学校特集
桜丘中学・高等学校2023
個々の力を大きく伸ばす
掲載日:2023年8月3日(木)
1924(大正13)年に創立された桜丘中学・高等学校は、来年100周年を迎える伝統校です。「勤労」「創造」という校訓を掲げ、手厚い指導で自ら価値を創り出せる生徒を育てています。2018年に校長に就任して学校改革に着手した髙橋知仁先生が唱えているのが「個別最適化」。相対評価だけでなく、過去の自分と比較して成長率を見る「絶対評価」を大切にしながら、生徒一人ひとりに向き合っています。探究科教科長・中野優先生と進路指導部・内野佑紀先生に、6年間で生徒を大きく伸ばすカリキュラムや、今年度から取り組んでいる英検全員受験やコンピテンシー診断について詳しく伺いました。
絶対評価で自己効力感を高める
桜丘は一人ひとりの生徒に寄り添い、個性を引き出し力を伸ばす指導で大学合格実績も伸び続けており、年々人気が高まっています。自学自習の習慣をつける「家庭学習帳(通称・カテガク)」やセルフスタディノート(通称・SSノート)」などの伝統的な取り組みは続けながら、時代のニーズや生徒たちの実状に合わせた改革も行い、まさに時代の先端をゆく教育を実践しています。改革の旗手となっているのが2018年に校長に就任した髙橋知仁先生です。髙橋先生は就任して以来、先生方のアイデアをとり入れながらさまざまな改革を実践しており、その効果が顕著に表れてきています。
2021年度からは、高校で4コース制を導入しました。一貫生も高入生も高1から次の4つのコースに分かれてクラスを編成しています。
●難関選抜「スーパーアカデミックコース」
●文理特進「アカデミックコース」
●グローバル探究「グローバルスタディーズコース」
●キャリア探究「キャリアデザインコース」
最難関の国立大学や早慶上理を目指す「スーパーアカデミックコース(Sコース)」は、最上位層のさらなるレベルアップ目指して創設されました。高3(1期生)は43名で、そのうち一貫生が12名を占めています。「現在の高3のうち中1から入学した生徒は44名なので、1/4以上の生徒が高校進学時にSコースに進んだことになります。高校4コース制が敷かれる前に入学した生徒たちですが、新コース制導入が決まってからSコースを志して努力した生徒がたくさんいるのです」と内野佑紀先生は話します。
中学から入学する一貫生の意欲が高いため、今年からは早いタイミングで高校コース制や大学入試を意識できるような取り組みを始めました。「中1の段階で高校のコース制について説明し、中2になると動画を配信したり保護者を呼んで話をするなど、定期的にコースを意識する機会を設けています。中1、中2は習熟度別でなくフラットなクラス編成ですが、中3からは高校のSコースにつながる特進クラスを設置します。ですから中1のうちからコースを意識し、上を目指す生徒は早くから努力できる体制を整えているのです」(内野先生)。
年2回は英検を全生徒が受験
中野優先生は「髙橋先生の校長就任以来、先を見据えた取り組みも増えています」と力強く語ります。「髙橋校長は常に"個別最適化"を唱えており、相対評価ではなく生徒一人ひとりにフォーカスした取り組みを推奨しています。ですから教員も、生徒それぞれに合った教材やカリキュラムを常に意識しています。成績上位者を退屈させたり伸ばしそこねることもないし、成績が振るわない生徒が追いつけないこともなく、全体的にいい方向に向かっています」。
「個別最適化」の取り組みの1つとして、今年度から新たに導入したのが、英検の全員受験です。英検は1年に3回実施されますが、同校ではそのうち1回目(6月)と3回目(1月)を全員受験することを決めました。「きっかけは保護者の声でした。『英検は大事だと分かってはいるけれど、子どもに勧めてもめんどくさいと言って受けたがらない』という話を耳にします。しかし保護者とじっくり話す中で、『頑張って挑戦したのに不合格だった時に傷つくのが怖い』という声を引き出すことができました。めんどくさいのではなく、思春期特有の繊細さや傷つきやすさが、英検受験に二の足を踏んでいる原因の1つではないかと気付いたのです」と内野先生は話します。
