学校特集
和洋九段女子中学校高等学校2023
掲載日:2023年10月11日(水)
1897年創立の和洋九段女子中学校高等学校。2022年に創立125周年を迎えた女子伝統校ですが、2017年より積極的な教育改革を行い、21世紀型の先進的な教育を行っている中高の一つです。
「Connected School」を標榜し、校内外でのつながりを大切にしている同校。その一環として、近年力を入れているのが高大接続教育です。社会科が専門で主幹教諭の水野 修先生に同校の学びについて伺いました。
3つの大学を軸に広がる高大接続教育
和洋九段女子中学校高等学校では、世界標準の教育を見据え、下記の力を育むことを目標としています。
・自分の頭で考える能力
・情報社会を生きるリテラシー
・実際に使える英語
・コミュニケーション能力
・科学的な視点のリテラシー
これらの力を培うために行われているのが、例えば問題解決型のPBL(Problem Based Learning)学習。授業をはじめ、学校生活を通して、コミュニケーションの必要性や協働することの大切さを学び、さまざまな答えのない問いに向かう力や心を日常的に養っています。
同校のテーマの一つである「Connected School」とは、学校内外でのさまざまな人や物事との出会いを通じ、それらとつながっていく体験により、自らを知ること、そのつながりから新たな自分を見出していくこと。そしてその経験を糧として成長していくことを指しています。
具体的な実践の一つとして行われているのが高大接続教育です。2020年の成城大学、2022年には専修大学並びに東洋英和女学院大学と教育提携を結び、互いに学び合う関係性を構築しています。
成城大学と共に行っているのが、高1が5月に長野県(飯綱町・芋井地区)で実施している研修旅行です。農業体験や民泊などを通じて地元の方々に聞き取りをしつつ、成城大学の経済学部の教授と学生と一緒にディスカッションなどを行い、地方創生に取り組んでいます。
「単なる地方創生を掲げるのではなく、現地の課題まで掘り下げて考えていきます。その上で、どんな手法を行えばよいか、どのようなアイディアで課題解決をすればいいのかというところまで落とし込みます」(以下、水野 修先生)
このように、具体的なアイディアを考えてアクションを起こすことは、同校が最も大切にしていること。その上で、どんな課題を抱えているのかという根本原因を考えなければ、持続可能な活動につながらないと考えられています。
この研修での生徒たちの成果物は文化祭で発表されます。そして飯綱町や芋井地区に提案をして、意見交換なども経て、実際の商品化へと向かいます。
現・高3生たちが現地の方々と共に行ったのが、飯綱町産のリンゴを使ったシードルをアピールするためのラベルのコンテスト。そこで選ばれたラベルを貼られた商品は、飯綱町で販売されています。
「コンテストで選ばれたデザインが形になり、商品がお店に並ぶということはやはりうれしい経験です。
これが一つのきっかけになって、生徒たちも先方も今回これほど面白いものができたからでは次はどうしようと、次のアクションへと広がっていきます」
水野先生も現地でそのラベルが貼られたシードルを購入した、とうれしそうに教えてくれました。
大学の知見に触れる場としての高大接続教育
専修大学と東洋英和女学院大学との学びはどのようなものなのでしょうか。
専修大学では、高校生の希望者が3か月タームの前期・後期に分かれ、同大神田キャンパスでの商学部のゼミナールに参加しています。
前期ゼミは「財務会計の機能と会計制度の研究」、「小売業のマーケティングに関する研究」、「フィールドスタディーと統計分析から考えるデータの解析と評価」といった6テーマ。まさに専門領域を体験できるものになっています。
「少人数のゼミの中に入れさせていただき、大学生に混じってディスカッションを行うなど、生徒たちも頑張っています。
また地域の中での異文化・多文化共生を学ぶ大学生のフィールドワークに参加し、フィールドワークとは何か、どのように情報を集めるのかなど、実際に足を使って学ぶきっかけとなり、大学での"学問"のエッセンスに触れています」
さらに専修大学の教員志望の学生が同校に授業見学に来ています。
