学校特集
聖徳学園中学・高等学校2023
掲載日:2023年6月7日(水)
聖徳学園中学・高等学校に着任した先生方がまず驚くのが、生徒たちの自己肯定感の高さ。同校では彼らの挑戦心を最大限に尊重し、応援すると同時に、生徒が自分自身の頭で考え、判断し、仲間と協働して、実行へとつなげることを重視しています。そのサイクルができているから「自分はできる」という気持ちを抱くことができるのです。
そんな聖徳学園では、2024年度から高校課程でデータサイエンスコースがスタート。これからの世界に飛び出していく生徒たちに必要な学びを提供するための新たな教育を構築します。
データサイエンス部長であるドゥラゴ英理花先生と広報部長の倉田豊子先生に、同校の学びについてお話を伺います。
教科横断型教育で培われる力とは
1927年に創立し、あと数年で創立100周年を迎える聖徳学園中学・高等学校。
Apple Distinguished Schoolに認定されている同校では、ICT教育・GLOBAL教育・STEAM教育を軸に学びを展開し、世界を舞台に活躍するための力を養っています。
中1からSDGsを通じて身近なことから考え学びながら、教科横断型のSTEAM教育を実施しています。ICTを積極的に活用していく中で、知識や技術的なものは十分に補填できている同校の生徒たち。
中1ではまず自分たちの知識の中からSDGsについて考え、中2で企業、中3で地域へと視野を広げて、企業や地域との横のつながりを結びながら、自分ごととして落とし込んでいきます。
中1の1年間をかけて行うのは「SDGs映画祭」です。SDGsの基本概念を学びながら、国語の授業で脚本制作をし、美術の時間に視覚に訴える効果的な見せ方や撮影技術を習得して、コマ撮り映画撮影に取り組みます。
中2で2022年度から始まったのが、名古屋のメーカー・伊藤手帳とコラボした「SDGs手帳制作」です。オンライン工場見学で手帳の仕組みや製造工程などを学び、自分だったらどんな手帳が欲しいのかをグループで話し合いながら具体的に形にしていきます。その手帳についてグループでプレゼンをし、伊藤社長らが審査員になって決定した1位を取ったグループの手帳を聖徳生用に商品化。それを中3の「地域貢献プロジェクト」で使用します。
「例えば、利便性を考えて筆箱と一体化させる、無くしても大丈夫なようにGPSを付けるなど、様々なアイディアが飛び出しました。
また先方との打ち合わせの際には、コストはどれくらいかかるのか、携帯性はどうなのかなど、現実的なことも見つめながら、考えを深めていきました。
手帳はスケジュール管理といった機能面だけならばデジタルでもいいのですが、紙というアナログなものを持つことでカレンダー横の余白も使うことができます。この余白が大切で、そこに自分の夢を記し、その夢や目標を達成するためにどんな思考が大事か、行動が必要なのかを書き留める記録としても捉えています。
生徒たちがどんなアイデアをもっているか、想像力やクリエイティビティを磨いていく授業です」(倉田豊子先生)
中1・中2・中3と高2では探究活動を1年間続けて、10月頃に中間発表を行い、3月末にSDGsプロジェクト生徒報告会を実施しています。
「中3と高2の中間発表時には、卒業生もチューターとして参加し、生徒たちにアドバイスをくれています。最終の発表会では、高2は本校の学びの集大成としてポスターセッションを行うのですが、自分たちでも取り組んできた先輩たちの指導が入るため、とてもいいポスターができています。卒業生が積極的に手伝いに来て、学校に関わってくれているところが特徴だと思います」と倉田先生は頬を緩めます。
さらに昨年からは、映像関係やIT関係のプロとしても活躍していた方が勤務。実際の現場で培った経験をSTEAMの授業で披露してくれています。例えば、プレゼン資料や映像では一緒にしないほうがいい色の組み合わせがあるなど、より高い視覚効果を得るための具体的な工夫がシェアされるため、出来上がった作品はデザイン面も含めて、全体のクオリティが上がっています。
特に高校では、次に触れるデータサイエンスに基づいた作品作りが展開されていることも大きな進歩となっています。
高校課程で必要なデータサイエンス教育とは
このような学びを経て、高2の「国際協力プロジェクト」では途上国に対して、今の自分に何ができるかを考え、実行に移す授業を行っています。
ここで特に役立ってくるのが、来年度から新設予定の「データサイエンスコース」での学びです。
情報科の教員であり、この授業を担当するドゥラゴ英理花先生は、