今、英検は合否よりもスコア(得点)で評価される時代になっており、技能の習得状況を正しく評価しやすい状況になってきています。たとえば大学受験の際、英語の試験を免除する「英語外部検定試験利用入試」制度を採用する学校が増えています。英語入試の代わりに英検の成績を利用する場合、取得級やスコアに応じて英語の得点に換算されるのです。以前は取得級だけで評価が決まりましたが、今は、同じ級を取得していてもスコアに応じて加算される点数が変わる大学もあります。こんなふうに個人の努力や成果が細かく評価される状況になっているにも関わらず、英検の個人票で一番大きく書かれているのは「合格」「不合格」で、前回受験時からの成長率は表示されません。
そこで、同校では今年度から『桜丘オリジナル英検シート』を作成し、英検協会からの個人票返却時に一緒に渡しています。前回受験時からの成長率、今回のスコアで英語入試を免除・優遇してくれる大学の一覧なども記載されているので、否が応でもモチベーションは上がります。「このシートの作成時に特に意識したのは、合格した生徒ではなく不合格だった生徒のモチベーションをいかに上げるか、です。以前は英語科以外の担任がHRで英検の結果を返却するとき、不合格の生徒には声をかけずらい、という声がありました。でもこのオリジナルシートには合否の記載がないため、担任教員が結果を返却するときも『前回よりこの技能のスコアが伸びたね』『ライティングの得点が足りなくて惜しかったね』などと声をかけやすくなりました。
『オリジナル英検シート』は、英語科教員だけでなく様々な教科や部署の先生方の協力で完成したといいます。「英語科教員が中心になり、生徒たちが今まで以上に英検に積極的に挑戦する仕組みを考えようと進めてきました。担任や進路指導の教員、事務方の職員も加わり、さまざまな角度からシートを作成しました。シートには「スピーキングであと×点取れればこの大学の入試に使える」「英文の構成が正しく理解できているかチェックしよう」「ライティングが弱いので英作文を強化しよう」といったコメントが記載されており、生徒は振り返りに役立てることができます。「このコメントに関しても、具体的な授業の単元と結びつけてアドバイスするなどこれからさらに改善していきます。今回作成したシートは、今後も多方面からの意見を聞きながら随時バージョンアップしていく予定です」(内野先生)。
さらに昨年度から、英検前1週間は「英検Week」と位置づけ、英検に寄せたカリキュラムを実施しています。英検Weekは、英語の授業に関しては通常のテキストは使わず特別プログラムを実施します。同じクラスの中に違う級を受験する生徒が混在していますが、受験級に合わせた難易度のプリントやテキストを使い、個別に指導していきます。3級以上になると2次試験(面接)があるので、面接を受ける生徒のうち希望者には始業前や放課後を使って面接対策も行います。基本的に面接を受ける生徒はほぼ全員が希望するため、朝や放課後は校内のあちこちで面接練習が行われています。
「髙橋校長も『受験してよかった』という達成感を重視しており、"スコアアップ賞"といった形で努力した生徒をどんどん表彰していこうと話しています。結果的に全員が表彰される可能性もありますが、実際に模擬試験でも成績上位者だけでなく前回からの伸び率上位者も貼り出されています。相対評価以上に個人にフォーカスした絶対評価を重視する風土が根付いているのです」と内野先生は話します。
「相対評価ではその生徒の正しい評価や努力が見えないことがあるので、絶対評価と個別最適化という2つの軸を重視しています。周囲と比較して順位や合否に振り回されていると、本当の自分の実力は図れません。英検オリジナルシートや前回の自分の点数との比較を通して、生徒には自分の力を絶対評価する習慣をつけてほしいと考えています」(中野先生)。
このシートには自己効力感や自己肯定感を上げる効果もあり、こうした経験を通じて自信を高めることで、他教科や行事、委員会活動など、いろいろな場面での積極性を育てていくことができるのではと考えています」(内野先生)。
また、高校で所属するコースを決めるうえでも、英検はポイントの1つになります。SコースやGコースの高2生は準1級取得が目標で、ほとんどの生徒が高2の間に2級を取得しています。そこで高校でSコース、Gコースを目指す生徒には、「高校進学時点で準2級取得が目標」と伝えています。そうすることで、早いうちから高校の希望コースや自らの目標を見極めて努力することができるのです。
