学校特集
共立女子中学高等学校2023
掲載日:2023年7月10日(月)
前身の共立女子職業学校は、1886年、「女性が自主性を持ち、社会的に自立すること」を目的に34人の先覚者が共に創立。生徒数は1学年約320名。先生は専任106名・講師56名(先生の男女比はほぼ半々)。校長の前田好子先生は「東京一出会いが多い女子校です」と言いますが、この数字に、共立女子の教育のコアがあぶり出されているように思います。中1〜高1では毎年クラス替えを実施し、特進コースなどは設置せずに実技系も幅広く学ぶなど、人との関わりも、学びのフィールドも広くとった「混ざる教育」を展開。そして、多様性の中で「合意形成」を図ることができる人になるために、「関わる」「動く」「考える」「解く」の4つの力、つまり、ヒューマンスキルとアカデミックスキルを育てています。今回は、4つの力の中でも「関わる」「動く」を中心に、前田校長と、広報部主任の金井圭太郎先生にお話を伺いました。
「『持続可能な人』が多い」。
校長は、卒業生のことをそう語ります
前田校長自身、中学から大学までを共立女子で過ごしました。ちなみに、当時は中学で1学年に約600名もの生徒が在籍していたそうです。
前田校長:「本校には今も隔週で礼法の授業がありますが、当時でも、それを授業で行っていた学校はあまりなかったのではないでしょうか。また、共立講堂ではよく映画会を開催していたのですが、私が入学して初めて見た映画は『マイ・フェア・レディ』でした。私はミュージカルが好きなのですが、その時に衝撃を受けたことがきっかけです」
美術の授業一つとっても、中1から油絵を描き、七宝焼きや革細工、アクリル板で思い思いに製作物を作り、版画は3枚の木版を掘って色を重ねていくなど、じつに豊かな学びが展開されていたそうです。
ちなみに現在の美術の授業では、例えばデッサンや油絵などの古典技法と最新のCG演習を体験。このように、時代によってコンテンツは変わっても、その教育哲学は変わりません。
前田校長:「多感な中高時代にさまざまな経験をしますので、たくさんのものに触れた感覚が残っていて『これだ!』と蘇るのでしょうか、本校では仕事を変える卒業生が少なくないのです。在校中に美術が好きだった卒業生は、難関私立大学を出て一般企業に勤めたのですが、ある時、食器の素晴らしさにピンときて、今は浅草橋の陶器店で働いています。また、千葉大学で地学を専攻した卒業生は研究者を目指していたのですが、アルバイトで雑誌社に入ったところ、おもしろくなってそこで働き続け、今やそこの代表取締役です」
人生100年時代。どのような紆余曲折があるかは、誰にもわかりません。心がワクワクする、自分にとっての大切な種が、いつ発芽するかもわかりません。
金井先生:「18歳や22歳がゴールではありませんので、悩みに陥った時には自分で立ち直ることが重要ですし、迷いが生じた時には軌道修正することも必要です。年齢や状況に合わせて変わっていける人が本当に幸せになれると思うのですが、そういう要素が共立生には比較的備わっているように思います」
大学を卒業した後におもしろいものを見つけて、「そういえば、私、これが好きだったな」と、自分の中にある種を改めて育てていく。同校の場合、それは特殊な事例ではありません。しかも、それは才能やスキルを活かし、野望を持ってチャレンジするといった大げさなものではなく、「おもしろそうだから、やってみよう」という、気負いのないフラットなものなのだそうです。
前田校長:「みんな立ち直りが早いですね。つまずいても、ただでは起きない(笑)。そして、ちゃんと何かを見つけて嬉々としてやっている人が多いのですが、そのような卒業生を見ていると、本校には『持続可能な人』が多いように思います」
今、SDGs絡みで盛んに言われる「持続可能」は、人の生き方にこそ必要なことなのだと気づかされます。
そして、そのような人が育つということは、先生方の指導や見守りはありながらも、さまざまな個性が集う大規模な集団という、肌感を伴った、生徒たち同士が互いに学び合う環境が大きく影響しているのかもしれないとも思います。
