学校特集
城西大学附属城西中学・高等学校2023
掲載日:2023年10月1日(日)
大正自由教育の流れを受け継ぐ城西大学附属城西。同校が推進するのは、基礎学力・教養・協働力・異文化相互理解力・課題解決力・実践力に重点を置いた6年一貫の教育プログラム「JOSAI Future Global Leader Program(JFGLP)」です。教科横断型学習と体験型学習を体系的に組み合わせることで、生徒一人ひとりの持って生まれた素質と才能を引き出し、グローバル社会に貢献できる人を育成していますが、さらに、2024年度からは高校の普通クラスを「AC(アカデミック&クリエイティブ)クラス」に改編します。校長就任以来、次々と新機軸を打ち出している神杉旨宣先生にお話を伺いました。
中3「オーストラリア海外研修」は中学生活の集大成
学びの意欲が芽吹くきっかけは、生徒によってさまざまです。創立以来、同校は体験重視と本物主義の教育を伝統としてきましたが、中学ではPBL型学習で問題解決力と協働力を養い、授業で学ぶ知識と実体験を融合させる教科横断型の学びを実践。中学3年間で行う理科の実験・観察は100以上に及ぶなど、本物に触れる機会を多く取り入れることによって、生徒と先生も協働しながら学びへの知的好奇心を高めています。
体験型教育プログラム「JOSAI Future Global Leader Program(JFGLP)」の中学3年間の柱は、次の4つになります。
① 日本の自然に触れる→中1「稲作体験」
② 日本の伝統文化を理解する→中2「京都研修旅行」
③ 世界を知り、海外の文化についての考えを深める→中3「オーストラリア海外研修」
④ 国際人としての教養を身につける
神杉校長:「中1の稲作体験は苗を植えることから始まり、文化祭でお米を販売するところまでを体験することで、農業の観点から日本の自然環境と持続可能性に対する視点を養います。中2では、事前学習で京都の歴史や文化を調べて、日本のアイデンティティーを探究する比較文化研究に取り組む。そして、中3のオーストラリア海外研修では、リアルな異文化交流を通してグローバルな視点を育んでいきます」
中1から段階的に日本文化体験や比較文化研究などに取り組んだ後、中学3年間のプログラムの集大成と位置づけているのが、中3の「オーストラリア海外研修」(全員参加)です。コロナ禍で中断していた海外研修ですが、今年の2月には3年ぶりに復活しました。
十分な事前学習を経て、生徒たちは約2週間、オーストラリアのブリスベン市内の一般家庭に1〜2人ずつホームステイをしながら現地校に通学。1週目は城西生だけの語学研修用のクラスで過ごし、2週目からは現地提携校の7校に分かれて、現地の生徒たちと一緒に授業に参加しました。
現地校で実施される授業は、ほとんどが分野横断型のスタイルです。先生と生徒が活発に意見交換するなか、授業の中身がすべて理解できなくても、生徒たちにとっては、こうした雰囲気の中に身を置くことが何より大きな経験になると神杉校長は言います。「英語が決して上手ではない生徒も含めて、城西生が現地の先生や生徒と活発にやりとりしている姿に驚きました」
親元を離れ、言葉の不安を抱えながらのホームステイ生活ですから、戸惑う生徒も少なくありません。実際、ホームステイ先の食事がどうしても口に合わず、2日連続で夕食を食べられなかった男子生徒がいました。そこで、現地コーデイネーターや引率の先生と相談し、まずはホストファミリーに何が食べたいかを伝え、その御礼として「日本料理を作らせてください」とお願いすることに。
普段料理をしたことのないその生徒は、ネット検索でレシピを調べながら照り焼きチキンとポテト料理を作って振る舞いました。ところが、照り焼チキンは大成功で、ポテト料理は大失敗。でも、その生徒が最も驚いたのは、ホストファミリーの方々が「これはとても美味しい」「これは不味い」と、遠慮せずに正直な感想を口にしたことだったそうです。その後、彼は「○○が食べたい」と伝えられるようになり、積極的にコミュニケーションをとれるようになったのだとか。
そこで生徒が学んだことは、日本型コミュニケーションと欧米型コミュニケーションの違いでした。オーストラリアは、イギリスから植民してきた白人と先住民のアボリジニが共存する社会。歴史も宗教も文化も違う人たちが相互理解を深めていくためには、言葉によるコミュニケーションが不可欠です。言葉にしなくても通じる「空気を読む」という日本型コミュニケーションは、海外では伝わりにくいことを実感した貴重な経験になったのです。
