学校特集
品川女子学院中等部・高等部2023
掲載日:2023年9月20日(水)
中等部における学びやキャリア教育の集大成といえるニュージーランド修学旅行。コロナ禍で中止を余儀なくされていましたが、2023年3月1日~20日にかけて3年ぶりに実施することができました。現地に同行された学年主任の白石賢佑先生に、ニュージーランド修学旅行の意義をはじめ、事前準備から現地での活動、帰国後の取り組みなどについて伺いました。英語学習や異文化探求、協調性を高めるといった目標以外にも、多角的なメリットが多くあると言います。新しいことにも柔軟に向き合う品川女子学院の魅力も垣間見られました。
学校生活のすべてが、能動的に人生を創る女性になるための「28project」につながっている
品川女子学院は教育目標として、「私たちは世界をこころに、能動的に人生を創る日本女性の教養を高め、才能を伸ばし、夢を育てます」と掲げています。この能動的に人生を設計できるようにと考えられたのが、同校の特色の一つの「28project」です。
これは仕事や結婚など女性のターニングポイントとなる28歳の自分を思い描き、それを実現するためには何が必要か、どう行動すべきかを模索し、理想とする未来に向かっていくプロジェクトと定義されています。
その目的を達成するために、中等部の「28project」では以下の目標を掲げています。
・1年生:身近な関係性を再発見する
・2年生:社会との関わりを考える
・3年生:未知の世界を探求する
それをふまえて3年次にて行われる修学旅行は、中等部における「28project」の集大成です。語学学習、異文化探求、協調性を高める、自立(自分の力のみで物事を進める)、自律(自分自身で立てた規範に従って行動する)という5つの目標があります。
このうち、異文化探求には、品川女子学院の教育カリキュラムで力を入れている課題解決型学習のデザイン思考の手法が反映されています。
デザイン思考とは本来、デザイナーやクリエイターが創作を行うときのプロセスを活用した思考法です。ユーザー視点に立って、商品やプロジェクトなどの本質的な課題やニーズを発見し、最適な解決方法を考えることで、現時点の問題点だけではなく、水面下に潜んでいる未来の課題も見えてくるメリットがあります。近年、注目を集めている思考方法で、さまざまな企業やプロジェクトでも取り入れられています。
同校では、中等部1年次の総合学習の時間に「デザイン思考」の手法を用いて問題解決策を見出す流れを学びます。文化祭や宿泊行事など、あらゆる場面でこのデザイン思考をベースにして取り組んでいきます。
帰国後は、生徒たちがまとめるオリジナルの冊子作りに挑戦
ニュージーランド修学旅行は、8日間コースと3週間コースがありますが、9割以上が3週間を選択しています。この修学旅行に行きたくて同校への入学を希望したという方も多いそうです。今までは現地の5~6校で実施していましたが、コロナの影響で1校における受け入れ人数が減ったため、今年は8校という例年より多い学校数での対応でした。生徒たちにとっては、心細さは多少増したかもしれませんが、よりチャレンジングな環境となりました。
現地ではホームステイをしながら学校に通い、現地の生徒たちと一緒に生活します。
修学旅行に向けた準備は、2年次の10月頃から総合学習の授業で始まります。事前にニュージーランドの歴史や文化、日本との違い、問題点などを学びます。このほか、現地で行われる受け入れのセレモニーや送り出しのフェアウェルパーティにて各グループによるスピーチや日本文化の発表など、事前学習ではその準備や練習といった学びにも取り組みます。
また現地では、グループ別にオークランド市内を巡る自主研修を行います。自分たちでオークランド市内での活動計画を立てて、事前学習で学んだことを実際に体験します。
このような流れが基本となりますが、今回の修学旅行では今までにない新しい取り組みがありました。「ちょうどこの頃、旅行会社とやり取りをしている中で、『地球の歩き方』とのコラボの話をいただけたのです。今までも、修学旅行後のレポート提出はありましたが、プロに絡んでいただく絶好の機会だと思い、ぜひやらせてくださいとお返事しました」(以下、白石先生)
これは現地で発見したり、おもしろいと感じたりしたことについて、生徒たちが取材・撮影して記事を制作し、『地球の歩き方』のようなオリジナルの冊子を作るという提案でした。
「本校のために取材に関する動画授業を3回にわたって行っていただきました。その中で取材のノウハウや誌面作りの方法などを学ぶことができました。私自身、感想文や反省文などのように生徒にとって受け身になりがちなことよりも、主体的に取り組んでほしいと思っていて、自分はどうしたいのかを考えながら楽しんでできることを大切にしたいと考えています。生徒たちにとっても非常にいい経験になったと思います」と白石先生が教えてくれました。
誌面のデザインは『地球の歩き方』のスタッフが2パターンのテンプレートを用意。グループごとに好きなテンプレートを選び、写真撮影や文章作成はすべて生徒たちが行いました。完成した記事を提出し、その中から『地球の歩き方』編集部が選んだ6グループの優秀作品で冊子は構成されています。
「こういった成果物という目標があると、生徒たちのモチベーションがまったく違いました。今回、この学年にご提案くださった特別な試みでしたが、今後もテンプレートは自由に使っていいと言っていただけたので、ぜひ活用させていただきたいと思います」
生徒たちに良いと思うものはすぐに取り入れ試してみる。そしてそれぞれがブラッシュアップを重ねていく。同校の姿勢が垣間見える取り組みとなっています。