前田校長:「狙ってそうしているわけではないのですが、生徒同士での学び合いは多いですね。昨年、中高別に3年ぶりにようやく代々木体育館で体育祭を実施できたのですが、初めての場所ですし、中学生は入学後初めて体育祭を体験するわけです。お手本となる先輩たちの姿を見ていないにもかかわらず、支え合いながら、ものの見事に仕切っていましたね。わが生徒ながら、とても感動しました」
金井先生:「コロナ禍で行事慣れしていないのに、各係の生徒も自分で抱え込みすぎずに、うまく分担していたところなどは、日々の活動の中で身についているんだなと、共立のDNAだなと思いました。そういう伝統は簡単にはなくならないんだと、心強かったですね。一方でクラスごとのTシャツを作ったり、新しい競技の提案があったりという点も共立生らしいです」
大勢いるから誰かがやってくれるのではなく、大勢いるから、一致団結しなければ事は進まない。そのことを、生徒たちは日々学んでいるのです。
2022年12月1日に共立女子中学高等学校は、東邦大学理学部と高大連携協定を締結しました。
相互が協力・連携して理数教育の高度化、および充実を目指します。
協定内容は、下記の通りです。
【協定内容】
(1) 大学教員と高校教員の相互交流による教育に関する情報交換と協力
(2) 高校の理数教育への大学教員および大学院生・学部生の派遣
(3) 大学キャンパスに生徒を招いての理数教育の実践
(4) 大学の実施する各種教育事業への生徒の参加
(5) 高校に対する大学の実験器具・機材等の貸出
(6) 高校の理数教育に関する自由研究、課題研究及び共同研究の学修の場としての相互の施設・設備の利用
(7) その他、高大連携事業の目的を達成するために必要と認められる事業
この締結を機に、同校は文系理系の意識がまだない中学生にも科学的な視点・興味を養い、これまでの理科分野だけでなく、データサイエンスや数学の講座開設なども進めていく予定です。
さまざまな学びの先にあるのは、
「Well-being」を希求する心持ちです
今、共立女子学園では、改めて「共立リーダーシップ」を掲げていますが、もともと「チームで目標を共有し、その中で自分にできることは何かと考え、お互いが動きやすい環境作りを模索し行動する」ことは、創立以来の伝統です。これは校名にある通り「共に立つ」ことであり、近年主流になりつつある「権限なきリーダーシップ」でもあります。
共立女子でも、昨年度の中1から「探究」の時間に「リーダーシップ開発」の授業をスタートさせました。さらに今年度からは高2の選択授業で「共立探究実践」を設置。7時間目にも関わらず想定をはるかに超える70名もの履修者が集まりました。
これらは、伝統として受け継がれる共立精神を、時代に呼応して再構築したプログラムですが、そもそも普段から身についていることであっても、言語化することで汎用性が生まれます。
共立女子大学のビジネス学部では、周囲と協働して成果を生み出す「リーダーシップ開発プログラム」を実施していますが、これは、そのプログラムをアレンジしたものです。
金井先生は共立女子大学でも教鞭を執っていますが、この「リーダーシップ開発プログラム」の授業を受けたある学生が言ったそうです。「他者に対する接し方は前から意識していて、アルバイトの場ではできていたけれど、友達や家族にはできていなかった。でも、この授業で言語化したことによって、『ああ、そういうことか』と理解したので、他の場所でもできつつあります」と。
金井先生:「共立生は、もともと対人関係に長けているほうだとは思いますが、中学生でもグループワークや部活動、そして家族の中で、自分ならではのリーダーシップを発揮してその場を良い方向にもっていければ、さらに関係性が良くなりますよね。それはまた、社会生活を円滑に回すことにも繋がっていきます」