「学生さんたちの学びになるだけではなく、その大学生が教室の中にいることによって、生徒たちは大学生活について聞いたり、話し合ったりするきっかけにもなっているようです」
生徒たちは自分のほんの少し先にある、進路選択や大学受験といった経験をしてきた身近な存在の大学生に自分の悩みを聞いてもらうこともあるそう。
学生にとっては、中高生のリアルな姿に触れられるだけでなく、和洋九段で実践されている新しい学びのスタイルを知れるのは、自身が教師になる上で大きな刺激となることでしょう。
「授業見学にいらした教師の卵の方々は本校の授業、とりわけPBLやアクティブラーニングをご覧になって、新しい授業の仕方や学びの方法、生徒への接し方というものを手に入れたことは大きな経験になったと話してくれているようです。
学生たちのこの経験がまた違う年代の生徒たちにつながっていけば、それはまた異なる形でのプラスにもなっていきます。『Connected School』として、そうしたお互いの学び合いや成長を促していける場となっていくことを目標にしています」
東洋英和女学院大学とメインで学んでいるのは、中3・グローバルクラスの生徒たちです。
例えば今年の3月に行われた講義のテーマは、中東・アフリカにおける経済状況をオイルショックの時代より概観する、という内容です。
「これからの世界を見渡すと、人口増加数は圧倒的に中東やアフリカという時代がやってきます。その時に社会や世界の中心になっているのが、今の生徒たちです。現在の我々の視点からだけではなく、数十年先の視点で物事を考えられるような、物の見方というものは生徒たちにとってとても大事になります」
この講義は大学の学びをグローバルな視点で伝える場として、国際的な経済や現在生じている諸問題について、データの読み解き方やグローバルなものの捉え方、考え方などと共に学ぶ場になっています。
そして先々を見通した物の見方を生徒たちに伝えることにより、彼女たち一人ひとりがこれからの自分自身の選択肢を広げていく大きなきっかけになることを期待しています。
一歩踏み出す勇気を育む
「本校の探究活動自体が、生徒たちが中学校の時に学んできた『総合的な学習(探究)の時間』などで、SDGsをはじめとした世界や社会の課題を自分ごとと課したように、自分のテーマを設定して何らかのアクションを起こすことを大きな目標としています」と話す水野先生。
同校では中2で実施する企業訪問「GEP(Global Experience Project)」や中3のシンガポール修学旅行などで、外部の大人たちと触れ合う機会を持ちます。
その上で高校での学びにつなげていますが、水野先生は「実際に行動を起こす際にはさまざまな壁があり、それをどう乗り越えていくのかも考えます」と言います。
「我々が重視しているのは、生徒たちがチャレンジしたいと思う仕掛けづくりです。そうした場や雰囲気を作り、そっと背中を押すことが大切です」
高1ではまず、講演会やセミナーへの参加が一つのアクションとカウントされますが、これはある意味受け身といえます。そこで先生方は外部コンテストなどの機会を伝えていきます。
「こうしたコンテストの参加などから社会課題に取り組んでみようと行動を始める生徒が出てきています。そういう子たちの存在は一つの成果ではあります。しかし、もっと自分の興味関心に則って動く生徒が出てきてくれるとさらにうれしいんですよね」
生徒たち一人ひとりが起こすアクションには、周りへ刺激を与え、積極性というエネルギーを伝播していく力があります。そしてそれは大きな成長につながることを先生方も実感しています。
高2では、ワークショップへの参加をはじめ、企業や団体、地方自治体などに企画提案したり、取り組みについてのヒアリングを行っています。
「自分たちで考えたリサイクルボックスを企業に提案して、褒めていただくだけではなく、更なる工夫についてのリアクションを頂戴するなど、実際に多くの大人たちが本気で対応してくれる、アドバイスをくださるといった経験を積んでいます。
本気で聞いてくれるのだから、私も本気でやらなければと生徒たちも発奮しますし、そうした一つひとつが、生徒たちの行動につながるきっかけをいただいていると思っています」
水野先生はさらに「ある意味で、上手に失敗させることも必要です」と話します。