「最も大切にしているのは、文理融合かつ探究型の学習に基づいているということです。高等学校におけるデータサイエンスというのは、データを収集・活用して文脈を読むこと、そして統計的な要素の学習が非常に大切になってきます。データサイエンスでいちばん必要なのは、そこから何が見えるかに気づき、考えることです」と話します。
名称だけ聞くと、サイエンスの要素が強いコースのように感じられがちですが、目標とするのは文系でも理系でもその手法を使い、教科の枠を超えた様々なフィールドでその知識を生せるようになること。来年度以降の本格導入に向けて、現在は高校の総合的な探究の時間、同校では「SDGs」の授業でこの学びを取り入れています。
「データサイエンスは、学問的には大きく数学と統計学と情報学が組み合わされたものです。非常に俯瞰的な学問で、一つの事象を学べばいいのではありません。そして、探究するために大切なのは、課題を設定すること。課題設定のためには、一つの事象をいろいろな方向から科学的に見る必要があります。自分一方だけの視点で見ていると課題は絶対に出てきません」(ドゥラゴ先生)
データサイエンスは大学などでも取り組み始められている学問領域ですが、なぜ導入を決めたのでしょうか。
「思い込みや意気込みなどで動いていた部分も少なからずありました。そのため、探究活動を進めていく上で生徒たちにどんな力をつけさせたいかを突き詰めた際に、データサイエンスという考え方が必要でした。かつ本校でこれまでに培われていた学びとうまくマッチしていたのです」(倉田先生)
実際に授業を担当するドゥラゴ先生は、
「生徒たちのアイデアには素晴らしいものがたくさんあるのです。例えば、ある国の水をきれいにしたいと活動をしていたのに、実際はその国ではすでに浄水への活動が進んでいたとか、古い靴を集めて洗ってグローバルサウスの国に送ろうと取り組んでも、実は送料が4万もかかったということがありました。とてもいい考えがあるのに、科学的な根拠に基づいていなかったために非常に残念な結果になってしまった例だと思うのです」と話します。
ソースが古かったり、エビデンスが不十分だったり、異なる角度からのデータに当たれていれば、もっと効率的かつ合理的に動けたのにと、生徒たちが懸命に取り組んでいるからこそ、先生方も忸怩たる思いを抱えていたと言います。
「データからは根拠的なものが提示されるため、合理的な判断をする際の重要な手がかりになります。データサイエンスによる取り扱い方を伝えたことで、生徒たちはデータから自分の課題を見つけて設定していくということができ始めています。発表や活動が非常にデータに基づくものになったというのが私の正直な感想です」(ドゥラゴ先生)
データを活用することで、自分が思っていたものと実情は異なっていた場合にはどう対応するのかなど、多くの気づきを得られ、思考力や判断力も養うことができます。同時に様々なデータを見比べることで文脈を読む、クリティカルシンキングの力も育んでいます。そして探究活動の中で自分ごととして捉えていくことが重要という位置づけでデータサイエンス教育を推進しています。
学び方を学び、合理的判断力を養うデータサイエンスコース
データサイエンスコースの特徴は、国際バカロレア(IB)のカリキュラムを参考にしていることです。IBの専門家でもあるドゥラゴ先生が教えてくれます。
「IB では、"ラーナーセンター"と言い、生徒主体の学びを大切にしています。
その周りにコアの科目があり、論文を書くこと、探究する力や奉仕などの活動も重視しています。
セオリーオブナレッジ(知の理論)という、人間の考え方がどのように構築されていくかも学びます。
そうしたこともコースを通じて指導していきたいと考えています」
データサイエンスコースでは、生徒がより主体性をもって学べるよう、1クラス25人程度を想定した少人数制での実施が予定されています。
「ゆくゆくはゼミ方式での授業も行っていく予定です。それぞれの探究の課題に沿って、3年後には論文なり、研究成果なり、プログラミングで何かアプリを作るなど、3年間で何か一つ大きなものを作ってもらいたいと考えています。生徒の一人ひとりが自分にしかできないことを伸ばしてもらいたいですね」(ドゥラゴ先生)
これからはデータの時代であるということを踏まえて、話題のテクノロジーも積極的に取り入れ、ChatGPTやDeepL翻訳などを含めて扱っていくことも検討されています。
「今のところは、プログラミング言語であるPython(パイソン)やスプレッドシートの使い方などの基本を学習しています。
