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学校特集

富士見中学校高等学校2023

美術と社会の授業事例に見る、独自の実践的な学びとは
「外部連携」と「自主的活動」を積極的に実施。6年間で実践力を着実に身につける

掲載日:2023年7月15日(土)

創立80年以上という歴史を持つ富士見中学校高等学校。高校募集は行わない完全中高一貫教育の女子校です。「社会に貢献できる自立した女性の育成」という教育目標のもと、一歩進んだグローバル教育を実践しているほか、ここ数年は「社会と連携を取りながら行う学び」や「生徒の自主活動」にも重きを置いています。今回はそれらの学びについて、美術科の杉原 誠先生と社会科の三浦佳奈先生にお話を伺いました。

社会と連携した学びで「メタ的思考」、「課題解決力」を培う

富士見_富士見の「17の力」
富士見の「17の力」
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 富士見中学校高等学校では、「社会に貢献できる自立した女性の育成」のために必要な力として、「自分と向き合う力」「人と向き合う力」「課題と向き合う力」を挙げています。この3つの力は、さらに細分化された「17の力」から構成されていて、生徒たちが各教科や課外活動などを通して身につけられるよう、あらゆる教育活動の中に落とし込まれています。

 そんな教育活動の中のひとつに「社会と連携を取りながら行う学び」があります。具体的な活動事例を交えながら、ご紹介しましょう。

【実社会と連携した学び①】
●その1 身近にある課題に目を向け、デザイン提案を行う

富士見_美術科の杉原 誠先生
美術科の杉原 誠先生

杉原先生:本校の美術の授業では「デザイン」と「アート」を重視していますが、主に「デザイン」の学びのほうで、社会との繋がりを意識するような課題を多数設定しています。例えば、中1の1学期に行っているのが「社会にある課題発見」と「その解決に繋がるデザイン提案」です。まずは学校外にある身近な社会に目を向けてもらうため、この授業では毎日使う駅や電車内をフィールドにしています。
 授業内容としては、駅や電車内でフィールドリサーチを行う→問題点を見つける→チームごとに課題設定→課題解決に繋がる案をデザインするというものです。私はフィールドを設定するだけで、その後の動きは授業の内容を活かしながら生徒たちがすべて考え、活動します。

 生徒たちが見つけ出した課題に対する解決案には、
・「満員電車にぐいぐい入ってくる人を減らしたい」→「一定人数以上になるとセンサーが反応してアラート音が鳴るようにする」
・「空いている車両を事前にひと目でわかるようにしたい」→「各車両の混み具合がわかるようなアプリをつくる」
などが挙がったそうです。似たような課題でもそれに対する解決案が異なるところが興味深いところです、と杉原先生は言います。

●その2 「練馬区立美術館」、「練馬凮月堂」との連携

富士見_学芸員の方やアーティストのお話を真剣に聴く生徒たち
学芸員の方やアーティストのお話を真剣に聴く生徒たち

杉原先生:中1では、本校の近隣にある「練馬区立美術館」と連携し、「鑑賞プログラム」や「課題解決に繋がるデザイン提案」を行っています。前者は、学芸員の方に来校いただいて美術館の意義や学芸員の仕事内容などについてのお話や展覧会の事前レクチャーをしていただき、その後、生徒たちは実際にその展覧会を鑑賞しに行くという内容です。後者は、美術館が抱える問題点を伺い、生徒たちはグループごとに課題解決に繋がるアイデアを考案。その後、美術館の方にプレゼンを行い、フィードバックをいただくという授業です。

 さらに今年、中3生では、こんな興味深い取り組みもスタートしています。

富士見_和菓子職人さんの手仕事に思わず感嘆
和菓子職人さんの手仕事に思わず感嘆

杉原先生:中村橋にある和菓子店「練馬凮月堂」と連携し、和菓子のデザインに取り組んでいます。生徒たちは和菓子職人の方から直接和菓子づくりについて教わったり、和菓子の道具を見せていただいたりするという、これまでにはなかった学びを得ることもできました。今後、生徒たちがデザインした和菓子案について職人の方からフィードバックを頂戴し、最終的には3つほどを実際に商品化していただき、彼女たちの卒業式で祝い菓子として配る予定です。