個性や強みを可視化して的確に指導
さらに今年度から新たに始めたのが、コンピテンシーの定期的な測定です。コンピテンシーは能力や技能、適性などその人の行動特性のこと。診断テストを行うことで対人理解、自己管理、関係構築、分析的思考といった評価項目の点数を可視化できるもので、最近は企業などでも導入が進んでいます。同校では今年度から導入し、生徒たちは4月、9月、2月に診断テストを受ける予定です。
「"この生徒は優しい""皆をまとめるのが得意だ"といった印象は感覚的なもので、可視化しづらいものです。しかし、コンピテンシー診断を行って"寛容性"スコアが高く出ると、単なる"優しいイメージ"ではなく、その強みをエビデンスを持って意識することができます。グループ活動では、これまでも強みや個性が偏らないようにバランスよく生徒を配置していましたが、今後はコンピテンシー評価を使って数値やエビデンスに基づいて振り分けることができます。『君はこの部分が強いから、班の中でこうした役割を期待している』と声をかけることもできるし、逆に『ここが弱いから、このグループ活動でそこを意識して成長してほしい』と伝えることもできます」(中野先生)。
生徒自身も、コンピテンシー導入をきっかけに、学力以外の自分の強みや、苦手だった項目の力の伸びを数値で確認できるようになったのです。
しかも、貼り出されるグループ活動のメンバー表には、氏名や役割だけでなく各生徒の強みも併記されています。各生徒の強みや魅力、潜在能力などが公表されるため、生徒同士がお互いを尊重し合い、認め合うきっかけにもなっています。
コンピテンシー診断は高校のC(キャリアデザイン)コースでの導入がきっかけでした。「探究活動に注力するコースですが、教員は生徒の成長を肌で感じるものの言語化や数値化できないもどかしさを感じていました。生徒の成長をきちんと把握してフィードバックしてあげたいという思いでコンピテンシー診断をとり入れたところ大きな手ごたえを感じたため、今年度から中学でも取り組むことになったのです」(中野先生)。
生徒一人ひとりに寄り添っている同校では、ICTも個別最適化に対応しています。1人1台ずつiPadを使用していますが、現在はAIもとり入れて個別対応も行っているのです。たとえば授業の後半に小テストを行い、全体的に理解度が低い部分を解説した後で、AIの判断で生徒それぞれに合わせた演習問題をiPadに送ります。それを解くことで生徒はつまずきに気づいたり苦手を克服することもできるし、理解の進んでいる生徒は応用問題や難問を解いてさらにレベルアップすることもできます。AIを導入することで、どのレベルの生徒も満足できる学習体制が整い、生徒のモチベーションを高めることにつながっています。
同校の先生がたの平均年齢は36.6歳で、20~30代の先生が47%を占めています。風通しがよく、いろいろなことに挑戦できる風土があり、他校や民間企業からの転職者や若い教職員が多いので、教職員のモチベーションも高く校内は活気に満ちています」(中野先生)。
さまざまな取り組みを新たに導入しつつ、伝統的な取り組みも常に見直してブラッシュアップしているのも特徴です。宿題とは別に、自分に必要なことを考えて毎日学習して提出する「家庭学習帳(カテガク)」は、以前は中1が1ページ、中2が2ページ、中3が3ページと学年でページ数を決めていました。しかし、そのやり方だと学年が上がるといっぱいいっぱいになってしまう生徒もいます。「会議での『学年が上がれば誰でも自学自習の習慣がつくわけではない。カテガクの本来の目的に沿って見直しをかけた方がよいのでは?』という発案を受けて、運用方法を変更しました。家庭習慣の定着度合いに応じてビギナー、ブロンズ、シルバー、ゴールドと4ランクに分け、自分の成長を目指すことにしたのです。おかげで教員も生徒のランクに合わせた声がけができるようになりました」と中野先生は話します。
時代のニーズや生徒に合わせて、常に進化し続けている同校。今年度末には、高校4コース制の1期生が大学受験に挑むため、今まで以上の結果が期待されています。ますます注目が集まっている同校は、今後もさらなる飛躍を続けるに違いありません。