学年ごとに常により良くなるよう、教師陣が知恵を絞りアイディアを生み出す
修学旅行前に、生徒と年齢の近い女性に留学体験の講演会も行っていただきました。同校で実施されている特別講座で心理学講座を開講する先生との打ち合わせの際に、ご自身の留学の話になったそうです。とても興味深い話だったため、「ぜひ生徒たちに話してもらえませんか?」と、白石先生が依頼して実現しました。
「例えば、ホームステイ先で何か気になることを言われた場合。実は相手には悪気がないこともあるなど、最初から理解しているといいこと、失敗をしたけれどこうやって乗り越えたという体験談など、生徒たちと年齢の近い方に女性ならではの視点で話していただいたおかげで、とてもわかりやすかったと生徒たちにも大変好評でした」
品川女子学院では上記の通り、文化祭や体育祭をはじめ、各種行事などの際には生徒による委員を選出しています。通常、希望者が多い場合は立候補者が演説をし、投票によって各クラス2名の代表を決めていました。2名とは厳しいように感じられるかもしれませんが、みんなが納得する人選をしようという考え方があります。
しかし、白石先生の学年は今回、本人の希望を生かしてあげたいという思いで、修学旅行委員に立候補した34人全員を任命したのです。その理由を次のように話してくれました。
「中学3年間の集大成ですし、立候補をしてくれた生徒のやる気を大切にしたかったのです。委員に参加した全員に責任感をもって取り組んでほしかったので、一人ひとりに肩書を付けました。例えば人前で話すのは苦手だったとしても、他に適した仕事があると思うんです。役割は委員全体のリーダーと副リーダー、各クラスのリーダー、議事録などをまとめる書記、しおりの編集長と副編集長、留学する学校ごとのリーダーなど。これらの役割を生徒たちが考えるのは難しいので候補は私が提案しましたが、誰が何を担当するのかは委員の生徒たち自身が考えました」
この中のクラスリーダーに課した役目の1つが、ホームステイのペア決めです。ホームステイの家庭には2人1組でお世話になるのですが、今までも事前準備でトラブルになりがちなのが誰と誰がペアになるのかということでした。
そこで、自分たちでこれまでのグループ決めでどんな問題が起きて、どうやって解決したのかということを事前に考えるように指示。起こりうるトラブルをすべて挙げ、それぞれの対処方法や解決方法まで想定しておくことでなんとか乗り切ることができたそうです。
こういった新しい取り組みを導入するかどうかは、それぞれの学年団に委ねられています。先生方が取り組んでいることや制作物などは常に、校長先生はもちろんすべての教員が共有できる状態になっているそうです。同じように他学年の先生方による過去のアイディアや手法も参考にしており、そこからヒントを得ることもあります。それぞれの教師陣のオリジナルの解釈で伝え方や内容をアレンジしていくことで、年々進化しています。自走する集団としての強みが発揮され、各学年団の個性が磨かれているのです。
この柔軟さこそが品川女子学院の魅力の一つでもあります。一年を通して積極的に行われている企業や大学とのコラボレーション企画などにもつながっているのです。
中等部3年次での海外経験がベストタイミング
品川女子学院では、中等部3年次は、自分がどういう人間なのか、どうありたいのかなどの手がかりをつかむ時期と考えられています。ニュージーランド修学旅行では、自分の気持ちを英語でうまく表現できず、自身の英語力に対して悔しい思いをして帰国する生徒も多いと言います。また、もともと英語が得意で突出しているような生徒は自信をもち、今以上に英語力を磨こうと学習への意欲が高まります。ここからさらに飛躍したいと思う生徒たちのために、高等部4年次には海外留学プログラムも用意されています。
「他校では高等部に海外への修学旅行を実践しているところもありますが、本校では文系や理系など進路を選択する前にこういった経験をすることは大切だと考えています」
品川女子学院の教育目標でも「能動的に人生を創る」と掲げられているように、教師はファシリテーターであり、生徒たちがクリエーターです。
「体育祭などでも生徒たちが中心になって運営します。我々教員は、生徒が自分たちで計画を立てて考え、運営していけるようにサポートしています。と言っても、基本的にはできるだけ後ろで見守っていたいと思っています。ただ、なんでも自由にやらせるというわけではありません。すべてが自由になると、本当に自由なものが逆に出にくくなるという一面もあるため、最低限の枠組みは我々が設定するようにしています」
そうした結果の一つとして、卒業生たちが頼れるお手本として学校に関わり始めています。同校の特別講座の中には、注目を集める企業に勤務していたり、大学で学んでいたりするOGとのコラボレーションや持ち込み企画も増えています。
「今までは教員だけで考えていたことが、卒業生が絡んでくれてさらに広がりを見せています。進路や仕事などの実情について卒業生が話してくれることでより説得力がありますし、生徒たちの刺激にもなっています」
ニュージーランド修学旅行を通して、語学や異文化探求への関心や興味が高まることは間違いありません。
修学旅行の目的として掲げられている協調性や自立、自律については、すぐに目に見えるような大きな変化はないかもしれませんが、未来へのアクションを起こすきっかけの一つになっていると言えるでしょう。
品川女子学院には、この修学旅行のほかにも、「28project」や「デザイン思考の取り入れ」、「企業とのコラボレーション」など、日々の学校生活も含めて生徒たちが将来を見据える機会が豊富に揃っています。
活気あふれる生徒たちや校内の様子を見に、どうぞ学校説明会(予約制)などの機会に足をお運びください。