 生徒たちにとっては、親や教員以外の"社会で働く大人"から直接話を聞いたり、自分たちが提案した内容についてフィードバックをもらったりできる、とても有意義な体験。生徒の実感が伴った貴重な学びとなっています。

●生徒の"思考の枠"をどんどん広げていく学びを実践

 上記の取り組み事例からわかるように、同校における美術の授業の魅力は単に「知識を身につける」、「技術を高める」だけに留まらないところです。

富士見_もちろん、基本的なデッサンなどもしっかり行います
もちろん、基本的なデッサンなどもしっかり行います

杉原先生:生徒には、「美術はコミュニケーションの教科である」と伝えています。つまり視覚言語を通して、物事をどう捉えるのか、どのように周囲と共有するのかを学ぶ教科ということです。例えば、「アート=絵」「美術=絵具をつかって描く」という認識がありますよね。それはもちろん間違いではないのですが、物事の概念にはそこだけにとどまらないようなもっと広い枠があるということを伝えたいのです。最初はどうしても狭い概念で捉えがちですが、それをどんどんほぐして、思考の枠を広げてあげられるような学びを授業で展開できたらと考えています。

「デザイン」や「アート」を通して、"思考の枠を広げる"。言い換えれば、「人や物、事象を客観視する・俯瞰して見る=メタ認知が行える」となります。美術の授業で培ったその深い思考力は、他教科や大学での学びはもちろん、将来、社会に出てからあらゆる物事と接したときに役立つことは間違いありません。

【実社会と連携した学び②】

 実社会と連携した学びは、中学校に引き続き、高校でも積極的に行われています。社会科での取り組みについてご紹介しましょう。

●早稲田大学の教授から、世界が抱える問題について学ぶ

富士見_社会科の三浦佳奈先生
社会科の三浦佳奈先生

三浦先生:高2の現代社会(現在は公共)で、「沖縄とウクライナから考える平和」をテーマにしたプロジェクト型の授業を行っています。生徒が自分で調べ、対話しながら考えたことを意見文としてまとめ、新聞社に投稿します。その学びの中で、早稲田大学国際教養学部で紛争解決学をご専門にされている上杉勇司先生をお招きし、授業をしていただきました。生徒は平和構築の現場に携わってきた上杉先生との対話を通し、より深く平和について考えることができたと思います。非常に充実した時間となりましたね。

 その後、何人かの生徒の意見文が実際に新聞に掲載されたそうです。上杉先生とのご縁は、早稲田大学に通う同校の卒業生から上杉先生の著書『どうすれば争いを止められるのか 17歳からの紛争解決学』(WAVE出版)の紹介を受けたことがきっかけだったそうです。「平和」「紛争解決」は、今まさに現代社会が直面している課題。その課題を専門に研究している大学教授から直接話を聞くことは、生徒の視野を広げ、理解を深めることに繋がります。今後もぜひ続けていきたい取り組みです、と三浦先生は言います。

富士見_現場をご存じの上杉勇司先生の授業は学びが多くありました
現場をご存じの上杉勇司先生の授業は学びが多くありました

 同校の「実社会と連携した学び」は、ひとつの教科だけでなく複数の教科で、それも中高6年間という長い時間を通して実施されているのが特徴です。自分たちの生活に関わる身近な社会、さらには国際的に抱えている課題に対して目を向けて理解を深め、自分たちなりの解決に向けた提案を行う。あるいは広い視野と深い思考で物事をとらえる。これらはまさに、これからの時代に活躍するために必要とされているスキルです。さらに学校外にいるさまざまな職業・立場の大人との交流は「キャリア教育」の側面もあり、生徒にとっては自分の進路の道を考える際のヒントに繋がっていくといえます。