例えば、日本を代表する清涼飲料水メーカーに飲み物を補充できるボトルステーションやラベルレスのペットボトルについて提案したグループがいました。
このラベルレスのペットボトルという生徒たちのアイディアは、環境負荷を考えた際には素晴らしいものでしたが、食品衛生法で成分表示を載せなければいけないといった、法律の壁にぶつかりました。
実はその後、ラベルレスのペットボトルが発売されました。生徒たちの提案が叶ったものなのか、もしくは既に動いていた企画なのかを知る由はありませんが、自分たちが持っていたアイディアが実際に社会に放出されたというインパクトはあったことでしょう。だからこそ、その壁に気づき、乗り越える力の必要性が感じられたはずです。
「そのほかにも、小学校にワークショップの開催を提案しましたが断わられた生徒もいました。それを経験として、では提案方法をどう変えれば、次は受け入れてもらえるかと改良していくように発想を切り替えていきます」
こうしたさまざまな経験は新たな学びにつながっていき、生徒たちの実際のものづくりに結びついていったり、企業のインターンに参加したり、記事を書くきっかけなど、さまざまな契機になっています。成功失敗を問わないさまざまな事例は、生徒たちの大きな財産になっているのです。
高大接続教育を行う中で目指すもの
同校では高3の4月に、自分たちのやってきたことを後輩にワークショップ形式で伝える場を設けています。
「後輩たちに自分たちのやってきたことをいろいろな形で伝えることで、仲間を増やしたり、またはそれを受け継いでもらっています。後輩の課題意識を刺激する機会であり、自分たちなりの社会課題を考えてもらう場としています」
と水野先生が話す通り、アクションすることにつながって、後輩たちにつないでいくという、連関させることがこれらの学びの大きな目標となっています。
この「連関」という考え方は「Connected School」として大きな意味を持っています。
「いろいろな大学からいただいている学びの機会も、また次の学びにつながっていきます。
それは本校の生徒だけではなく、大学の学生さんも含めて、持続可能な良い社会になるような学びの連関に、この高大接続というものがつながっていけるのではと考えています」
この連関は、生徒たちのキャリア志向にも自然と影響を与えています。
「最終的にはどんな自分になりたいかを想像し、そこに向けて自分が何を学ぶのか、これから伸ばしていくことを自らの進路として考えられるといいですね。
そこからその時の進路、そしてその先の未来を考える際の下地としてもらえたらと思っています」
同校では実際、探究の授業を契機に、社会の役に立ちたいという思いを持ち、進路を選択する生徒が増えているそうです。
例えば、介護問題に取り組んだ結果、音楽療法に興味を持ち、芸術学部に進学したOG。はたまたフードロス問題に取り組んでいるときに法律の問題にぶつかり、法学部に進学したOG。
「この子は自分が携わっていた社会課題の中から法律を学ぶ意義や意味を見出して裁判を傍聴しに行き、裁判官へのインタビューなどを通して、将来を見据えた進学先を見つけていきました。
本校では、良い大学や良い就職先というのではなく、良い社会にしていくためにはどういうふうな学びが必要なのかということを考えて進学先を選んだ子たちが多くいるような気がします」
こうした問題意識を抱き、当事者の視点に立つ姿勢は、総合型選抜入試での好結果に結びついています。
「生徒たちにとっては、これまで自分が今まで取り組んできたことを表現できる機会になっています。真剣に学んだからこそ聞いてもらいたいという思いを持ち総合型選抜で勝負をして、大学から評価をされた子たちが多くいました。
むしろ大学側から、プレゼン上手なあなたが欲しいと言っていただいた生徒もいたと聞いています。自分の確固たる思いがあれば、相手の心は動くということを知ることができました」
これからの社会でとても大切な、協働する力や対話する力、そして発信する力や工夫する力、それらを補う学力を身につけ、世界へ飛び出そうとしている和洋九段女子の生徒たち。
中高一貫の6カ年の生活の中で、そうした場が整備されており、それぞれが自分らしさや自分の志を見つけ、自分を磨いています。
今後さらに多くの大学や外部機関とも関係性を深めていくことを予定しているそうです。
そんな和洋九段女子の教育にこれからも目が離せません。