前田校長は、高校生に聞いてみたことがあるそうです。「共立生って、どんな感じだと思う?」と。すると、その生徒は「平和が好きな子が多いかも」と答えたとか。つまり、中学時代はいろいろあっても、やがて「こういうふうにすれば、みんな気持ちよくなれるよね」という道筋を見出し、行動するようになるのです。
「この人にはここまで言ってもいいけれど、この人は、今はそっとしておいたほうがいいかな」など、人との距離の取り方も学んでいくのでしょう。
金井先生:「人との距離感の取り方や、人のタイプの見分けは自然に身につくかもしれませんね。協調性というと『合わせる』ニュアンスになりますが、折り合いのつけ方を学んでいくのだと思います」
前田校長:「大勢の人と接しますから、人見知りすることはあまりないかもしれませんね。そういえば、在校生も卒業生も、本校の生徒にはある特徴があります。それは、よく道を聞かれることです(笑)。親切そうに見えるのでしょうか。そうであるなら、嬉しいですね」
金井先生:「奉仕ほど大げさではなく、下町風のちょっとした親切という感じでしょうか。困っている人がいれば『あ、いいですよ。私にできることがあればやりますよ』とさっと動いたり、『二つ持っているから、一つあげるよ』とか、そんな雰囲気がありますね」
ところで、都心の真っ只中にある同校は有数の大規模校ですが、前身である共立女子職業学校の時代から大人数の学校だったのだそうです。
金井先生:「明治時代、女性が小学校を出た後、ミッション系以外に行ける学校がほとんどなかったのですが、その中で手に職をつけられる学校ということで、入学者がどんどんやってきたようです。そのように、時代の要請があったと言えるかもしれません。俳人・正岡子規の妹の律も、正岡子規が亡くなった後、母を支えるために手に職をと共立女子職業学校に入学し、その後、本校の教員になっています」
前田校長:「昔から多種多様で、教員も厳しい年配の方もいれば、とてもリベラルな方、個性がはみ出した方など(笑)、いろいろな人がいるのが当たり前で、生徒に対しても『こうでなければならない』と押しつけることはありません。女子伝統校だからと、校則などが厳しいように思う方もいらっしゃるでしょう。しかし、時代の流れに合わせて、なかには教員と生徒会が話し合いを重ねて変わったルールもあります。高校の例ですが、これまではクラスで作成したオリジナルTシャツを体育祭で着用することを認めていませんでした。でも、昨年度は生徒会からの要望を教員全員が検討し、許可することにしました」
大きな集団の中で、他者の眼も借りながら自分の個性を見出し、それを育て、役立てていく。アカデミックな授業を展開しつつ、このようなヒューマンスキルを育むことが共立女子の教育の根底にはあります。
前田校長:「考えてみれば、世界に目を向けるまでもなく、親も子も、隣にいる友達も、みんな背景には異文化があり、不可解な者同士です。そこでどう折り合いをつけていくか、良さを見つけていくか。そのような学びは、本校にはあふれていると思います」
コロナ禍以降、社会でも学校でもオンラインでのコミュニケーションが常態化しています。ただ、「共生」する意味の重さがますます増すこれからの時代、「場を共有する」こと、そして「その場の空気感」といったものの重要性が改めて浮上しているようにも思います。
金井先生:「もちろん、オンラインにも良さはあります。ただ、すべてがオンラインへの置き換えがきくわけではありません。肌感、温度感を伴った対面での活動は何にも代えがたいですし、人数が多い分、それは強力なパワーを生みますから」
「持続可能な人が多い」と校長は言いました。でも、それは大規模集団の中でレンジの広い学びを実践する「共立女子という環境」があればこそでしょう。
自分の生涯におけるキャリアも、人間関係も、そして社会との関わりにおいても、いろいろあるのは当たり前。でも、いろいろあるからこそ「軌道修正」や「合意形成」を大切に、その先にある、みんなにとっての「Well-being」を見つめる眼差しを持たせる。それが、同校が実践する教育のコアなのです。