生徒のチャレンジ精神を満たし、さらなる成長に繋がる場を用意

「社会と連携した学び」に加えて、同校が力を入れているのが「生徒の自主活動」です。下記に挙げた活動事例は、希望した生徒が主体的に行っていて、すべて授業外の課外活動として実施されているものです。

【生徒の自主活動】
●「キヤノン×CURIO×富士見」プロジェクト始動

富士見_「キヤノン×CURIO×富士見」プロジェクト
「キヤノン×CURIO×富士見」プロジェクト

杉原先生:高1時に美術で武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科との高大連携授業にて「デザイン思考」を学んだ生徒の中から希望者17名が「探究ラボ キヤノン"PowerShot V10"プロジェクト」に取り組んでいます。こちらは、本校と他3校の生徒たちが新製品のVlogカメラのマーケティングに挑戦するというプロジェクト。各校でそれぞれチームをつくって、約2か月かけて自分たちならではの「新しい体験提案」を考え、最終成果を7月にキヤノンマーケティングジャパン本社にて発表します。まだ始まったばかりのプロジェクトですが、各チームがデザイン思考を巡らせ、「創造的思考力」を発揮していければと考えています。

 このプロジェクトの参加にあたって募集をかけたところ、多くの生徒から手が挙がったそうです。授業での学びをさらにもう一歩深めたい、この分野に興味がある......そんな生徒にとっては、その意欲を満たし、力を発揮できる恰好の場となっています。

●校内で2つのワークショップを実施

富士見_先生も共に学び、疑問があればどんどん質問します
先生も共に学び、疑問があればどんどん質問します

三浦先生:高2の現代社会の授業で「誰もが生きやすい社会」について学んだあと、「このテーマでもっと学びたい人は集まって何かやりませんか?」と私が声をかけたところ、8名の生徒が集まってくれました。チームに分かれて活動を開始し、数か月後には生徒たちの発案で「手話ワークショップ」と「PMS(月経前症候群)ワークショップ」を実施しました。私が特に手を貸すということもなく、生徒たちは放課後や休日の時間を使って、フィールドワークもしながら熱心に準備しました。彼女たちを見ていて感じたのは、「このテーマについてもっと考えたい」、「(高1時に取り組んだ)SDGs探究での経験を活かしてトライしたい」という能動的で前向きな気持ち。授業が終わったらそれで終わり、ではなく学び続けたい、考え続けたいと生徒たちが思えるよう、私ももっとチャレンジを続けたいと感じました。

 勉強や部活動以外のことにも意欲的に取り組む生徒の姿が多く見られる同校。主体的に活動したいがどのように進めてよいかわからないという生徒や、周りを巻き込みながら活動を展開したいという生徒のために、生徒会に「自主活動の場」が用意されています。これまでに、オーストラリアの山火事の募金活動やオンライン上での東北復興studyツアー、絵本寄付プロジェクトなどが行われました。

富士見_「日本生徒会大賞」の様子
「日本生徒会大賞」の様子

 そんな同校の生徒の主体性、積極性の高さは、生徒会の活動全体にもよく表れています。生徒会活動支援協会が主宰する「日本生徒会大賞」に毎年出場し、今年は「高校生・学校の部 奨励賞」という成果をおさめました。そして、同校の生徒会の顧問を16年間務めてきた杉原先生は、今年から新たに置かれた顧問の部にて日本生徒会大賞を受賞しました。

杉原先生:私が16年間、生徒会の顧問として変わらず大切にしてきたのは生徒の主体性です。目的に向けて自分たちで考える、行動する、解決する......そういった責任ある行動から得られるものはとても大きいと信じています。

 富士見中学校高等学校での6年間の学びは、教科書的なお勉強や知識や大学進学のための学習に留まりません。将来、生徒1人ひとりが社会で活躍することを見据え、そのために必要な能力を身につける場がたくさん用意されています。次世代を、賢くたくましく生きていくスキルを身につけたい方に特におすすめしたい学校です。

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