学校特集
実践学園中学・高等学校2023
掲載日:2023年9月8日(金)
1927(昭和2)年創立の実践学園は、建学の精神に「学問の修得をとおして、自己実現をめざし、人類・社会に役立つ人材づくりをする」を掲げ、豊かな人間味のある、真のグローバル人材を輩出してきました。
2019(令和元)年度からは高校でLA&S(リベラルアーツ&サイエンス)コースを開始。2022(令和4)年度には中学校でもLA&Sクラスを新設しました。実践学園が目指すグローバルリーダー像やLA&Sクラスのプログラムについて、グローバル教育部長でLA&Sコース長の岩内孝輔先生に伺います。
LA&Sコース・クラスに共通する実践学園のグローバルな教育方針
実践学園のLA&S(リベラルアーツ&サイエンス)コース・クラスが新設されたきっかけについて、岩内孝輔先生は次のように語ります。
「本校には、同コースの前身となる英語クラスがありました。英語の学びを重視するクラスでしたが、英語だけに特化するのが子どもたちの将来に直結するのかと疑問を持ったのです。もっと幅広い将来像を描けるよう、英語を使い、多様な人たちと協働できる教養を身に付ける必要があるのではないか。そう考え、LA&Sコース・クラスの新設に至ったのです」(岩内先生)
実践学園のグローバル教育の目標は、世界で活躍できる広い知見と信念を持つグローバルリーダーを育てることです。同校のグローバル教育顧問である藤井正嗣早稲田大学名誉教授は、グローバルリーダーの育成に必要となる3要素をあげています。
・IQ(知能)...主要科目の知識や応用力のほか、協働する際に必要となる専門的な知識
・EQ(心の知能)...他者の感情を知覚し、自分の感情をコントロールできる力
・CQ(異文化適応力)...国や人種、組織、年代などの文化的文脈を越えて、効果的に対応し、協働できる力
「本校が考えるグローバルリーダーとは、様々な考え方やバックグラウンドを持つ人たちと共生する多文化共生社会で、それらの違いを柔軟に受け入れて理解し、まとめて引っ張っていけるような人材と考えています」(岩内先生)
LA&Sコース(クラス)では、3つの要素を育むために様々なプログラムを設け、「幅広い教養と豊かな国際感覚」「多様性と柔軟性」「高い語学力とコミュニケーション能力」を養っていきます。
LA&Sクラスの少人数編成と授業スタイル
2022年度に新設された中学校のLA&Sクラスは、導入の背景に同コースで学ぶ高校生から感じた変化があったと言います。
「これまでの生徒は、将来の進路選択で自分の偏差値と見合った大学を目指し、それがゴールとなっている傾向がありました。しかしLA&Sコースの生徒からは、『将来こんなことがやりたい』とまずは自分の未来を描き、逆算してそこから進路を考える様子が見られたのです。同コースでたくさんのプログラムに参加する中で、将来を足元に落とし込んで考えるプロセスを自然に身に付けたのだと感じています」(岩内先生)
将来の夢が定まることで、生徒たちのモチベーションは向上し、勉強にも熱心に取り組む様子が見られたと言います。
「一方で、高校では大学受験を視野に入れた勉強にどうしても偏る傾向がありました。中学校からLA&Sクラスを新設することで中高一貫の強みを生かし、学びを深める思い切った授業を行えると考えたのです」(岩内先生)
その一つが、英語を使って学ぶ4教科の授業です。
「LA&Sクラスは、主要5教科のうち国語以外はすべてネイティブ教員から英語で授業を受けます。その割合は、1日に受ける授業のうち、6~7割を占めるでしょう。授業には日本人の教科担当も付くため、数学や理科などの専門用語が多い単元では、日本語でフォローする場面もあります」(岩内先生)
実践学園には多様な国籍のネイティブ教員が8名在籍しており、中には、理系を専門とする教員や、言語学について学んできた教員などがいると言います。
「どう英語で話せば生徒が理解できるか、熟知している方が多いです。LA&Sクラスは、1クラスを12名以下と定めており、現在は中1が8名、中2が7名在籍しています。少人数だからこそ、わからない部分などは個別に手厚くフォローしていきます」(岩内先生)
まずは英語を使った授業に慣れることから始め、だんだんそのレベルを上げるようにしています。
