学校特集
横浜翠陵中学・高等学校2023
新しい自分を目指せる
掲載日:2023年10月13日(金)
JR横浜線「十日市場」駅からバスで10分ほどの場所に位置する横浜翠陵中学・高等学校。山や緑に囲まれた広大な敷地で、四季折々の自然を感じられる豊かな環境です。1986(昭和61)年に創設された横浜国際女学院が横浜翠陵の前身で、2011(平成23)年に共学となり現在の校名に変更して12年が経ちました。きめこまかい指導で定評がある同校の、生徒一人ひとりとしっかり向き合う教育活動や様々な取り組みについて、入試広報部長・田島浩平先生にお話を伺いました。
中1・中2で心の軸の土台を作り、
中3から将来に目を向けていく
横浜翠陵の母体・堀井学園は、1940年に「考えて行動のできる人」を掲げて創設されました。複数の学校を立ち上げる中で、1986年に横浜国際女学院翠陵高等学校が開校し、1999年度には中学を開校。2011年度から男子を受け入れて共学校となり、現在の校名である横浜翠陵中学・高等学校として新たなスタートを切りました。堀井学園創始者の意志を受け継ぎ、横浜翠陵も「考えることのできる人」を重視した教育活動を行っています。
「2011年度の共学化と同時に、Think&Challenge!をスクールモットーと定め日々の行動指針として実践しています」と田島先生は話します。
Think&Challenge!の主軸は『考える力』『挑戦する心』の2つの力の育成です。考える力をじっくり育てるため、同校では敢えて先取り教育を行っていません。中学時代は下地を固める時期と考え、できるまでやることを大切にしています。
「私の担当は理科ですが、たとえば元素周期表の小テストは20点中19点を取れるまで、何度でも再試験を行います。再、再、再試験を受ける生徒もいますが、できるまで我々教員も根気よく生徒に寄り添います。他教科も同様の取り組みを行うので、職員室前の質問コーナーは再試験会場としても活用しています。この場所は「ドリカムコーナー」という夢のある名称で、長いホワイトボードを特注で作ってもらって設置しました。生徒はよく質問に来るので、ホワイトボードを使って解説したり、生徒が数人で質問に来るとミニ授業が始まることもあります」(田島先生)。
考える力を育てるためには、学習習慣を定着させ、日々の学習の積み重ねで基礎力と自信を培っていくことが重要です。学習習慣の確立に役立っているのが、同校オリジナルのチャレンジノートです。日々の行動や学習内容、To Doリストや目標、感じたことなどを記録するもので、書く=考えることにつながっています。見開きで1週間分になっているので、その週の学習の内容や取り組んだ時間などがひと目で分かり、自分の行動を振り返りやすいのも特徴です。
1クラスは30人前後で、生徒は1週間に1度、チャレンジノートを提出します。担任は全員のノートに目を通し、コメントを書いて返却しています。「最初から学習計画を立ててきちんとノートに書いてくる生徒もいますが、全員がそうはいきません。男子の中には正直に<勉強時間ゼロ>と書いて帰宅後の行動を白紙で提出する生徒もいますが、そんなときも叱ることはありません。『白紙になっているけど、何をしていたの?』と尋ね、ゲームだと分かると『ゲームでもスマホでもいいから、何をしたかを記録していこう。そしてゲームの時間をまずは30分だけ宿題や勉強にあててごらん』とアドバイスします」。
さらに、定期試験ごとに年4回の面談を行うのも同校ならではでしょう。「最初に年4回も生徒面談を行うと聞いて、驚きました。生徒が30人だと年120回も面談することになるため、かなりの時間を費やすことになるからです」と田島先生は入職当時を振り返ります。
チャレンジノートや面談、日々のやりとりで得た生徒の情報は、担任の中でしっかり共有しています。職員室も学年の担当者のデスクは島になっているため、「今日の授業で、××さんは堂々と発表していて成長を感じた」「〇〇さんは部活の練習で伸び悩んでいてちょっと落ち込んでいる」といった会話が交わされています。先生同士が密にコミュニケーションをとることで、チームで生徒をフォローアップすることができるのです。
生徒一人ひとりと本気で向き合い
失敗も丁寧にフォロー
きめ細かい丁寧な指導から、同校は「面倒みがよい」と思われがちですが、田島先生は「わが校は、生徒の面倒は見ていません」と断言します。「なぜなら、面倒を見たら自立できないからです。自分で考えて行動できてこそ、挑戦する力が育ちます。ですから教員は生徒一人ひとりと本気で向き合っています。生徒が悩んだり失敗したときは、フォローもしますが、『次からは、こうすればもっとうまくいくと思うよ』と的確なアドバイスを送ることで、生徒の背中を押しています」。
