな体験をしながら創造力を高めていきたいからです。みんなで集まってチームを作り、意見を出し合って相談して、前向きに進んでいくことなのです。もちろんその土台には基礎基本の知識を学ぶことが前提としてありますが」
人間が人間たる重要なところは、過去を踏まえて新しい価値をクリエイティブにどう作っていくか、これらを自由に議論していくこと、と話す近藤先生。
「対面で一緒にいるからこそ、複雑なお互いの感情を感じて人間ってこうなんだ、共感するってこういうものなんだ、そういう中でピタッと一致してよし一緒にやろう!となった時の感動は人工知能(AI)では得ることができません。お互いのいいところを引き出し合って認めるといった環境づくりが大切です。そうすることでわざわざ通学時間を使ってまで登校するという、学校の意義が出てくると思うのです。そこは本当に重要視していきたいと思います」
こうした土壌が下支えとなり、グローバルな世界で活躍できる生徒を育成している開智日本橋学園。
なお、生徒たちが企画・運営する大人気の「校舎案内ツアー」は、定員が埋まってしまっても場合により個別対応してくれることもあるので、気軽にお問合せください。人気の秘密をぜひその目でご覧いただきたい学校です。