在学中に取得する英語力については、中2までに英検2級、中3で英検準1級、高2で英検1級を目指すほか、高3までの間にIELTS(※)6.5の取得を目標としています。
※IELTS(アイエルツ)...英語圏の国々に留学・就労・移住を希望する際の英語力を測定する英語試験
6年間で3回の海外経験が積めるプログラム
LA&Sクラスの特徴として、6年間で3回の海外研修・留学を経験できることが挙げられます。
・中2の夏 2週間 オーストラリア研修
・中3 半年間のアメリカまたはカナダへの留学
・高2 約2週間のアジア研修
オーストラリア研修では、同校が提携する現地校に2週間通います。バディシステムを取っており、現地では同校に通う生徒(バディ)宅へホームステイ。授業は各バディと一緒に現地の授業を受けます。
「実践学園の生徒だけが受ける特別講座も実施予定です。この特別講座は語学的なフォローではなく、現地の文化や歴史について教わるものです」(岩内先生)
中3では、アメリカかカナダへ半年間留学します。生徒1人につき1つの学校へ通うことで、国際感覚と高い語学力を修得。滞在先ではホームステイを予定しています。
最後に、高2で行うのが約2週間のアジア研修です。
「中学での2回の海外研修は語学力向上に重きが置かれていますが、この研修では語学力だけではなく、それまでの様々なプロジェクトで培われた力を結集し、現地でのフィールドワークを通して課題解決型の学習を行います」 (岩内先生)
国内で行う特徴的な3つの学び
留学の前後には、国内でイノベーション教育とグローバルリーダーシップ研修を行います。イノベーション教育とは、生徒同士が協働し、新しいアイデアを創造するプログラムです。特徴的なのが「innovationGO(オンライン修学旅行)」。日本の様々な地域と1日ずつオンラインで繋がることで、地域の特色や抱えている問題などを学び、新しい価値を創造するためのアイデアを練っていきます。これまでには、気仙沼や長崎とつなぎ、復興や過疎地域の観光事業などについて現地の人と交流しました。
「オンラインでの取り組みはコロナ禍で始まったものですが、地域の人たちと深く対話するきっかけにつながりました。これまでは現地に行くからこそ学べるものが多いと考えていましたが、実際には移動などに時間を取られ、受け身で終わってしまうことも。オンラインにすることで、課題や将来への解決法などをじっくりと考え、より深い学びを得ることができました」(岩内先生)
今後はオンライン修学旅行をした後に改めて現地を訪問するなど、学びをさらに深めるための取り組みを検討中だと言います。
グローバルリーダーシップ研修はアメリカのUCバークレーのビジネススクールで教鞭をとるFrank Schultz博士から、ビジネスに関する講座を英語で受講します。その内容は、ビジネスで必要となる9つの考え(ビジネスモデル・キャンバス)についての講義を受け、新しいビジネスプランを考え、プレゼンを行うというもの。5日間のうち、最初の4日間は高2がメインで学びますが、最終日はLA&Sコース・クラスの中1から高3まで一緒に講義を受けます。
「テーマは『グローバルリーダーになるためには何が必要か』です。今年は特に世の中を変えるチェンジメーカーになるにはどうすべきかを考えました」(岩内先生)
講義ではアクティビティを交えるため、最終日は中学生と高校生を交えたグループを作ります。
「中1にとっては難しい内容で、理解できない英語が多いはずです。それでも理解できる部分を探して質問するなど、熱心に取り組む様子が見られました」(岩内先生)
中2のある生徒は、「昨年うまく聞き取れなかったから、リベンジするんだ」と意欲を見せていたそう。大人でも「わからない」と投げ出したくなる内容ですが、取り組む生徒からは並々ならぬ熱意が感じられます。
LA&Sコースの高2を対象にしたシンガポール国立大学(NUS)との「メンタリングプログラム」も生徒たちの学びを深めています。このプログラムでは、同大学でマーケティングを専攻する現地生からオンラインで講義を受け、新しい商品開発のアイデアをNUSの学生のメンタリングを受けながら考えていきます。自分たちと同じく英語を第二言語として学び、世界でもトップクラスのレベルを誇る大学生との交流の機会は大きな刺激となり、改めて自分の語学力や考え方を深めるきっかけになるのです。
