学校特集
東京家政学院中学校・高等学校2023
掲載日:2023年8月1日(火)
今年、創立100周年を迎えた東京家政学院。創立者・大江スミが理想とした、知識(Knowledge)を高め、技術(Art)を磨き、徳性(Virtue)を養う「KVA」を建学の精神とし、1世紀にわたって「社会で活する自立した女性」を育成してきました。100周年という節目に加え、昨春、高校に6コース制を導入して初めての卒業生を送り出した同校は、今、新たな学びのシステムを構築しています。生徒一人ひとりの個性に応じた教育、クリエイティブな探究プログラム、育てたい次世代の生徒像の具現化という、同校の「3つの強み」をテーマに髙橋祥乃先生(理科)、川邊健司先生(社会科)、そして教頭の安達京子先生にお話を伺いました。
生徒一人ひとりに合わせた「学びの場」を提供
個性と適性に応じた、多彩な進路を実現する高校6コース制が定着した同校。「生徒一人ひとりの個性に応じた少人数制教育」を展開していますが、1クラスが約20〜25人という規模だからこそ、生徒のちょっとした変化も見逃しません。
安達教頭:「保護者の方からも、『生徒の個性を大事に見てくれる学校なので安心』という声をいただいています。思春期に差しかかる生徒たちの内面の動きは普段の挨拶や言動、教科の提出物の書き方にも表れます。そうした小さなサインを見逃さないスキルは、本校の教員は非常に高いと思っています」
中学生は、自主学習の習慣化を目的とした「チャレンジシート」を毎週提出します。これは自ら作成した1週間の学習計画を振り返り、予定通りできたかどうか自己評価をし、記入するもの。先生は必ず手書きのメッセージを添えて生徒に戻しますが、そこでも、生徒の微妙な心の揺れを感じ取ることがあります。
安達教頭:「チャレンジシートは、生徒の様子を教員と家庭が共有するツールにもなっています。成績だけでなく、委員会やクラブ活動を褒める短いメッセージは生徒の自信になりますし、イベントなどの学校情報も教員が豊富な写真とともに学年通信などでこまめに発信していますので、保護者の方は『子どもを見守ってくれている』と学校への信頼度を高めてくださり、生徒にとっても『見守られている』という安心感に繋がっていると思います」
こうした丁寧で、きめ細かな教育ができることは同校の強みの一つと言えるでしょう。
安達教頭:「チャレンジシートに手書きで書き込むことも、学校情報をこまめに発信することも、教員が時間をかけて行っています。こうしたことは教員が共通認識を持って、学校全体でやっていこうという空気感がないと続きません。コロナ禍の期間は学校全体が危機意識を持って難局に対処したわけですが、生徒たちを守りたいという学校全体のチームワークはより高まったと感じています」
同校では、少人数制教育の利点を活かして、生徒一人ひとりに合わせた「学びの場」を用意しています。中1・2は共通授業と習熟度別授業(英語・数学)を設定し、中3・高1で「リベラルアーツコース」と「アドバンストコース」の2コース制に。高2・3では先の2コースを文系・理系に分け、さらに「家政・児童進学コース」と「管理栄養進学コース」を加えた6コース制となっています。ちなみに、中3・高1・高2の進級時に3回、自らの希望や適性を再確認する機会があります。とはいえ、中3・高1段階では、文系・理系についてのこだわりはまだ薄いのが正直なところ。
髙橋先生:「今、ちょうど理科の教育実習生が来ているのですが、彼女は高校からの入学生で、『中学時代までは理科が嫌いだったけれど、高校になってから理科が好きになった』と言っています。また、中学受験時には『理数系が苦手だったけれど、実験などを重ねるうちに、気がついたら理系クラスにいた』という中高一貫生もいますね」
理科教諭の髙橋先生自身も、高校時代にテレビを見ながらアイメイクをしていた時、ある一点が見えなくなって『盲点』の存在に気づき、理科(生物)への興味がより深くなったそうです。
このように、実生活での気づきが学びに向かう原動力になるのは言うまでもありません。そこで、高1までは文系・理系と区別せずに一律の内容にして、「おもしろさの種」を見つけるための授業を心がけていると、髙橋先生は話します。どのような進路を選ぼうとも、基礎的な知識と興味・関心さえあれば次のステップに移りやすいからです。
髙橋先生:「理科が苦手な生徒でも、理科室に入って実際に顕微鏡を触るだけでも気分は変わります。そこで、観察や実験をなるべく入れたりグループワークで意見交換をしたり、理科のおもしろさの種を落として、有用性を実感できるような授業内容にしています。6コースに分かれて、生徒たちの目的意識がある程度はっきりしてくる高2・高3の段階では、実践的な実習や実験を増やしていきます」