神杉校長:「自己発信力といいますか、自分の意見を相手に伝えることの重要性を身に染みて感じた体験だったと思います。拙い英語でも意思疎通できた時の喜びを知り、さまざまな課題に直面しながら少しずつ自我を開放していく様子を見ながら、ブリスベンでの2週間が、生徒たちの心のエンジンに火をつけたことが手に取るようにわかりました。異文化理解は、机上の学びだけではできません。現地の食べ物、飲み物、漂う香りや空気の匂い、日本にいない鳥の鳴き声、そうした五感を直接刺激してくる体験が必要なのです。オーストラリア海外研修はわずか2週間ですが、語学研修というよりも異文化理解の研修になっていると思います」
そしてもう一つ。種々のコースを擁する現地校の生徒たちが、「ミュージシャンになりたい」「ネイルアーティストになりたい」など、明確な目的意識を持って学んでいる姿も、生徒たちにとっては新鮮な驚きだったそうです。余談ながら、ネイル科の女子の練習台としてネイルしてもらった男子が何人かいましたが、みんな顔が真っ赤になっていたとか。
生徒たちをマンツーマンで支えてくれたのは、現地校の生徒(バディ)やホストファミリーでした。2週間の旅を終えて「できることなら、あと2〜3週間残りたい」と、ほとんどの生徒が答えたそうです。「高校生になったらすぐに、オレゴンやカナダの短期留学を申し込みます」「外国に行って初めて、日本のことを客観的に振り返ることができました」など、帰国後の感想もさまざまですが、失敗も成功も含めて体感したことが、その後の人間的な成長に繋がることは言うまでもありません。
神杉校長:「こうした海外研修の成果や取り組みが、どういう形で生徒の自己肯定感を高めることに繋がっているのか、昨年立ち上げた企画分析室で追跡調査を行って指導に繋げていきたいと考えています」
高2「修学旅行」はハワイ・台湾・国内の3コース
探究活動と体験型学習を融合させた「JFGLP」の中間目標が中3の「オーストラリア海外研修」だとすれば、高2の「修学旅行」はその集大成と言えるでしょう。実社会との接点を重視した探究活動は同校の大きな特色ですが、どの体験プログラムも毎年決まった内容をなぞるのではなく、先生方がその都度カスタマイズ。生徒たちが自ら課題を見つけ、主体的に解決する力を身につけていく設計となっています。
① 異なる価値観を受け入れ、他者に自分の意見を伝える
② 広い世界に触れ、世界の成り立ちを知って、自分の生き方を考える
③ 世界の中の自分の立ち位置を定めて、自分の専門性を高める
高2の修学旅行は「台湾」「ハワイ」「国内」の3コースに分かれますが、いずれも事前学習や現地でのフィールドワークを通して持続可能な社会のあり方を考え、当事者として課題に向き合って探究を深めていくものとなっています。
【台湾コース】......姉妹校の同世代との交流から、国と国の理想的な関係を模索する(実践例:故宮博物館見学・姉妹校との交流会など)
【ハワイコース】......多民族が共生するハワイならではの異文化理解の視点で、現地の大学生と一緒に課題を探してセッションを行う(実践例:ハワイ大学での研修・真珠湾の戦艦ミズーリ記念館での平和教育など)
【国内コース】......東北・北海道と関西地方の2コースで、訪問地域のフィールドワークを実施
昨年から高校で始まった希望者対象の「α(アルファ)ゼミ」は、大学や企業、NPOなど外部団体と連携してアカデミックなフィールドワークを実践するもの。予測不能な未来社会で活躍できる人材を養成するキャリア特別講座です。
ゼミ1期生は、修学旅行で岡山県高梁市の吹屋地区を訪れたことをきっかけに地元の活性化プランに取り組んで、入浴剤「吹屋ベンガラの湯」の商品化に繋げました。
2期生の現高3の生徒たちは、修学旅行国内コースで訪れた石川県七尾湾に浮かぶ能登島の活性化プランに取り組み、現地の商工会や観光課にゆるキャラを提案して採用されました。そのゆるキャラは旅館のお膳の下に敷く和紙の配膳敷きに印刷されたほか、観光案内のアニメーションや4コマ漫画も作成するなど、生徒たちはさまざまに企画・提案をしています。
修学旅行や「αゼミ」における探究活動は、進路目標やキャリアデザインに繋がることも少なくありません。「αゼミ」に参加する生徒の多くが、総合型選抜や学校推薦型選抜を視野に入れ、目的意識を持って難関大学を目指しています。
神杉校長:「すべて、生徒と教員が手作りで実行してきたことに意味があると思っています。生徒が肌感覚で地方の過疎化や課題を実感する中で『何をすべきか』を考え、実際に行動して結果を残したという事実は、急激に変化し続ける予測不能な未来社会を生きていくための大きな土台になっていくだろうと思います」
このほか、世界が直面している諸課題を起業家や各分野の専門家と一緒に解決していく超・実践型のスタディプログラム「TIGER MOV SCHOOL」や、探究学習を行う全国の高校生が一堂に介してプレゼンや対話を行う「全国高校生マイプロジェクトアワード」など、同校にはさまざまな「生の体験」ができる場が用意されています。