「シンガポールは多民族によって構成される国の一つです。そこで学ぶ学生たちと触れ合うことで、生徒たちは多様な背景を持つ人たちと共に協働することの大切さを学ぶきっかけとなっています。LA&Sクラスの中学生では、高2で行うアジア研修でこのプログラムをより深めた学習を行う予定です」(岩内先生)
成果発表会「実践ライブ」で魅せる1年間の学び
LA&Sコース・クラスでは、毎年12月に成果発表会「実践ライブ」も実施しています。同コース・クラスに在籍する中1から高3までの生徒が1年間かけて学んだことを、保護者や関係者に向けて発表するもので、そのほとんどが英語で行われます。
「昨年は、中1が自己紹介を兼ねて自分たちのクラスについて紹介しました。高1はイノベーション教育とSDGsに関する発表、高2は半年間の北米留学の成果とNUSメンタリングプログラムについて発表しました。高3は動画を作成すると共に、進行を手伝ってくれました」(岩内先生)
リアルでの学びを多く得ることで、たくさんの経験を積む生徒たち。少人数だからこそできる挑戦的な取り組みで、将来に役立つ「自分で問いを見つけ、考えていく」力を身に付けていきます。
これらの特徴的な学びについて、岩内先生は「どれが欠けても今の成果にはつながらないだろう」と振り返ります。
「学年が上がるごとにコンテンツのレベルが上がっていき、社会に近づいていくような流れを汲んでいます。海外では『あなたはどう思うの』と問われる機会が多くなります。国内外の様々な視点からのグローバルな教育を受けることで、生徒の想像力が磨かれ人間としての幅を広げていくのです」(岩内先生)
生徒が見出す自分たちの進路
LA&Sコース・クラスに在籍する生徒たちは将来、どんな進路を描くのでしょうか。高校の1期生はコロナ禍の影響もあり国内大学を希望する生徒が多かったそうですが、2期生は2名が海外大学へ進学し、在学生の中にも海外大学志望者が多くいます。
「国内大学を希望する生徒も、留学ができる大学を選ぶ傾向があります。実際、卒業生の多くはイギリスやアメリカ、ベトナムなどで現在も勉強しています」(岩内先生)
また、同校で行うイノベーション教育や留学、グローバルリーダーシップ研修が進路につながった生徒もいます。
「イノベーション教育がきっかけで地方創生に興味を持った生徒がいました。その生徒はオンライン修学旅行でお世話になった相手に実際に会いに行き、現地を視察しました」(岩内先生)
このほか、留学先で体調を崩したことをきっかけに国際看護師を目指す生徒や、ボランティア活動をきっかけに国際協力に興味を持った生徒、グローバルリーダーシップ研修でビジネスに興味を持ち、商学部を希望する生徒がいたと言います。
入学には、「特別なカリキュラムを受ける強い意志」が必要
そんなLA&Sクラスの入試では「日本語と英語の作文」と「面接」で選考します。入学してくる生徒には「学習へのモチベーションの高い子どもが多い」と岩内先生は語ります。
「LA&Sクラスは、英語力の高さに関わらず、本人たちのやる気が大切になってきます。特別なカリキュラムを受ける自覚を持ち、モチベーションと覚悟を持って入学してきてほしいと思っています」(岩内先生)
一般の公立小学校から入学する割合が多く、英検取得など、英語へのモチベーションと熱意が高い生徒が多いそう。中には、バイリンガルの生徒もいると言います。
現在、LA&Sクラスに在籍する生徒には、特別なカリキュラムに挑む自意識が芽生えています。
「中学生なのでまだまだ精神的に未成熟な部分を感じます。ですが、本人たちの中で『英語だけは他のクラスに負けない』というプライドも成長しているようです。これからオーストラリア研修など、他コースでは味わえない刺激を受けていくので、成長ぶりが楽しみです」(岩内先生)
LA&Sクラスの生徒たちは、留学時期や授業の進度などが異なるため、高校進学後も高入生とは同じクラスになりません。しかし、部活動など、さまざまな場面で他コースの友達ができているようです。
実践学園のLA&Sクラスだからこそ得られる深い学び。多様な進路を描く生徒たちは、未来へ飛び立つ力を育み、多様な人々と協働する際のグローバルリーダーとして、羽ばたいていきます。