高校の生物で行う「ブタの眼」の解剖は定番となりましたが、「管理栄養進学コース」では、実験での考察をより深く科学的に考えるようにしています。また調理実験を扱う授業では、団子の生地の粉の量・こね方を変えて弾力の違いを比較するなど、より実践的な内容へシフトしていきます。
リベラルアーツコース/文系・理系...将来像が多様な生徒たちのための豊富な選択科目が特徴。クラブ活動や委員会活動と学業を両立させている生徒が多い。指定校推薦が選べるほか、「総合型選抜」「学校推薦型選抜」など、一人ひとりに合わせた進路指導を行う。
アドバンストコース/文系・理系...週7時間以上の英語の授業(高1〜)など、「一般選抜」を視野に入れたカリキュラムを組む。演習形式による授業や放課後・長期休み期間の特別講習も多数設定。
家政・児童進学コース...「家政系・児童系」に関する知識を深め、幼児教育の指導者として必要な知識を学ぶ体験重視のカリキュラム。併設大学現代生活学部のほか、家政系・児童系学部の指定校推薦の優先権がある。
管理栄養進学コース...「食と健康」への興味・関心を栄養学の科学的な理解に繋げることを目指し、理科・家庭科の実験・実習授業を充実させ「食」のスペシャリストへの素地を作っていく。併設大学人間栄養学部のほか、管理栄養系学部の指定校推薦の枠がある。
持続可能な社会のあり方を考察する、クリエイティブな探究プログラム
SDGsをテーマに、同校では中1から高2まで5年間にわたる体系的な探究活動を展開しています。こうした取り組みが評価され、2023年1月には、持続可能な社会に向けた実践的な教育活動に与えられる「第13回ESD(Education for Sustainable Development) 大賞」の最優秀賞(文部科学大臣賞)を受賞しました。
「中高一貫校の特色を生かしながら、中学校1・2年生の縦割り班による地域で働く人々への取材を通して持続可能な地域社会の在り方を考察し、中学3年生による企業への取材活動で得た社会活動をSDGsの視点を通して解決しようとした、系統性のある広く社会全体を見渡したテーマ設定、多様な表現による活動にインパクトがあり、なおかつ生徒に深い学びを与えている」というのが受賞理由です。
受賞対象になった取り組みの一つが、中1・2合同の「"こころ"と"まなび"をTSUNAGUプロジェクト」(通称「ポスタビ」)。地元である千代田区内の商店や企業をSDGsの観点で取材し、そこで知った働きがいや地域に対する思いを表現したポスター記事を制作しました。
もう一つの中3の「SDGsクリエイティブプロジェクト」では、同じく千代田区内にあるホテル&レストランや不動産会社を取材。フードロスの解決策や持続可能な街づくりなどを提案した記事を作成して、動画にまとめました。このように、地域に支えられながら深い探究活動ができるのも、千代田区をフィールドに活動を継続してきた同校の大きな強みの一つです。
川邊先生:「日本のSDGs対策は10〜20代から広がっていったところがあり、企業の取り組みはまだまだ追いついていない感があります。大人より生徒たちのほうが詳しい側面もあるので、本校の生徒たちの意見を聞きたいと、企業内の会議やイベント、また雑誌の対談企画に呼んでいただくこともあります」
同校ではもともと、中学で「ポスタビ」や「ジョブタビ」を実施するなど、地域密着プロジェクトを積み重ねてきました。
生徒が中高6年間+併設大学4年間の最大10年間を過ごす千代田区には、創業100年を超える老舗店舗、各種企業が多数あり、街自体が多様性に富んでいます。生徒たちが第2のふるさととして、地域の特性やその魅力、そこで生きる大人たちの思いに触れてほしいと考えて始めたプロジェクトでした。それらをSDGsの観点からブラッシュアップして、体系的に再構築したものが現在のカリキュラムです。
中1・2「ポスタビ」...学年縦割りチームを作り、千代田区内の商店や社会人に取材し、働く思いや地域への愛着を掘り起こしてポスターを制作。
中3「SDGsクリエイティブプロジェクト」...SDGsローカルアクションに取り組んでいる企業や人にスポットを当てて取材。取材後に人物に焦点を当てた記事を作り、プレゼン発表を行う。
高1「SDGsエキスパート探究」...中学時代の「体験的」な活動をもとに、SDGsの17の目標を家政学(衣・食・住)と関連づけて専門的に掘り下げる。