これまでの日本の教育は課題を教員が与え、生徒が解いていくという形式が多かったと思いますが、本校では逆方向から探究的な要素で取り組んでいます。生徒はデータサイエンスを勉強しているというよりも、自然にデータを使って学んでいるという感覚なのではないでしょうか。
数学と情報の授業は教科横断型で行われ、データサイエンスの基礎を学んでいきます。統計的な部分というのは、日本の高校ではまだまだ実施されていないのでデータサイエンス教育を導入することによって、データを活用して将来的に使っていけるようにしていけたらと思っています」とドゥラゴ先生。
これらの授業は、例えば数学の5単位プラス2単位を統計として実施する予定です。またデータサイエンスコースの探究の授業の一部は、英語イマージョン教育を取り入れながら実施されます。
「日本語だけのデータだけだと、視野が狭くなってしまいます。グローバルなものや最新のデータを見るときには、やはり英語が必要です。
加えてデータの処理をするときもプログラミングの言語は英語で代用できるところがたくさんあります」(ドゥラゴ先生)
データサイエンスを学ぶことで、その他にメリットはあるのでしょうか。
「社会に出たときや経営する際など、決断に迫られるときが多々あります。常に判断が必要になりますが、合理的かつ正しい選択ができるかはデータサイエンスの知識が役に立ちます。本校ではそのベースを身につけさせたいと思っています。
もしデータサイエンティストになりたいという場合は、大学でより本格的な勉強をしてほしいですね」とドゥラゴ先生は笑います。
これまで同校で行われてきたSTEAM、SDGs、そしてデータサイエンスを横断的に学ぶことで、視野の広がりや思考の深まりを見せています。生徒たちがすでに授業だけでなく実生活の中にも考え方のヒントや道筋を見出し始めていることは、彼らのやる気を喚起するだけでなく、先生方の自信にもつながっています。
失敗を恐れず、"まずやってみる"文化が定着
生徒たちが「自分には何ができるのか」ということを自分自身で考えられるよう、生徒のために何を行えばいいのかを常に考え、未来志向の教育を実践している聖徳学園。例えば上記の「SDGs」とされている探究的な学びも10年来行われてきたものに、現代にマッチした名称を当てはめたに過ぎません。
数年前に同校に赴任してきた倉田先生は、聖徳の文化についてこう話します。
「学年集会やスポーツ大会などでも、司会から進行、そして内容まで生徒に取り組ませます。正直なところ、生徒だけでやらせるのはとても大変なこと。教員たちがすべて仕切ってしまえば楽なんです(笑)。
でも聖徳の先生方は、生徒たちを信じて見守るのです。彼らの希望を否定するのではなく、できるだけ叶えるためにどうしたらいいのかを考えるというマインドがあります。
そして我々が仕掛けたことに対して、本校の生徒たちは思っていた以上の成果を出してくれます。ですから私たち教員もチャレンジできる環境はありがたいのです」
倉田先生が驚いたこととして、偶然多くの学年が行事などで課外活動をしていて、校内に残っていたのは中3だけだった時のことを教えてくれました。
「生徒たちから『逃走中』をやりたいという希望が上がったようでして。先生たちがサングラスをかけて、生徒を見つけるという鬼ごっこをiPadなどを駆使しながら、みんなで校内を走り回って楽しんでいたんです」
このように聖徳学園には、生徒たちへの投げかけを止めない風土や能力を信じ抜くという文化があります。彼らが様々な知見に触れながら、自分なりの考えを深めたり、個性を発揮できるよう、外部から最先端で活躍するプロを招いて専門性に触れさせる教育は際たるものです。
昨年度、同校に赴任してきたドゥラゴ先生は、生徒たちの印象についてこう話します。
「聖徳の生徒っていい子が多いんですよね。人間力が高いというか。性格も本当に素直ですし、何でも前向きに捉えるような子がたくさんいます。こうした部分は教育でなんとかしようと思っても難しい面があります。
彼らのこうした個性を活かして将来活躍していくために、私たちは様々な手法などを教えられたりできたらと思っています」
確かに筆者自身、同校へ足を運ぶと、明るくあいさつしてくれる生徒たちが多い印象を受けています。
卒業生たちがチューターとして関わりたいと思うだけでなく、こぞって遊びにくることも鑑みて、これは学校が安心して帰ってきたいと感じる場所であるということ。
「自由な発想で新しい価値を生み出すクリエイティブな人を育てる」という目標を掲げる聖徳学園。 生徒たちは、伸びやかな学校生活の中で自己肯定感を高く持ち、創造性の羽を大きく伸ばすべく日々楽しみながら学んでいます。