2024年度4月から「アカデミック&クリエイティブクラス」がスタート
2024年度より、高校普通クラスが「アカデミック&クリエイティブクラス」(略称ACクラス)に改称され、新体制としてスタートします。これは、同校が100年以上の歴史の中で培ってきた学校文化を生かし、本物志向のアカデミックな学びとクリエイティブな探究活動を通して、新しい時代を生き抜く力を育成していくための試みの一つ。高1のACクラスは留学生・附属生・高入生の混合とし、高2から希望進路に応じてAC理系・AC文系に分かれます。
【(A)アカデミックカテゴリー】
大学の一般選抜入試に向けて、5教科の放課後ゼミや駿台ゼミ、7限授業などの課外授業を充実。授業では、主要教科を中心に習熟度別展開を加速させ、生徒の進路実現に向けて徹底した対策を練っていきます。
【(C)クリエイティブカテゴリー】
難関大学の総合型選抜、公募推薦入試にも対応できる知識とスキルを身につけます。キャリア特別講座である「αゼミ」、複数コースから選択できる探究型学習、そして修学旅行などの諸活動によって、さまざまな社会的課題を自分の課題として捉え、社会と関わる力を養います。
神杉校長:「本校は、大正自由教育に立脚した『天分の伸長』『個性の尊重』『自発活動の尊重』を建学の精神とし、生徒一人ひとりの才能を引き出して、誰もが目標に向かって努力を続ける学校文化を培ってきました。生徒の『心のスイッチ』はどこで入るかわかりません。高1からコース分けをしないのも、彼らの『天分の伸長』を妨げてしまうことになりかねないと考えたからです。ACクラスのカリキュラムには、高1の2学期から年間20コマの探究活動『Beyond(ビヨンド)』をカリキュラムに入れ込み、普段教室では学べないリアルな知識や新たな出会いを得られる体験をさせてることを計画しています」
「Beyond」の名前には、普段の当たり前(日常)の枠を超えて、勇気を持って探究にチャレンジしようという思いが込められています。外部団体のサポートを受けながら、各生徒が10のテーマの中から1つを選択して探究活動を展開していく予定です。
神杉校長:「オンラインで各国と繋いだりしながら、さまざまな課題に挑戦していきます。ここで重要なのは、成功・失敗を問わず行動を起こすこと。教員はファシリテーターに徹しますので、生徒は成功と失敗を積み重ねながら、自己肯定感を育んでほしい。この『Beyond』は自分が何を求めているのか、何に向いているのかという純度の高い進路選択にもなりますし、生徒の希望に見合った進路指導にも繋げていけると思っています」
1982年にアメリカ・オレゴン州の高校と交換留学制度を実施して以来、他校に先駆けて留学生を積極的に受け入れてきた同校では、国際交流プログラムも充実しています。
【城西と海外名門高校の卒業資格を同時取得できる
「U.S. デュアル ディプロマ プログラム(D.D.P)」】
日米学術センターとアメリカニューイングランド州にあるプロヴィデンス・カントリー・デイスクール(PCD)の協力により在校中にオンライン講座を追加受講することで、アメリカの名門高校(PCD)の卒業資格を得ることができるもの。卒業後は、全米トップ5%にランキングされた大学を含む18の海外名門大学への指定校推薦入学(100%学部入学)が認められるほか、帰国生枠で明治大学や立命館大学といった国内難関大学を受験することができる。
神杉校長:「D.D.Pの授業は夕方から始まりますが、レポート提出もあるなど、受講している生徒はとても濃い時間を過ごしていますね。現地校のサマーキャンプに出席することもできますし、将来の選択肢が広がる有意義なプログラムだと思います」
【世界7カ国に広がる姉妹校・提携校と国際交流】
北米・アジア・オセアニアの世界7カ国13校の姉妹校・提携校を有しています。短・中・長期の豊富な留学プログラムを揃え、留学中の単位も取得単位と認定しています。
【充実の短期・中期・長期留学プログラム(高1・2希望者)】
生徒それぞれのニーズに応じた多彩な留学プログラムが揃っています。
●留学先...アメリカ・オーストラリア・ニュージーランド・カナダなど
●期間......2〜3週間(短期)/3カ月(中期)/10カ月(長期)
伝統的に「三分を教えて、七分を生徒自らに研究させる」という教育方針を貫く同校。神杉校長は、こう語ります。「我々の仕事は苗木を植えること。人は、どこで目覚めるかわかりません。20〜30年後に立派な木に育つための教育を実践する『城西イズム』は本校のDNAですので、これからも継承し、そして新たな挑戦も続けていきたいと思います」と。