高2「SDGsジグソー探究」...グループごとに、高1での「エキスパート探究」活動で得られた専門的な成果をそれぞれが持ち寄って自由にテーマを設定し、論文を作成。
全校プレゼン大会(GPA)...全学年が参加して1年間の探究活動の成果を報告。優れたプレゼンテーションにはGPA大賞が贈られる。
カリキュラムを再構築するにあたって、「改めて次代の社会に向けて育成すべき人物像とは何かを考え、マルチプルインテリジェンス(※)理論の採用に至りました」と川邊先生は話します。「本校の校風はアットホームで面倒見が良いと抽象的な言葉で語られがちですが、私たちが目指すべき教育はこの理論を裏づけられているものだと確信できました」と。
川邊先生:「探究活動を進める中で、本校の生徒たちに5教科の学力判定だけでは見えにくい能力が多くあることに改めて気づかされ、『総合的な学習の時間』と『探究活動』の中でさらに伸ばしていく枠組みが必要だと考えました。絵を描く能力、他人の意見に耳を傾けるコミュニケーション能力、グループをまとめるリーダーシップ能力なども重要な学力として捉え、生徒一人ひとりの個性や可能性をしっかり評価するという考え方が、このプログラムの根底にあります」
同校の探究活動はすべてグループワークで行いますが、さまざまな能力を持った生徒が集まることで、得意な分野を役割分担する流れが自然にできていくそうです。多感な中学3年間のうちに、自分が持つ長けた知能を自覚し、自己肯定感を高めていくことは、「人格形成上とても大事」と川邊先生は強調します。
こうした探究活動を対外的にも発信していこうと、大学生が運営するSDGsをテーマとするコンテスト「SASS(Sustainability Awards for Students by Students)」などにも積極的に参加しています。
小さな失敗体験を積みながら「社会で活躍する女性」になる
安達教頭:「社会に出た時、初めて会う人とどのようにコミュニケーションをとっていくか。どんなに知識や技術が高くても、コミュニケーションをとれなければ心が折れてしまいます。生徒たちには『社会で活躍する女性』に必要な自立心やコミュニケーション能力を、中高6年間で身につけてほしいと思っています」
中学の修学旅行に同校した外部スタッフから、「礼儀正しく、品格のある生徒さんたちですね」という声が届きました。「挨拶や言葉遣い、振る舞い方などを特別に厳しく指導しているという意識はないのですが」と安達先生は話しますが、廊下ですれ違う生徒たちが気持ちよく挨拶したり、会釈したりする様子は、「KVA」の精神が確実に根づいていると感じさせてくれます。
探究活動や授業でのグループワークを通して、生徒たちは日々、互いの個性を認め、尊重し合う姿勢を身につけていくのです。クラブ活動や委員会活動にも熱心に取り組みますが、体育祭などの学年縦割りの行事では先輩の背中を見て学び、それをまた後輩に繋げていくことで人間的に大きく成長します。
安達教頭:「学校生活のあらゆる場面で、『小さな失敗』をたくさん重ねることも大切だと思っています。試行錯誤しながらも、学年が上がるごとにお姉さんになっていく姿を目にするたび、成長を実感しますね。教員がどんなに言葉を尽くしても、生徒自身の自覚と責任感の芽生えに勝るものはありません」
生徒の多様な個性を尊重することを第一に、一人ひとりに合った教育を行う同校の方針は、多様な「入学試験」にも表れています。知識だけでは測れない多様な能力を引き出すため、2科入試、得意1・2・4科選択入試のほかに、得意分野を活かすことができる入試が設定されています。
豊かな学びが展開される同校の入り口もまた多彩です。とくに、以下にご紹介する新タイプ入試は年々人気が高まっていますので、ぜひ、ご注目ください。
プレゼン入試(2/1午前)
学力テスト(国語または算数)+自己PR(プレゼンテーション)。事前に「活動報告書」を提出。小学校時代に自分が取り組んできたことを、自分の言葉で一生懸命わかりやすく伝えるプレゼン力を評価します。
フードデザイン入試(2/1午後)
家庭科(調理)を題材にした新しいアクティブラーニング型入試。料理やお菓子作りが好きで、発表や話し合いができる受験生に向いています。
SDGs入試(2/10午前)
SDGsの17のテーマを題材にした授業を行い、意見交換や振り返りをして発表する力を評価します。
適性検査型入試(2/1午前)
中高で実践する探究型の学びに直結する入試。千代田区九段中等教育学校の問題に対応しています。