たとえば受験生や保護者向けの学校説明会で生徒が登壇することがありますが、話す内容は生徒に任せ、先生方は原稿チェックなども行っていません。「わが校の生徒のありのままの姿を見てもらうことが大事。緊張してうまく喋れないことがあっても、それはそれでいいのです。生徒会長など大勢の前で上手に話せる生徒に、学校が添削した原稿を喋ってもらってもあまり意味がありません。わが校の生徒の素の姿を見て『こんな風に育ってほしい』『ここで学校生活を送りたい』と感じた受験生や保護者に志望してほしいのです」。
ただし、うまく話せず落ち込んでいる生徒には、終了後に「よく頑張ったね」と声をかけています。そして「初めてで準備時間も短かったのに、あれだけ話せれば立派。でも、こんなことに気を付けるともっとよくなるよ」と先生が助言をするのだそう。
「次の説明会で同じ生徒が登壇していることがあり、担当教員に尋ねると『この前の説明会で思うように喋れなかったからもう1度チャレンジしたい、と生徒から申し出があったんですよ』と言われました。失敗を経験して挫折するのでなく、新たなチャレンジにつなげてステップアップするきっかけにしているのです」。
最大のチャレンジの1つが
中3全員参加のニュージーランド研修
学校生活のさまざまな場面で生徒がチャレンジする機会を設けていますが、1番大きなチャレンジは中3の夏休みに行うニュージーランド研修です。
創立当初からグローバルな教育を実践しており、中3全員参加の海外教育研修は中学開校から始まりました。現在は夏休みにニュージーランドで2週間の研修を行っており、生徒は現地家庭でホームステイします。そして現地校の生徒とバディを組んで授業を受けたり、ホームステイ先の家族と過ごすことで英語力やコミュニケーション力を磨くのです。
「英語をよく勉強している生徒が『実際に喋るのは難しくて、思ったより話せなかった』と悔しがったり、逆に英語が苦手な生徒が『身振り手振りでも伝わって楽しかった!もっと話したいから英語の勉強を頑張りたい』と意欲を見せることもあります。14~15歳の子どもが親もとを離れて海外の家庭で2週間暮らすのだから、行く前は誰しも不安を感じるでしょう。でも不安があるからこそチャレンジになるし、それがきっかけで英語に対してモチベーションや海外への興味が高まったいう声もよく聞きます」(田島先生)。
先生との面談や日々の会話、チャレンジノートでのやりとりなどを通して挑戦する心が育ちますが、こうした行事を通してきっかけをつかむ生徒も多いのです。
世界の課題に向き合う「翠陵グローバルプロジェクト」
「Think&Challenge!」を体現するために2016年に立ち上げたのが「翠陵グローバルプロジェクト(SGP)です。「世界がハッピーになるために何ができるか」という大きなテーマを掲げ、週1回の授業で探究学習を積み重ねていきます。SGPの特徴は、単なる調べ学習ではなく、課題解決のために何をすればいいか、自分の意見をまとめて発表することです。「ですから発表の機会は非常に多いですね。最初は友だち同士で1対1で発表し合うことから始まり、班の中での発表、そしてクラス全員、学年全員の前での発表へとステップアップしていきます」(田島先生)。
たとえば中1では最初に国旗について調べて発表します。「とてもきれいな国旗でも、実は赤色は戦争による流血を表していることもあります。私も初めて聞く内容も多く、ワクワクしながら発表を聞きました。誰もが発表が得意なわけではないけれど、きちんと自分で調べてまとめた内容なので自信を持って発表できるんです」と田島先生は笑顔を見せます。
さらに中1はひとりずつ担当する国について調べて学年末発表会でポスターセッションを行うほか、世界各国の製品やサービスについて調べ「これは日本に輸入したほうがいい」と提案する課題もあります。「私が驚いたのは、スウェーデンにある回転滑り台の導入提案でした。安全性もしっかり調べたうえで『これが日本の公園に設置されたら子どもたちも楽しめると思う』と提案していました。中学生の提案やプレゼンは自由な発想からスタートするため斬新でユニークなので新鮮な驚きがあります。この遊具も、大人だったら危険性を真っ先に考えて候補から外すかもしれません。大人が思いつかないような発想がぽんぽん出てくるところが 面白いし、その発想の広がりは大事にしたいと考えています。それを実践できるSPGの魅力といえるでしょう」(田島先生)。
中2ではSDGsのゴールの中から興味のあるものを選び、ディベートやグループ学習を行います。世界の状況を調べたうえで、課題解決のための提案を考えて発表したりディベートを行うのです。たとえば数年前のディベートでは、ガソリン車を全廃すべきかどうかをチーム対抗で議論し、先生方が判定を下しました。「良く調べていて感心するし、どんどん議論が白熱して迫力があるディベートが展開されました」と田島先生は振り返ります。
中3では、カフェメニューの企画立案を行ったこともあります。食堂の調理担当者にプレゼンし、採用されたメニューを実際に文化祭で販売したのです。流行していた韓国料理のチーズドッグを提案した班は「凝った料理に見えるが、揚げるだけで簡単にできる。単価は×円」と細かく調べたうえで提案しました。健康志向を掲げてアサイーを使ったデザートを企画した班もあり、大いに盛り上がりました。
こうした身近なテーマを掲げることは、生徒が当事者意識を持って課題について調べ、自分の意見を踏まえて解決策をまとめることにもつながります。他人ごとだと思うと興味関心が薄れがちですが、世界でこんな起きていて、こんな課題がある中で、自分に何ができるか――考えを深めるためには、身近で自分ごとに引き寄せて考えられるテーマ設定が非常に重要なのです。
集大成として中3で卒業論文を執筆
SGPの集大成として行うのが、中3で取り組む「My Goal」、いわゆる卒業論文です。それまでの2年間の学びを元に、SDGsから各自がテーマを選び、研究に取り組みます。12月には教員総出で生徒1人ずつのメンターとなり、相談に乗ったりアドバイスをしながら論文執筆、そして3月の卒業発表に向けて伴走していきます。
「社会問題には多彩な側面があるので、私はよく『違う視点もあるよ』と助言しています。たとえば『アフリカの水問題』をテーマにした生徒は、空気中の水蒸気を水に変える装置など、水を作り出す方法を調べていました。しかし田島先生は全く違う視点を提示するために「同じアフリカでも、水不足に陥っていない国もあるのは何故かな?」と質問を投げかけました。「その生徒はさっそく調べてみて『資金が潤沢な国はライフラインが通っている。経済力が非常に大事だと分かった』と新たな気づきを得たようです。そしてこの卒業研究を機に経済学に興味を持ち、『発展途上国でも経済力を上げるための研究をしたい』と考え、今は大学の経済学部で学んでいます」(田島先生)。
こんな風にメンター教員の適格なアドバイスを受け、自分ひとりでは得られない視点も踏まえた探究を進め、4000文字程度の論文を執筆します。さらにその後にスライドを作成し、3月の学年末発表会ではひとり20分ずつ研究内容を発表します。「20分の発表は大人でも長く感じるもので、生徒はしっかり準備して練習を重ねて本番に臨みます。中学3年間受け持った先生は、生徒の成長に感激して目を潤ませる場面もありますね」(田島先生)。
SPGを通して培った探究力やプレゼン力は、大学入試の実績にもつながっています。同校では一般入試で大学入試を突破する生徒が大半ですが、電気通信大学や東京海洋大学といった国公立大学に推薦入試で合格した生徒からは「大勢の前で話す体験が多かったので、面接でも緊張せずにしっかり自分の意見を話せた」「SPGや教科学習の中で常に自分がやりたいこと、やるべきことを考えてきたから、面接で『私は将来こういう仕事をしたいから、そのためにこの大学でこの分野を学びたい』と論理立てて話せました」という声が寄せられています。SGPの学びは、大学入試だけでなく生徒の将来につながる道を作る一助にもなっているのです。
横浜市内とは思えないほど
恵まれた自然環境も魅力
JR横浜線「十日市場駅」からは徒歩20分に位置する同校へのアクセスはバス利用も主流です。「十日市場駅」から7分、東急田園都市線「青葉台駅」から15分、相鉄線「三ツ境駅」から20分で最寄りのバス停に到着します。校門をくぐると、迎えてくれるのは森の遊歩道に入り込んだような一面の緑。風が吹き抜け鳥のさえずりが聞こえ、校舎に歩を進めると、森林浴をしているかのような心地よさに包まれます。学校説明会や文化祭を訪れ、この自然環境に一目ぼれして受験を決める生徒も多いのもうなずけます。
先取り学習に走らずしっかりした土台を作り、先生方が本気で生徒と向き合ってチャレンジする姿勢を育てている同校。豊かな自然環境の中でのびのびと学校生活を送り、将来に向けて思索を深めている生徒たちは、実に生き生きと輝いています。素晴らしい環境や生徒の素の姿に触れることができる学校説明会などに、ぜひ足を運んでみてください。